残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~

日和崎よしな

文字の大きさ
上 下
116 / 302
第三章 共和国編

第115話 残りの二人

しおりを挟む
 ミドリとシロは片付けた。あとはアカとアオの二人だけ。
 ただし、ミドリの魔術はまだ効いている。俺はミドリ以外を何かの標的にすることができないため、アカとアオのことを攻撃することができない。
 さて、どうすれば二人を攻撃できるか。

 それを考えることは重要だが、いまそれを考えるのは適切ではなかったかもしれない。
 思考はエネルギーを消耗する。いまの俺は酸素不足の危機におちいっているのだ。
 いまは空間把握モードも解いている。まどろみの中にいるようにはっきりしない意識の中、俺は光の差す方を目指し、空気で体を押し上げていく。

 景色の流れが加速する中、パシャン、という音がして、俺は海上に出たことを知った。
 ゴーレムがその瞬間を狙っていなかったことは幸いだった。

「出てきましたよ、アカさん」

「生きていたかい。ははっ、フラフラじゃんかー」

 酸素を取り入れ、目視で状況を把握。
 意識はすぐには明瞭にならなかったが、とにかく執行モードになり柔軟な空気の鎧をまとった。

「アカさん、早くトドメを刺すべきです」

「焦んなよ、アオ。もう一撃くらわせたらノックアウトっしょ。それに次はまともに回避もできねーだろうし」

「アカさん、彼に時間を与えてはいけません。彼に目立った外傷がないところから察するに、彼がフラフラなのは単なる酸素不足。すぐに完全復活してしまいますよ」

「そうなのか? けど、あっちはあたいらのことを攻撃できないっしょ? でも、ま、分かったよ」

 アカとアオは宙に浮く土の円盤に乗っている。
 ゴーレムを呼び寄せると、アカの赤いマントとバンダナに刺さった二本の羽が強烈な風にあおられる。
 ビキニという露出度の高い彼女は寒くないのだろうか。全身の装備が真っ赤なのでむしろ暑そうにも見える。
 アオは守護四師で唯一の男でありマントを着用していないが、彼の紺色のチェックのシャツもチェッカーズフラグさながらにはためいている。
 彼が風を嫌がって少しうつむくと、眼鏡が陽の光をキラリと反射した。

 二人の考え方がまるで正反対なおかげで、俺はわずかな時間だが休息することができた。意識ははっきりしたし、思考も冴えてきた。

「おーい、ゲス・エストー。いまからおまえを殺すよー。だけど、十秒だけ待ってやる。その間にできるかぎり遠くへ逃げるこったな」

「アカさん、また悪い癖が出ていますね。彼は決してあなどっていい相手ではありませんよ」

 そう、そのとおりだ、アオ。
 だが、侮らなければ俺に勝てると思っているのなら、おまえも甘い。最大限の警戒、最大限の力で俺に挑んだとしても、おまえたちは俺には勝てない。

「へえ。十秒もくれるのか。それはありがたいね」

 やはり彼らは俺を舐めている、と考えるのは俺の油断でしかない。
 俺はいかなる敵が相手であろうと、下に見ることはあっても、全霊で警戒し、全力で戦う。

 アカはなぜ俺に十秒も与えるのか。
 十秒もあれば俺は彼らの視界から完全に退避することができるが、彼らはそうなるリスクを予測できていない。
 だが、それが俺に十秒も与えた理由ではない。
 おそらく、十秒は俺へのプレゼントではない。彼らが欲しい猶予なのだ。
 時間稼ぎ。逃げるという選択肢を与えることで、俺の思考を彼らへの攻撃から逸らさせるつもりだ。

「だろ? ありがたく逃げ惑え」

 二秒くらい経った。ありがたいことに、まだ八秒もある。
 十秒待たずの不意打ちを警戒しながら、俺は策を労する。

 通常、空間把握モードは見えない場所を感知するためのモードだ。だが、俺はあえてこの場所に対しそれを使った。
 そして、知る。
 いま目の前にある巨大ゴーレムはハリボテだ。俺から見える前面の薄皮一枚を残し、その裏で無数の球状の土塊を造形し浮遊させている。
 なるほど、土塊の巨大散弾を一斉射出し、ゴーレムの薄皮を突き破って俺に不意打ちの攻撃をお見舞いするつもりなのだ。

 俺はハリボテゴーレムの裏の土塊を空気で覆い、動かないようにガッチリ固定した。人型でないものに対してはそれが可能なのだ。
 アオの魔法はおそらく動く物のスピードを変えるたぐいの概念種だろう。だからいままでゴーレムは少し動いてからでなければ超加速しなかった。まったく動かない物は加速させようがない。

 さて、これで敵の攻撃は封じた。
 土は地上にいくらでもあるが、準備していた攻撃を切り捨てる判断を即座におこなえるほどアカは利口ではない。

 まだあと五秒ある。さあ、反撃開始だ!

 アカとアオが立つ場所は地上から百メートルくらいの高さに浮いている土の円盤の上。
 その場所は風が強くアカのマントとアオの髪が絶えずはためいている。
 一瞬、その向きが変わった。

「いけない! アカさん、早く退避を!」

「え? 何?」

 アオはアカの足場操作を待ちきれずに飛び降りた。
 アカは突如として姿を消したアオを探し、キョロキョロと周囲を見渡す。遥か下方へと落下していくアオのことは目に映らない。

 アオは俺が空気を操作したことによって、風の流れに変化が生じたことを瞬時に察したのだ。
 だからその場所に留まることを危険と考え、飛び降りた。彼が着地の手段を持っているのであれば、その選択は正解だ。
 俺は魔法を継続する。

 アカの体が衝撃を受け、土円盤の足場から足が離れる。
 そのまま落下するかに思えたが、土円盤は即座にアカの下へと移動して彼女を拾った。

「な、馬鹿な! なぜ攻撃できる!?」

「動くなよ。まだ十秒経ってないぜ」

 あと二秒。
 彼女が自分からは攻撃しないと宣言した猶予だ。
 もちろん、彼女がなりふり構わずそれを破ったところで問題はない。

「ま、待て!」

「俺が動くのを十秒待てばいいのか?」

「ち、ちがっ、待ってくれ! 攻撃を待ってくれ!」

 驚嘆と焦燥が彼女を挟み、彼女はうっかり土への魔法のリンクを切ってしまった。
 ハリボテのゴーレムは崩れ去り、土が地上へと降り注いだ。
 その裏に浮遊している土球は俺が空気で固めているから落ちないが、空気による固定を解除したらそれらも崩れ落ちた。

「ふん。攻撃してないぜ。攻撃はできないからな。俺は一人で遊んでいるだけだ。なんにせよ、俺はおまえと違って一秒たりとも待つつもりはない。時間は情報と同じく目に見えないのに、とっても貴重なもんだからな」

 俺が何をしているかというと、空中に空気を固めるようにして文字を描いているのだ。ただそれだけのこと。
 見えざる筆先に触れれば吹き飛ばされる。
 その筆跡部分の空気をカッチリと固定するので文字として残る。その文字はいまは俺にしか見えない。
 それは書道と呼ぶには三次元的すぎて当てはまらないだろうが、芸術的創作活動には違いない。
 そう、俺は誰かを攻撃などしていない。一人で芸術をたしなんでいるだけだ。

「くそっ、やめ、やめろっ、うわぁあああああっ!」

 ただ、でっかいキャンバスの中にアカという異物があるだけのこと。
 邪魔なものは跳ね飛ばして俺は空気という絵の具を走らせつづける。

 アカは慌てて地上の土を持ち上げる。形はなさず、とにかく操作のしやすい自分の高さまで上げる。しかし、所々で土の上昇が妨げられる。
 それは俺が空気を固めている部分にぶつかったからだ。おかげで俺の書いた文字が薄っすらと、誰にでも見えるように浮き上がった。

「できた。タイトルは、決着!」

 決と着の文字は最後に衝突して爆散した。
 空気の濃度差によって生まれた気流に乗った赤い雫が美しく霧散した。
 アカは決と着の文字が衝突する際にその間にいた。運悪く挟まれたのだ。
 そう、アカは運が悪かった。
 俺はアカを狙うことはできなかったから、そうなればいいな、程度の気持ちで空気を操作して遊んだだけのこと。
 こうしてアカは撃破されたのだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

追放先に悪役令嬢が。不法占拠を見逃す代わりに偽装結婚することにした。

椎名 富比路
ファンタジー
 王国の四男坊ディートヘルム・ボニファティウス王子は、 「冒険者志望なら結婚したくないです」  と、婚約者の王女殿下から婚約破棄されてしまった。 (実際は、家族ともども自由を尊重される)    親族の顔を立てるため、一応「追放」という名目で、追い出してもらう。  僻地の開拓を命じられた体で、冒険者ディータとしての道を進む。  王族はディータに危害は加えないが、資金援助もしない。できない。  わずかな金と武具を持って、たったひとりでの開拓が始まると思っていた。  だが、そこには悪役令嬢が先客として、冒険をしていた。  リユという令嬢は、デカい魔剣を片手に並み居る魔物たちをバッタバッタとやっつけている。 「一人でさみしい」  そんな彼女の独り言を聞いてしまったディータは、命を助けてもらう代わりにリユに食事を振る舞う。  すぐに意気投合した二人は、交際しつつも冒険する。  思っていたより広大な土地を開拓しつつ、二人の領地拡大冒険が始まった。  作物の育たない近隣の土地を活性化し、隣接する王都の騎士団を立て直す。  魔物の攻撃を受け続ける中、ディータはリユがドラゴン族の末裔だと知った。  しかし、彼は恐れることなく、ただのリユとして接する。  お互いの人柄に惚れて、二人は本当の夫婦になっていく。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

処理中です...