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第三章 共和国編

第112話 ゴーレム耐久戦

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 国政議会所の外にいる俺の敵は、アカとアオの操る巨大化したゴーレム。
 ただ巨大ゴーレムと戦うだけならなんの苦もない。ただ、いまの俺は敵に攻撃することができない。
 ゴーレムにも、その操作主のアカにも、それをサポートするアオにも攻撃ができない。
 それどころか何かの対象にすることもできない。

 シロとミドリの二人、あるいはどちらか一人の魔術だけでも解除する必要があると考えて外に飛び出したが、こちらは攻撃できないままゴーレムが巨大化して余計に不利になっただけだった。

 攻撃できない状況というのは、リオン帝国の五護臣、マンマ・ママと戦ったときと似ている。
 しかし、彼女の魔術は攻撃的意志に反応したが、シロとミドリの魔術は攻撃以外も対象となるため、マンマのときと同様に守るという名目で相手を空気で包み込む手法は使えない。
 回避はできる。
 防御もできる。
 盾の面に鋭いとげを生やせば、相手の攻撃を受けとめてダメージを与えられるかもしれないが、土くれが相手ではほぼ無意味だ。

 だから俺はシャイルがシロかミドリを倒して魔術が解除されるまで、ひたすらゴーレムの攻撃を避けるか受けつづけなければならない。

 俺はゴーレムの動きに細心の注意を払う。
 ゴーレムを大砲の弾と見なし、動きだしたらすぐにその射線上から退避する。
 同時に周囲すべて、全方位から飛来物がないか空間把握モードで警戒する。
 敵の攻撃が目の前のゴーレムだけとは限らないのだ。アカの魔法のエレメントである土はそこらじゅうに存在している。

「アオ、連続攻撃でたたみかけるよ!」

「あなたの意図は汲みますから、わざわざ言わないでください。アカさん、作戦が敵に筒抜けですよ」

「まったく、アオはごちゃごちゃうるさい奴だねぇ! ほら、いくよ!」

 ゴーレムが動きだす。動きだした途端に超加速を見せる。
 ゴーレムが俺の右肩をかすめて通りすぎた。俺は風圧で吹き飛ばされるが、空気のクッションを背に踏みとどまった。

 通りすぎたゴーレムはピタリと瞬間的に静止し、再度俺をめがけて動きだす。そこから超加速。
 やはり直線的な動きだ。だが、三階建ての建物を腰の位置に見下ろす巨体が高速で動きまわる脅威は、この俺にすら尋常ならざる緊張をいる。

「くっ!」

 次まではかわせる。だが、このままだとその次でやられる。
 アレをやるしかない。
 空魚モード。空気の粘性を高めることで、空気抵抗を極限まで高め、水中の魚のように敵の攻撃をするりするするとかわすことができる。
 魔法リンクを張る対象の空気は空間把握モードのものと被るが、共存は可能だ。

 次のゴーレムの突進は俺が振り向いたと同時だった。
 ゴーレムの腕が俺の左肩を吹き飛ばすかと思われた瞬間、俺の体は勝手にゴーレムを回避した。
 ねばっこい空気がゴーレムの腕に押されて俺の体を押したのだ。
 これぞ空魚モード。真正面からさえ攻撃を受けなければ、左右どちらかに体は自動回避してくれる。

「ほーらほーら、もっともっともっと!」

 アカのあおりに合わせて、だんだんとゴーレムの折り返しが早くなってきた。
 自動回避とはいっても自分の意に反して体を動かされるわけで、その感覚は巨人に握られてぶんぶんと上下左右にシェイクされているようなものだ。まだ耐えられるが、ずっと続けばつらい。

 そう思いはじめたころに、ゴーレムの動きは止まった。

「アオ、サボってんじゃねーぞ、コノヤロー」

「アカさん、ゴーレムの攻撃がぜんぜん当たっていませんよ。僕の魔法はとても疲れるんです」

「なに言ってんだ! あっちは本人が動きまわってんだぞ。あっちのほうが疲れてんだろー」

「いや、ゲス・エストも使っているのは体ではなく魔法ですよ」

 俺は二人が言い争っている間に移動を始めた。
 空間把握モードと執行モードを維持したまま、空中をスーッと動く。
 チラッとアオがこちらを見たので、俺は忍ぶのをやめて加速した。
 海のある方へ飛ぶ。

「アカさん!」

「分かってる。逃がさないよ!」

 スピードには自信があったが、一瞬で追いつかれた。
 俺は生身の肉体ゆえに急加速はできない。慣性で圧死してしまうからだ。緩やかな加速の後に超速で移動することは可能。
 対してゴーレムは人ではない。魔法によって瞬間的に爆発的な加速を実現することができる。

 ゴーレムは熊の一撃みたいに大きな腕をひと振りした。
 俺はそれを真正面から受けてしまった。
 ゆえに左右への自動回避は起こらず、俺の体は土の撃鉄によって弾丸のごとく打ち飛ばされた。
 執行モードと空魚モードがなければその瞬間に圧死していたかもしれない。

 超速で飛ばされた俺は第二の衝撃を突き破り、ゴオオオォォォッという音の中を背中から突き進んだ。
 俺が突っ込んだのは海中。ゴーレムの腕と海面の二度の衝撃に意識が飛びそうになるが、どうにか耐えた。
 そして海の底へ、ドリルが地面を掘るように海水を押しのけて進んでいく。
 光が遠くなっていく様がまるで地獄に落ちていくようだと、そんな感傷にひたる余裕もないほどの速度で落ちていく。
 そして俺は第三の衝撃を受けた。
 海底だ。

 俺がこの場所に至った事実をひと言で表現するとしたら、こうだ。

「到着……」

 そう、これは俺の狙いどおりのことだった。想像以上に強い衝撃を受けて危うく死ぬところだったこと以外は。

 俺は自分を空気で覆ったまま執行モードを解いた。
 執行モードを持続させる余裕がなかったというのも少しはあるが、目的は別のところにイメージリソースを裂くためだ。
 俺はいま、空間把握モードを使っている。その把握している空間でさらに空気を操作したいが、執行モードも同時発動している上に動きまわっていては、キャパシティーを超えてまともな操作はできない。
 だから執行モードを解除する必要があった。
 さすがにブーストされたゴーレムとの戦闘中に執行モードを解くなんて命知らずなことはできないので、俺は海の底へと身を隠し、体を覆う空気の質を執行モードからただの膜へとグレードダウンさせたかったのだ。

 ゴーレムはおそらく海底までは追ってこられない。
 ゴーレムが水に強かろうが弱かろうが、単純にアカの視界が届かなければゴーレムを操作することができないからだ。

 かといって、俺に無制限の時間があるわけではない。体を覆う膜の中の酸素が切れる前に海上へと上がる必要がある。
 もって五分から十分程度。
 この時間で、俺は守護四師の四人のうちの誰かを極刑に処す。
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