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第二章 帝国編
第70話 商業区域①
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商業区域、ギルド本部。
俺は依頼受付窓口にいた。所定の申込用紙に必要事項を記入し、書類の受け渡し口に差し込んだ。恰幅のいい妙齢の女性が手早く引き取った。
「お客様、申し訳ございませんが、類似の依頼がすでに出されておりますので、達成条件や報酬について、依頼者同士で協議していただく必要があります」
「類似の依頼だと? 誰の依頼だ?」
おおかた察しはついているが、受付人に差し出された依頼書に目をとおす。
場所、帝国内のどこか。
依頼者、ドクター・シータ。
依頼内容、魔導師、ゲス・エストの無力化と捕獲。
報酬、3,000,000モネイ。
注意事項、命の保証はいたしかねます。
「三百万だと? バカバカしい。安すぎる! こんな依頼は破棄だ! この新しい依頼書を受理しろ」
俺はドクター・シータの依頼書を破り捨てて、先ほど記入した依頼書を受付窓口に勢いよく叩きつけた。
場所、商業地区、ギルド前広場。
依頼者、ゲス・エスト。
依頼内容、戦闘でのゲス・エストへの勝利。生死問わず。
報酬、100,000,000モネイ。
注意事項、命の保証はいたしかねます。
受付人は俺の依頼書に目を通し、声を荒げた。
「第三者が勝手に依頼書を破棄するなど許されません! それに一億モネイって何ですか!? 支払いのできない報酬額の設定は違法ですよ!」
「支払いができない? それはおまえが勝手に決めつけているだけだろ。それに、ここのシステムでは事前に支払い可能の証明をする必要はなかったはずだ。実際に支払いが発生した際に支払えなかった場合に、初めて違法行為として罰せられる。そうだろ?」
受付人は息を詰まらせた。一度息を吐いてから、再び口調を荒げた。
「しかし、他人の依頼書を勝手に破棄した件は……」
受付人の食い下がりを遮って、ピーピーとアラーム音が鳴った。
受付人は窓口の脇のボタンを押して音を止め、もう一つボタンを押した。
「構いませんよ。その依頼書を受理して差し上げなさい」
スピーカーのようなものがどこかにあるらしい。音が割れたような声が聞こえてくる。
「組合長! ですが……」
「この私に二度も言わせるのですか?」
「も、申し訳ありません。承知いたしました」
「安心なさい。学研さんには私から直接言っておきますよ」
「ありがとうございます」
学研さんとはドクター・シータのことだろう。五護臣はお互いのことを区域名で呼び合ったりすると聞いたことがある。
となると、いまの声の主が商業地区の五護臣ということだ。
「高みの見物か。すぐにあんたをひっぱりだしてやるぜ、組合長さんよ」
割れた声の応答はなかった。
代わりに受付人の不機嫌そうな声が返ってくる。
「依頼は受理されました。依頼書はこちらで掲示板に貼り出しておきます」
「いちばん目立つところに貼っとけよ。でないと、組合長に直接クレームを出しにいくからな」
恰幅のいい受付女性は、その横幅をキュッと縮める勢いで俺を睨みあげた。
俺は依頼受付窓口にいた。所定の申込用紙に必要事項を記入し、書類の受け渡し口に差し込んだ。恰幅のいい妙齢の女性が手早く引き取った。
「お客様、申し訳ございませんが、類似の依頼がすでに出されておりますので、達成条件や報酬について、依頼者同士で協議していただく必要があります」
「類似の依頼だと? 誰の依頼だ?」
おおかた察しはついているが、受付人に差し出された依頼書に目をとおす。
場所、帝国内のどこか。
依頼者、ドクター・シータ。
依頼内容、魔導師、ゲス・エストの無力化と捕獲。
報酬、3,000,000モネイ。
注意事項、命の保証はいたしかねます。
「三百万だと? バカバカしい。安すぎる! こんな依頼は破棄だ! この新しい依頼書を受理しろ」
俺はドクター・シータの依頼書を破り捨てて、先ほど記入した依頼書を受付窓口に勢いよく叩きつけた。
場所、商業地区、ギルド前広場。
依頼者、ゲス・エスト。
依頼内容、戦闘でのゲス・エストへの勝利。生死問わず。
報酬、100,000,000モネイ。
注意事項、命の保証はいたしかねます。
受付人は俺の依頼書に目を通し、声を荒げた。
「第三者が勝手に依頼書を破棄するなど許されません! それに一億モネイって何ですか!? 支払いのできない報酬額の設定は違法ですよ!」
「支払いができない? それはおまえが勝手に決めつけているだけだろ。それに、ここのシステムでは事前に支払い可能の証明をする必要はなかったはずだ。実際に支払いが発生した際に支払えなかった場合に、初めて違法行為として罰せられる。そうだろ?」
受付人は息を詰まらせた。一度息を吐いてから、再び口調を荒げた。
「しかし、他人の依頼書を勝手に破棄した件は……」
受付人の食い下がりを遮って、ピーピーとアラーム音が鳴った。
受付人は窓口の脇のボタンを押して音を止め、もう一つボタンを押した。
「構いませんよ。その依頼書を受理して差し上げなさい」
スピーカーのようなものがどこかにあるらしい。音が割れたような声が聞こえてくる。
「組合長! ですが……」
「この私に二度も言わせるのですか?」
「も、申し訳ありません。承知いたしました」
「安心なさい。学研さんには私から直接言っておきますよ」
「ありがとうございます」
学研さんとはドクター・シータのことだろう。五護臣はお互いのことを区域名で呼び合ったりすると聞いたことがある。
となると、いまの声の主が商業地区の五護臣ということだ。
「高みの見物か。すぐにあんたをひっぱりだしてやるぜ、組合長さんよ」
割れた声の応答はなかった。
代わりに受付人の不機嫌そうな声が返ってくる。
「依頼は受理されました。依頼書はこちらで掲示板に貼り出しておきます」
「いちばん目立つところに貼っとけよ。でないと、組合長に直接クレームを出しにいくからな」
恰幅のいい受付女性は、その横幅をキュッと縮める勢いで俺を睨みあげた。
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