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第二章 帝国編
第57話 修練①
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俺はキーラたち三人を横一列に並ばせた。
全員、学院の制服のままだ。魔法に晒される場合が多いため、学院の制服は普通の服よりも丈夫にできているらしい。どれくらい丈夫なのかは確かめていないが、杭にひっかけた程度では破れないと聞いている。多少は防具的な役割も果たすだろう。
魔法の修練をするのに私服を着てくるという選択肢はない。
三人の最低限の心構えを確認できたところで、いよいよ修練開始だ。
「おまえら、全員操作型の魔導師だったな。まずは精霊を呼び出せ」
操作型の魔導師は、一部を除き精霊を呼び出さなければ魔法そのものが使えない。存在しないものは操作のしようがないからだ。
しかし厄介なことに、精霊を呼び出すためにはその精霊のエレメントを一瞬でも発生させる必要があるのだ。
「おいで、リム!」
さっそくシャイルが火打石をつけた一対の軍手を叩くように擦り合わせ、散った火花が炎へと変貌し、仔犬の姿を形作った。
「来て、スターレ!」
「いでよ、ウィンド!」
キーラが右手に握った電池を天高く掲げて叫んだ。
リーズは右手を腰にあてて地面を見下ろしている。
「おい」
スターレという精霊もウィンドという精霊も姿を現さない。
キーラとリーズに戸惑う様子はなく、冷や汗を顔に浮かべている。
「来て、スターレ!」
「いでよ、ウィンド!」
キーラが両手で握った電池を天高く掲げて叫んだ。
リーズは両手を腰にあてて地面を見下ろしている。
「出てねーぞ!」
俺が冷ややかな視線を送ると、リーズもキーラも目を逸らしつつ、まごまごとつぶやきだした。
「そうみたいですわね。まったく困ったものですわ」
「ほんとよ、もう。こんなときくらい姿を見せなさいっての」
確か精霊は契約者との信頼度が低いと呼びかけに呼応してくれなかったはずだ。そしてこの二人の魔導師が精霊といい関係を築けていないことは、二人の言動からも明白だ。
俺が精霊だったとしても、シャイルの呼びかけには答えてもこの二人の呼びかけは無視するだろう。
「おい、エア。いるか?」
「いる」
エアがスッと姿を現した。いつもの白いワンピースをまとっている。また少し人間らしさが増している気がする。髪の毛の一本一本が鮮明だ。もはや初見ならば人間と区別がつかないレベルだ。
「えーっ、なんでエアちゃんはこんなゲスの呼びかけに応じるのー?」
キーラがあからさまに不服を申し立てた。
「ふふ……」
エアが、笑った……。
ここまで感情らしきものをはっきりと示したのは初めてだ。
「エアさんが笑いましたわ! もしかして、もう人成の時が近づいていますの?」
リーズとキーラがエアに近づいて顔を舐めるように覗き込む。
普通の人ならそれを嫌がるだろうが、エアはいつもの調子で淡々としている。
「いいえ。でも、エストが私を最高の魔術師にしてくれる」
リーズとキーラが顔を見合わせ、頷きあった。二人して得心がいった様子で、元の位置へと戻っていった。
「何だよ」
勝手に納得している二人に不満をこぼすと、シャイルが代わりに説明してくれた。
「エアちゃんはエスト君の戦績がいいから、信頼というより、期待しているんだと思うわ。魔術師って、精霊時代の契約魔導師の戦績によっても能力が変わってくるらしいの。勝利の喜びや自信とか、敗北の悔しさや失意とか、そういう部分も吸収して、人成後に得る魔術の性質や品質に影響を及ぼすのよ」
なるほど、そうだったのか。
たしかにダースと引き分けた以外には全勝している。それも四天魔と呼ばれる強敵も含めての戦績だ。
「じゃあキーラとリーズも、もう少し強くなれば信頼度が低くても精霊を呼び出せるってことだな?」
「いやぁ、それは難しいんじゃないかな。エスト君みたいなのは極端な例だと思うよ。それこそ勝率が九割を超えるくらいじゃなきゃ。精霊を呼び出すなら、まずは信頼関係を築くことが大事なの」
「そうか。信頼もなく、期待もない。キーラ、リーズ、おまえらいいトコなしだな」
「うぅ……」
キーラもリーズもがっくりと肩を落とした。実際に契約精霊が呼応してくれないという事実もあるから、こたえているようだ。
「おい、エア。精霊同士で呼びかけられないのか?」
「対話はできる」
「じゃあ出てくるようにおまえから説得してくれよ」
「対話だけならできる。でも、顕現するかどうかは契約者しだい」
「説得は無理ってことか。なら、あいつらの何が気に食わないのか、その原因を聞き出せるか?」
「やってみる」
エアはキーラの正面に立った。
キーラの困惑した顔とエアの無表情がしばし見つめ合った後、キーラがようやくエアの待っているものを察してポケットに手を突っ込んだ。
取り出したのは先ほどしまった乾電池。キーラが精霊を呼び出すために使用しているものだ。
エアはその乾電池に向かって語りかけはじめた。
全員、学院の制服のままだ。魔法に晒される場合が多いため、学院の制服は普通の服よりも丈夫にできているらしい。どれくらい丈夫なのかは確かめていないが、杭にひっかけた程度では破れないと聞いている。多少は防具的な役割も果たすだろう。
魔法の修練をするのに私服を着てくるという選択肢はない。
三人の最低限の心構えを確認できたところで、いよいよ修練開始だ。
「おまえら、全員操作型の魔導師だったな。まずは精霊を呼び出せ」
操作型の魔導師は、一部を除き精霊を呼び出さなければ魔法そのものが使えない。存在しないものは操作のしようがないからだ。
しかし厄介なことに、精霊を呼び出すためにはその精霊のエレメントを一瞬でも発生させる必要があるのだ。
「おいで、リム!」
さっそくシャイルが火打石をつけた一対の軍手を叩くように擦り合わせ、散った火花が炎へと変貌し、仔犬の姿を形作った。
「来て、スターレ!」
「いでよ、ウィンド!」
キーラが右手に握った電池を天高く掲げて叫んだ。
リーズは右手を腰にあてて地面を見下ろしている。
「おい」
スターレという精霊もウィンドという精霊も姿を現さない。
キーラとリーズに戸惑う様子はなく、冷や汗を顔に浮かべている。
「来て、スターレ!」
「いでよ、ウィンド!」
キーラが両手で握った電池を天高く掲げて叫んだ。
リーズは両手を腰にあてて地面を見下ろしている。
「出てねーぞ!」
俺が冷ややかな視線を送ると、リーズもキーラも目を逸らしつつ、まごまごとつぶやきだした。
「そうみたいですわね。まったく困ったものですわ」
「ほんとよ、もう。こんなときくらい姿を見せなさいっての」
確か精霊は契約者との信頼度が低いと呼びかけに呼応してくれなかったはずだ。そしてこの二人の魔導師が精霊といい関係を築けていないことは、二人の言動からも明白だ。
俺が精霊だったとしても、シャイルの呼びかけには答えてもこの二人の呼びかけは無視するだろう。
「おい、エア。いるか?」
「いる」
エアがスッと姿を現した。いつもの白いワンピースをまとっている。また少し人間らしさが増している気がする。髪の毛の一本一本が鮮明だ。もはや初見ならば人間と区別がつかないレベルだ。
「えーっ、なんでエアちゃんはこんなゲスの呼びかけに応じるのー?」
キーラがあからさまに不服を申し立てた。
「ふふ……」
エアが、笑った……。
ここまで感情らしきものをはっきりと示したのは初めてだ。
「エアさんが笑いましたわ! もしかして、もう人成の時が近づいていますの?」
リーズとキーラがエアに近づいて顔を舐めるように覗き込む。
普通の人ならそれを嫌がるだろうが、エアはいつもの調子で淡々としている。
「いいえ。でも、エストが私を最高の魔術師にしてくれる」
リーズとキーラが顔を見合わせ、頷きあった。二人して得心がいった様子で、元の位置へと戻っていった。
「何だよ」
勝手に納得している二人に不満をこぼすと、シャイルが代わりに説明してくれた。
「エアちゃんはエスト君の戦績がいいから、信頼というより、期待しているんだと思うわ。魔術師って、精霊時代の契約魔導師の戦績によっても能力が変わってくるらしいの。勝利の喜びや自信とか、敗北の悔しさや失意とか、そういう部分も吸収して、人成後に得る魔術の性質や品質に影響を及ぼすのよ」
なるほど、そうだったのか。
たしかにダースと引き分けた以外には全勝している。それも四天魔と呼ばれる強敵も含めての戦績だ。
「じゃあキーラとリーズも、もう少し強くなれば信頼度が低くても精霊を呼び出せるってことだな?」
「いやぁ、それは難しいんじゃないかな。エスト君みたいなのは極端な例だと思うよ。それこそ勝率が九割を超えるくらいじゃなきゃ。精霊を呼び出すなら、まずは信頼関係を築くことが大事なの」
「そうか。信頼もなく、期待もない。キーラ、リーズ、おまえらいいトコなしだな」
「うぅ……」
キーラもリーズもがっくりと肩を落とした。実際に契約精霊が呼応してくれないという事実もあるから、こたえているようだ。
「おい、エア。精霊同士で呼びかけられないのか?」
「対話はできる」
「じゃあ出てくるようにおまえから説得してくれよ」
「対話だけならできる。でも、顕現するかどうかは契約者しだい」
「説得は無理ってことか。なら、あいつらの何が気に食わないのか、その原因を聞き出せるか?」
「やってみる」
エアはキーラの正面に立った。
キーラの困惑した顔とエアの無表情がしばし見つめ合った後、キーラがようやくエアの待っているものを察してポケットに手を突っ込んだ。
取り出したのは先ほどしまった乾電池。キーラが精霊を呼び出すために使用しているものだ。
エアはその乾電池に向かって語りかけはじめた。
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