残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~

日和崎よしな

文字の大きさ
上 下
6 / 302
第一章 学院編

第5話 黄昏寮

しおりを挟む
 寮はリーズが口利きしてくれて、黄昏寮たそがれりょうという一等級の施設に入ることができた。
 リーズは「これで借りは返しましたわよ。これであなたみたいな下衆げすに容赦なく勧告できるのだから、くれぐれも風紀には注意することですわ」と言っていた。
 まったく、律儀な奴だ。

 部屋はなかなか広い。風呂とトイレがついている。
 調度品はベッド、とキャビネットくらいしか置いていないが、どちらも高級木材でできており、職人の洗練された技術によって滑らかに仕上げられていた。
 食事は決まった時間に食堂で購入できるのだが、俺はこの世界での通貨を持っていない。たしか、単位はモネイだった気がする。

 昨日、それらの確認を済ませ、そしていま、朝の陽光が俺を出迎えている。

 そしてお決まり。布団の中でモゾモゾと何かの動く気配。
 かけ布団をめくると、そこにはエアの姿があった。

「おまえ、何してんだ? なぜ裸に戻っている?」

「男の人は女の人が裸で寄り添ったら心が動くと聞いたことがある。エスト、感情は動いた?」

 これまたよくあるパターンだよな。朝起きたらメインヒロインが主人公の布団の中に潜り込んでいるというパターン。しかも、裸の場合が多々ある。
 ただ、エアの場合はほぼ輪郭だけの存在だから、人形が置いてあるくらいの感覚でしかないのだが。

「ラノベの例に漏れず、か。なら、次はアレだな」

 俺はエアを跳ね除け、即座に入り口の扉へと飛びついた。そしてキッチリ鍵がかかっていることを確認した。
 さらに扉と壁の隙間に圧縮空気を詰め込み、もし合鍵で錠を突破されても簡単には扉が開かないようにした。
 と、その瞬間。

 ――コン、コン。

 ノックの音がしたと思えば、返事をする間もなく、聞き覚えのある声が聞こえてくる。

「エスト、迎えに来てやったわ!」

 そして、ガチャガチャとドアノブを捻る音。
 鍵をかけていなかったら、裸のエアと隣に立つ俺の姿を目撃し、顔を真っ赤にして「あんたたち、なにやってんのよ!」と顔を真っ赤にして怒鳴り散らすに違いない。
 そして「変態!」を連呼してくること請け合いだ。

「くっ、開かない! エストの奴、男のくせに鍵をかけるなんて。これじゃああたしがいつでも入れないじゃない」

 キーラ、おまえを俺の部屋に入れる気はない。

「さて、エア。続きをしてもかまわんぞ」

 俺が振り返ると、エアはいつものコスチュームである白のワンピースを身に着けていた。

「なんだ。もういいのか?」

「なんか、嫌な感じがした」

「へぇ。感情らしいものが出てきたじゃねぇか」

 ま、エアの嫌な感じというのは杞憂きゆうで、俺は人間になりきれてないエアの身体を見ても、なんとも思わない。

「あ、リーズ。いいところに。あなた、寮長とコネあるんでしょ? この部屋の合鍵持ってきてよ」

「もう持ってきていますわ」

「ちょ、あんたエストに何する気だったの⁉」

「その言葉、そっくりそのまま返しますわ」

 そんな会話が聞こえてきたのも束の間、鍵がガチャリと音を立て、改めてドアノブが回される。

「あれ、開かない。どうなっているの?」

「おかしいですわ。鍵は確かに開けましたわ」

 俺は圧縮空気を解除し、扉を開けた。扉の向こう側には、目を皿にして俺を見上げる二人の姿があった。

「おい、おまえら。なに勝手に人の部屋に入ろうとしてんだ」

「べ、べつに、入ろうとなんてしてないわよ。このあたしがあんたなんかを迎えに来てやったんだから、感謝しなさいよね」

「わたくしは、寮長に頼まれて鍵が壊れていないかチェックしに来ただけですわ」

 こいつらには少々お仕置きが必要だ。
 俺は二人の少女の頭上で空気をかき乱してやった。キーラのサイドテールと、リーズの巻き毛。今日は団子ではなかった。二人ともせっかくセットした髪がくしゃくしゃになった。

「あ、なにこれ! あんたがやったのね⁉ 最低! 女の子の髪を何だと思ってるの⁉」

「ふん。俺の前では何もかもが無価値だ」

「ちょっとこの人、何を言っているのかよく分からないわ」

「まったくですわ。それにわたくし、これほどの侮辱を受けたのは生まれて初めてですわよ!」

「嘘つけ」

 おまえは昨日、もっと屈辱的な目にあっているだろうが。

「ああいえばこういう、ですわ」

「こういえばそういう、なんだから」

「そういえば腹が減ったな。俺は食事に行く」

 俺は部屋に鍵をかけ、さらに鍵穴に空気の塊を押し込んで、食堂へと向かった。

「もう! 部屋に戻って髪をセットしなおさなければなりませんわ」

「リーズ、あたしにも部屋を使わせなさい!」

「嫌ですわ。なんであなたに部屋を貸さなければならないんですの?」

「あたしは寮が違うからよ。こんな髪で外は歩けませんわ」

「おい、キーラ。お嬢様口調が移っているぞ」

「まあ、ホント。屈辱ですわ!」

「それはこっちの台詞ですわ!」

 リーズの部屋が食堂と同じ方向にあるおかげで、俺の両隣がやかましい。
 というか、なぜ俺を挟んで喧嘩するんだ、こいつらは。

「あ、エスト。道を空けて」

 突然、キーラがリーズとの喧嘩をやめて俺の腕を引いた。だが俺はキーラには従わない。

「エストさん、しゃくでもここはキーラに従うべきですわ。前をよく見て。ジム・アクティ様がおいでになっています」

「ジム・アクティ? 誰だそれ」

 俺の前方には、男もビックリの長身マッチョ女が廊下の中心線を闊歩かっぽしていた。
 狐色と呼ぶには優しすぎる尖った褐色肌は、陽光をこれでもかと吸収したのだろう。一目で体育会系の人種だと分かる。

「ジム・アクティ様は部活動運営委員長を務められているお方ですわ。四天魔の一人ですのよ。とにかく、いくらあなたでも喧嘩を売っていい相手ではありませんわ」

 リーズやキーラだけではない。廊下にいた生徒全員が、あのゴリゴリ女のために道をあけていく。

 面白い!

 四天魔というからには強いのだろう。あとで探す手間がかからぬよう、ここで喧嘩を売っておこう。

「ああ、駄目だわ。エストが笑ってる。もうあたしは知らないから。あたしは関係ないからね」

「あ、ちょっと、薄情者! エストさん、あなたをこの寮に招いたわたくしの立場を……」

「それなら心配すんな。おまえは学院最強となる男を寮に招いたことを誇りに思っていればいい」

 俺の袖をひっぱっていたリーズが絶句し、脱力して袖から手が滑り落ちた。
 俺とゴリ女、廊下の中心を歩く二人が向かい合い、立ち止まる。
 高い。
 俺は特別身長が高いわけではないが、まさか俺が女に見下ろされるとは。

「ほう。この俺様の前に立ちはだかるとは、なかなかに根性のある奴だ」

 この女、一人称は《俺様》なのか。いよいよ脳筋タイプらしさが増してきたな。
 四天魔の一人ということだが、こういう手合いはだいたい四天王のいちばん下っ端タイプだろう。

「どけよ。邪魔だ」

 廊下がどよめいた。全員が信じられないものを見る目で俺に視線を注いでいる。

「ほう! このような怖いもの知らずは久方ぶり……」

「邪魔!」

 俺は空気の壁でデカ女を横に押しやり、無理矢理どかしてやった。

「うそっ! あの人、ジム様を動かしたわ。なんて怖いもの知らず。なんて馬鹿力な魔法なの!」

 廊下がいっそうざわめく。
 さすがにゴリ女からもいままでの笑みが消えた。

「おまえがエストだな? おまえ、バトルフェスティバルには出場するんだろうな。これまで四天魔は強すぎて出場を差し止められていたが、今年はバトフェス顧問が特別に四天魔の出場を許可した。そしてその顧問が直々にやってきて、この俺様に頼んだのさ。エストという生徒をぶちのめせってなぁ」

「ああ、出るぜ。ただし、おまえだけじゃもの足りねーな。四天魔は全員呼んどけよ。ゴリマッチョ」

 うむ、いいあだ名が決まった。ジムのひたいにははち切れそうなほど血管が浮き出ているが。

「このようなはずかしめを受けたのは生まれて初めてだ。貴様、バトルフェスティバルには死にのぞむ覚悟で来い。いいな?」

「おいおい、おまえまでこんな屈辱は初めてだとかぬかすのか。どいつもこいつも、育った環境がぬるすぎだ。俺が社会と現実の厳しさってやつを叩き込んでやるよ」

 こんな雑魚かもしれない奴と対等に張り合うつもりはないのだが、俺とゴリマッチョは互いに背中を向けて遠ざかっていった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。

みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい! だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界遺跡巡り ~ロマンを求めて異世界冒険~

小狸日
ファンタジー
交通事故に巻き込まれて、異世界に転移した拓(タク)と浩司(コウジ) そこは、剣と魔法の世界だった。 2千年以上昔の勇者の物語、そこに出てくる勇者の遺産。 新しい世界で遺跡探検と異世界料理を楽しもうと思っていたのだが・・・ 気に入らない異世界の常識に小さな喧嘩を売ることにした。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

処理中です...