異世界召喚でわかる魔法工学

M. Chikafuji

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Chapter 4 一般の場合

4.14 Cardinal

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 魔王に宿った魔神はクレイトン+の魔法によって無限の彼方かなたの世界に行き、気を失った魔王だけが現階層に残っている。

 むき出しだったクレインの魔力回路や基盤は新しいポンチョで覆われ、潰された頭部も新しくなっていた。

「Hell_o, Wor_ld! …スぺアに交換し_ても不全ですか。“オラクルマシンOracle machine”を_もう1度起動__すれば自壊しますね」

 バラバラに分解していた状態に近かった身体は組み立てて修復したけれど、それでも相当なダメージが残っているようだ。

 エピックマンは兜の額に手を当てて渋い声を漏らす。

「これでは生命を冒涜ぼうとくしていると言われても仕方ないな.六大枢機卿の一席,《グランドマスター》は何も仰らないのか」

「私という生命現象_の可能性は_大枢機卿の1存で決められるほど閉じて_はいません。身体の大部分を_無機体_にしてまで必死に生きようとする命_の、何が冒涜だと言う_んです」

 義手や義足の冒険者と何も変わりません、と言い張るクレイトン+に、エピックマンが静かに首を振った。

「何はともあれ魔神だけを追い出せたし、次に進めるね」

 クレイトン+が用いた魔法は、神に対して“パワー”を取るという操作で、無限の性質を利用している。無限にはいろいろな種類のサイズがある、という性質だ。

 僕たちは有限数の大きさを0から21のランクで区分している。しかし、これは単なる便宜べんぎ上の分類に過ぎない。

 便宜べんぎ上の分類をしている有限数と異なり、無限の中には明確なサイズの違いがある。

 最も濃度の低い無限をω₀として、ω₁, ω₂という風に濃度が増えて、どんどんサイズが拡大していく。
 なお、ω₀はこの《魔王城》の全階層に相当する。つまり1, 2, 3, 4,…と無限に続く自然数の無限はω₀で表し、可算無限という言葉でも呼ばれる。

 可算無限のω₀から非可算無限のω₁にする操作は、集合のパワーを取るというものだ。

 これで得られるパワーセット、冪集合べきしゅうごうは、ある集まりに含まれるすべての組み合わせを集めたもので、例えば有限の世界では、以下のように構成される。

集合:
{赤, 緑, 青}

冪集合: ∅は何も選ばない組み合わせ
{∅, 赤, 緑, 青, 赤緑, 赤青, 緑青, 赤緑青}

 この場合、要素の数は3個から8個に増える。これを術理院の表現で書くと、以下のように表せる。

2↑3 = 2×2×2 = 8

 一般に、n個の要素からなる集合の冪集合べきしゅうごうを取ると、その要素の数は次のように表せる。

2↑n

 上の例では、要素の数は赤、緑、青の3つなので、冪集合べきしゅうごうの要素数を求めるには、nを3にすればよかった。

 今度は、可算無限ω₀に対して冪集合べきしゅうごうを取って、ω₁と名付ける。その要素の数は以下のように表現される。

 ω₁ = 2↑ω₀ 

 無限のサイズをどんどん上げることもできる。

ω₁ = 2↑ω₀ 
ω₂ = 2↑ω₁ 
ω₃ = 2↑ω₂

 このようにω₀, ω₁, ω₂, ω₃, ...と続く、数のようなものを、超限基数Cardinalと呼ぶ。

 ところで僕たちの住む世界では、有限数の範囲だけ考えたとしても、高ランクの大きさやエネルギーを有する物質を受け入れることは難しい。

 だから、僕たちの住む世界に、無限のエネルギーを有する神が実在するのは、とても不自然、まさに自然を超越した現象だ。

 超限基数が大きいほど、無限のサイズが上がれば上がる程、実在のための魔力も膨大になっていく。

 魔力には限界がなくても、やがて実在しようとする世界の方に限界がくる。それでも世界に実在しているとするなら、それはもはや異なる世界だ。

 逆に言えば、無理やり実在しようとする神に対しては、神に対してパワーを取る魔法を作用させることで、有限の世界から追い出すことができる。

 これが、クレイトン+が魔神だけを無限の彼方に飛ばした原理だ。
 実用にあたっては、可算無限回の演算をどうやって行うかという問題もあるけれど、込み入った話は成書に譲ることにしよう。

 背中の姫様が僕を抱く力が強くなったから。

「ルーン、まだくるの」

 なぜなら、魔神が再びここに来たからだ。
 気絶した魔王が浮き上がり、漆黒の瘴気に包まれていく。

 クレインはポンチョのスリットから出た尻尾を左右に激しく振る。

集積特異点Non-isolated singularitiesがある_とはいえ_これでは私の手に__負えませんね。私を犠牲_にした奥の手があっさりと返され_て_は」

「関係ねェんだよ。戦いは、逃げるか逃がすかじゃねえ。殺すか、殺されるかだッ」



「ならば! ここにひとりの豪傑ごうけつあり!」



 拳を振り上げる魔神の前には、おどり出たワンダーランドの英雄が立ちはだかっていた。

 構えられた概念の盾が殴打を受け流し、滑り逸さらされた致死性の力は部屋の壁面を揺るがす。

 魔神の1撃をかわしたエピックマンは、しかしながらよろめいて片膝をついた。

「グフッ…,余波でこのダメージ.しかし,アーティファクト《滑らかな面》は破壊されない」

「破壊されないだぁ? そういうモンを俺が、ブッ殺してやるってんだよッ!」

「アーティファクトに欠陥はない!」

 エピックマンは魔神の横蹴りを横にいなそうとその豪腕で盾を動かす。

 そこで僕たちが観たものは、アーティファクトがあっさりと砕け散る光景だった。

 それでもエピックマンは諦めない。片膝をついたままでもアーティファクト《一様な棒》を突き出し、魔神の胴体に当てた。

「力技《レジェンドハート・アクション」

鬱陶うっとうしいんだよッ」

 魔法が発動前に潰され、決して曲がったり折れたりしないはずのアーティファクトが、あっけなく砕け散るのを僕たちは観た。

 嘲笑を浮かべた魔神が、崩れ落ちたエピックマンに詰め寄る。

「ハッ。欠陥の無い、破壊されないアーティファクトじゃなかったのか」

「確かに…,ゼェ…そう言ったな」

「まさに矛盾ってやつじゃねぇか。この現実をどうしようってんだ?」

 受け入れ難い矛盾を突きつけられても、兜の隙間から吐く息が絶え絶えでも、巨躯きょくを支える足取りがふらついても、不屈の緑鎧は何度だって立ち上がる。

「過去と現在で物理法則が異なる.これは,矛盾ではない!!」

 ワンダーランドの英雄、
 エピックマン=レジェンドハート。

「物理法則の形式がどの時も同じであるならば,系内のエネルギーは保存される.逆に,非保存な無限の静止エネルギーが実在するならば,そこでは時間の並進対称性は破れ,物理法則は時間によりその形式を変え得る」

 僕たちの住む世界の物理法則は、過去でも現在でも、未来になっても同様に成立する。

 例えば明日、1歩踏み出すたびに全然違う場所に移動したり、重いものが軽く、軽い物が重くなっていたり、あるいは晴天で陽の光が突然届かなくなって闇の世界になったりすることは、自然には起こらない。

 時間を動かしても、同じように物理法則が使える。

 生活する上で嬉しいこの性質は、有限の世界に特有であり、無限の世界で成立する保証はどこにもない。
 無限のエネルギーを有する魔神が実在するような世界では、時間が変われば法則も変わり得る。

「魔神が実在するこの領域はエネルギーが保存されない系.物理法則が時に異なることに矛盾はなく,矛盾だと考える貴殿の前提が改められるべきだ」

「どいつもこいつも、ワケの分からん台詞をクドクド垂れやがる…。命のやりとりをしようってのに…いい加減ウゼェんだよッ」

「俺はワンダーランドの英雄,エピックマン=レジェンドハート! 作用アクションは,いつでも臨界クリティカルだッ!!!」

「ッ!?」

 あろうことか、エピックマンの気合正拳が魔神を吹き飛ばした。

 神を相手に起きるはずがないとしても、それでもエピックマン=レジェンドハートは、僕たちにその雄姿をもって観せる。

 これが原理だと。

 エピックマン! エピックマン! エピックマン!
 エピックマン! エピックマン! エピックマン!

 エピックマン! エピックマン! エピックマン!
 エピックマン! エピックマン! エピックマン!

 エピックマン! エピックマン! エピックマン!
 エピックマン! エピックマン! エピックマン!

 エピックマン! エピックマン! エピックマン!
 エピックマン! エピックマン! エピックマン!

 エピックマン! エピックマン! エピックマン!
 エピックマン! エピックマン! エピックマン!

 確かに感じられる声援に応えるように、エピックマンは剛健に歩み出す。

「貴殿の実在により因果律いんがりつは破られた.ならば,俺が世界を創り出す。実在する世界を観察して俺が知るのではない.俺が知る世界が,ここに実在する!」

 大地を掴むようにそびえ立つ緑鎧は、伸ばした腕の先で仰々ぎょうぎょうしくガントレットを握り直す。

 無限に達するかの如き剛拳をその胸のエンブレムに撃ちつけると、勇壮にたぎる音楽が壮大に響いていく。

「拡大解釈,大いに結構! これより,エピック・ワールドが幕を開けるッ!!!!」

 エピックマンの宣言に魔神が1歩後ずさり、うつむいてワナワナと震え始めた。

「馬鹿な、下等種ごときが…」

 緑輝の重鎧がひるがえると、途端に深紅のマントがはためき、白銀に輝く大剣が構えられた。

「下等種ごときが、神と戦えるとでも言うのかッ…!?」

 力の差を圧倒し続けるエピックマンは、弧を描くように剣先を前方に掲げる。

「永遠の地平線を越えるワンダーランドの英雄を,誰も止めることはできん! 行くぞ!!!」

小癪こしゃくなァ…!




 と、言うとでも思ったか?」

 次の瞬間にワンダーメタルの緑鎧は消え去っていた。エピックマンは、いなくなってしまった。

 魔神は片手をひらひらと動かす。

「さっきから言ってんだろ。お前らが何をしたところで、俺には関係無い。気に入らねェモンは、全部ブッ殺してやるだけだ」

「エピックマン。まさかこんな場面で…」

「エピック・ワールドとやら_を構築した_だけ良い_でしょう」

 無限が実在する世界では、普段は起こり得ない現象がいくらでも起こり得る。術理も成り立たないような世界の中では、まず始めに術理を使える系を構築することが重要だ。

「エピック・ワールド_の原理はさておき_私たち_も__始めましょうか__ルー_ン」

「何をする気か知らねェが…、刹那せつなの間でも耐えられると思うなッ」

 魔神への対応は少しクレインに任せ、僕は自製の薬錠を飲んだ。

 僕もこれから、無限の性質を利用した魔法を使う。背負っている姫様に魔力を供給してもらうため、小声で話しかける。

「姬樣。これから魔神の無限の魔力がこの系に与えた影響を利用し、無限小を扱いたいのですが、魔力を使ってもいいですか?」

「かしあありあは何も構わないの」

 僕の羽と尻尾を通って伝わる魔力を行使していく。

 例えば、僕が1歩前に進むことを考える。

 1歩進む距離の、その半分の地点が考えられる。

 そして、半分の点までの距離を、さらに半分にした点がある。

 さらにその半分の点がある。さらにその半分の点も。さらにその半分だって。

 どこまでも、どこまでも、半分の地点が考えられる。この小さい1歩の空間には、終わりのない《魔王城》の階層数よりもサイズの大きい、無限の点が詰まっている。

 でも、僕たちは1歩踏み出すだけで、無限の点を越えて先に進むことができる。

 なぜならば、空間に無限に詰まった点は、物質としての広がりをもっていないからだ。大きさがゼロの点をいくつ集めても、その大きさはゼロのままだ。

 僕たちの住む世界は有限個の物質と魔力で構成されていて、無限の点は実在しない。実在する物質は広がりを持っていて、小さく分けていっても、やがて分割ができない最小の広がりに行きつく。

 でも、もし仮に。

 もし、僕たちの世界が無限に分割できる物質でできていたとしたら。
 仮に、空間に詰まった無限の点が広がりをもっていたとしたのなら。

 どういうことができるだろうか。

 僕は自分自身に対して魔法を作用させ、眩い魔力光に包まれた。

「ふぅ、これで對價たいかをはらう準備ができました」

「混沌な環境ならではの、行儀の悪い方法だけれど」

 いつも眠たげな目をぱちくりさせた地界の姫様は、深紅に囲まれた黒瞳で僕達を交互に見つめた。

 姫様を背負うルーンと、その前で言葉を交わす僕を。

「ルーンをかしあありあにくれるの?」

「はい、そのために組みかえました。半径1の球体をうまく分割して組みかえることで、半径1の球を2個作ることができます」

 今ルーンが言ったことは、有限の物質からなる世界の常識には反する。だけど、物質の広がりによる制約がない無限の世界では、ごく普通の現象だ。
 そして、ここでの無限とは、1, 2, 3, 4…と続くような可算無限ω₀よりランクの高い、非可算無限ω₁の世界を指す。

 魔神が実在できる非可算無限の世界で、僕たちはエピック・ワールドの系内にいる。術理を用いて、非可算無限の物質を扱うことも可能だ。

 僕は僕の構造を無限小に分けて、動かしたり組み合わせたりして、ルーンをひとつ作った。物質の分割が非可算無限まで許されるのなら、いくらでも物質は増やせるのだ。

 地面に降り立った惡魔の姫が、自らを背負っていた惡魔に向かい合う。

「ルーン。キミの渴望は、なに?」

「すべての生命を救濟きゅうさいすることです」

 黒い礼装の惡魔は左手でエプロン姿の惡魔の頬に触れる。

「何かを犧牲にせずに何かを救濟することは、……ゆるされなかったから。かしあありあに、その渴望だけは滿たせないの」

 手首に嵌められた灰色のリングが震えた。

「あの頃、味方も敵もその敵も、すべての救濟を望み、赦されずに墮天した墮落の地界には」

「姬樣、墮落の地界なんて言わないでください」

 ルーンは姫様の左手首に嵌められた灰色のリングを、位相幾何Topologyを利用して大きく引き伸ばして抜き、形を整えて墮落の地界の頭上に乗せた。右手首のリングも外して、自分にも同じように。
 
 非可算無限が実在する世界では、因果関係は自然に破れる。



 だから、手枷を嵌められた地界の惡魔が、光輪を載せた天界の天使であっても、特に気にすることはないのだ。



 白い礼装の天使はエプロンを着けた天使と微笑み合う。

すべての生命を救濟する展開てんかいちかいの」

「あくまでもここだけの轉身てんしんですよ」

 召喚者や半神から犠牲者が出ても、きっと天使たちに救済されることだろう。
 あとは、ふたりを超階の外に転移させて、僕たちも離脱するだけだ。

「どうであれ、この系は危ないから外に出た方が良いな」

 僕はこの世界から移動するための魔法陣に魔力を行使した。けれども、魔法は発動しなかった。


 その代わりに、何かが僕の足元に転がってきた。


「すべての生命の救済だァ? 死んだ奴がよみがえるなんてふざけんじゃねェッッ」

 転がってきたものは、破れたポンチョをまと猫獣人キャットヒューマルの欠片だった。胸部と頭部だけが、かろうじて原型をとどめている。

 血の川の軌跡にはクレインを構成していた部品が散らばり、辿たどったその先では、無傷の魔神が立っていた。

「お前らのクソみてぇな魔法…、イタくてクセェ台詞…。それが、生命の厳しさと何の関係があるんだ? あるワケねェだろッ!!!」

「キミには關係ないことなの」

「姬樣、あまり刺激しない方が…」

 天使の姫を背負うルーンが僕の背後に隠れる。

「ねえ、しっかり僕たちを系外に出せる? 魔法が普通に使えないみたいだけれど」

「クレイトン+を使えば、実現できると思う」

 足元に転がってきた猫獣人キャットヒューマルの欠片を拾い上げると、ノイズが混ざったような音が発された。

「最期_____“オラクルマシンOracle machine”___の_覚醒アクティベートを_√\__」

「得意の確率操作、頼んだよ」

 僕は特殊な錠剤を溶かしたポーションの瓶をクレインのポンチョ内に入れ、手探りで胸部の断面に差し込み、薬剤を直接導入した。

 クレインの獣神の因子が活性化し、頭部の形質が金色の猫獣に変化する。血の川に散らばった身体さえも魔力的に同期して、それぞれが覚醒していく。

 肉体ではなく魔力で5体を繋げるクレインは、無機質な音声を発した。

「確率は__面積や体積と同様の_/ ̄基礎付けが可能です ̄ ̄L_具体的には__測度空間 ̄ ̄を用いて定義されます」

 実は、図形的な性質である面積や体積と、事象の起こりやすさの指標である確率には、測度という同じ概念が共有されている。

「測度の定義外の ̄’’’ ̄|_非可算無限回_,__/Wv-√|___の演算は__獣神の因子に託すことで_/V実現_,,_,_します」

 確率や面積や体積を表現する測度は、可算無限までしか定義されない。
 さっき僕は、非可算無限まで体積を分割して、物質を増やした。測度の定義の外にいるから、1から2を生み出すようなことができるのだ。

 そして非可算無限が実在する世界では、因果関係は自然に破れる。

 現実の事象から確率が計算されるとは限らず、演算した確率に合うように現実が振る舞うこともあり得る。

「__,-._/ ̄Z____Γ’’  ̄’ ̄\_] ̄L_,-,_,,,_ ,_    ,,_,   」

 神託機械オラクルマシンの演算結果に魔法の成功という解釈を与えれば、200%の確率で魔法は成功する。

 例えそれが現実に無い値だとしても、事象は実現できる。非可算無限回の演算ができれば、たいていの事象はどうにでもなるのだ。

 当然、魔神に邪魔をされずに天使たちは無事にこの世界から転移する。

「どこへ行こうが、先にテメェらの帰る世界をブッ殺せば関係ねェとして、だ。……テメェ、仲間を道具みてェに使い潰しておいて、何の情も沸かねえのか」

「後で復元すればクレイトン+も満足する」

 クレインの黄金色に輝いていた獣毛は全ての色を失い、身体もろとも砂のように自壊した。周囲に散らばったクレインを構成していた無機質な回路さえも消え去っていた。

 ここはもう、僕と魔神だけがいる世界だ。

「蘇生だの復元だのと命を弄びやがって…! 死と生は切り離せねェ。新たな命が誕生してるかたわらで死者がよみがえってたんじゃあ、話にならねェんだよッ!」

「全体論としては同意するよ。今回の事例に当てはめられるかは別として」

 超然たる存在の魔神が、実在する僕たちと会話している。この超自然的な現象が実現する世界では、死者の蘇生といった通常起こり得ない現象もまた実現するのだ。

 問題があるのなら、魔神の実在そのものだ。

「生命を君の主張に従わせるという問題を解決するには、それが成り立つ世界に行けば良い」

「あァ?」

 問題を解決するには例えば、《魔王城》の超階に“実在”する魔神を、僕たちの世界に“存在”する魔神に変換することが考えられる。

「この世界から異なる世界へ。異世界転生っていえば、分かりやすいかな」

「異世界、転生? 下等種風情が…神にでもなったつもりかッ」

「僕は召喚士で、神でなくとも魔神を転生させられる世界に、僕たちはいる」

 神などの超然現象そのものを召喚/送還することは難しい。神が宿る勇者や魔王のように、対象となる実体があるとは限らないのだ。

 魔神そのものを召喚/送還するには、僕が超然現象を直接扱える系が必要だ。
 系を構築するには例えば、超然たる魔神が実在する世界で、普段使えないような魔法を少しずつ実現させていけばいい。

 この超階は、何でもありで何でもない世界になっている。

 僕は増幅させた魔力を行使して、この世界から異世界に続く門の鍵を開けた。

錠前じょうまえは外してある。世界は君を待っているよ」

「……そんな戯言ざれごとで済むと、本気で思ってんのか?」

「これで解決しないとなると、残念だな」

 苦労して門を開錠しても戯言扱いじゃあ話にならないし、開けた門は元に戻しておくことにする。

「誰かを殺す気概も持たずに平和ボケした上から目線…! 俺はさっきからテメェに一等ムカついてんだよッ!」

 魔神は僕を殺した。





















 
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