婚約破棄したら賢者の石をくれるというので、願いを1つ叶えてみました。

広田こお

文字の大きさ
上 下
6 / 13

下町とジョフィアの工房

しおりを挟む
私たち一行は下町の方にひたすら歩いた。
黙々と。ただファーファだけが

「ねぇ、まだ歩くの?」
とか不満を時々口にしていたが。

あたりは、まさにこれぞ下町という空気になってきた。あふれかえる人混み。

見習い道具屋、魔法使い、剣士といった若者たちが、チープなショッピングを楽しんでいる。

わたしも、良くここいらの店にはお世話になった。

「あ、あそこにしよ!あそこがいい!」

とファーファがまるで駄々っ子のようにごねる。彼女はかなりお金持ちの家に生まれたお嬢様らしいのだが、おごる、おごられるという雰囲気がすきなようだ。きっと彼女にとっては新鮮なことなのだろう。

「わーい、エルのおごりね?」

「えー、言い出しっぺはマリーじゃん」

「エルにおごって欲しいの」

あ、そうか。ランドルとばっかり一緒にいた私と、仲をとりもどしたくて、彼女なりに気を遣っているのかな?


「わかった……。で何を」

「フルーツの盛り合わせでお願い」

とファーファは嬉しそうだ。

「早速で悪いのですけど……わたくし、エルさんに1つご質問がございましてぇ」

と王女アルジェは問いかけてきた。

「ランドルさんとはどういうご関係で……、あ、私はランドルに求婚されていまして……」

あれ、やっぱ恋敵?

「助手を一時期しておりましたが解雇されました」

と表向きの理由を言う私。ジョフィアも居る手前そうとしか答えようがない。

アルジェはちょと声を低くし言った

「心配しているんですよ、ヤツは女癖がわるいと評判ですから……」

もちろんランドルのことだろう。

「私は……、なんども断りました。でも、でもですねぇー。事実上人質の身では……」

アルジェは大げさに涙を浮かべる。

「わたしが逃亡しようとしたと、嘘の報告をすると……いいやがりまして……」

ランドルが言ったのだろう。キツイ脅しだ、下手をしたら、アルジェは抹殺されかねなかったわけだ。

「それで、本当に逃げようってこと?」

と私は王女に訊ねる。王女アルジェは小さくうなずいた。

するとファーファが意外なことを言った。

「ランドルさんファーファに色々おごってくれたよ?ファーファがお返しに詩集をあげたら、喜んでいた」

えー、ファーファちゃんまで……。

「それで、そのあとは?」

「ん?プレゼント交換?でしょ」

あ、ああ、ファーファの天然は鉄壁の防御だったわけか……。

「ちょっといいか?」

マリーも口を挟む。

「アイツの狙いが今ひとつ見えない。ランドルはなぜ、私たちに手をだそうとするのか……。悲しいかな我々はそんな重要人物でない、ということだけは共通点のようだ……。だが、そんなことがあっていいのだろうか?」

そのときジョフィアはあきれた様子でそれに答えた。

「悲しいかな、男ってそういう……生き物なんです……」

「うん、それでジョフィアくんって、女の子だっけ?」
と意地悪を言ってみる。

ジョフィアは目を白黒させながら、


「お、男の子です」
「ふーん…………」と冷たい視線をわざとおくる。

「な、なんだよ」
「いやぁ…………。言っておくけど、私12才だから……」

ジョフィア君、わかっているよ。私たち、みーんな、そのぐらい分かっているよ。マリーは深読みしたかったみたいだけど、とエルは心の中でつぶやいた。だが、マリーは正しかったことをあとで知る。そう、重要人物がいたのだ。
政略的に交際をアプローチされた人間が混じっている!



その空気をアルジェが破る。

「あの……そのぉ、色恋沙汰で終わるならいいんですけどねぇ。私脅されていまして……」
「逃げよっか?」
「はい!手伝って頂けると大変助かりますっ!!」
アルジェは元気よく答えた。

「あのエルさん?良かったら旅に出る前に、道具屋の工房を見ていってよ、親方の店」
ジョフィアは提案する
「武器とかアイテムとか色々買った方がいいと思うし」

わたしは今朝のジョフィアの寝言を思い出してつい笑ってしまった。かわいいなぁ。

「そうだね、そのほうがいいね」

そうしてジョフィアに連れられて喫茶店を出ると、道具屋へ向かう。

道具屋は工房なんていうカワイイものではなく、もはや工場といって良いレベルだった。

倉庫のような巨大な建物に男たちの怒号が飛び交う。

「おい、鉄を早く冷やせよ、バカ」
とか
「さっさと、走れ、たらたらするな」
とか。

「凄いところだね……、ジョフィアはここでいつも働いているの?」
とジョフィアに訊ねると、

ごつい親父が現れた。

「おージョフィア、なんだ工場でデートでもする気か!はっはっはっ-」

とその大男は豪快に笑った。

「軒先に商品ならんでるからよ、お嬢さんたち見ていってくれ……」

と顎で商品の位置を示す。
大男は気さくだった。

「こっち、こっち、ほら嬢ちゃん剣士だろ?しっかりした体つきだ。剣でも見ていってくれ」

わたしは軒先の剣を見る。そこには山ほど剣があったが、一本だけ、妙な剣があった

「この剣?妙な形しているわね?」

「あ、ああ、それか……。それは見た目は悪いが切れ味は悪くないぞ!」
私はその剣の柄を見た。剣士が剣を見定めるときの習性だ。そこには銘、つまり、剣を打った職人のイニシャルがある。わたしはそこに刻まれたジョフィアをおそらく示している頭文字を見てしまった。

「親父さん、この剣を頂戴」
「え、ええ?あ、ああ。嬢ちゃんお目が高いな……。コイツを創った職人は今は一人前ではないが見込みのあるヤツなんだ……。大器晩成というやつだな……。形はちょっと規格外だが、切れ味は鋭い鋼の剣だ」

大男はおそるおそる、いくらで買うかを聞いてきた。
「いい値でいいよ。良い品なんだろ……」
「本当に……いいのか?」
「もちろん」
と答えた瞬間だった。

大男が大声で怒鳴った
「おいジョフィア、良かったじゃねーか」
そういうと男はジョフィアの肩をバンバンと叩き。

「これでお前も一人前だな?」
と嬉しそうに言った。

ジョフィアは複雑そうな顔をすると
「エルさん、知ってたの?」
と訊ねた。

「うん、これジョフィアくんの剣だよね?」

「いや、そうじゃなくてさ……そうぉ」

大男は笑って

「俺たち道具屋は、創った道具が正規の値段で売れたとき、はじめて一人前と認められるのさ」

と突き抜けるような声で明るく言った。

「ああ、エルさん知らなかったのか……。良かった」

とジョフィアは急にうれしそうに言った。

「うん、それは知らなかったよ?」
と私は素直に答えた。

ジョフィアはその日ずーっと上機嫌だった。他にも必要な物資を買い込み、旅支度を終えた我々は、ファーファと王女アルジェの故郷の商業都市国家連邦の港街ジェアーブルを目指して馬車を走らせた。


そして、私たちは知る。王女アルジェは養女でも人質でもなく、純然たるこの国の国王の愛娘であるということを。
なぜ、あんな嘘をついたかって?本人と共犯のファーファ曰く

「面白ければなんでもいいじゃん」

だそうで。勘弁してよ……こうして私たちは王女様の誘拐犯になりました。










しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでのこと。 ……やっぱり、ダメだったんだ。 周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間でもあった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表する。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放。そして、国外へと運ばれている途中に魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※毎週土曜日の18時+気ままに投稿中 ※プロットなしで書いているので辻褄合わせの為に後から修正することがあります。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

処理中です...