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たのしい逃亡計画
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「それでそのぉ。私何もできなくて……申し訳ないんですけどぉ」
と賢者の石、闇の賢者サファリアはおずおずとお願いをしてきた。
「私、できるだけ早く、この王国の王都を離れたいのです……。光の賢者ランドルの支配の魔法を断ち切れば……、私は元の人間に戻れるかもしれない」
ランドルの束縛の魔法は距離に応じて弱まる、ということのようだ。
「はい、聖女様、私は同じ神を信じる神官として、あなた様の解放をお手伝いいたしますわ」
とマリーは、いつにない丁寧な礼儀正しい口調で、サファリアに助力を申し出た。
「え?み、みんな石の言うことを信じちゃっていいの?」
と若干不安げにジョフィアは疑問をていした。
「闇の賢者って異名があるのに?」
ジョフィアはサファリアの悪い伝説を口にした。
「逆らった人間はことごとく石に変えた……、って聞いてるけど」
「そうなの?サファリア?」
私はそれでも、サファリアを信じたかった。
「うん、でも、でも、みんなひどい奴らだったから……。それこそ子供や女の子を虐げるような……」
とサファリアは弁解した。
「でもさ、石にされたらたまらないよ!」
とジョフィアはまだ納得していない。
「……!でも、なぶり殺された被害者よりはまだ慈悲があるわ……。私は苦しみもなく瞬時に石にしただけ……」
サファリは静かな怒りをたたえた声で続ける。
「わたしは、わたしは悪女なんかじゃない!」
「大丈夫、わたしはサファリアさんのことを信じるよ」
となだめる私。
「ありがとう……。本当にありがとう」
おそらく、石は泣いているのだろう。嗚咽にも聞こえるような響きの声で賢者の石にされたサファリアは感謝を私に伝えた。
「ジョフィア、伝承というのはいつの日も、勝った者に都合良く語り継がれるよ……。サファリアさんは石にされ封印された……。封印した立場の人間は勝者。好き勝手に敗者のことを言えるもの」
とマリーはジョフィアを諭した。
「そうかなぁ、そう言われれば、そうなのかもしれないけど。勝てば官軍ってやつか……」
ジョフィアはしばらく考えたあと、
「分かった、みんなでサファリアさんを元の人間の女子に戻してあげよう」
ととりあえずは納得してくれたようだった。
「そうときまったら、ランドルの居るこの王都から、できるだけ遠い街にいかないとね!」
私はそれで昔の未練を断ち切ることもできる。ランドルとの思い出が詰まったこの王都から逃げることで。
「んー、でもさ、いっちゃなんだけど、私たち貧乏じゃん。旅費はどうする?」
と私はマリーを頼る。
マリーは、
「遠い街の冒険のクエストを受ければ、自動的に旅費も経費で出るんじゃない?」
と提案した。
なるほど、それは良い考えのように思えた。
でもその前に、もう一人説得しないといけない相手が居る。
「魔法使いのファーファちゃんはどうする?彼女は協力してくれるかな?」
「ああ、あの子の故郷はこの王都じゃないから……、王都に未練はないと思うよ?魔法を学びに留学に来ているだけだから、と前にきいている」
とマリーは、そんなこと何でも無いでしょ?、と言う風でこたえた。
「ファーファちゃんの故郷ってどこなの?」
「隣国の自由貿易都市国家連邦のどこかの港湾都市のお嬢様だったみたいね……」
とマリーは教えてくれた。
「このライエット王国の事実上の属国……ね。経済力はあっても商業都市は軍事力は傭兵だけで、戦争も避けたいでしょうからね。平和こそが商売にとっては重要だから、納得してのことだと思うけども」
マリーは世界情勢にそこそこ詳しいようだった。
「あの天然ちゃん、そんなお嬢さまだったのか……。たしかに俗世から離れた感じはするけど」
とジョフィアは言った。
魔法使いのファーファは歌と踊りを呪文にした系統の魔法を使う幻術魔法使いだ。
趣味は詩を書くことで、詩集をみせては、わたしたちに講評を求めるという。
夢見がちなその詩をみて、彼女に気を遣いながら、感想を述べる。
ちょっと疲れるかも。
でも、彼女の使う幻術のおかげで何度冒険を無事に乗り切ったことかわからない。
頼りになる子でもあるのだ。
「明日、ファーファちゃんを王立図書館でつかまえて、冒険者ギルドにいこうね!」
と私。
「そーね、良い感じの遠い街に出かける依頼があるといいねー。久々の長旅になりそうだね」
とマリーも相づちを打つ。
「みなさん、本当にありがとう、500年ぶりに人間の女の子に戻れるかもしれないなんて!まだ、かなわぬ夢だけど、想像するだけで嬉しい」
と賢者の石にされた闇の女賢者サファリアは改めて礼をいった。
「聖女様、任せといてください!」
とマリーは彼女に恭しく礼を返し、彼女の信じる神の聖印を空中に手で描いた。
あ、あれ?こんな聖印だったっけ?太陽神の聖印って、ちょっと違う気がするけど。
わたしは剣士で学がないから、このときは違和感を若干感じるだけで、マリーが太陽神の聖印を切るかわりに、
星神の聖印を切ったことに気づかなかった。
太陽神は光のもと、法の支配を説く神様で、星は光のない闇のなかの個々の自由を尊重する神だった。
あとで知ることになるが、マリーは太陽神も信じていたが、それより強く、星神を信じているダークプリーストだったのだ。支配者に都合の悪い教義を持つゆえに、このライエット王国では邪教とされている星神。
当然、闇の賢者であるサファリアは、聖女ということになるのだ。闇のもとの自由を説く、星神を強く信じるマリーにとっては……。
だが、私はそのことに気づくほど、注意深い性格でもなかったし、誰でも信じてしまう朴訥な18才の少女に過ぎなかった。
やがて、正しき素直な剣を極め、剣聖になったとき、彼女の信仰のわけに気づくことができたが……。
たとえ、ライエット王国で邪教でも、私はマリーが悪人だとは思わない。
彼女は太陽神も信じている。法を軽んじる犯罪者などではなかったのだから。
と賢者の石、闇の賢者サファリアはおずおずとお願いをしてきた。
「私、できるだけ早く、この王国の王都を離れたいのです……。光の賢者ランドルの支配の魔法を断ち切れば……、私は元の人間に戻れるかもしれない」
ランドルの束縛の魔法は距離に応じて弱まる、ということのようだ。
「はい、聖女様、私は同じ神を信じる神官として、あなた様の解放をお手伝いいたしますわ」
とマリーは、いつにない丁寧な礼儀正しい口調で、サファリアに助力を申し出た。
「え?み、みんな石の言うことを信じちゃっていいの?」
と若干不安げにジョフィアは疑問をていした。
「闇の賢者って異名があるのに?」
ジョフィアはサファリアの悪い伝説を口にした。
「逆らった人間はことごとく石に変えた……、って聞いてるけど」
「そうなの?サファリア?」
私はそれでも、サファリアを信じたかった。
「うん、でも、でも、みんなひどい奴らだったから……。それこそ子供や女の子を虐げるような……」
とサファリアは弁解した。
「でもさ、石にされたらたまらないよ!」
とジョフィアはまだ納得していない。
「……!でも、なぶり殺された被害者よりはまだ慈悲があるわ……。私は苦しみもなく瞬時に石にしただけ……」
サファリは静かな怒りをたたえた声で続ける。
「わたしは、わたしは悪女なんかじゃない!」
「大丈夫、わたしはサファリアさんのことを信じるよ」
となだめる私。
「ありがとう……。本当にありがとう」
おそらく、石は泣いているのだろう。嗚咽にも聞こえるような響きの声で賢者の石にされたサファリアは感謝を私に伝えた。
「ジョフィア、伝承というのはいつの日も、勝った者に都合良く語り継がれるよ……。サファリアさんは石にされ封印された……。封印した立場の人間は勝者。好き勝手に敗者のことを言えるもの」
とマリーはジョフィアを諭した。
「そうかなぁ、そう言われれば、そうなのかもしれないけど。勝てば官軍ってやつか……」
ジョフィアはしばらく考えたあと、
「分かった、みんなでサファリアさんを元の人間の女子に戻してあげよう」
ととりあえずは納得してくれたようだった。
「そうときまったら、ランドルの居るこの王都から、できるだけ遠い街にいかないとね!」
私はそれで昔の未練を断ち切ることもできる。ランドルとの思い出が詰まったこの王都から逃げることで。
「んー、でもさ、いっちゃなんだけど、私たち貧乏じゃん。旅費はどうする?」
と私はマリーを頼る。
マリーは、
「遠い街の冒険のクエストを受ければ、自動的に旅費も経費で出るんじゃない?」
と提案した。
なるほど、それは良い考えのように思えた。
でもその前に、もう一人説得しないといけない相手が居る。
「魔法使いのファーファちゃんはどうする?彼女は協力してくれるかな?」
「ああ、あの子の故郷はこの王都じゃないから……、王都に未練はないと思うよ?魔法を学びに留学に来ているだけだから、と前にきいている」
とマリーは、そんなこと何でも無いでしょ?、と言う風でこたえた。
「ファーファちゃんの故郷ってどこなの?」
「隣国の自由貿易都市国家連邦のどこかの港湾都市のお嬢様だったみたいね……」
とマリーは教えてくれた。
「このライエット王国の事実上の属国……ね。経済力はあっても商業都市は軍事力は傭兵だけで、戦争も避けたいでしょうからね。平和こそが商売にとっては重要だから、納得してのことだと思うけども」
マリーは世界情勢にそこそこ詳しいようだった。
「あの天然ちゃん、そんなお嬢さまだったのか……。たしかに俗世から離れた感じはするけど」
とジョフィアは言った。
魔法使いのファーファは歌と踊りを呪文にした系統の魔法を使う幻術魔法使いだ。
趣味は詩を書くことで、詩集をみせては、わたしたちに講評を求めるという。
夢見がちなその詩をみて、彼女に気を遣いながら、感想を述べる。
ちょっと疲れるかも。
でも、彼女の使う幻術のおかげで何度冒険を無事に乗り切ったことかわからない。
頼りになる子でもあるのだ。
「明日、ファーファちゃんを王立図書館でつかまえて、冒険者ギルドにいこうね!」
と私。
「そーね、良い感じの遠い街に出かける依頼があるといいねー。久々の長旅になりそうだね」
とマリーも相づちを打つ。
「みなさん、本当にありがとう、500年ぶりに人間の女の子に戻れるかもしれないなんて!まだ、かなわぬ夢だけど、想像するだけで嬉しい」
と賢者の石にされた闇の女賢者サファリアは改めて礼をいった。
「聖女様、任せといてください!」
とマリーは彼女に恭しく礼を返し、彼女の信じる神の聖印を空中に手で描いた。
あ、あれ?こんな聖印だったっけ?太陽神の聖印って、ちょっと違う気がするけど。
わたしは剣士で学がないから、このときは違和感を若干感じるだけで、マリーが太陽神の聖印を切るかわりに、
星神の聖印を切ったことに気づかなかった。
太陽神は光のもと、法の支配を説く神様で、星は光のない闇のなかの個々の自由を尊重する神だった。
あとで知ることになるが、マリーは太陽神も信じていたが、それより強く、星神を信じているダークプリーストだったのだ。支配者に都合の悪い教義を持つゆえに、このライエット王国では邪教とされている星神。
当然、闇の賢者であるサファリアは、聖女ということになるのだ。闇のもとの自由を説く、星神を強く信じるマリーにとっては……。
だが、私はそのことに気づくほど、注意深い性格でもなかったし、誰でも信じてしまう朴訥な18才の少女に過ぎなかった。
やがて、正しき素直な剣を極め、剣聖になったとき、彼女の信仰のわけに気づくことができたが……。
たとえ、ライエット王国で邪教でも、私はマリーが悪人だとは思わない。
彼女は太陽神も信じている。法を軽んじる犯罪者などではなかったのだから。
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