上 下
4 / 13

たのしい逃亡計画

しおりを挟む
「それでそのぉ。私何もできなくて……申し訳ないんですけどぉ」

と賢者の石、闇の賢者サファリアはおずおずとお願いをしてきた。

「私、できるだけ早く、この王国の王都を離れたいのです……。光の賢者ランドルの支配の魔法を断ち切れば……、私は元の人間に戻れるかもしれない」


ランドルの束縛の魔法は距離に応じて弱まる、ということのようだ。

「はい、聖女様、私は同じ神を信じる神官として、あなた様の解放をお手伝いいたしますわ」

とマリーは、いつにない丁寧な礼儀正しい口調で、サファリアに助力を申し出た。

「え?み、みんな石の言うことを信じちゃっていいの?」

と若干不安げにジョフィアは疑問をていした。

「闇の賢者って異名があるのに?」

ジョフィアはサファリアの悪い伝説を口にした。

「逆らった人間はことごとく石に変えた……、って聞いてるけど」


「そうなの?サファリア?」

私はそれでも、サファリアを信じたかった。

「うん、でも、でも、みんなひどい奴らだったから……。それこそ子供や女の子を虐げるような……」

とサファリアは弁解した。

「でもさ、石にされたらたまらないよ!」

とジョフィアはまだ納得していない。

「……!でも、なぶり殺された被害者よりはまだ慈悲があるわ……。私は苦しみもなく瞬時に石にしただけ……」

サファリは静かな怒りをたたえた声で続ける。

「わたしは、わたしは悪女なんかじゃない!」

「大丈夫、わたしはサファリアさんのことを信じるよ」

となだめる私。

「ありがとう……。本当にありがとう」

おそらく、石は泣いているのだろう。嗚咽にも聞こえるような響きの声で賢者の石にされたサファリアは感謝を私に伝えた。

「ジョフィア、伝承というのはいつの日も、勝った者に都合良く語り継がれるよ……。サファリアさんは石にされ封印された……。封印した立場の人間は勝者。好き勝手に敗者のことを言えるもの」

とマリーはジョフィアを諭した。

「そうかなぁ、そう言われれば、そうなのかもしれないけど。勝てば官軍ってやつか……」

ジョフィアはしばらく考えたあと、

「分かった、みんなでサファリアさんを元の人間の女子に戻してあげよう」

ととりあえずは納得してくれたようだった。

「そうときまったら、ランドルの居るこの王都から、できるだけ遠い街にいかないとね!」

私はそれで昔の未練を断ち切ることもできる。ランドルとの思い出が詰まったこの王都から逃げることで。

「んー、でもさ、いっちゃなんだけど、私たち貧乏じゃん。旅費はどうする?」

と私はマリーを頼る。

マリーは、

「遠い街の冒険のクエストを受ければ、自動的に旅費も経費で出るんじゃない?」

と提案した。

なるほど、それは良い考えのように思えた。

でもその前に、もう一人説得しないといけない相手が居る。

「魔法使いのファーファちゃんはどうする?彼女は協力してくれるかな?」

「ああ、あの子の故郷はこの王都じゃないから……、王都に未練はないと思うよ?魔法を学びに留学に来ているだけだから、と前にきいている」

とマリーは、そんなこと何でも無いでしょ?、と言う風でこたえた。

「ファーファちゃんの故郷ってどこなの?」

「隣国の自由貿易都市国家連邦のどこかの港湾都市のお嬢様だったみたいね……」
とマリーは教えてくれた。

「このライエット王国の事実上の属国……ね。経済力はあっても商業都市は軍事力は傭兵だけで、戦争も避けたいでしょうからね。平和こそが商売にとっては重要だから、納得してのことだと思うけども」

マリーは世界情勢にそこそこ詳しいようだった。

「あの天然ちゃん、そんなお嬢さまだったのか……。たしかに俗世から離れた感じはするけど」

とジョフィアは言った。
魔法使いのファーファは歌と踊りを呪文にした系統の魔法を使う幻術魔法使いだ。
趣味は詩を書くことで、詩集をみせては、わたしたちに講評を求めるという。

夢見がちなその詩をみて、彼女に気を遣いながら、感想を述べる。
ちょっと疲れるかも。

でも、彼女の使う幻術のおかげで何度冒険を無事に乗り切ったことかわからない。
頼りになる子でもあるのだ。

「明日、ファーファちゃんを王立図書館でつかまえて、冒険者ギルドにいこうね!」
と私。

「そーね、良い感じの遠い街に出かける依頼があるといいねー。久々の長旅になりそうだね」

とマリーも相づちを打つ。


「みなさん、本当にありがとう、500年ぶりに人間の女の子に戻れるかもしれないなんて!まだ、かなわぬ夢だけど、想像するだけで嬉しい」

と賢者の石にされた闇の女賢者サファリアは改めて礼をいった。

「聖女様、任せといてください!」

とマリーは彼女に恭しく礼を返し、彼女の信じる神の聖印を空中に手で描いた。

あ、あれ?こんな聖印だったっけ?太陽神の聖印って、ちょっと違う気がするけど。
わたしは剣士で学がないから、このときは違和感を若干感じるだけで、マリーが太陽神の聖印を切るかわりに、
星神の聖印を切ったことに気づかなかった。

太陽神は光のもと、法の支配を説く神様で、星は光のない闇のなかの個々の自由を尊重する神だった。

あとで知ることになるが、マリーは太陽神も信じていたが、それより強く、星神を信じているダークプリーストだったのだ。支配者に都合の悪い教義を持つゆえに、このライエット王国では邪教とされている星神。

当然、闇の賢者であるサファリアは、聖女ということになるのだ。闇のもとの自由を説く、星神を強く信じるマリーにとっては……。

だが、私はそのことに気づくほど、注意深い性格でもなかったし、誰でも信じてしまう朴訥な18才の少女に過ぎなかった。

やがて、正しき素直な剣を極め、剣聖になったとき、彼女の信仰のわけに気づくことができたが……。

たとえ、ライエット王国で邪教でも、私はマリーが悪人だとは思わない。

彼女は太陽神も信じている。法を軽んじる犯罪者などではなかったのだから。














しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

(完)私の家を乗っ取る従兄弟と従姉妹に罰を与えましょう!

青空一夏
ファンタジー
 婚約者(レミントン侯爵家嫡男レオン)は何者かに襲われ亡くなった。さらに両親(ランス伯爵夫妻)を病で次々に亡くした葬式の翌日、叔母エイナ・リック前男爵未亡人(母の妹)がいきなり荷物をランス伯爵家に持ち込み、従兄弟ラモント・リック男爵(叔母の息子)と住みだした。  私はその夜、ラモントに乱暴され身ごもり娘(ララ)を産んだが・・・・・・この夫となったラモントはさらに暴走しだすのだった。  ラモントがある日、私の従姉妹マーガレット(母の3番目の妹の娘)を連れてきて、 「お前は娘しか産めなかっただろう? この伯爵家の跡継ぎをマーガレットに産ませてあげるから一緒に住むぞ!」  と、言い出した。  さらには、マーガレットの両親(モーセ準男爵夫妻)もやってきて離れに住みだした。  怒りが頂点に到達した時に私は魔法の力に目覚めた。さて、こいつらはどうやって料理しましょうか?  さらには別の事実も判明して、いよいよ怒った私は・・・・・・壮絶な復讐(コメディ路線の復讐あり)をしようとするが・・・・・・(途中で路線変更するかもしれません。あくまで予定) ※ゆるふわ設定ご都合主義の素人作品。※魔法世界ですが、使える人は希でほとんどいない。(昔はそこそこいたが、どんどん廃れていったという設定です) ※残酷な意味でR15・途中R18になるかもです。 ※具体的な性描写は含まれておりません。エッチ系R15ではないです。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

処理中です...