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いつもの秘密話
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雨の中、重い足取りで向かった先のマリーの寄宿舎にようやく着いた。
ノックをしようとしたときのことだ。
中から喧嘩声が聞こえる。
「だから、諦めろってエルのことはっ、諦めの悪いボウズだなぁ」
ん?私の名前?
思わず聞き耳をドアにたてる私。
「なにもエルさんと付き合いたいとかじゃないんです。ただ僕は謝る機会が欲しくて……」
「んー。でもそれ、なんだかんだ理屈つけているけど、エルが男だったら、そんなこと思わないだろ?お前」
「それは……。そうなのかも……」
「ほらみたことか」
なんてやりとりをしている。この男の子の声はジョフィアだ。3年前、私たちのパーティーを危機に陥らせた失策をした道具屋の少年。
私は思わずノックもせずに、
「ジョフィア君、謝るなんて、考えなくて良いよ!」
とドアの前で大声で叫んだ。
「あれ、なんでエルがこんな時間に?」
と言いつつマリーは扉を開けてくれた。
あまりの突然の意中の女性の来訪にジョフィアは戸惑った様子ではあったが、上目づかいに私をみつめてきた。
「こんばんは、二人とも。わたし、振られちゃった……。てへ」
とニッコリ笑って挨拶をした。
「エルさんを振るって、どこのどいつなんですか!」
ジョフィアは私とランドルが付き合っていたことを知らないようだった。
「あ、ああ。冗談。冗談よ。ごめんね。付き合っている人なんていないよ」
「いないんですか。そ、そうかぁ。良かった」
ジョフィアは安心したのだろう、嬉しそうに声が明るくなった。
「私に謝りたいって言ってたけど?なんのこと?」
「その……。3年前のこと、覚えていますよね。僕はいまだに一人前の道具屋になれずにいます。成人もできない」
この世界では、一人前の何かになって、初めて成人を許される。一人前の道具屋になるまで、ジョフィアは成人できないし、それは独立を許されたわけではないから、ありとあらゆる権利が認められない。
例えばだが、妻をめとることも許されないのだ。
「そうだね……。今日みたいな、ひどい雨だったね。ふふ」
と言って私は笑う。
深刻な顔をしたり、妙な感じを出したら、きっとこの少年の心を傷つけてしまう。そんな配慮を無意識にしてしまったのかも。あんなに怖くて辛い、ダンジョンの奥でドラゴンと出会ったときの絶望を忘れ、いまはただ、あのときのことが懐かしい。だから、笑ったのかもしれない。それは自分におそらく惚れているであろう少年に感じる、優越感のような余裕の感情だったのかもしれない。
「ゆるしてもらえないとずっと思っていました」
「んー、気にしてないよ」
「でも、みなさん、を僕は全員殺してしまうところだったのです……。どうすれば、どう謝ればいいのか」
「そうだね……。じゃ、君の気が済むようにしてくれればいいよ」
「僕はエルさんを命をかけて護ります……。いや、ごめんなさい。一人前の僕になれたら、出直してきます……」
ジョフィアは自分に私を護る力がない、と感じているようだった。
「そこまでにして。んー。正直、恋人未満友達以上のイチャイチャを見せつけられているみたいで辛い」
マリーが割って入る。
「もうさ、付き合ったら二人とも。その様子だとエルも実はまんざらでもないみたいだし……」
「え?」
「は?」
「え、エルさんが、僕と付き合いたいなんてわけないじゃないですか!」
「どうして?この子、たんに年上の女性に憧れているだけで本物の恋じゃないでしょ?」
と同時に心のうちをつい暴露してしまった。ジョフィアと私であった。
とその時だ。ジョフィアは顔をこわばらせている。
「年上の女性だから、エルさんに憧れている……。わけじゃないです!!」
「じゃ、年下の女の子でも私のこと好きでいてくれる??」
「当たり前じゃないですか!」
「本当に?じゃあ例えば12才の私でも?あなたが考えているような大人の付き合いできないけど」
「僕は、僕は。そんなエロガキじゃ、ありません!」
「ふーん、でも私3才年上じゃん、どうやってそれ証明するのよっ」
「……。とにかく、僕はエルさんのことが本当に心のそこからすきなんです」
「わかった、じゃ、私いまから12才になるわ」
「なに、言っているです!そんなの無理に決まっているじゃないですかっ」
それを眺めていたマリーは。
「どっからどうみても恋人同士の痴話喧嘩なんだよなぁ……」
とぼやいた。
「僕は本当のことを言っているだけです!」
「マリーは黙ってて!」
マリーは。
「付き合えば良いじゃん、そんなにエロが問題なら、プラトニックな関係で」
ジョフィアは
「エルさん、付き合ってもらえますか?」
「いいけど、私は12才ってことで」
「承知しました。」
こうして、私とジョフィアは痴話喧嘩をした結果、ジョフィアが12才の少女として私を扱うなら、という条件付きで付き合うことになりました。
「エルさん、早速ですが、明日市場をご一緒しましょう」
「え?そこは夜の酒場とか……」
「12才のエルちゃんをそんなところに連れて行けません」
「えー、大人の雰囲気を味わいたいのにっ」
マリーは
「もう勝手にしたら……」
とあきれていた。
ノックをしようとしたときのことだ。
中から喧嘩声が聞こえる。
「だから、諦めろってエルのことはっ、諦めの悪いボウズだなぁ」
ん?私の名前?
思わず聞き耳をドアにたてる私。
「なにもエルさんと付き合いたいとかじゃないんです。ただ僕は謝る機会が欲しくて……」
「んー。でもそれ、なんだかんだ理屈つけているけど、エルが男だったら、そんなこと思わないだろ?お前」
「それは……。そうなのかも……」
「ほらみたことか」
なんてやりとりをしている。この男の子の声はジョフィアだ。3年前、私たちのパーティーを危機に陥らせた失策をした道具屋の少年。
私は思わずノックもせずに、
「ジョフィア君、謝るなんて、考えなくて良いよ!」
とドアの前で大声で叫んだ。
「あれ、なんでエルがこんな時間に?」
と言いつつマリーは扉を開けてくれた。
あまりの突然の意中の女性の来訪にジョフィアは戸惑った様子ではあったが、上目づかいに私をみつめてきた。
「こんばんは、二人とも。わたし、振られちゃった……。てへ」
とニッコリ笑って挨拶をした。
「エルさんを振るって、どこのどいつなんですか!」
ジョフィアは私とランドルが付き合っていたことを知らないようだった。
「あ、ああ。冗談。冗談よ。ごめんね。付き合っている人なんていないよ」
「いないんですか。そ、そうかぁ。良かった」
ジョフィアは安心したのだろう、嬉しそうに声が明るくなった。
「私に謝りたいって言ってたけど?なんのこと?」
「その……。3年前のこと、覚えていますよね。僕はいまだに一人前の道具屋になれずにいます。成人もできない」
この世界では、一人前の何かになって、初めて成人を許される。一人前の道具屋になるまで、ジョフィアは成人できないし、それは独立を許されたわけではないから、ありとあらゆる権利が認められない。
例えばだが、妻をめとることも許されないのだ。
「そうだね……。今日みたいな、ひどい雨だったね。ふふ」
と言って私は笑う。
深刻な顔をしたり、妙な感じを出したら、きっとこの少年の心を傷つけてしまう。そんな配慮を無意識にしてしまったのかも。あんなに怖くて辛い、ダンジョンの奥でドラゴンと出会ったときの絶望を忘れ、いまはただ、あのときのことが懐かしい。だから、笑ったのかもしれない。それは自分におそらく惚れているであろう少年に感じる、優越感のような余裕の感情だったのかもしれない。
「ゆるしてもらえないとずっと思っていました」
「んー、気にしてないよ」
「でも、みなさん、を僕は全員殺してしまうところだったのです……。どうすれば、どう謝ればいいのか」
「そうだね……。じゃ、君の気が済むようにしてくれればいいよ」
「僕はエルさんを命をかけて護ります……。いや、ごめんなさい。一人前の僕になれたら、出直してきます……」
ジョフィアは自分に私を護る力がない、と感じているようだった。
「そこまでにして。んー。正直、恋人未満友達以上のイチャイチャを見せつけられているみたいで辛い」
マリーが割って入る。
「もうさ、付き合ったら二人とも。その様子だとエルも実はまんざらでもないみたいだし……」
「え?」
「は?」
「え、エルさんが、僕と付き合いたいなんてわけないじゃないですか!」
「どうして?この子、たんに年上の女性に憧れているだけで本物の恋じゃないでしょ?」
と同時に心のうちをつい暴露してしまった。ジョフィアと私であった。
とその時だ。ジョフィアは顔をこわばらせている。
「年上の女性だから、エルさんに憧れている……。わけじゃないです!!」
「じゃ、年下の女の子でも私のこと好きでいてくれる??」
「当たり前じゃないですか!」
「本当に?じゃあ例えば12才の私でも?あなたが考えているような大人の付き合いできないけど」
「僕は、僕は。そんなエロガキじゃ、ありません!」
「ふーん、でも私3才年上じゃん、どうやってそれ証明するのよっ」
「……。とにかく、僕はエルさんのことが本当に心のそこからすきなんです」
「わかった、じゃ、私いまから12才になるわ」
「なに、言っているです!そんなの無理に決まっているじゃないですかっ」
それを眺めていたマリーは。
「どっからどうみても恋人同士の痴話喧嘩なんだよなぁ……」
とぼやいた。
「僕は本当のことを言っているだけです!」
「マリーは黙ってて!」
マリーは。
「付き合えば良いじゃん、そんなにエロが問題なら、プラトニックな関係で」
ジョフィアは
「エルさん、付き合ってもらえますか?」
「いいけど、私は12才ってことで」
「承知しました。」
こうして、私とジョフィアは痴話喧嘩をした結果、ジョフィアが12才の少女として私を扱うなら、という条件付きで付き合うことになりました。
「エルさん、早速ですが、明日市場をご一緒しましょう」
「え?そこは夜の酒場とか……」
「12才のエルちゃんをそんなところに連れて行けません」
「えー、大人の雰囲気を味わいたいのにっ」
マリーは
「もう勝手にしたら……」
とあきれていた。
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