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陰謀の足音
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「実は、もう一つあなたに伝えなければならないことがあるんですが……」
しばらく抱き合った後、フィンリーが気まずそうに言い出した。私はあわてて離れると、さっきまで座っていた椅子に座り直した。
久しぶりにゆっくり過ごせて浮かれているのは私もらしい。
「どんなお話ですか?」
「少し物騒な話ですが、この国の貴族の中にアルバム王国との密通している者がいます」
思った以上に深刻な話題に息をのむ。
アルバム王国と言えば、フィンリーが取り戻すまで帝国を占領していた敵国だ。
「その人物は焦っていることでしょう。娘を側室として送り込んで、皇城への足がかりにするつもりだったはずですから」
「え……では、側室候補の中に」
側室候補たちは後宮に滞在している。私の部屋からはそう遠い場所ではない。帝国の害意を持っている人が、そんなにすぐそばにいたなんて。
「令嬢がどこまで知っているかはわかりません。詳細は知らされずに、命令に従っているだけの可能性もあります」
「そう、ですか……」
側室候補の中で私が知っているのは、グレース様とマリアベル様だけだ。その令嬢とは一度も会ったことのない可能性が高い。
でも、知らないうちに危害を与えられたかもしれないと思うと、やっぱり怖い。
「焦った相手が何をするかはわかりません。あなたが何かを知っていると悟れば、とんでもない手段に出るかもしれない」
教えてくれるのはフィンリーの優しさだ。私が危険な目にあわないように、一生懸命守ってくれている。
フィンリーを支えると決意したばかりなのに、恐怖がおさえられない。
「もちろん、こちらの味方も送り込んでいます。名前は伏せますが」
たしかに、知っていたら不自然に見てしまうかもしれない。私のせいで敵にバレてしまったら大変だから、大人しくうなずく。
「本当は敵も教えない方がいいのですが、それはそれで危険なので……。アイリス、聞きますか?」
「……聞きます」
何もできないかもしれない。足手まといになるだけかもしれない。
でも、一人で抱え込ませたくない。話すだけでも心を安らげることができるかもしれない。
「聞かせてください、フィンリー」
「わかりました。令嬢の名前は……マリアベル・オブ・アズライト」
「マリアベル様、ですか……?」
グレース様だと言われたのなら、まだ信じられたかもしれない。彼女は最初から私に敵意を向けていたから。
でも、マリアベル様は違った。最初こそ不自然に近づいてきたが、その後はずっと良くしてくれた。ときどき覚えた違和感も、きっと気のせいだと思っていた。
……私は、マリアベル様を友達だと思っていたのに。
「今後も、こうやって危険な目にあうことがあるかもしれません。悲しい思いをさせるかもしれません」
沈んだ声に、驚いて顔を上げる。フィンリーは唇をかんで、額にシワを寄せていた。強く握り締められた彼の拳は、力が入りすぎて真っ白になっている。
「フィンリー」
「それでも」
心配になって名前を呼ぶと、強い口調でさえぎられた。口をつぐむ。
「……それでも、そばにいてくれますか?」
不安に揺れた紫の瞳は、私への愛情で満ちていた。
教えられた話は確かにショックだったけれども、フィンリーが側にいてくれるなら大丈夫だ。それに、まだマリアベル様が私のことをお嫌いだと決まったわけじゃない。
「当たり前です」
端的に答える。これ以上の言葉はいらないと思ったから。想像した通り、フィンリーは泣きそうな顔をして笑った。
しばらく抱き合った後、フィンリーが気まずそうに言い出した。私はあわてて離れると、さっきまで座っていた椅子に座り直した。
久しぶりにゆっくり過ごせて浮かれているのは私もらしい。
「どんなお話ですか?」
「少し物騒な話ですが、この国の貴族の中にアルバム王国との密通している者がいます」
思った以上に深刻な話題に息をのむ。
アルバム王国と言えば、フィンリーが取り戻すまで帝国を占領していた敵国だ。
「その人物は焦っていることでしょう。娘を側室として送り込んで、皇城への足がかりにするつもりだったはずですから」
「え……では、側室候補の中に」
側室候補たちは後宮に滞在している。私の部屋からはそう遠い場所ではない。帝国の害意を持っている人が、そんなにすぐそばにいたなんて。
「令嬢がどこまで知っているかはわかりません。詳細は知らされずに、命令に従っているだけの可能性もあります」
「そう、ですか……」
側室候補の中で私が知っているのは、グレース様とマリアベル様だけだ。その令嬢とは一度も会ったことのない可能性が高い。
でも、知らないうちに危害を与えられたかもしれないと思うと、やっぱり怖い。
「焦った相手が何をするかはわかりません。あなたが何かを知っていると悟れば、とんでもない手段に出るかもしれない」
教えてくれるのはフィンリーの優しさだ。私が危険な目にあわないように、一生懸命守ってくれている。
フィンリーを支えると決意したばかりなのに、恐怖がおさえられない。
「もちろん、こちらの味方も送り込んでいます。名前は伏せますが」
たしかに、知っていたら不自然に見てしまうかもしれない。私のせいで敵にバレてしまったら大変だから、大人しくうなずく。
「本当は敵も教えない方がいいのですが、それはそれで危険なので……。アイリス、聞きますか?」
「……聞きます」
何もできないかもしれない。足手まといになるだけかもしれない。
でも、一人で抱え込ませたくない。話すだけでも心を安らげることができるかもしれない。
「聞かせてください、フィンリー」
「わかりました。令嬢の名前は……マリアベル・オブ・アズライト」
「マリアベル様、ですか……?」
グレース様だと言われたのなら、まだ信じられたかもしれない。彼女は最初から私に敵意を向けていたから。
でも、マリアベル様は違った。最初こそ不自然に近づいてきたが、その後はずっと良くしてくれた。ときどき覚えた違和感も、きっと気のせいだと思っていた。
……私は、マリアベル様を友達だと思っていたのに。
「今後も、こうやって危険な目にあうことがあるかもしれません。悲しい思いをさせるかもしれません」
沈んだ声に、驚いて顔を上げる。フィンリーは唇をかんで、額にシワを寄せていた。強く握り締められた彼の拳は、力が入りすぎて真っ白になっている。
「フィンリー」
「それでも」
心配になって名前を呼ぶと、強い口調でさえぎられた。口をつぐむ。
「……それでも、そばにいてくれますか?」
不安に揺れた紫の瞳は、私への愛情で満ちていた。
教えられた話は確かにショックだったけれども、フィンリーが側にいてくれるなら大丈夫だ。それに、まだマリアベル様が私のことをお嫌いだと決まったわけじゃない。
「当たり前です」
端的に答える。これ以上の言葉はいらないと思ったから。想像した通り、フィンリーは泣きそうな顔をして笑った。
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