45 / 51
第四章 闇に包まれた謎
45
しおりを挟む「クッハハハ……君で遊ぶのも飽きてきたしー、そろそろ首をちぎって壊してあげるよ」
優の首を掴む手に、永戸は更に力を入れた。永戸は、素手で優の首を胴体から取り外そうとしている様だ。
もがき苦しんでいた優の瞳から、生気が失われていった。そして、両手をダラッと下げると、優は白目をむき完全に動かなくなってしまった。細長い優の首から、血が絶え間なく噴き出している。
飛華流には、優が殺されてしまったのか気絶しているのか区別がつかなかった。それでも彼は、何とかして永戸を止めようと考えていた。
しかし、永戸が優の首の骨を折るのも時間の問題な為、悩んでいる暇など微塵も無い。
このままでは、優は間違いなく死んでしまう。とりあえず、僕が永戸の気を引くしかない。足元に転がっている小石を、飛華流は永戸に咄嗟に投げつけた。
「優さんに何するんだ永戸――っ! ぼ、僕がお前の相手だ覚悟しろーっ!」
「あっれー。ラッキー。僕のおもちゃが戻ってきたー。クフッ……やったね」
背中に石をぶつけられ、永戸は二人の方へ体を向けた。そして、舌なめずりをしながら、永戸は狂った表情で二人に飛び掛かる。狙い通りにはなったが、次は自分らに命の危機が迫ってしまう。
僕らだけでも助かる方法を選べば良かったのに――僕はなんて、愚かなんだろう。物語の主人公が、薄情な臆病者では魅力が無い。
そんなこだわりの方が、命よりも大事だというのか。飛華流は、本気で生きる事を諦めていた。悲しみの雫で頬を濡らす飛華流を庇う様に、ワンダが永戸の前に立ちはだかる。
ワンダは最後まで、僕みたいな無価値な人間を守ろうとしてくれているのか。こんな事に、ワンダを巻き込んだら駄目だ。
ワンダだけでも避難させるという、まともな判断が僕はあの時に出来なかったのだから――その責任は必ず果たすぞ。そう決意した飛華流は、ワンダの体を包み込み、自分が縦になろうとした。
「ヒルッ! 何、してる……危ない。離れろ」
「よく聞いてワンダ……僕がやられたら、その隙に逃げて」
飛華流の腕から解放されようと暴れるワンダを、飛華流は強く抱きしめて離さない。
「お前、馬鹿。ヒル、死ぬ……俺、嫌」
「僕は、いつどこで死んでも問題ない人間だけど……ワンダは、こんな所で死んだらいけない。勿体ないからね」
飛華流は、本心を吐き出した。その頃には、永戸は二人の直ぐ側まで迫ってきていた。危機的状況の中で、トラックのエンジン音が聞こえる。
そのトラックは、彼らの背後を通り過ぎようとしていた。そこで、飛華流はある無謀な事を閃いた。
「お、お前なんか死んじゃえーーっ! うわぁーーーーっ!」
飛華流は両目をギュッと閉じ、両の手を永戸に向かって力強く突き出した。すると、永戸は勢いよく後ろへ飛ばされていき、走ってきたトラックの道を塞いだ。
けたたましいトラックのクラクションの音が、小さな町へ鳴り響く。その直後、尻もちをついた永戸に、トラックが激しく衝突した。とてつもない衝撃を受けた永戸の体は、高く舞い上がり硬いアスファルトへ叩きつけられた。
フィクションの様な、摩訶不思議な現象が起きた事が飛華流は信じられないでいた。永戸を押し飛ばし、トラックに轢かせる事は計算の内だったが――なんと、飛華流は触れる事なく、永戸を自分から突き放したのだ。その瞬間、何か目に見えない力が働いた様だった。
「ワ、ワンダが……やったの?」
自分のパワーが発動したという可能性を真っ先に疑い、飛華流はワンダに問う。しかし、口をあんぐりとさせていたワンダは、「俺、違う。ヒル、やった」とそれを否定した。
状況を確認しても、飛華流は今起きた現象が現実だと思えずにいた。当然ではあるが、飛華流がこんな体験をするのは生まれて初めてだった。
自分に不思議な能力が秘められていると考えるより、奇跡が起きたと捉えた方が彼の中では納得がいく。まさか、謎のパワーに秘密が隠されているなんて、飛華流は考えもしなかった。
頭を混乱させている飛華流に、次なるアクシデントが襲いかかる。なんと、トラックに跳ねられた永戸が、スラッとした体をふらつかせながら、立ち上がったのだ。
血塗れの状態で動き出す永戸を目に、飛華流の顔が青ざめていく。あり得ない――どうして、生きているんだよ。トラックと言っても、小型だったからか?
トラックの運転手が、思いっきりブレーキを踏み、スピードを落としていたせいでもあるだろう。何より、三島永戸は人間の形をした化け物だから――彼が死ななかった、一番の原因はこれだろう。
小さな体を震わせ怯える飛華流に、永戸は不気味に笑いかける。
「アッハハハ……痛い、痛いよ。君、よくもやってくれたねー。バラバラになる覚悟しなよ?」
「そ、そんな……もう終わりだ」
あまりの絶望から、飛華流は心の声を漏らした。抵抗する事をやめた飛華流に容赦なく、永戸は爪を立てて素早く襲い掛かる。
自分の方へ急接近してくる赤目の化け物が、飛華流の視界にぼやけて映る。ここが、僕の墓場だ。飛華流は本気でそう感じ、大粒の涙をこぼしながら失神した。
鋭く尖った永戸の爪が、バランスを崩し倒れていく飛華流の腹を切り裂こうとしていた。その直前で、永戸はピタッと動きを止め、周囲を見渡すと驚いた様子で目を見開いた。
「こ、これは……ちっ、またやっちまったのか」
瞳から赤々とした光が消え、永戸はいつものあどけない顔をした少年に戻った。狂気じみたモノが、永戸から完全に抜けた様だ。永戸に向かって、ワンダは拳を振り上げて威嚇する。
「お前、嫌い。俺、倒す」
「悪い……俺は、優を運ぶ。お前は、飛華流を頼むぞ」
永戸は一切、ワンダと戦う気を見せなかった。重傷を負った優を背負い、永戸はどこかへと走り出す。
道路の真ん中で、飛華流を寝かせておく訳にもいかず、ワンダは永戸の後を追わなかった。仕返しがしたいという気持ちを必死に抑え、彼の背中をワンダは睨み続けた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
【ショートショート】おやすみ
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。
声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)
葵セナ
ファンタジー
主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?
管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…
不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。
曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!
ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。
初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)
ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
人生負け組のスローライフ
雪那 由多
青春
バアちゃんが体調を悪くした!
俺は長男だからバアちゃんの面倒みなくては!!
ある日オヤジの叫びと共に突如引越しが決まって隣の家まで車で十分以上、ライフラインはあれどメインは湧水、ぼっとん便所に鍵のない家。
じゃあバアちゃんを頼むなと言って一人単身赴任で東京に帰るオヤジと新しいパート見つけたから実家から通うけど高校受験をすててまで来た俺に高校生なら一人でも大丈夫よね?と言って育児拒否をするオフクロ。
ほぼ病院生活となったバアちゃんが他界してから築百年以上の古民家で一人引きこもる俺の日常。
――――――――――――――――――――――
第12回ドリーム小説大賞 読者賞を頂きました!
皆様の応援ありがとうございます!
――――――――――――――――――――――
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる