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第四章 闇に包まれた謎
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しおりを挟む「ヒル……へっちゃら?」
ふらふらしながら、ワンダが飛華流に近寄った。
「うん。僕は何とか……それより、ワンダこそ大丈夫なの?」
「俺、強い。元気」
いつもの調子で強気な発言をするワンダに、飛華流はホッとした。
「フッハッハッハッハー。君って馬鹿だねー。呆れるほどに。まさか、僕がこの程度だとでも思ったの?」
永戸が余裕を見せると、優は思わず鋭い目を見開いて動きを止めた。
「……え? そんなに強くて、まだ手加減してるとでも言うのかよ……嘘だろ?」
「フッハハ……当然だよー。僕はまだ、ほんの少しの力しか出していないのさ。……でもね、僕に傷をつけてくれた君には、特別に全力を出してあげるから安心してね」
アニメのラスボスみたいな永戸の言葉に、皆が衝撃を受けて固まった。僕らは今まで、永戸に遊ばれていただけだったのだ。
やはり、永戸は化け物だった。つまり、僕らを待っているのは「死」のみだ。絶望と恐怖に染まった二人の表情を見つめ、飛華流は死を覚悟する。
突然、優が「ウッ……」と痛みを堪える様な声を上げ、膝から崩れ落ちた。痛みのせいか、声すら出せない様子だ。一瞬の事で、飛華流には何が起きたのか分からない。一体、優は永戸に何をされたのだろう。
永戸の左手が、赤く染まっている。これは、果たしてどちらの血か――優の横腹には、中くらいの穴がぽっかりと空いている。
信じ難い事だが、永戸の手が優の腹に貫通したのだと、飛華流は理解する。なんて強さだ――これでは、誰も永戸を止められない。
「飛華流―っ! お前はワンダを連れて、早く逃げろーー」
血の染み込んだ地面に両手をつき、優はよろめきながら腰を上げた。
「……でも、優さんは……」
「俺の事は、心配いらねー。永戸の暴走を止めたら、仲良く二人で帰るからよー」
二人を安心させる為か、優はこんな時でも飛華流に笑顔を見せた。ここに居ても、足手まといになるだけだ。
優に任せ、僕らは避難しよう。飛華流は優に頭を下げ、ワンダの手を握った。しかし、ワンダは一歩も動こうとはしない。
「俺、残る。ヒル、逃げろ」
「な、何言ってるの……ここに居たら、殺されちゃうよ。危ないよ」
「俺、戦う。逃げない」
ワンダは飛華流にそう返事をし、真剣な眼差しで彼の情けない面を見つめる。いや、流石にワンダを置いて帰れない。
どうしたものかと飛華流が頭を悩ませていると、二人の会話に耳を傾けていた優がワンダにある頼み事をする。
「……ワンダ! 飛華流は、怪我をしてるんだ。一人で無事に帰れるか心配だ。だから、お前が飛華流を守ってやってほしい」
「……分かった。俺、守るヒル」
しばらくの沈黙の後、ワンダは優に頷いた。そして、飛華流の手を握り返して歩き始める。どうすれば、ワンダが僕と一緒に逃げてくれるのかを、優はちゃんと考えてワンダにそう言ったんだ。
優の優しさに気づいた飛華流は、彼が仲間思いの善人だと再認識した。
「ちょっとー。君達も、僕のおもちゃなんだよー。勝手にどこかに行ったら、駄目だからね」
二人へ襲い掛かろうとする永戸の道を塞ぎ、優が彼を止めた。その瞬間、永戸の手が優の腹を再び貫いた。
「ねえ……これでもまだ、元気に僕の邪魔が出来るかーい?」
「ガハッ……ああ、まだ俺は……俺は、お前と戦う」
永戸はもう一度、優の体に穴を開けた。それでも、優は弱音を吐かず、永戸に笑って見せた。
「……おおっ! これは、楽しいねー。こんなに壊し甲斐のあるおもちゃは、きっと他には無いだろうねー。君のその肉体、僕が貰ってあげようかなー」
刺激的なバトルに興奮する永戸に、優はやられていた。優は、永戸に殺されてしまう可能性が限りなく高い。
それを知っていても、優に背を向けて飛華流は安全な空間を求め、ひたすら走る。どうか、優が無事であります様に――神に祈りを捧げながら。
このまま、家へ逃げ帰るつもりの飛華流だったが――突如、彼の脳裏にこんな持論が浮かび上がってくる。
人は生まれ、自分が主人公の物語を作り出す。そして、死んでその物語を完結させる。それが、長編か短編か、喜劇か悲劇かは人それぞれ。
飛華流は足を止め、傷だらけの優で遊ぶレッドアイに体を向けた。僕は、自分の納得いく自慢の物語を作りたい。
ここで優を見殺しにすれば、僕の作品は駄作確定だ。どうせなら、名作をこの世に残したい。そんな熱い情熱を胸に秘め、飛華流は来た道を引き返す。
「ワンダ……僕、やっぱり優さんを救いたいよ」
「ヒル、俺も。俺、力貸す」
不思議そうに飛華流を見つめていたワンダだったが、彼女は彼にすんなりと賛成した。
ほとんど、永戸はダメージをくらっておらず、ピンピンしている。そんな彼を、飛華流とワンダで倒すのは、現実的に考えて不可能だ。
だからといって、二人に一発逆転を狙う様な策は無かった。二人にあるのは、気合だけだ。
「うがぁ……ひ、かる」
永戸に首を絞められていた優は、自分らの方へ近づいてくる二人の存在に気づいて肩を落とす。優は無事に二人を逃がし、永戸から守り抜く事に成功したと思っていたのだ。その分、ショックは大きいだろう。
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