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第四章 闇に包まれた謎
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しおりを挟む「へー。なんか君って、変わった見た目しているね。こんな子、珍しいなー。遊び甲斐がありそうだよー」
永戸が、ワンダにゆっくりと迫っていく。ワンダが危ない。僕が、ワンダを守らないと。女の子に守られて、どうするんだよ僕。頭ではそう思っていても、恐怖のせいで飛華流は何も出来ずにいた。
「やめろ永戸ーー! 二人に手を出すんじゃねー。気をしっかり持てーー」
地を這いつくばりながら、優は声を張り上げた。そんな彼を嘲笑い、永戸はスラッとした細長い足を振り上げる。
「フフッ、安心しなよ。君達をまとめて、地獄行きにしてあげるからさー。まずは、君からだよ……おチビちゃん」
「やめろーーーーーーっ!」
優が叫んだ直後、ワンダは飛華流の方へ倒れ込んだ。
「ワンダ……大丈夫?」
飛華流がクッションになったので、彼女は後頭部を強打せずに済んだ。しかし、永戸に腹部を蹴られ、ワンダはとても苦しそうにしている。
くっそ――僕は、何もしてあげられないのか。自分の無力さと情けなさに、飛華流は腹を立てていた。
身の危険を感じた町の住人は、自宅の中に身を隠している様だ。カーテンの隙間から顔を覗かせ、彼らの様子を伺っている者も少なくない。そんな人々にまで、永戸は目をつけた。
「アハッ……嬉しいなぁー。この辺には、人間がいーっぱい居るみたいだねー。……さーて、どの命にしようかなー」
立ち並ぶ住宅の窓から見える人影を、永戸は鋭い瞳で嬉しそうに見つめていた。
「弱い奴、傷つけるな!」
か細い体を震わせながら、ワンダは立ち上がると、永戸を睨みつけた。命懸けで、ワンダは住民達を守ろうとしているのだ。
自分より小柄な女の子が、悪魔に立ち向かっているのに――それなのに、僕は一体、何をしているんだ。強く自分を恨み、飛華流は涙で頬を濡らす。
「ほら、邪魔をしないでよー。安心しな……君の事はちゃーんと、後で殺してあげるからね。順番だよ順番」
「ふざけるなゾ! 命、大切。奪うの駄目だぞ」
ワンダは永戸に強く言い返し、両手を上へ真っ直ぐに伸ばす。前に勢太を倒した時と、同じポーズをしていた。恐らく、ワンダは永戸を空中へ上げるつもりなのだろう。
「僕が奪わなくたって、生命はいつか滅ぶよ。どうせ死ぬなら、僕が殺ってもいいじゃん」
地を這い、少しずつ自分の方へ接近してきていた優を持ち上げ、永戸は彼をワンダに投げつけた。攻撃を阻止され、ワンダは優と共に数メートル飛ばされ、電柱へ激しくぶつかった。
「んー、えーっと……まずは、外のおもちゃをぜーんぶ壊そうかなー。それでー、その後にいろんな家に入ってみよーっと」
永戸の発言から、次にターゲットにされるのは自分だと、察知した飛華流。永戸と距離を取ろうとするが、時は既に遅かった。後ろへ一歩、飛華流が下がった頃には、永戸はもう彼の直ぐ側に居たのだ。
「クッハハ……待たせたね。さあ、次は君の番だよ」
抵抗する間もなく、飛華流は永戸に首を掴まれてしまった。そして、そのまま体を上げられた飛華流は、息苦しく上手く呼吸が出来ない状態になった。殺される。
まだ、死にたくない。怖いよ助けて。首に刃物でも刺さった様な、激痛が飛華流を襲う。尖った爪で、永戸は飛華流の首を刺していたのだ。
首から流れる血を眺め、永戸は楽しそうに笑っている。僕は、このまま死ぬのだろうか。どんどんと、永戸の爪が僕の首へ深く刺さっていく。
首がもげるのも、時間の問題だな。感覚が麻痺し、飛華流は痛みさえも感じられなくなっていた。
「飛華流に何するんだーー! いい加減にしろよ永戸――――」
優の怒鳴り声がしたと同時に、永戸は飛華流から手を放し、彼の視界から消えた。そのまま飛華流は崩れ落ち、永戸に殴りかかる優の姿を、潤んだ瞳で眺めていた。
優に突き倒され負った傷を、永戸は舌でペロリと舐めた。
「あー、分かった……分かったよー。先に死にたいなら、君から殺してあげる」
「本当は、お前とは戦いたくない。……だけど、俺の大切な可愛い後輩を傷つけるなら、容赦しねー」
優は永戸の顔に何発も拳を入れ、彼を勢いよく蹴り上げた。僕達の為に、そこまで必死になって戦ってくれるなんて――この人はなんて、良い人なんだろう。優の優れた人柄に、飛華流は心打たれた。
きっと、優はさっきまで本気が出せずにいたんだ。仲間である永戸を傷つける事に、抵抗があったのだろう。
けれど、今は全力が出せているはず。さっきから、永戸は優の攻撃をくらってばかりだ。それに、永戸は体のあちこちから血を垂らしているからな。勝手に飛華流はそう思い込み、この調子でいけば優が永戸に勝てるだろうと本気で信じていた。
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