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第四章 闇に包まれた謎
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しおりを挟む「皆、何を食うか決まったかー?」
ゴールドの前髪を横へ流す優に、永戸は小さく頷いた。ワンダも、優の問いに答える。
「俺、いらない。まずい」
「えっと、すみません……食べに行くとは知らなくて、僕は財布を持ってきていないんです」
「なーんだ。そんなの気にせず、遠慮なく好きなの頼んで良いぞー」
申し訳なさそうな顔をした飛華流に、優は笑顔でメニュー表を手渡す。それってつまり、奢ってくれるという事だろうか。
だけど、この人達って、ちゃんとお金を持っているのかな。ここへ来たという事は、その心配をする必要は無いだろうと考え、飛華流は何を食べようかと選び始めた。
メニュー表に記されたミニドリアを指差し、飛華流は言う。
「あ、ありがとうございます……僕、これにします」
「よーし、了解。……ワンダは本当に、何も要らないのか? 好きなの食えばいいんだぞ」
優が最終確認をするが、ワンダは「変な味、嫌い」と、料理の注文を拒否した。ワンダには、口に合う食べ物が無い。
だから、日頃から何も口にせず、ワンダは水分だけを摂取して生きている。だが、衰弱していく様子も無いので、ワンダの体はそれで問題ないのだろう。
腹を空かせた永戸が不機嫌そうにしていたので、優は呼び出しボタンを押した。
「失礼します。ご注文をお伺い致します」
彼らの席へやって来た若い女性店員に、優は驚きの発言をする。
「チーズハンバーグステーキと……それから、お姉さんの連絡先を下さーい」
「あの、お客様……すみませんが、ただいま業務中ですので、それは出来ません。申し訳ございません」
「えー、お姉さんすっげー綺麗だから、俺は仲良くなりたかったのになー。……残念」
優にナンパされた女性店員は、とても困っている様だった。これは、れっきとした業務執行妨害だ。飛華流は、「お巡りさんここです」と心で呟いた。
「……それは、ありがとうございます。お気持ちだけ、受け取ります。……他に、ご注文は宜しいでしょうか?」
「……サイコロステーキ」
「あ、えっと……ミニドリアを一つ、お願いします」
永戸に続き、飛華流は慌てて注文した。そうして、彼らは料理が運ばれてくるまでの間、ゲームをして遊んだ。ワンダはいつもの様に、それを黙って見ていたり、きょろきょろと店内を眺めていた。
公共の場だというにも関わらず、永戸と優はゲーム機の音量が大きい。それに、優は声のボリュームまであった。
そのせいで、彼らは周りから白い目で見られていた。周囲からの冷たい視線に気づいていた飛華流は、自分だけでもと無音でゲームをプレイした。
しばらくして、彼らのテーブルに料理が並べられた。彼らはそれを、口へ次々に詰め込んでいく。口の中でとろけるチーズを味わっている飛華流に、永戸が唐突な質問をする。
「飛華流……お前、もう直ぐ学校が始まるだろ?」
飛華流は、コクリと首を縦に振った。学校の事を考えるだけで、彼の気分は沈む。
「学校なんて行くな。そんな所に行くから、壊れていくんだ。……嫌いな人間とも関わるな。好きな事さえしていれば良い」
「え、えっと……」
僕だって、本当はそうしたくてたまらないさ。だけど、それを決して家族が許してはくれない。永戸に返す言葉が見つからず、飛華流はそのまま口を閉じる。
すると、優が珍しくこんな良い発言をする。
「いじめられていたら、助ける。悩んでいるなら、相談に乗る。……俺達が飛華流にしてやれる事は、それくらいだろうぜ。お前の価値観を飛華流に押し付けても、何も変わらねーの。……永戸、分かったか?」
「……俺は、分からねーんだよ。やりたくも無い事をする、人間の心理がな」
納得がいかない様子で、永戸は微かに首を捻らせた。
「……別に、無理に分かろうとする必要は無いと思うぜー。きっと、一生理解できない事も、あるだろうからな」
真剣な表情で、優はそう言った。ぱっと見の柄は悪い――それに、女にもだらしない。だけど、優は本当は良い人なのではないかと飛華流は感じていた。
場の空気が悪くなってしまった事に気づき、優は再び陽気で明るい笑顔を見せる。
「アッハハ……それよりー、もっと楽しい話をしようぜー。……あっ、そうだ……なあ、ワンダって彼氏とかいる?」
「はてな?」
コップに入った水を少しずつ飲んでいたワンダは、優にそんな事を聞かれてキョトンとしている。ワンダは、彼氏という言葉を知らないのだ。
「んー? 秘密って事かー? ……なあ、飛華流―。お前の妹を、俺が貰っちまってもいいかー?」
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