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第四章 闇に包まれた謎
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しおりを挟む何も無い空間から突然、上品なショートカットの娘が姿を現したのだ。驚きのあまり、飛華流は間抜けな声を上げる。
「ひぃ、ひゃーーーーーっ! お、お化け? 出たぁーーーー」
「飛華流さん、私です……エミナーですよ。驚かせてしまって、すみません」
椅子から転げ落ちた飛華流を、エミナーは申し訳なさそうに見下ろしていた。
「エ、エミナーさん? どうして、ここに……魔法の力で、僕の部屋に?」
「はい……夢創作員のお仕事は、これにて終了です。私は、夢製造機を回収させて頂く為、少しだけお邪魔致します。……それから、飛華流さんの事が気になったので」
学習机に置かれた夢製造機を、不思議な力で宙に浮かせ、エミナーは自分の元へと引き寄せた。
上手く仕事をこなす事が出来なかった飛華流は、エミナーに頭を下げて謝る。
「あの、エミナーさん……ごめんなさいっ! 僕は全く、お客さんが欲しがる夢を作れなかったです。……これじゃあ、仕事を手伝った事にはなりませんよ」
「いいえ、とても助かりましたよ。貴方の夢に、永戸さんが救われたじゃないですか」
エミナーに励まされるが、飛華流は弱音を吐く。
「……あれは、たまたまですよ。それに、僕はただあの人の過去の記憶を頼りに夢を作っただけで……僕自身の発想力は、使っていませんから」
「……本来、永戸さんの依頼は、忘れたくない素敵な思い出を運ぶ、思い出配達員という業務で承る様な内容です。一から物語を作り上げていく作業とは異なるので、夢創作員として受けるには不向きな依頼となります。ですから、永戸さんからの依頼は、イレギュラーなお仕事だった訳です。それを難なくこなせた飛華流さんは、とっても凄いですよ」
俯いていた飛華流は顔を上げ、気になっていた事を口にする。
「そう……僕は、永戸さんが幼い頃の、ほんの一部の記憶を元に作業しただけです。それなのに、永戸さんの求めていた、本物に限りなく近いお母さんが仕上がるなんて、なんだか不思議です」
「……その事に、私も違和感を感じていました。あの夢の中で、飛華流さんが設定していない出来事が起きていますね?」
エミナーに問われ、飛華流は深く頷く。
「はい……生き返ったお母さんと共に、永戸さんがイナズマ組を出て家へ帰るだけの内容しか僕は考えていません。なので、そこで夢が覚めないとおかしいですよ。普通、永戸さんがお母さんと会話を続けられるはずがありませんから」
「そうですよね……飛華流さんは、永戸さんのお母様の発言内容を、ほんの少ししか用意していませんし。……だとすると、この不可解な現象は、永戸さんのお母様本人が起こしたのでしょう」
頭が追いつかない様子の飛華流に、エミナーは丁寧に説明を加える。
「亡くなった母親の霊が、飛華流さんの夢を利用し、永戸さんと会話していたという事になります。つまり、永戸さんの夢の中に、母親の霊が出てこられたのです。最愛の我が子を残して他界してしまった事が、お母様はとても心残りだったみたいですからね。今でもあの方は、永戸さんをかなり心配しています。なので、どうしても永戸さんとお話がしたかったんでしょうね」
「ゆ、幽霊が夢に……そんな事も実際に起きるんですね。でも、だったら……永戸さんを満足させたのは、僕じゃない。永戸さんのお母さんだ。……僕は結局、自分の発想力を活かせず終わってしまいました」
肩を落とす飛華流に、エミナーは温かな言葉をかける。
「貴方の持つ世界観は、どうやら賛否両論あるみたいですね。私は、飛華流さんのユニークで独創的な世界観が好きですよ。これからも、貴方だけの飛華流ワールドを広げて下さいね」
自分には物語を作る才能が無いのかと落ち込む飛華流だったが、彼はエミナーの言葉にだいぶ救われた。微かに口角を上げ、飛華流はエミナーに向かって前向きな発言をする。
「ありがとうございます……僕、これからもずっと、永遠に自分の世界を大切にしていこうと思います」
「応援していますよ飛華流さん。お手伝い、ありがとうございました。お疲れ様でした」
去り際に言う様なセリフを並べたエミナーだが、飛華流の部屋から立ち去る様子は無い。
それを不思議に思っている飛華流を、エミナーは真剣な眼差しで見つめている。そして、彼女は再び口を開いた。
「さて、飛華流さん……実は、本題はここからなんですよ。私の真の目的は、何だと思いますか?」
「えっ? 夢製造機を取りに来ただけじゃないんですか? ちょっと、分かりません」
ひょっとして、ティータイムか何かにでも誘われるのではと、飛華流はそわそわしていた。照れ隠しの為、飛華流はエミナーから視線を逸らす。
「夢製造機の回収は、わざわざ飛華流さんの家へお邪魔しなくとも、遠距離からで可能です。……飛華流さん、私の目をちゃんと見て下さい。これから、とても大切なお話をしますから」
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