MARVELOUS ACCIDENT

荻野亜莉紗

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第四章 闇に包まれた謎

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 自分の作った夢が、気に入ってもらえなかった事に、飛華流は不満を抱く。何故だろう。自信作だったのに。

 僕の物語は、滅茶苦茶だからこそ面白いのに――というか、宇宙人と友達になりたかったのなら、最初にそれを教えてくれないと分からないじゃないか。

 客の感想に腹を立てていると、また別の客の声が飛華流の耳に入ってくる。

「こんな、つまらない夢を高額で買わされるなんて、馬鹿馬鹿しいわ。私は、白馬に乗った王子様と遊びたかったのに……王子は羽の生えた白馬に乗って、天に消えていったわ。そもそもどうして、白馬に羽が生えているの? もう、最悪よ」
 
 白馬に羽が生えているのは、ペガサスだからに決まっている。僕だって、一生懸命に働いているんだぞ。飛華流には、客からのクレームが耳障りで仕方がなかった。

 直志から、「イナズマ組と関わるな」と注意されていたが、飛華流はそれを無視して彼らと遊んでいる。

 だが、それは飛華流が、彼らと一緒に居る事を望んでいるからではなかった。彼らからの誘いを断る勇気が、飛華流には無かったのだ。
 
 永戸と優と遊び、家に帰ってきた飛華流は、再び仕事に取り組んだ。客が満足する様なシナリオを、彼は必死に考える。

 それでも、客からの苦情が絶える事はなかった。心が折れ、飛華流は仕事を辞めようかと悩み始めていた。

 今日も容赦なく、客からの依頼や苦情が交互に聞こえてくる。飛華流は、気が狂ってしまいそうだった。

 呪いの代金は、仕方がないから親の口座から払ってしまおうか――そう考え、飛華流が枕に顔を埋めていたその時だ。

「死んだ母さんに、会わせてくれ……」
 
 聞き慣れた、クールな男性の声がした。この声は、まさか――――永戸か? 飛華流には、そうとしか聞こえない。だが、声のみでの判断なので、それが永戸だと確定した訳ではない。

 この客の母親を全く知らない飛華流には、このままでは依頼に応じる事が出来ない。どうしたものかと頭を悩ませていると、再び男性の言葉が彼に届く。

「この、俺の記憶を元に……俺の母さんを、夢の中で蘇らせてほしい」
 
 その途端、飛華流の脳内でモノクロの何かが映像化される。それは、広々とした豪華なリビングルームでくつろぐ、幸せそうな二人の親子だった。

 綺麗な顔立ちの女性が、大きな紙袋を我が子に渡す。

「これ、永戸が欲しがっていた物……お母さん、買ってきちゃったわ」

「わーい! お母さん、ありがとう」
 
 満面の笑みを浮かべ、フィギュアやおもちゃを手にする可愛らしい顔をした幼い少年には、永戸の面影がある。

 彼が、母親に「永戸」と呼ばれている事から、飛華流はこの少年が幼少期の永戸だと確信した。
 
 これだけでも十分、永戸が恵まれた暮らしをしているのだなと、飛華流は感じていた。

 しかし、永戸が母親と過ごす映像は、止まる事を知らず溢れ出す様に次々と流れてくる。

 遊園地でジェットコースターに乗ったり、動物園で小さな命と触れ合ったり――お洒落なレストランで食事を取る、永戸とその母親。

 どうやら、永戸は、欲しいモノは何でも手に入れていたみたいだ。その上、好きな場所へも連れて行ってもらえ、食べたい物を口にしている。

 裕福な家庭で育った永戸が、どれだけ贅沢三昧してきたのかを、飛華流は理解した。
 
 やがて、永戸と母親のリッチな生活は感じ取れなくなった。これで終わりかと思えば、また新たな光景が、飛華流の脳へ入り込んできた。浮かない顔の永戸を、母親が慰めている様子だ。

「永戸……確かに、貴方は普通じゃないわ。だけどね、人と違うって、とっても魅力的な事なのよ」
 
 永戸の母親は、なんて素敵な人なのだろう――飛華流がそう感心していると、永戸の過去の映像はすっかりと消えてしまった。

 あれは、僕が知ってしまっても良い事だったのかな。エミナーが夢を創作できる様に、永戸が彼女に見せた記憶なのに。意外な形で彼の過去に触れてしまい、罪悪感を抱きながらも、飛華流は夢の創作を始めた。

 イナズマ組のアジト、巨大な枯れ木のツリーハウスで一人、永戸はスヤスヤと眠っていた。それから少し経ち、静寂に包まれた落ち着きのある空間に、ノック音が響き渡る。

 何者かが、小屋のドアを叩いている様だ。上体を起こした永戸は、誰が来たのかとドアへ近づく。

「会いたかったわ永戸……さあ、お母さんと帰りましょう」

 信じられない事に、ドアの向こう側に居たのは、亡くなったはずの母親だった。

「永戸、寂しい思いをさせてごめんなさいね。これからはまた、お母さんといろんな場所へ行ったり、美味しい物を食べましょうね」
 
 母親は温かな愛で、永戸を優しく包み込む。そうして、永戸は母と懐かしの立派な自宅へと帰っていったのだった。

 蘇った母親が、アジトまで永戸を迎えにくるという、あり得ない設定になってしまったが、飛華流は何とか夢を完成させた。

 それから数時間後、永戸の感謝の言葉が飛華流の耳へ流れ込む。

「サンキュー、エミナー。目覚めたくないくらい、よく出来た夢だった。『貴方は、貴方らしく生きればいい』……母さんは、俺にそう言ってくれた。少しの時間、母さんは昔みたいに俺と話し、他にもアドバイスをくれた。……本物の母さんみたいだった。こんなリアルな夢を、無料で貰うなんて悪いな」
 
 飛華流の作った夢が客に喜ばれたのは、これが初めてだった。それにしても、永戸はどういった心理で、エミナーに亡き母親が生き返る夢を依頼したのか――所持金ゼロの永戸が、高額な夢をどの様にして購入したのだろうか。

 そんな疑問が、飛華流の頭でグルグルと回っていた時、彼の視界にきらびやかな影が映り込む。
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