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第三章 イナズマ組
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しおりを挟むゲームバトルで、飛華流は優に勝った。けれど、ゲームの腕に自信がある飛華流にとっては当然の事なので、特別嬉しくはなかった。
「……お前、ゲーム強いんだな」
永戸に続き、優が悔しそうに声を上げる。
「ぐあぁっ……参ったよ飛華流。くっそー、優戦士の敗北だー」
小さな画面上での対戦を、まだまだ続けようとしていた彼らだったが――いきなり、飛華流のゲーム機のランプが、緑から赤色へ変わってしまう。
「すみません……そろそろ、充電切れみたいです」
「ああ、そう言えば……お前のは、普通のゲーム機だったな」
永戸の言葉に首を傾げる飛華流に、優が説明する。
「あのな、飛華流……俺達のは、魔法のゲーム機なんだよ」
「ま、魔法の……ゲーム機? 魔法っていう事は、エミナーさんから貰ったんですか?」
魔法のバイクに、魔法のゲームって――見かけによらず、この連中はファンタジーまみれじゃないか。そう呆れながらも、飛華流は優に聞いた。
「このゲーム機は、店から盗んできた物だぞ。これに、エミナーが魔法をかけてくれた。それで、充電の必要も無く、無限に遊べるゲーム機になったって訳だー。すげー便利だぞこれ」
金も何も無い彼らを、不幸だと思っていた飛華流だったが――魔女から力を借り、彼らはそれなりに毎日を楽しんでいるのだなと感じたのだった。
ここでは、電気が通っていないから、飛華流のゲームを充電する事が出来ない。なので、飛華流のゲーム機の電源が切れるまで、彼らは対戦する事にした。
その合間に、この前に食べた魚味のスープを彼らは味わう。隙間から吹き込む冷風が、子供の様に無邪気に遊ぶ彼らの体を冷やしていた。暖房器具の無いこの小屋は、凍える程の寒さに包まれていた。
暗がりな部屋の中、壁に吊るされた切れかけのランプに照らされ、飛華流はワンダと腰を上げる。
「きょ、今日は楽しかったです……僕、そろそろ帰りますね」
「優……俺、今から菜月と会うから、こいつらを家まで送ってやってくれ」
優は、元気よく永戸に親指を立てる。そして、悪戯っ子の様な笑みを浮かべた。
「オッケー! 彼女とのデート、楽しめよ」
「馬鹿が……別に、そんなんじゃねーし」
優にいじられ、永戸は顔を真っ赤にして足早に去っていった。そんな彼のスラッとした後姿を、羨ましそうに眺めた後――優は自分のバイクに飛華流とワンダを乗せ、無理矢理三人乗りをしてアジトを出た。
こうして、飛華流は一日を終えたのだった。僕は、結局何の為に二度もアジトへ連れられたのか――イナズマ組のメンバーにされるのかと思っていたけど、特に何もなかった。
そんな疑問を、飛華流は抱いていた。しかし、それで良かった。イナズマ組に加入し、ヤンキーになる事を彼は全く望んでいないのだから。
翌日の昼頃――永戸と優は、飛華流の自宅にまた姿を現した。
ドンドンドンッ!
ベランダの窓を、永戸と優がノックする。
「飛華流―、遊ぼうぜーー!」
優は、飛華流に笑顔で手を振った。飛華流には、二人がうざったくて仕方がなかった。
窓が開くと、飛華流に迷惑がられているとも知らず、二人は土足でずかずかと彼の部屋に上がり込む。
飛華流が用件を聞くと、二人は今日もアジトで飛華流と遊ぶ為、彼を誘いに来たのだと言った。特に二人の誘いを断る理由も無く、飛華流は嫌々、ゲーム機を手提げ鞄へ入れた。
飛華流は、同じ部屋に居たワンダを連れ、彼らとアジトへ向かう。そして、彼らとゲームの通信をした。
気づけば、こんな日々の繰り返しとなってしまっていた。これが、飛華流の冬休みの過ごし方となっていく。
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