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第二章 怪しい森
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しおりを挟むそんな、飛華流がボコボコにされている姿を、少し離れた所から眺めている者が居た。
住宅の屋根の上から、一宝中学校を見下ろしているその片目を隠した少年は、永戸だった。
しばらく経つと、永戸は屋根と屋根を飛び越え、どこかへと走り去っていく。
枯れ木に囲まれた、森の奥深く――
そこそこの大きさのある洞窟の前に、永戸は立っていた。そんな彼の足元へ、前方からいくつかの小石が転がってくる。その小石を蹴り返し、永戸は誰かに向かって声をかける。
「また、石積み上げて遊んでやがるんですか……」
「あーっ! やらかしたやらかしたぞっ! せっかく、高い石のタワーになってきたのになー」
薄暗い穴の中から、呑気な男性の声が永戸にまで響いてきた。
「おい……人の話、聞いてやがりますか?」
「まあ、崩れてしまったものは仕方ないな。……よしっ! ラウンドツーだっ!」
聞こえてきた男の独り言を聞き流し、永戸は本題に入る。
「菊谷《きくや》さん……また、あいつがやられてた」
「そうか……あいつって、お前がよく話すあのか弱き坊やの事か?」
「ああ……そうだ」
「それで? 永戸……お前は、そいつをどうしたい?」
永戸が口を開こうとすると、菊谷と呼ばれる男が続けて喋る。
「飾りたいか? 煮て食べるか? ……なーんてな。ハッハッハー」
何が言いたいんだ……相変わらず、おかしな人だ。愉快に笑い出す男に呆れながらも、永戸は真面目に返事をする。
「俺は、あいつを――――」
学校の帰り道、飛華流は強い恨みを秘め、とある場所へ向かっていた。お前ら全員、呪ってやるっ!
へらへらと笑って自分へほうきを振り下ろす生徒らの姿が、飛華流の脳内で鮮明に映像化され蘇る。
飛華流にとって、彼らが憎くて仕方が無かった。今日も酷い目に遭ったな。絶対に、あいつらを不幸にしてやるっ!
果てしなく広がる汚れを知らない青空に、飛華流は心で呟いた。
「神様……どうか、僕をお許し下さい」
僕をいじめた奴らは、確かに悪い。けれど、復讐として呪いを選んだ僕の方が、もっと黒いのかもしれないと、飛華流は思った。
薄暗く大きな森が、徐々に近づいてくる。それからしばらく歩いていると、枯れ木だらけの不気味な森に辿り着いた。
ここが、イナズマ組や魔女が暮らす死んだ森――その周辺には、綺麗な小川が流れていて、花もいくつか咲いている。
しかし、森に近づくと、空気がガラッと変わったのを飛華流は肌で感じた。何だこの妙な雰囲気は――引き返したくなるよ。
まるで、深い闇に包まれている様だ。森に着いたのは良いけれど、無事に魔法相談所を見つけられるのか――迷子になって帰れなくなったらどうしよう。
森の目の前で足を止め、飛華流は頭を悩ませていた。そんな時、突然、背後から可愛らしい女性の声が飛華流を呼ぶ。
「あーっ、飛華流君! こんな所で何してるの?」
ドキッとし、飛華流は振り返った。すると、そこにはクラスのマドンナである、凛の姿があった。凛こそ、どうしてここに?
それにしても、私服姿も可愛いな。彼女の天使の様に美しいセーターのワンピース姿に、飛華流は高揚した。
心臓をバクバクさせながら、飛華流はボソッと凛に答える。
「いや、その……魔女に会いたくて……」
「え、そうなの? 飛華流君、もしかして……今日、私が魔女の話をしていたのを聞いて、ここに来たのー?」
「あ、うん……興味があったから」
まじまじと凛に顔を覗き込まれ、飛華流は赤面して彼女から目を逸らした。
「それなら、一緒に行こうよ。私も、魔女さんに用があるんだー。案内するよ」
そう言って、凛は飛華流に綺麗に優しく微笑んだ。まじか。こんな美少女と二人きりなんて、緊張してしまう。
だが、凛は魔女と知り合いだと言っていたので、一緒だと心強いと飛華流は考えた。そして、飛華流は凛と共に魔女の住む家に向かう事にした。
こうして、飛華流と凛は険しい獣道を進み、魔女の屋敷を目指す。
「飛華流君、大丈夫? ……疲れて動けそうになかったら、休憩したいって教えてね。はぐれちゃうと危険だから、私から離れないで」
軽々とした足取りで先頭を切っていた凛は、息を切らす飛華流を気にして振り返った。可愛い上に心優しいだなんて、凛は素敵な女の子だな。
凛は、保育園の頃から自分を気にかけてくれていたし――学校ではよく、彼女からの視線を感じる事がある。もしかすると、凛は自分の事が好きなのではと、飛華流は浮かれていた。
だが、直ぐに「こん可愛い子が、僕みたいな冴えない男に興味がある訳ない」と、馬鹿げた思想を自分自身に否定された飛華流だった。
「あのね……エミナーちゃんが相談を受ける気分じゃないと、屋敷には辿り着けないの。だから、期待しすぎないようにね」
凛の言葉に疑問を抱き、飛華流は彼女に質問する。
「えっ? そ、そうなんだ……じゃあ、会えなかったらどうなるの?」
「残念だけど、諦めて帰るしかないね」
そんな事など知らず、飛華流は少しがっかりした。それなら、あいつらを呪えない可能性だって十分にあるのか。
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