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第二章 怪しい森
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しおりを挟む「ん、ヒル……ヒルッ!」
突然、背後から可愛らしい声がし、飛華流はドキッとする。振り返ると、彼の直ぐ側に少女が立っていた。え、いつから部屋に居たんだ? こいつ、僕の心臓を止める気?
物語に集中しすぎたせいで、飛華流は少女が侵入してきた事に全く気づかなかった。その分の、驚きは大きいだろう。
ポテトのスナック菓子を差し出し、少女はもう一度、飛華流を呼ぶ。
「ヒル……ヒルッ、ヒルッ!」
「あ、ああ……ありがと」
少女からありがたくお菓子受け取り、飛華流はふと思った。多分、あげるって言いたかったんだよな?
僕がこれをよく食べているから、この子は僕がこのお菓子を好きだと理解し、持ってきてくれたのかな。
飛華流はポテトスナックを頬張り、再び漫画を描き始める。そんな彼の後ろから、次々と描かれていく物語を少女はじっと眺めていた。そして、少女はいきなり目の色を変え、飛華流からノートを奪い取った。
漫画創作の邪魔をされ、飛華流は少女に少しの怒りを見せる。
「ちょっと、いきなり何するの? ……僕の漫画、返してよ」
「…………」
少女は飛華流をガン無視し、ノートをペラペラとめくっていく。伸びてくる飛華流の手を払い除け、少女はノートを手放そうとしなかった。
パッチリとしたルビーの様な赤い目を見開き、飛華流の漫画に釘付けになっている少女に、彼は再び話しかける。
「ね、ねえ……何がしたいの?」
「うっ、うあっ……うううっ」
突然、少女が小さな手からノートを落として苦しそうに身を屈めた。一体、彼女の体に何があったのだろうか。呼吸を乱し、少女は頭を抱えてしまう。
「ど、どうしたの? 大丈夫? どこか苦しいの? 頭が痛いの?」
飛華流の問いに、少女は力無く首を縦に振る。タイミング的に、飛華流の漫画を読んでから少女の体調が悪化した。
それなら、自分の漫画のせいなのか――だとすれば何故、こんな事になってしまったのかと、飛華流は必死に考えたが、その答えは出なかった。
体調を悪化させた少女をベッドへ寝かし、飛華流はペンを走らせる。その最中、少女は悪夢を見ているのか、酷くうなされていた。
この状況が、飛華には全く理解できなかった。もしかして、僕の漫画は相手に苦痛を与えてしまう程、つまらないって事?
ただ、環境が変わって、この子が疲れてるだけなのかな……それだけなら良いんだけど。
やがて、少女は目を覚ますと、直志から貰った国語辞典を、何事も無かったかの様にひたすらと読んでいた。
彼女なりに、日本語を覚えようとしているみたいだ。努力が実り出し、少女は日本語を少しずつ分かってきている。そんな彼女と、飛華流はコミュニケーションが取れる様になってきた。
少女が家にやって来てから、もう一週間近く経つ。少女は日々、進歩している様だ。
町の寒さに凍えながら、飛華流は学校へ向かっていた。頑張れ僕! もう少しで、冬休みだ!
校門をくぐった先で、人だかりができているのを飛華流は見つける。何かあったみたいだ。
「ねえ、誰か先生を呼んできて!」
「これは、やべーよ。早く、救急車を呼ばねーと」
パニックになった生徒達が、ざわざわと騒いでいる。飛華流は背伸びをし、その先へ目をやる。そこには、数人の生徒が倒れていて、地面を赤く染めていた。
「おい、あれ見ろよ! 武道場の上に誰か居るぞ」
一人の生徒が声を上げ、ある方向を指差した。それとともに、生徒達はそちらに視線を向ける。
確かに、武道場の三角に尖った屋根の上に、スレンダーな人影が立っているのが見えた。
あんな高い所に、どうやって登ったんだよっ! 絶対、あの人影はまともな人間ではないだろう。そう、飛華流は直感した。
運動場から、チャラい見た目の少年が生徒らの方へ必死に走っていく。
「三島永戸に狙われてるんだー。助けてくれーー」
三島永戸って――あの、イナズマ組のメンバーの? かなり、頭がいかれた人間だと言われている奴じゃないか。
それなら、あの影の正体って? イナズマ組のメンバーがこの学校へ来た事を、飛華流は不思議に思っていた。
「きゃーーっ! 飛び降りたわよっ!」
その女子生徒の悲鳴がした頃には、武道場に居た人影はそこからスッと飛び降りていた。一見、飛び降り自殺かと思えたが、
スレンダーな人影はかっこよく着地した。そして、自分から逃げていく少年を追って走り出す。
おいおい、嘘だろ? どうして、無事なんだよ……サーカス団かマジシャンか? いや、あれはきっと化け物だ。
十メートル以上は余裕にある建物から飛び降りたというのに、ピンピンとしている影を、飛華流は目にしっかりと焼き付けたのだった。
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