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一巻 未知の始まり 第一章 始まりの時
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しおりを挟む真誠の視線の先には、飛華流の部屋を興味深そうに見渡しながら歩き回る少女の姿があった。
それを見つめ、真誠は何に驚いているのだろうと不思議に思う飛華流だったが、その原因は、直ぐに明らかとなる。
なんと、少女の尻から、ギザギザとした尻尾の様なものが生えていたのだ。それは、どの動物にも該当しない、見た事の無い独特な形をしていた。
飛華流は、間抜けな声を上げる。
「ひゃっ……えっ? こ、この子……尻尾があるの? う、嘘でしょ?」
驚く二人に振り返り、少女は小さく首を傾げた。
まあ、角が生えているんだから、尻尾があったっておかしくはないけど……なんで、人間に動物のものが二つも生えてるんだよっ!
あまりにも多くのあり得ない情報が入ってきて、飛華流の脳内は故障寸前だった。
午後五時を回った頃、真誠はピアノのレッスンへ行った。そうして、得体の知れない少女と、飛華流は二人きりとなってしまった。
なんだか、落ち着かないな。さて、これからどうしようか。
しばらく頭を悩ませた後、飛華流は本棚から可愛らしい表紙の絵本を取り出した。
この子に日本語を教えてやれと、ママから頼まれてるし、絵本の読み聞かせでもしてみるか。
「これ、僕のお気に入りの絵本なんだ……読んであげるよ」
飛華流はベッドへ腰を下ろし、少女に手招きをする。そして、「孤独な宇宙人」とタイトルの記された絵本の最初のページを見開いた。
少女は飛華流の隣にちょこんと座り、彼が物語を語ると一生懸命に聞いていた。
飛華流が少女に読み聞かせをしている作品は、地球で迷子になった幼い宇宙人が、友達を作る為に人間に化けて生活していくストーリーになっている。
思考や容姿が特殊だった為、いじめられたり仲間外れにされる、宇宙人の悲しい日々が描かれている。これを読むと、飛華流はかなり切なくなった。
「トロリンは、周りの子供から心無い事を言われ、とても傷つきました。どうして皆、僕を笑うのだろう。どうして皆、僕を嫌うのだろう……」
絵本を音読している飛華流の目から、自然と涙が溢れてきた。僕はこの宇宙人と、似た様な環境にいるんだ。
主人公の宇宙人に共感する点が多く、飛華流は幼い頃から今でもこの絵本をとても好んでいる。
一人で寂しそうに夜空を見上げる宇宙人のイラストは、自分を見ているみたいだと、飛華流は感じていた。
全てを読み終えると、少女が飛華流の手に絵本を押し付ける。彼女はもう一度、飛華流に読んでほしいのだろう。
それを感じ取った飛華流は、何度も少女に同じ話を聞かせた。宇宙人と、自分をリンクさせながら――
「僕は皆と違うから、嫌われているんだね……トロリンは、悲しそうに微笑んだ」
きっと、飛華流の言葉を、少女は理解できていないだろう。だが、イラストも多くあるので、何となくでも内容が彼女に伝わっているかもしれない。
吸い込まれていきそうな程、絵本に釘付けになっている少女を横目で見て、飛華流は母親に言われた事を思い出す。
「飛華流……この子が困っていたら、助けてあげてね」
それって――つまり、僕がこの子を守っていくって事? 自分に人を支えられる力なんて無いし、自分の事で精一杯だから面倒だなと思う飛華流だったが――微かに口角を上げ、嬉しそうにしている少女に、何かしてあげられたらないう気持ちは、飛華流にもほんのりと湧いていた。
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