7 / 51
一巻 未知の始まり 第一章 始まりの時
07
しおりを挟む「駄目だ。今、忙しい……出て行ってっ!」
飛華流の言う事をすんなりとは聞かず、真誠は黙々と手を動かす彼へ近寄る。漫画の創作作業に集中している飛華流の前へ、真誠は一枚の紙切れを出す。
「なあ、これ見ろよ! 俺、百点取ったんだ。すげーだろ?」
「はいはい、分かったから……どっか行って」
真誠の百点のテスト用紙を乱暴に投げ捨て、飛華流は深いため息をついた。
「なあ……あのピンク頭の変な奴さ、まだ家に居たぞ」
全く真誠を相手にしようとしない飛華流だったが、それを耳にし、彼の方へ顔を向けた。
「えっ……それ、本当に? ……真誠、あの子に会ったの?」
「……学校から帰ってきたら、思いっきり居たよ。静かにテレビ観てた」
訳の分からないまま、飛華流は真誠に質問を続ける。
「テ、テレビを? そっか……まだ家に?」
「風呂のドアが開いていて覗いてみたらさ……さっき、服着たまま勝手にシャワー浴びてたぞあいつ……絶対、ヤバい奴だ」
い、意味が分からない――なんか、怖いぞ。理解できない少女の行動に、飛華流は言葉を失った。
それと同時に、何を考えているか不明な少女に対する恐怖が膨らんだ。
「どうなってるんだって、ママに聞いたんだけど……後でゆっくり話すって言われてさ。あんなのが家に居たら、落ち着かねーよ」
気に入らなそうに、真誠は言った。
二人とも、少女が自分の家から出て行かない事が気になっていた。一体、パパとママは何を考えているのかと――
夕食の時間――子供達は、今までと違う光景に違和感を覚えた。それは、あの謎の少女が当たり前の顔をし、家族と一緒に食卓を囲んでいるからだ。
少女は飛華流の向かいの席に座っていて、彼をじっと見つめている。そんな、少女の視線を感じつつも、飛華流は彼女と目を合わせない様にしていた。
結局、どうなったんだよ。一晩、泊めるだけじゃないのか?
「……い、いただきます」
軽く手を合わせ、飛華流は目の前に置かれた熱々のカルボナーラをすすった。皆も次々にフォークを握り、夕食を味わう。
「二人とも、あのね……これから、この子と一緒に暮らす事になったの。だから、仲良くしてあげてね」
守莉の言葉に唖然とし、飛華流は真誠と顔を見合わせた。いや、嘘だろ? 突然、そんな事を言われても、すんなりと頷けやしない。
「えっ……どうして? 警察に渡すんじゃなかったの?」
飛華流に続き、真誠も反対の声を上げる。
「そうだそうだっ! 他人がずっと家に居るなんて、気持ち悪い」
不満を露わにする二人に、直志はこう言った。
「しばらく、ママと話し合って決めた事だ。まあ、驚くのも無理ないけど、歓迎してあげな」
「何でだよパパ……パパなら、もっと正しい判断が出来ると思ったのにさ」
不快そうに真誠が頬を膨らませると、直志が説明する。
「よく考えてみたんだ……人間嫌いな飛華流が、誘拐なんかする訳ないし……皆がそう思うのも無理は無いってね。もし、その子が普通の迷子だったら勿論、警察にお願いしてたけど……これは、かなり特殊な状況だからね」
直志の発言に、守莉は言葉を付け足す。
「それに……この子、きっと不安だと思うの。日本語も分からないみたいだし、このまま外へ出たら、きっと大変な思いをする事になるよ。とても、心細いと思う」
小学二年生にしては、真誠はかなりしっかりとした思考を持っており、こう発言する。
「……確かにそうかもしれないけど、この子がどうなろうが、俺達には関係ないだろ。ママは、優しすぎるんだ! 警察に言えば、何とかなるって」
それを聞き、飛華流も真誠の言う通りだと思った。
皆が何を話し合っているのかも知らず、少女は自分に用意された食事を眺めていた。
まるで、物珍しい物でも見るかの様に――そして、皆がそれを口へ運んでいるのを、彼女は真剣な眼差しで観察していた。
プイッとそっぽを向く真誠に呆れながら、守莉は再び口を開く。
「警察だってどうしようもなくなれば、この子を施設に入れるよ。そんなの可哀想だし、この子の帰る所か住む場所が見つかるまでは、私達で面倒を見るのよ」
「へー、あっそう。俺は、どうなっても知らないから。じゃあ、ごちそう様」
真誠は皿を空にすると、そのまま部屋を去ってしまった。そうして、しばらくの沈黙が続いた後、少女の方から「ガキガキ」と音が聞こえてくる事に皆は気がつく。
飛華流は少女の立てる音に顔を上げ、皆の視線が彼女に集中する。なんと、少女は一生懸命、フォークにかじりついていた。
フォークを食べようとしている様にしか見えず、その使い方も分かっていない様子だった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる