3 / 51
一巻 未知の始まり 第一章 始まりの時
03
しおりを挟む「そんなん嫌だってやりたくないっ! あれは、英語だからなんとかノリでいけたけど……これは、どこの国の言語か分からんから無理だわ」
呆れた様子で、直志は拒否する。
会話する二人を静かに眺め、少女は首をひねった。きょとんとし、頭にクエスチョンマークが浮かび上がってきそうな少女に、守莉は引きつった笑みを見せる。
「え、えっと……日本語は分からないのかな? どうしよう」
「……んー、困ったな。警察に相談してみるか?」
真剣な顔つきになる直志に、守莉は質問する。
「……でも、この子は飛華流のクローゼットから出てきてるし……それを、警察にどう説明するの?」
「この状況の説明かー。ああ……難しいなー」
「そのまま正直に……子供部屋のクローゼットからいきなり出てきましたとでも言うつもり? そんなの、変人扱いされて終わりだよ」
「…………」
考え過ぎて、黙り込んでしまう直志に守莉は続けてこう言った。
「……いや、誘拐して監禁してたんじゃないかって、疑われちゃうかもよ」
少し間を置いた後、ふさふさの髪を掻き立てながら直志は口を開く。
「まあ、それもそうなんだけど……そもそも何で、この子が飛華流のクローゼットの中に居たのか考えないとね。こんな事、普通じゃあり得ないんだけどな……」
何を閃いたのか、守莉は目を輝かせる。
「あっ! もしかして……あのクローゼットは、どこか違う世界に繋がってるんじゃない? それで、この子は何らかの原因でこっちに来ちゃったんだよ。きっと、異世界から来たんだわ」
「……いやいや、そんな映画やアニメみたいな事が実際にあるはずないじゃん」
そんな簡単に、直志は守莉の夢のある世界を否定した。そして、守莉が気に入らなそうに頬を膨らませていると、彼は現実味のある仮説を立てる。
「考えられるとしたら……飛華流がこの子を気に入って家に連れ込んで、普段はクローゼットに隠したっていうのかな。それなら、無理な話じゃないでしょ」
それを聞き、皆は飛華流に疑いの目を向ける。状況を掴めていない飛華流に、直志は詰め寄る。
「飛華流……正直に言いなさい」
「飛華流……そうなの?」
半信半疑といった様子で、守莉は飛華流に問う。その後に、真誠は心無い言葉を飛華流にぶつけた。
「飛華流キモッ!」
「えーっ! 皆して、僕をそうやって変態な犯罪者扱いするの? ひ、酷すぎるっ!」
ドン引きした表情を自分へ向けてくる三人に、飛華流は軽くショックを受けながら、そんな言葉を返した。そして、彼は言葉を続ける。
「ぼ、僕はそんな事してないよ……僕は確かに、この目で見て聞いていたんだ。急にクローゼットから、何かが落下してきた様な音がして……この子がそこから現れた」
飛華流の発言で、皆は黙り込んでしまう。真剣な飛華流の眼差しから、彼が嘘をついている様には思えなかった。そうして、しばらくの沈黙の後、守莉が口を開く。
「……飛華流もそう言ってるし、やっぱり異世界から来たんだよこの子」
直志は直ぐ、守莉の考えを否定する。
「いや、そんな訳がない……まず、クローゼットから生き物が出てくるなんて事は絶対にあり得ないんだし……原因を突き止める必要があるでしょ。こうなったのには、現実的な訳が必ずあるからね。もっと、真面目に考えなと」
「だけどさ……あの状況からして、クローゼットの中にこの子が降ってきたって可能性もきっとあるよ」
大人しく二人の会話を聞いていた飛華流が、それに口を挟んだ。しかし、直志は飛華流の意見を、サッと聞き流してしまう。
「……飛華流はもう、真誠と二階に行きなさい。この子をどうするのかは、二人が寝てる時にパパとママで話し合って決めるから」
「はい、分かったよ……その代わり、一つだけ教えてよ……ママとパパってさ、その子と何か関りがあるの?」
唐突に飛華流の口から発せられた疑問に、守莉は怪しいくらいに戸惑いを見せる。
「え、ええっ? な、何の事かな……まさか、ママ達はこの子とは全く無関係だよ。これは……本当だからね」
目を泳がせる守莉を、真誠はじっと覗き込む。
「嘘つけっ! なんか、俺達に隠してるだろ……そいつについて、何か知ってるんじゃねーのか?」
「この子についてっていうかね……まあ、ママ達にもいろいろと事情があるの」
そう答え、守莉が直志に「助けて」と目で訴える。
「はあ……いいから、二人とも早く寝なさい。明日、学校しんどくなるぞ……ほら、お休み」
不満げな二人の息子を、直志は無理矢理に部屋から追い出した。微かに開いていたドアをしっかりと閉め、守莉はこんな案を出す。
「ねえ……今日はもう遅いから、家に泊めてあげようよ」
「えーーっ! どこの子かも分からんのに? ……きっと、この子の家族がこの子を探してるだろうから、俺は警察に預けた方が良いと思うけどなー」
相変わらずの名口弁を、直志は炸裂させた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる