MARVELOUS ACCIDENT

荻野亜莉紗

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一巻 未知の始まり  第一章 始まりの時

03

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「そんなん嫌だってやりたくないっ! あれは、英語だからなんとかノリでいけたけど……これは、どこの国の言語か分からんから無理だわ」
 
 呆れた様子で、直志は拒否する。

 会話する二人を静かに眺め、少女は首をひねった。きょとんとし、頭にクエスチョンマークが浮かび上がってきそうな少女に、守莉は引きつった笑みを見せる。

「え、えっと……日本語は分からないのかな? どうしよう」

「……んー、困ったな。警察に相談してみるか?」
 
 真剣な顔つきになる直志に、守莉は質問する。

「……でも、この子は飛華流のクローゼットから出てきてるし……それを、警察にどう説明するの?」

「この状況の説明かー。ああ……難しいなー」

「そのまま正直に……子供部屋のクローゼットからいきなり出てきましたとでも言うつもり? そんなの、変人扱いされて終わりだよ」

「…………」
 
 考え過ぎて、黙り込んでしまう直志に守莉は続けてこう言った。

「……いや、誘拐して監禁してたんじゃないかって、疑われちゃうかもよ」
 
 少し間を置いた後、ふさふさの髪を掻き立てながら直志は口を開く。

「まあ、それもそうなんだけど……そもそも何で、この子が飛華流のクローゼットの中に居たのか考えないとね。こんな事、普通じゃあり得ないんだけどな……」
 
 何を閃いたのか、守莉は目を輝かせる。

「あっ! もしかして……あのクローゼットは、どこか違う世界に繋がってるんじゃない? それで、この子は何らかの原因でこっちに来ちゃったんだよ。きっと、異世界から来たんだわ」

「……いやいや、そんな映画やアニメみたいな事が実際にあるはずないじゃん」
 
 そんな簡単に、直志は守莉の夢のある世界を否定した。そして、守莉が気に入らなそうに頬を膨らませていると、彼は現実味のある仮説を立てる。

「考えられるとしたら……飛華流がこの子を気に入って家に連れ込んで、普段はクローゼットに隠したっていうのかな。それなら、無理な話じゃないでしょ」
 
 それを聞き、皆は飛華流に疑いの目を向ける。状況を掴めていない飛華流に、直志は詰め寄る。

「飛華流……正直に言いなさい」

「飛華流……そうなの?」
 
 半信半疑といった様子で、守莉は飛華流に問う。その後に、真誠は心無い言葉を飛華流にぶつけた。

「飛華流キモッ!」

「えーっ! 皆して、僕をそうやって変態な犯罪者扱いするの? ひ、酷すぎるっ!」
 
 ドン引きした表情を自分へ向けてくる三人に、飛華流は軽くショックを受けながら、そんな言葉を返した。そして、彼は言葉を続ける。

「ぼ、僕はそんな事してないよ……僕は確かに、この目で見て聞いていたんだ。急にクローゼットから、何かが落下してきた様な音がして……この子がそこから現れた」
 
 飛華流の発言で、皆は黙り込んでしまう。真剣な飛華流の眼差しから、彼が嘘をついている様には思えなかった。そうして、しばらくの沈黙の後、守莉が口を開く。

「……飛華流もそう言ってるし、やっぱり異世界から来たんだよこの子」

 直志は直ぐ、守莉の考えを否定する。

「いや、そんな訳がない……まず、クローゼットから生き物が出てくるなんて事は絶対にあり得ないんだし……原因を突き止める必要があるでしょ。こうなったのには、現実的な訳が必ずあるからね。もっと、真面目に考えなと」

「だけどさ……あの状況からして、クローゼットの中にこの子が降ってきたって可能性もきっとあるよ」

 大人しく二人の会話を聞いていた飛華流が、それに口を挟んだ。しかし、直志は飛華流の意見を、サッと聞き流してしまう。

「……飛華流はもう、真誠と二階に行きなさい。この子をどうするのかは、二人が寝てる時にパパとママで話し合って決めるから」

「はい、分かったよ……その代わり、一つだけ教えてよ……ママとパパってさ、その子と何か関りがあるの?」
 
 唐突に飛華流の口から発せられた疑問に、守莉は怪しいくらいに戸惑いを見せる。

「え、ええっ? な、何の事かな……まさか、ママ達はこの子とは全く無関係だよ。これは……本当だからね」
 
 目を泳がせる守莉を、真誠はじっと覗き込む。

「嘘つけっ! なんか、俺達に隠してるだろ……そいつについて、何か知ってるんじゃねーのか?」

「この子についてっていうかね……まあ、ママ達にもいろいろと事情があるの」
 
 そう答え、守莉が直志に「助けて」と目で訴える。

「はあ……いいから、二人とも早く寝なさい。明日、学校しんどくなるぞ……ほら、お休み」
 
 不満げな二人の息子を、直志は無理矢理に部屋から追い出した。微かに開いていたドアをしっかりと閉め、守莉はこんな案を出す。

「ねえ……今日はもう遅いから、家に泊めてあげようよ」

「えーーっ! どこの子かも分からんのに? ……きっと、この子の家族がこの子を探してるだろうから、俺は警察に預けた方が良いと思うけどなー」
 
 相変わらずの名口なぐち弁を、直志は炸裂させた。


 
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