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一巻 未知の始まり 第一章 始まりの時
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しおりを挟むこれは、不思議で歪んだ世界の物語。
闇に狂わされた、酷く悲しく残酷だけれど、儚くとても美しい――そんな複雑な世界の話。ここから、行き場を無くした、若きはぐれ者たちの人生が大きく変わり始める。
この世の終わり――そんな絶望で染まった顔を涙で濡らし、とある少年がベッドに転がっている。この世の全てを恨む様な表情を枕で隠し、カーテンの閉まった薄暗く狭い部屋で嘆いている。
「ううっ……僕なんか、消えちゃえばいいのに」
心の底から湧き出した言葉を、彼は恨めしそうに漏らした。ただ一人、果てしない孤独を抱え――たった十二歳の少年は、日頃のストレスや不満をこうして目から流していく。
ドドドドッ……ガッシャーーーーンッ!
突然聞こえた音に、少年はビクッと飛び跳ねた。そして、何が起きたのかと、音がしたクローゼットの方へ怯えた瞳を向ける。それは、まるで何かが落下したみたいな音だった。
意味不明な状況に少年が頭を悩ませていると、クローゼットの中から生き物が動く様な物音が聞こえてくる。
ガサガサ……カタンッ!
それを耳にし、少年は良からぬ事を想像すると、自らを恐怖で支配していく。誰か居るのだろうか――まさか、泥棒や殺人鬼や幽霊?
彼は足を忍ばせ、恐る恐るクローゼットへ近づいていく。きっと、ねずみか何かに違いないと自分に言い聞かせ、震える手でクローゼットを開けた。
その中に居たのは、虫や小動物なんかではなかった。なんと、そこには丸い角の様なものを生やした、小柄な少女の姿があったのだ。
おもちゃ箱から飛び出したぬいぐるみの山に、少女はちょこんと乗っかっている。そこから、ルビーの様な輝きのある綺麗な瞳で、青ざめた顔をした少年をじっと見つめている。
「ぎゃーーーーーーーーーーっ!」
あまりの恐怖に絶叫し、少年は勢いよく自室から逃げ出した。何度か足を踏み外しそうになりながら、階段を駆け下りていく彼は――どうして、僕のクローゼットの中から見知らぬ女の子が出てくるのかと、大きな疑問を抱いていた。
その謎の少女との未知の出会いが、これから起きる全ての始まりとなる――
ただのいじめられっ子であるこの少年、上野飛華流はまだ何も知らない。日常に潜む非日常へと、己が少しずつ引きずり込まれていく事さえ――今はまだ気づけやしない。
えっ? 何だよこの急なホラー展開っ! さっき、アレと思いっきり目が合ったぞ。もしかして、あの子は生きた人間なの?
だとしたら、誰だよあの子――あの頭から生えた、角みたいなのは何? 頭の上で、カタツムリでも育ててるの?
飛華流の脳内は、パニックを起こしていた。
真っ暗な廊下を必死に走り、素足の冷えを感じながら、飛華流は助けを求めて声を上げる。
「うわぁーーーーっ! た、助けてーーっ! ママーーーーッ! パパーーーーッ!」
上品な顔を歪ませた中年の女性が、ダイニングルームから出てきた。この女性は、飛華流の母親の上野守莉だ。守莉は、飛華流に注意する。
「ちょっと、静かにしなさい。今、何時だと思ってるの。近所迷惑だよ!」
「ママ、あのね……僕の部屋に知らない女の子が居るんだ」
涙目になりながら必死に訴えてくる飛華流に、守莉は垂れた目を丸くさせる。
「え、それって……本当に?」
飛華流が頷きかけた頃には、守莉は急ぎ足でリビングルームへ向かっていた。彼女の後ろに、飛華流はついていく。
「た、大変っ! ちょっとー、パパーーッ!」
慌てた様子で接近してくる守莉を、コーヒーを飲んでくつろいでいた中年の男性が不思議そうに眺める。
「……んっ?」
「どうしよう。飛華流の部屋に、誰か居るの……ねえ、一緒に来て!」
守莉の言葉を聞くなり、中年男性はコーヒーを口から盛大に吹き出してしまう。
「ブフォーーーーッ!」
彼は一家の大黒柱、上野直志。突然、耳を疑う様な衝撃的な話をされたのだから、驚いてしまうのは仕方がない事だ。
けれど、カーペットへ寝そべってゲームをしている幼い少年は、そんな父の間抜けなミスを許さない。気が強い彼は、上野真誠。飛華流の、五つ年下の弟だ。
「うっわ……吐くなよ汚いな」
息子に冷たい目で睨まれている事など気にもせず、直志は驚きを露わにする。
「えーーっ! うっそー! まじでー?」
飛び散ってソファーに染み込んだコーヒーを、直志はウエットティッシュでゴシゴシと拭き始めた。そして、再び口を開く。
「――でも、どうやって飛華流の部屋に侵入してきたのー?」
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