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17話「蹂躙」
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「ハァハァ、やっと片付いたわね」
甲冑の至る所に凹みが見られる姿で息を切らしている先輩騎士。
「ええ、そうですね。魔力はギリギリ持ったみたいです」
横では魔力が尽きそうなのか、ぐったりとした体を無理やり立たせている魔導騎士。
彼女らの周りは、赤い液体によって草木や土が赤々と染まり、緑色の死体が街道に横たわっている。
銅から下がないもの、頭と体が離れているもの、手足が通常より短くなっているもの、様々な死体。
それらを作り出したのは、この騎士2人である。
「これで、全部だと思いますが、早めに駐屯地に戻りましょう。何か胸騒ぎがするんです」
「ええ、それがいいと思うわ。ダイルさん!もう、大丈夫ですよ。すぐに移動しますので、荷台から出てきてください」
荷馬車に近づいた先輩騎士は、馬が走れる状態か確認した。
(良い馬ね。こんな状況でも、暴れないなんて)
馬の頬を撫でながら、荷台から出てきたダイルに指示を出す。
「小鬼ゴブリンは片付けたので、すぐに移動します。馬の操作をお願いします。彼が先導しますので、着いてきてください」
ダイルは、外の光景に言葉が出ないのか頭を上下に振り頷いた。
「よし、ついて来てください。先輩は荷台に!少し体を休ませてください」
「分かったわ。数時間ごとに交代しましょう」
そう言うと先輩騎士は荷台へと入っていく。中ではメルが娘達を抱いた状態で不安げな表情をこちらに向けている。
(無理もないか・・・・。こんな経験、王都ではありえないからね)
「大丈夫ですよ。メルさん。もう、終わりましたから」
「ほんとですか・・・?小鬼ゴブリンは執念深いと何かの文献で読んだことがあります。それに・・・・小鬼ゴブリンの声が耳から離れないんです・・・・」
メルは娘達を抱きながら、肩や腕や足が震えていた。彼女自身、恐怖で押しつぶされそうなのだ。
「ほんとうに大丈夫です。今、駐屯地に戻っていますので安心してください。それに、また襲ってきたら返り討ちにしてやりますよ!」
先輩騎士は震えるメルの肩に手を置き落ち着くよう促した。
娘達もメルの胸の中で心配げな表情で見上げている。
「ありがとうございます。こんな母ではダメですね。強くなろうとしているんですが、いざという時に弱音ばかりを吐いてしまう」
娘達の頭を撫でてから、先輩騎士へと顔を向け
「わかりました。あなた達を信じます」
力強い決意の言葉を言い放つのであった。
「ええ!任してくださいっ!」
そんな彼女と彼女の娘達に向かって笑顔で答える先輩騎士。
(もしもの時は、この家族だけでも逃がさないと・・・)
人民を守る騎士としても決意を改めて自分に課すのであった。
◇
だが、そんな一行に悪魔の手が忍び寄っていた・・・・。
荷馬車と先導する魔導騎士がくっきりと見える位置、崖上で弓の弦を力いっぱいに引いている人間がいた。その人間はにんまりと口元に笑いを作ると、先導する魔導騎士の馬に対して矢を放った。
矢は放物線を描かずに真っすぐと馬の眉間へと吸い込まれていく。直後に魔導騎士諸共地面へと転倒していった。
矢を放った人間は、横にいた男と小鬼ゴブリンに対して指示をだし、再び立ち止まった荷馬車へと自ら奇襲を仕掛けるのであった。
◇
「くっ!!」
短い声と共に顔が地面に接触した魔導騎士。
すぐに起き上がろうとするが、馬の胴体に潰され足が抜けない。
「やばいぞ!これはっ!!」
森林から草を掻きわける音が鳴っている。こんな状態で襲撃を受ければ一溜りもない。
「押すから!足を抜きなさい!!」
上から先輩の声が聞こえ、徐々に足に覆いかぶさる巨体が持ち上がっていく。
「ん~~~~!!」
「ぐっぐああああああああ!」
潰れた足から痛みの感覚が脳へと雪崩れ込んでくる。だが、ここで意識を失うわけにはいかない為、下唇を噛み締め遠ざかる意識を引き留めた。
「はぁはぁはぁ。抜けたわね」
「ええ・・・でも・・・立てそうにありませんね」
潰れたのは右足であり、片足ではあるが立ち上がり、戦闘を行える状態ではなかった。
「あなたは、荷馬車から遠距離支援を。私は近接戦闘で蹴散らすからいい?」
「そんな!先輩も戦える体力は残っていないでしょう!?俺を置いて駐屯地へ急いでください!ここで食い止めますから!」
自分を置いて行けと、先に逃げろと、言ってくる後輩に対して
「バカなことを言ってんじゃないわよっ!そんなことできるわけないじゃない!ほら!支援よろしくね!」
そう言い残すと、正面から向かってくる小鬼ゴブリンに対して剣先を向け走る出す先輩騎士。
「っっっっっ!!」
足の痛みに耐えながら、荷馬車へと近づく魔導騎士。途中、ダイルに肩を借りながら荷台へと昇った。
魔導騎士は腰に差していた剣を空中に投げ、左手と右手を胸の前で合わせる。剣が光り輝き、空中で回転運動が止まり剣先が先輩騎士のその先、小鬼ゴブリンの方に向いた。
「貫け!!光剣っ!」
魔導騎士が、剣へ指示を送ると空中を浮遊していた剣が独自の行動をし始めた。向かってく小鬼ゴブリンへと高速で走り出したのだ。
「グゲエエエエ!?」
空中を飛んで来る剣に驚くこと数秒、小鬼ゴブリンの額から上が無くなっていた。通り過ぎた剣が小鬼ゴブリン共の頭を半分にしていく。半分にされた小鬼ゴブリンからは血が噴き出さない。断面は焼き焦げており、剣が熱を帯びていることが伺える。
(よし、これなら!切り抜けるかもしれない。俺の魔力が尽きるのが先か・・・・敵の数が尽きるのが先か・・・・勝負だっ!)
この技は、魔力消費が高く、魔人には効果が薄い為、基本的には使うことがないのだが、相手が小鬼ゴブリンのみであるならば、問題はない。
残り僅かな魔力で飛ばす剣には通常の4分1程度の力しかないが、魔導騎士は右手を伸ばし、剣の行き先を指定していく。
◇
「しねぇぇぇぇぇっ!!」
高く振り上げた剣を小鬼ゴブリンの頭へと振り下ろす先輩騎士。敵の奥の方では、光り輝く剣が小鬼ゴブリンを蹂躙していた。
(小鬼ゴブリン程度なら、光剣が効くわね。私も頑張らなくっちゃ。生きて帰るんだっ!)
近場の小鬼ゴブリンに剣先を向ける。そして、高速で近づき首を跳ねる。これをただただ、繰り返していく先輩騎士。
これには、絶大な効果があり感情表現の乏しい小鬼ゴブリンであっても、恐怖を覚え先輩騎士の周りで足を止め始めた。
(いっちょ前に恐怖なんて抱いてんじゃないわよっ!さぁ!来なさい。調理してあげるっ!!)
「グギャゲエエエエエ!グゲ!」
この小鬼ゴブリンを統率する者なのか?立ち止まっている仲間に対して指示を出している。
(あれが・・・・。じゃ!狙うわ・・・)
剣先を向ける先輩騎士。剣先を向けられた小鬼ゴブリンは「グゲゲ?」っと鳴き、自分の周りの仲間へと目を移す。だが・・・剣先が仲間たちではなく、自分に向けられたものだと理解する前に絶命することとなった。側に居た小鬼ゴブリンはその事実に恐怖し、進行が退却へと変化し始める。だが、先輩騎士は止まらない。
次から次へと剣先を向け、小鬼ゴブリンの首を跳ねていくのであった。
◇
進行してきた小鬼ゴブリンの数が半数を割った所で、光剣に異変が出る。先輩騎士の右手側で小鬼ゴブリンを蹂躙していたが、突如にして光を失い地面へと落下していった。
それを見て
(さすがに限界がきたか・・・・。小鬼ゴブリンも撤退しているし、一度荷馬車にもどっ・・・・)
近場の小鬼ゴブリンを蹴散らした所で荷馬車へと戻ろうとした先輩騎士の瞳に入ってきた情報は考えたくもない光景であった。
荷台で光剣を操作していた魔導騎士がその場で倒れているのだ。しかも、背中には斬られた跡がある。
魔導騎士の後ろには・・・・
「へっ!小鬼ゴブリン共は陽動だど、気が付かないなんてとんだバカだな。小鬼ゴブリンが一貫性のある行動なんてするはず無いじゃないか」
弓を背中に収め、血で湿った剣を持っている男がいた。男の後方では荷台へと入り込む人間たち。メルと娘達の悲鳴が森林中に響いた。
「来ないでっ!きゃあああああ!!触らないで!!」
男たちが妻や娘達に迫っている。そんな光景に時が止まっていたダイルは
自分に‘‘勇気を持て・・・・!‘‘と言い聞かせ、覆いかぶさろうとしている男に殴りかかる。
「触るなぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!」
力仕事によって鍛えられた剛腕を振りかざし、男たちに襲い掛かるダイル。
だが・・・・・
「んあ?なんだ?こいつ。死を見せてやる」
多勢に無勢だ。同等な存在である人間に対して量で負けている時点で、勝ち目などない。ダイルはことごとく反撃され、袋叩きにあった。それは、涙を零しながら見ていることしかできないメル。
娘達はメルの腕の中で茫然とその光景を見ていた。
「くっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
先輩騎士が荷馬車へと走り出す。
(まさか!人間が関わっているなんて。しかも、肩に刻まれている紋章は・・・・魔人側に協力している人間の証!こんな駐屯地近くまで来ていたなんてっ!)
走り出した先輩騎士だったが、背中に激痛が流れ地面へと倒れこむ。そこには、先ほどまで撤退していた小鬼ゴブリン共がいた。その小鬼ゴブリンは棍棒ではなく、小汚い短剣を持って立っていた。
「グゲゲエゲゲ」
「くっ!!」
笑う小鬼ゴブリンと激痛に表情を歪める先輩騎士。この後、起こる出来事を想像するとぞっとした。
(ここまでなの?私の人生・・・・。目先の人も守れずに、死ぬの?)
激痛の為なのか、戦闘時の緊張感が溶けてしまったのか、瞳から涙が零れ出す。それを見て、興奮したのか先輩騎士を斬りつけた小鬼ゴブリンが甲冑と剥がし始めた。
「いやぁぁぁぁぁっ!!止めて!!やめてぇぇぇぇ!!」
今から起こることに絶望する先輩騎士。もう、戦闘時の勇ましさはなく1人の女としての感情しかなかった。
「グゲェェェェェェェ」
笑った口から涎を垂らしながら、甲冑を取り外した次に衣類を破き始める小鬼ゴブリン。
「助けてぇぇぇぇ!誰かぁぁぁぁ!!」
荷馬車の方から少女の叫び声が聞こえた。向こうでも悲惨なことが起こっているみたいだ。
(あぁ・・・・守れなかった。もう・・・・ダメだわ)
全てを諦めた先輩騎士。周りは緑色の魔物が取り囲み、今から致すことの順番争いをしている。
斬りつけた小鬼ゴブリンが「俺が一番手だ!」と言わんばかりに先輩騎士の露出した下半身へと手を伸ばそうとした。
だが・・・・その直後に荷馬車、いや?ここ一体の空気に変化があった。その違和感に怪訝な表情をした小鬼ゴブリン達は荷馬車の方へ顔を向ける。
そこには、1人の少女が立っていた。周囲に渦巻く風を纏い周りを見渡す少女。その口元には自然と笑みが零れていた。
甲冑の至る所に凹みが見られる姿で息を切らしている先輩騎士。
「ええ、そうですね。魔力はギリギリ持ったみたいです」
横では魔力が尽きそうなのか、ぐったりとした体を無理やり立たせている魔導騎士。
彼女らの周りは、赤い液体によって草木や土が赤々と染まり、緑色の死体が街道に横たわっている。
銅から下がないもの、頭と体が離れているもの、手足が通常より短くなっているもの、様々な死体。
それらを作り出したのは、この騎士2人である。
「これで、全部だと思いますが、早めに駐屯地に戻りましょう。何か胸騒ぎがするんです」
「ええ、それがいいと思うわ。ダイルさん!もう、大丈夫ですよ。すぐに移動しますので、荷台から出てきてください」
荷馬車に近づいた先輩騎士は、馬が走れる状態か確認した。
(良い馬ね。こんな状況でも、暴れないなんて)
馬の頬を撫でながら、荷台から出てきたダイルに指示を出す。
「小鬼ゴブリンは片付けたので、すぐに移動します。馬の操作をお願いします。彼が先導しますので、着いてきてください」
ダイルは、外の光景に言葉が出ないのか頭を上下に振り頷いた。
「よし、ついて来てください。先輩は荷台に!少し体を休ませてください」
「分かったわ。数時間ごとに交代しましょう」
そう言うと先輩騎士は荷台へと入っていく。中ではメルが娘達を抱いた状態で不安げな表情をこちらに向けている。
(無理もないか・・・・。こんな経験、王都ではありえないからね)
「大丈夫ですよ。メルさん。もう、終わりましたから」
「ほんとですか・・・?小鬼ゴブリンは執念深いと何かの文献で読んだことがあります。それに・・・・小鬼ゴブリンの声が耳から離れないんです・・・・」
メルは娘達を抱きながら、肩や腕や足が震えていた。彼女自身、恐怖で押しつぶされそうなのだ。
「ほんとうに大丈夫です。今、駐屯地に戻っていますので安心してください。それに、また襲ってきたら返り討ちにしてやりますよ!」
先輩騎士は震えるメルの肩に手を置き落ち着くよう促した。
娘達もメルの胸の中で心配げな表情で見上げている。
「ありがとうございます。こんな母ではダメですね。強くなろうとしているんですが、いざという時に弱音ばかりを吐いてしまう」
娘達の頭を撫でてから、先輩騎士へと顔を向け
「わかりました。あなた達を信じます」
力強い決意の言葉を言い放つのであった。
「ええ!任してくださいっ!」
そんな彼女と彼女の娘達に向かって笑顔で答える先輩騎士。
(もしもの時は、この家族だけでも逃がさないと・・・)
人民を守る騎士としても決意を改めて自分に課すのであった。
◇
だが、そんな一行に悪魔の手が忍び寄っていた・・・・。
荷馬車と先導する魔導騎士がくっきりと見える位置、崖上で弓の弦を力いっぱいに引いている人間がいた。その人間はにんまりと口元に笑いを作ると、先導する魔導騎士の馬に対して矢を放った。
矢は放物線を描かずに真っすぐと馬の眉間へと吸い込まれていく。直後に魔導騎士諸共地面へと転倒していった。
矢を放った人間は、横にいた男と小鬼ゴブリンに対して指示をだし、再び立ち止まった荷馬車へと自ら奇襲を仕掛けるのであった。
◇
「くっ!!」
短い声と共に顔が地面に接触した魔導騎士。
すぐに起き上がろうとするが、馬の胴体に潰され足が抜けない。
「やばいぞ!これはっ!!」
森林から草を掻きわける音が鳴っている。こんな状態で襲撃を受ければ一溜りもない。
「押すから!足を抜きなさい!!」
上から先輩の声が聞こえ、徐々に足に覆いかぶさる巨体が持ち上がっていく。
「ん~~~~!!」
「ぐっぐああああああああ!」
潰れた足から痛みの感覚が脳へと雪崩れ込んでくる。だが、ここで意識を失うわけにはいかない為、下唇を噛み締め遠ざかる意識を引き留めた。
「はぁはぁはぁ。抜けたわね」
「ええ・・・でも・・・立てそうにありませんね」
潰れたのは右足であり、片足ではあるが立ち上がり、戦闘を行える状態ではなかった。
「あなたは、荷馬車から遠距離支援を。私は近接戦闘で蹴散らすからいい?」
「そんな!先輩も戦える体力は残っていないでしょう!?俺を置いて駐屯地へ急いでください!ここで食い止めますから!」
自分を置いて行けと、先に逃げろと、言ってくる後輩に対して
「バカなことを言ってんじゃないわよっ!そんなことできるわけないじゃない!ほら!支援よろしくね!」
そう言い残すと、正面から向かってくる小鬼ゴブリンに対して剣先を向け走る出す先輩騎士。
「っっっっっ!!」
足の痛みに耐えながら、荷馬車へと近づく魔導騎士。途中、ダイルに肩を借りながら荷台へと昇った。
魔導騎士は腰に差していた剣を空中に投げ、左手と右手を胸の前で合わせる。剣が光り輝き、空中で回転運動が止まり剣先が先輩騎士のその先、小鬼ゴブリンの方に向いた。
「貫け!!光剣っ!」
魔導騎士が、剣へ指示を送ると空中を浮遊していた剣が独自の行動をし始めた。向かってく小鬼ゴブリンへと高速で走り出したのだ。
「グゲエエエエ!?」
空中を飛んで来る剣に驚くこと数秒、小鬼ゴブリンの額から上が無くなっていた。通り過ぎた剣が小鬼ゴブリン共の頭を半分にしていく。半分にされた小鬼ゴブリンからは血が噴き出さない。断面は焼き焦げており、剣が熱を帯びていることが伺える。
(よし、これなら!切り抜けるかもしれない。俺の魔力が尽きるのが先か・・・・敵の数が尽きるのが先か・・・・勝負だっ!)
この技は、魔力消費が高く、魔人には効果が薄い為、基本的には使うことがないのだが、相手が小鬼ゴブリンのみであるならば、問題はない。
残り僅かな魔力で飛ばす剣には通常の4分1程度の力しかないが、魔導騎士は右手を伸ばし、剣の行き先を指定していく。
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「しねぇぇぇぇぇっ!!」
高く振り上げた剣を小鬼ゴブリンの頭へと振り下ろす先輩騎士。敵の奥の方では、光り輝く剣が小鬼ゴブリンを蹂躙していた。
(小鬼ゴブリン程度なら、光剣が効くわね。私も頑張らなくっちゃ。生きて帰るんだっ!)
近場の小鬼ゴブリンに剣先を向ける。そして、高速で近づき首を跳ねる。これをただただ、繰り返していく先輩騎士。
これには、絶大な効果があり感情表現の乏しい小鬼ゴブリンであっても、恐怖を覚え先輩騎士の周りで足を止め始めた。
(いっちょ前に恐怖なんて抱いてんじゃないわよっ!さぁ!来なさい。調理してあげるっ!!)
「グギャゲエエエエエ!グゲ!」
この小鬼ゴブリンを統率する者なのか?立ち止まっている仲間に対して指示を出している。
(あれが・・・・。じゃ!狙うわ・・・)
剣先を向ける先輩騎士。剣先を向けられた小鬼ゴブリンは「グゲゲ?」っと鳴き、自分の周りの仲間へと目を移す。だが・・・剣先が仲間たちではなく、自分に向けられたものだと理解する前に絶命することとなった。側に居た小鬼ゴブリンはその事実に恐怖し、進行が退却へと変化し始める。だが、先輩騎士は止まらない。
次から次へと剣先を向け、小鬼ゴブリンの首を跳ねていくのであった。
◇
進行してきた小鬼ゴブリンの数が半数を割った所で、光剣に異変が出る。先輩騎士の右手側で小鬼ゴブリンを蹂躙していたが、突如にして光を失い地面へと落下していった。
それを見て
(さすがに限界がきたか・・・・。小鬼ゴブリンも撤退しているし、一度荷馬車にもどっ・・・・)
近場の小鬼ゴブリンを蹴散らした所で荷馬車へと戻ろうとした先輩騎士の瞳に入ってきた情報は考えたくもない光景であった。
荷台で光剣を操作していた魔導騎士がその場で倒れているのだ。しかも、背中には斬られた跡がある。
魔導騎士の後ろには・・・・
「へっ!小鬼ゴブリン共は陽動だど、気が付かないなんてとんだバカだな。小鬼ゴブリンが一貫性のある行動なんてするはず無いじゃないか」
弓を背中に収め、血で湿った剣を持っている男がいた。男の後方では荷台へと入り込む人間たち。メルと娘達の悲鳴が森林中に響いた。
「来ないでっ!きゃあああああ!!触らないで!!」
男たちが妻や娘達に迫っている。そんな光景に時が止まっていたダイルは
自分に‘‘勇気を持て・・・・!‘‘と言い聞かせ、覆いかぶさろうとしている男に殴りかかる。
「触るなぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!」
力仕事によって鍛えられた剛腕を振りかざし、男たちに襲い掛かるダイル。
だが・・・・・
「んあ?なんだ?こいつ。死を見せてやる」
多勢に無勢だ。同等な存在である人間に対して量で負けている時点で、勝ち目などない。ダイルはことごとく反撃され、袋叩きにあった。それは、涙を零しながら見ていることしかできないメル。
娘達はメルの腕の中で茫然とその光景を見ていた。
「くっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
先輩騎士が荷馬車へと走り出す。
(まさか!人間が関わっているなんて。しかも、肩に刻まれている紋章は・・・・魔人側に協力している人間の証!こんな駐屯地近くまで来ていたなんてっ!)
走り出した先輩騎士だったが、背中に激痛が流れ地面へと倒れこむ。そこには、先ほどまで撤退していた小鬼ゴブリン共がいた。その小鬼ゴブリンは棍棒ではなく、小汚い短剣を持って立っていた。
「グゲゲエゲゲ」
「くっ!!」
笑う小鬼ゴブリンと激痛に表情を歪める先輩騎士。この後、起こる出来事を想像するとぞっとした。
(ここまでなの?私の人生・・・・。目先の人も守れずに、死ぬの?)
激痛の為なのか、戦闘時の緊張感が溶けてしまったのか、瞳から涙が零れ出す。それを見て、興奮したのか先輩騎士を斬りつけた小鬼ゴブリンが甲冑と剥がし始めた。
「いやぁぁぁぁぁっ!!止めて!!やめてぇぇぇぇ!!」
今から起こることに絶望する先輩騎士。もう、戦闘時の勇ましさはなく1人の女としての感情しかなかった。
「グゲェェェェェェェ」
笑った口から涎を垂らしながら、甲冑を取り外した次に衣類を破き始める小鬼ゴブリン。
「助けてぇぇぇぇ!誰かぁぁぁぁ!!」
荷馬車の方から少女の叫び声が聞こえた。向こうでも悲惨なことが起こっているみたいだ。
(あぁ・・・・守れなかった。もう・・・・ダメだわ)
全てを諦めた先輩騎士。周りは緑色の魔物が取り囲み、今から致すことの順番争いをしている。
斬りつけた小鬼ゴブリンが「俺が一番手だ!」と言わんばかりに先輩騎士の露出した下半身へと手を伸ばそうとした。
だが・・・・その直後に荷馬車、いや?ここ一体の空気に変化があった。その違和感に怪訝な表情をした小鬼ゴブリン達は荷馬車の方へ顔を向ける。
そこには、1人の少女が立っていた。周囲に渦巻く風を纏い周りを見渡す少女。その口元には自然と笑みが零れていた。
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