めぐりしコのエコ

しろくじちゅう

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信条に架ける風

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 青々した大平原に戻って来たまではいいが、蒔ク種族王への道のりは、あまりにも漠然としていた。天と地を隔てる地平線すら曖昧になるほどの景色に囲まれ、無暗に彷徨さまよう他なかった。やがて、かすかに響き渡る号鐘ごうしょうを耳にすると、巨大な流れが三人を導き、いとも容易く蒔ク種族王の元へと導かれた。鐘なくして、蒔ク種族王へとたどり着く事はできないのだ。
ウェザーは、蒔ク種族王の姿を目の当たりにすると、喜びに打ち震え、より権威ある者からの掛け声を待ちわびた。
「して、謀反の種を刈り取る事はできたか?」蒔ク種族王は、双子に事の運びを問うた。
「舞ウ鳥族は、セイズにかかり、操られていただけだ」トロンは、猪から降りると、ウェザーの背を押し、蒔ク種族王の面前に突き出した。「この男の仕業だ。煮るなり焼くなり好きにしてくれ」
「セイズか。しかし…」蒔ク種族王は、ウェザーをまじまじと見つめた。「いや、よそう。我に裁きを行うだけの権威はない。それほどの権威を有しているのは、天仔らであるが故、この男を雲上に引き渡す事とする。それさえ終えれば、頼み事を果たしたと誰もが認めよう」
「結局の所、アンタは、どういった立場にあるんだ?」トロンは、蒔ク種族王にたずねた。
「住人の上に我があり、我の上に天仔があり、天仔の上に救世主がある。権威とは、そういうものよ」蒔ク種族王は、おもむろに青空を見上げた。「どうやら御使みつかいが来たようだ。彼女によってお主らは天に召し上げられる」
 双子、それからウェザーは、振り返って空を仰いだ。すると、純白の翼を生やした少女が一人、ヘイヴン上空の積雲より降臨する様を目撃した。蝶のように舞い、時折、落葉のように揺らめきつつも、一対の翼をはためかせ、三人の元へと降り立った。その少女は純真かつ幼く、さながら天使のようであった。一見すると、トロンよりも一回り若い。
その少女は、双子に向けてつたない愛想笑いを見せつけると、「えっと。あたし、アルミ」と名乗った。
「アルミちゃん…。初めて見る子です」シフォンは、あどけないアルミに微笑みかけると、「つかわれてきたの?」と優しくたずねた。
「うん。皆を連れて来いって言われて来たの」アルミは、愛想笑いを保ちつつ答えた。「でもね、あたし一人で三人を連れて行くのは難しいの。だから、どうしようかと思って」
それを聞いたシフォンは、ウェザーに「あなたは、ロザリオを使えましたよね」と声をかけた。
発言の許可を貰ったウェザーは、アルミに向けて「では、こうしましょう。私はロザリオを使えます。なので、あなたはシフォンを運び、私はトロンを運びます。これで問題はないでしょう」と提案した。
「うん、そうする」アルミは、シフォンの背後に回り込んだかと思うと、いきなり両腕で抱きかかえた。それから、翼を羽ばたかせ、雲上に向けて飛び立っていった。
その様子を見たウェザーもまた、トロンの背後に回り込んだ。「失礼」
この男に抱きかかえられる事は、恥辱の極致だ。そこでトロンは、ウェザーに「吊っていけ」と注文をつけた。
 トロンは、天翔けるウェザーの両手に吊られ、青空へと発っていた。シフォンを抱えるアルミに追従し、天仔や救世主の御座す積雲を目指した。相当の高所を漂ってはいたが、特段恐怖心は芽生えなかった。地形を一望できる今だからこそ、ヘイヴンの全貌を把握する事に集中できたのだ。まず、住人の住処となる広大な森があり、その一角には青き大平原がある。森からは石造りの長大な白い塔が突き出ており、その頂には巨大な積雲が乗っかるようにして浮遊していた。しかし、たかが浮雲と侮る事なかれ、その上には立派な宮が建っており、眼前に広がる神々しさたるや筆舌に尽くしがたい。白雲と同化しているのだろうか、宮は一点の曇りすらないほどに潔白であり、青天白日せいてんはくじつの下で煌々こうこうと光り輝いていた。まさかこれほどの光景が世に存在するとは。トロンは、刹那の間に目を奪われ、雲上に降り立った事すらも忘れるほどに感動していた。しかし、シフォンに肩を叩かれ、あっけなく我に返ると、アルミに連れられて宮に向かった。
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