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流せ、綴れ、情愛
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三人は、シュラプルを巡り、三兄弟を訪ねて回った。まず、壁に佇むアンデスに会いに行き、兄弟と結束してエシレウスを打倒するよう頼み込んだが、返ってくるのは卑屈を交えた弱音ばかりであった。「自分は戦いが得意ではありませんし、今更にもなって弟との繋がりが取り戻せるとは思えません」。いくら説得しようが、依然として兄弟と結束する事に対して非常に消極的なままであった。
今は時間が惜しい。仕方なくアンデスに見切りをつけ、次に急いでブブゼラと対面した。メルヘンによると昨日、ブブゼラに聖なる箱を使わないように念を押したらしいが、その割には、やたら大事そうに箱を抱え、記念堂の入り口に座り込んでいた。兄弟との結束を促してはみたが、うじうじと意気地がないように返答するばかりだった。「結束なんてできないし、そもそも将軍には誰も勝てはしない」。ポワソンに話が通じなかった事から自信を無くしているようであり、なにより傷心極まっていたので、多くは言わずに、そっとしておく以外になかった。それから、ポワソンの行方を捜してみたが、村中に姿はなく、その足取りは、まるで掴めなかった。教会にいるかもしれないとも思ったが、あの建物は、もはやエシレウスの居所と化しており、その可能性は極めて薄かった。結局、メルヘンは三兄弟に愛想を尽かし、「こうなったら、この誠実なオオリン、一肌脱いでやるぞ!!」と自らの手でエシレウスを打ち負かす事を決意した。止めさせようか、と双子は考えもしたが、彼女の鬼気迫る気迫に水を差すのは野暮だと思い、その決意を尊重する事にした。
三人が大再起の場へ戻ってくると、依然としてエシレウスが勝者として場に居座っており、挑戦者の行列は、その尻切りが見え始めるほどに短くなっていた。ところが、列の最後尾に、病床に伏してるはずのアスレチックが立っていた。戦いの様子を背伸びして覗き見ながらも、今か今かと順番が来るのを心待ちにしていたが、もちろんメルヘンにたしなめられる事となった。
「アスレチック!!まさか将軍と一戦交える気なのか!?」
「当然だ!!この荒くれペルーセ、骨を埋める覚悟で戦う所存だ!!」アスレチックは、怪我を感じさせないほどに陽気だった。「それに、大再起には毎回欠かさず参加しておるのだし、この機会をみすみす見逃すわけにもいかん!!」
「もう怪我は大丈夫なのですか?」シフォンは、アスレチックの回復ぶりに笑顔をこぼした。
「もちろんだ!!これまで苦楽を共にしてきたこの体、稲妻ごときに屈するほど柔ではないぞ!!なにせ、遠征軍時代には三日三晩氷漬けになった事もあるのだからな!!」アスレチックは、満面の笑みで答えた。
「それもそうか。じゃあ、私と一緒に将軍と戦ってくれ!」メルヘンは、あっさりと引き下がると、打って変わって助力を乞うた。「二人がかりで戦うのは不本意だろうが、シュラプルを守るためだと思って我慢してくれ!!」
「それもよかろう!!独力よりかは心強い!!」
それからまもなくして、アスレチックとメルヘンの出番が回ってきた。最後尾たる彼らがエシレウスへの最後の挑戦者であり、図らずしてシュラプルの存続を懸けた戦いに立ち向かう事となった。メルヘンは猟銃を投げ捨てると、剣を抜き、勇ましく泥土に足を踏み入れた。なんとしても勝利と掴み取りたいという強い意気込みが感じられた。その傍ら、アスレチックは、まず跪き、泥土を手に取ると、荒々しく顔面中に塗りたくった。それから、立ち上がりつつも獅子のような雄叫びを天に向かって発し、剣を勢いよく抜き取ってから泥土の中へと突き進んでいった。そして、二人してエシレウスと対峙すると、静かに闘志を燃え上がらせた。
「将軍。我々が最後の相手となりましょう。しかし、本音を言うと、こんな形で将軍と対峙したくはありませんでした」メルヘンは、真摯な表情で心情を訴えつつも剣を構えた。「それでも、この誠実なオオリンは戦います。ようやく芽生えつつあるシュラプルの土壌を守るために」
「積る話は山ほどあるが、今は剣によって語るしかないのでしょうな」アスレチックは、エシレウスに切っ先を向けて剣を構えた。
「ここにいるのはシュラプルの強者。戦うためだけに集った強者に言葉など不要」エシレウスもまた、剣を構えた。
三人は、一斉に泥土を蹴って踏み込んだ。三本の剣が鍔音を打ち鳴らしたのも束の間、滅多切りの応酬となり、各々が一心不乱に剣を振るった。流石のエシレウスも、二人の廻仔を相手取るとなれば苦戦は免れないと思われたが、その表情は揺るぎない自信を感じさせるほどに精悍であった。メルヘンもアスレチックも中々の剣捌きであったし、並みの相手なら刹那の間に斬り伏せてしまうだろうが、今回ばかりは相手が悪いとしか言いようがない。そうトロンは、エシレウスの力量を見定め、無情ではあるが、彼の勝利すらも確信してしまっていた。それほどまでに、実力に開きがあったのだ。エシレウスの剣には、常に渾身の力が宿っており、そこから繰り出される一振りは、相手の剣を大きく弾き飛ばし、たちどころに体勢を崩させた。まるで容赦が一切感じられなかった。たとえ相手が顔見知りだろうと、手加減はもちろんの事、かすかな情すらも付け入る余地はなかったのだ。エシレウスは、あっという間に優位に立ち、遂には二人を薙ぎ倒し、青天井を仰がせてしまった。やはり勝てないか。押し倒されたメルヘンとアスレチックには、まだ立ち上がれるだけの体力が残されてはいたが、心の中では自らの敗北を認めつつあった。かねてよりエシレウスの力をよくよく思い知っていたからである。
今は時間が惜しい。仕方なくアンデスに見切りをつけ、次に急いでブブゼラと対面した。メルヘンによると昨日、ブブゼラに聖なる箱を使わないように念を押したらしいが、その割には、やたら大事そうに箱を抱え、記念堂の入り口に座り込んでいた。兄弟との結束を促してはみたが、うじうじと意気地がないように返答するばかりだった。「結束なんてできないし、そもそも将軍には誰も勝てはしない」。ポワソンに話が通じなかった事から自信を無くしているようであり、なにより傷心極まっていたので、多くは言わずに、そっとしておく以外になかった。それから、ポワソンの行方を捜してみたが、村中に姿はなく、その足取りは、まるで掴めなかった。教会にいるかもしれないとも思ったが、あの建物は、もはやエシレウスの居所と化しており、その可能性は極めて薄かった。結局、メルヘンは三兄弟に愛想を尽かし、「こうなったら、この誠実なオオリン、一肌脱いでやるぞ!!」と自らの手でエシレウスを打ち負かす事を決意した。止めさせようか、と双子は考えもしたが、彼女の鬼気迫る気迫に水を差すのは野暮だと思い、その決意を尊重する事にした。
三人が大再起の場へ戻ってくると、依然としてエシレウスが勝者として場に居座っており、挑戦者の行列は、その尻切りが見え始めるほどに短くなっていた。ところが、列の最後尾に、病床に伏してるはずのアスレチックが立っていた。戦いの様子を背伸びして覗き見ながらも、今か今かと順番が来るのを心待ちにしていたが、もちろんメルヘンにたしなめられる事となった。
「アスレチック!!まさか将軍と一戦交える気なのか!?」
「当然だ!!この荒くれペルーセ、骨を埋める覚悟で戦う所存だ!!」アスレチックは、怪我を感じさせないほどに陽気だった。「それに、大再起には毎回欠かさず参加しておるのだし、この機会をみすみす見逃すわけにもいかん!!」
「もう怪我は大丈夫なのですか?」シフォンは、アスレチックの回復ぶりに笑顔をこぼした。
「もちろんだ!!これまで苦楽を共にしてきたこの体、稲妻ごときに屈するほど柔ではないぞ!!なにせ、遠征軍時代には三日三晩氷漬けになった事もあるのだからな!!」アスレチックは、満面の笑みで答えた。
「それもそうか。じゃあ、私と一緒に将軍と戦ってくれ!」メルヘンは、あっさりと引き下がると、打って変わって助力を乞うた。「二人がかりで戦うのは不本意だろうが、シュラプルを守るためだと思って我慢してくれ!!」
「それもよかろう!!独力よりかは心強い!!」
それからまもなくして、アスレチックとメルヘンの出番が回ってきた。最後尾たる彼らがエシレウスへの最後の挑戦者であり、図らずしてシュラプルの存続を懸けた戦いに立ち向かう事となった。メルヘンは猟銃を投げ捨てると、剣を抜き、勇ましく泥土に足を踏み入れた。なんとしても勝利と掴み取りたいという強い意気込みが感じられた。その傍ら、アスレチックは、まず跪き、泥土を手に取ると、荒々しく顔面中に塗りたくった。それから、立ち上がりつつも獅子のような雄叫びを天に向かって発し、剣を勢いよく抜き取ってから泥土の中へと突き進んでいった。そして、二人してエシレウスと対峙すると、静かに闘志を燃え上がらせた。
「将軍。我々が最後の相手となりましょう。しかし、本音を言うと、こんな形で将軍と対峙したくはありませんでした」メルヘンは、真摯な表情で心情を訴えつつも剣を構えた。「それでも、この誠実なオオリンは戦います。ようやく芽生えつつあるシュラプルの土壌を守るために」
「積る話は山ほどあるが、今は剣によって語るしかないのでしょうな」アスレチックは、エシレウスに切っ先を向けて剣を構えた。
「ここにいるのはシュラプルの強者。戦うためだけに集った強者に言葉など不要」エシレウスもまた、剣を構えた。
三人は、一斉に泥土を蹴って踏み込んだ。三本の剣が鍔音を打ち鳴らしたのも束の間、滅多切りの応酬となり、各々が一心不乱に剣を振るった。流石のエシレウスも、二人の廻仔を相手取るとなれば苦戦は免れないと思われたが、その表情は揺るぎない自信を感じさせるほどに精悍であった。メルヘンもアスレチックも中々の剣捌きであったし、並みの相手なら刹那の間に斬り伏せてしまうだろうが、今回ばかりは相手が悪いとしか言いようがない。そうトロンは、エシレウスの力量を見定め、無情ではあるが、彼の勝利すらも確信してしまっていた。それほどまでに、実力に開きがあったのだ。エシレウスの剣には、常に渾身の力が宿っており、そこから繰り出される一振りは、相手の剣を大きく弾き飛ばし、たちどころに体勢を崩させた。まるで容赦が一切感じられなかった。たとえ相手が顔見知りだろうと、手加減はもちろんの事、かすかな情すらも付け入る余地はなかったのだ。エシレウスは、あっという間に優位に立ち、遂には二人を薙ぎ倒し、青天井を仰がせてしまった。やはり勝てないか。押し倒されたメルヘンとアスレチックには、まだ立ち上がれるだけの体力が残されてはいたが、心の中では自らの敗北を認めつつあった。かねてよりエシレウスの力をよくよく思い知っていたからである。
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