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十二章 万物の女王
82、ぽかんと口を開けている
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十字路に戻って来たので、ノノバラは、ぽかんと口を開けているばかりのミキキを、そっと地面に下してやった。間髪入れずに、ミキキは、「ノノバラさん、いつからバッタになったんですか!?」と驚きを伴って尋ねた。
ノノバラは、若干困惑したように「分からない。分からないけど、ここへ来てからというものの、何かに目覚めたように、おかしくなった。おかしくさせられたのかもしれないけど」
「おかしくなんかありません!きっとノノバラさんは、元からすごかったんです!わたし、そんなノノバラさんに憧れてます!」
「僕よりすごい奴なんか、ごろごろいるだろ。確か、赤獣の女王にもいたな。人間離れした男が一人」
「もう何年になるんでしょう。あの人が、シロキロミ様から特命を受けて世界を巡り始めたのは、ずっと昔の事だった気がします。きっと帰ってきますよね?」
「いてもいなくても一緒さ」
そう言い終えた時、ノノバラは、不吉な気配を感じて黙り込んだ。墓地に安置されていた棺桶の数々が、一斉に揺れ動いたかと思いきや、汗水の如く水流を垂れ流し、おもむろな形成を経て、骸骨へと姿形を変えた。水精霊である。些細な欠け目すらない五体満足の全身骨格であり、それらの眼窩の奥底には、見る間に吸い込まれそうな暗黒が宿っていて、ノノバラとミキキを見据えられるだけの意志を表しているように感じられた。
骸骨は、瞬く間に群れを成し、ノノバラとミキキに襲いかかった。それらに抗戦するべくノノバラは、陽光剣を引き抜き、ミキキに「離れるな!」と呼びかけ、襲い来る骸骨たちを切り伏せては、ことごとく蒸発させていった。普段より一段と冴え渡る太刀筋とはいえ、骸骨に際限なく湧いて出てこられては、ふいに消耗するだけだから、ノノバラは、骸骨を撃退する最中でも帰路を辿り、遅足ながらも墓地の出口へ向かって引き返して行った。
ふとした事に、ノノバラの脳裏に雑多な思念がよぎった。さながら人込みの狂騒であったため、その一つ一つを識別する事はできなかったが、心ともなく霊感を働かせてみると、それらは、陽光剣を取り返さんとする骸骨たちの思念である事が鮮明に読み取れた。きっと彼らはミキキの持ち出した陽光剣の破片を求めているのだなと思い、ノノバラは、強い口調で、
「おい、持ち出した破片を今すぐ捨てろ!」
さっきからミキキは、場が混沌とするあまり錯乱していて、ひどく滑舌の悪い言葉を喚き散らしながらノノバラの片腕に抱き付こうと必死になる始末であった。そんな醜態に痺れを切らしたノノバラは、ミキキの手から巾着袋をひったくって、思い切り後方に投げてやった。すると、骸骨たちは、もれなく巾着袋に惹かれ、二人を捨て置いてでも殺到していった。その隙に、骸骨の急襲から逃れようと二人して出口へ力走した。
ノノバラは、若干困惑したように「分からない。分からないけど、ここへ来てからというものの、何かに目覚めたように、おかしくなった。おかしくさせられたのかもしれないけど」
「おかしくなんかありません!きっとノノバラさんは、元からすごかったんです!わたし、そんなノノバラさんに憧れてます!」
「僕よりすごい奴なんか、ごろごろいるだろ。確か、赤獣の女王にもいたな。人間離れした男が一人」
「もう何年になるんでしょう。あの人が、シロキロミ様から特命を受けて世界を巡り始めたのは、ずっと昔の事だった気がします。きっと帰ってきますよね?」
「いてもいなくても一緒さ」
そう言い終えた時、ノノバラは、不吉な気配を感じて黙り込んだ。墓地に安置されていた棺桶の数々が、一斉に揺れ動いたかと思いきや、汗水の如く水流を垂れ流し、おもむろな形成を経て、骸骨へと姿形を変えた。水精霊である。些細な欠け目すらない五体満足の全身骨格であり、それらの眼窩の奥底には、見る間に吸い込まれそうな暗黒が宿っていて、ノノバラとミキキを見据えられるだけの意志を表しているように感じられた。
骸骨は、瞬く間に群れを成し、ノノバラとミキキに襲いかかった。それらに抗戦するべくノノバラは、陽光剣を引き抜き、ミキキに「離れるな!」と呼びかけ、襲い来る骸骨たちを切り伏せては、ことごとく蒸発させていった。普段より一段と冴え渡る太刀筋とはいえ、骸骨に際限なく湧いて出てこられては、ふいに消耗するだけだから、ノノバラは、骸骨を撃退する最中でも帰路を辿り、遅足ながらも墓地の出口へ向かって引き返して行った。
ふとした事に、ノノバラの脳裏に雑多な思念がよぎった。さながら人込みの狂騒であったため、その一つ一つを識別する事はできなかったが、心ともなく霊感を働かせてみると、それらは、陽光剣を取り返さんとする骸骨たちの思念である事が鮮明に読み取れた。きっと彼らはミキキの持ち出した陽光剣の破片を求めているのだなと思い、ノノバラは、強い口調で、
「おい、持ち出した破片を今すぐ捨てろ!」
さっきからミキキは、場が混沌とするあまり錯乱していて、ひどく滑舌の悪い言葉を喚き散らしながらノノバラの片腕に抱き付こうと必死になる始末であった。そんな醜態に痺れを切らしたノノバラは、ミキキの手から巾着袋をひったくって、思い切り後方に投げてやった。すると、骸骨たちは、もれなく巾着袋に惹かれ、二人を捨て置いてでも殺到していった。その隙に、骸骨の急襲から逃れようと二人して出口へ力走した。
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