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十一章 水龍と水剣
71、赤蟹の泉へ向かう
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ノノバラは、ただちにベネチャン県にある赤蟹の泉へ向かう事にした。IDと会うからには危険が伴うだろうから、ミキキには大聖堂に留まっているよう説得を試みたものの、ついて行くと一点張りをされて根負けした挙句、同行を認めさせられた。ゴンドラに乗って越県して、そのままベネチャンの市中を観覧しつつ、赤蟹の泉の付近にある渡船場で降りた。その泉は、味気なく、こぢんまりとしていても、多くの小蟹が生息しているという奇異な側面を持っているから、今なお人々の目を引き付けるだけの魅力を誇示する事ができる。ノノバラはミキキを連れて観光客に入り混じり、泉に蟹がひしめく様を暫し眺め、飽きた頃になって金貨を投げ入れてみた。
すると、ノノバラは、自らが一刹那の間に、がらんどうとした劇場の舞台の上に立っていたので、思わず驚動してしまった。そばにミキキはおらず、観光客もおらず、ベネチャンの街並みすらなく、人気のない薄暗い劇場に取り残されてしまって、いささか錯乱した。ただ、思い当たる節はあって、キミシロミは瞬間移動によって誘拐されたという話を耳にしていたので、混乱を落ち着けるためにもこの場はひとまず、それと同様の手口だと思い込む事にした。
呆然と立ち尽くしていると、赤と紫のローブを身に纏い、フードで素顔を隠した何某が、足音を高らかに鳴らして、舞台の袖から現れた。その何某が、IDである事を、ノノバラは即座に察した途端、陽光剣を引き抜いて構え、強い語勢で問いただした。
「ここはどこだ!?どうやって僕をここへやった!?」
「霊の仕業」IDは、威嚇を意に介さず、言い寄った。「失くした物が思わぬ所から出てきたって経験、あるでしょ?それは霊が悪戯して隠してたからなの」
「真面目に答えろ!どうして僕をさらった!?」
IDは、ノノバラと付かず離れずの所で立ち止まった。「知らずに金貨を投げ入れた?ルージュの幹部が、私と面会するための唯一の方法。あの金貨、幹部にしか与えてないから」
「なんにせよ、時計台での続きを、今ここでやってやる!」
「待って。どうせなら考え直さない?あの時計台で私が言った事、覚えてる?」
「僕はお前の手下にはならない!お前はただ、僕の持ってる聖碑石が欲しいだけだろ!」
「それだけじゃない。君、私に見覚えない?」
IDが、おもむろにフードを外して、素顔を露わにするとは思いもよらず、ノノバラは大層驚かされて、目を凝らしたのも束の間、その絵に描いたような美貌と、自らとほど近い若々しさに見惚れてしまった。美人と呼んでも余りあるほどの容姿端麗であったが、白粉を塗りたくったように過剰な美白は、マネキンを髣髴とさせるほどに、かえって不自然に思えた。一目見ただけで印象に残りそうな顔であったので、もし見知っているのなら、脳裏に焼き付いて忘れる事はないだろうと思い、ノノバラは、IDに視線を置いたまま、わずかに顔を横に振った。
すると、ノノバラは、自らが一刹那の間に、がらんどうとした劇場の舞台の上に立っていたので、思わず驚動してしまった。そばにミキキはおらず、観光客もおらず、ベネチャンの街並みすらなく、人気のない薄暗い劇場に取り残されてしまって、いささか錯乱した。ただ、思い当たる節はあって、キミシロミは瞬間移動によって誘拐されたという話を耳にしていたので、混乱を落ち着けるためにもこの場はひとまず、それと同様の手口だと思い込む事にした。
呆然と立ち尽くしていると、赤と紫のローブを身に纏い、フードで素顔を隠した何某が、足音を高らかに鳴らして、舞台の袖から現れた。その何某が、IDである事を、ノノバラは即座に察した途端、陽光剣を引き抜いて構え、強い語勢で問いただした。
「ここはどこだ!?どうやって僕をここへやった!?」
「霊の仕業」IDは、威嚇を意に介さず、言い寄った。「失くした物が思わぬ所から出てきたって経験、あるでしょ?それは霊が悪戯して隠してたからなの」
「真面目に答えろ!どうして僕をさらった!?」
IDは、ノノバラと付かず離れずの所で立ち止まった。「知らずに金貨を投げ入れた?ルージュの幹部が、私と面会するための唯一の方法。あの金貨、幹部にしか与えてないから」
「なんにせよ、時計台での続きを、今ここでやってやる!」
「待って。どうせなら考え直さない?あの時計台で私が言った事、覚えてる?」
「僕はお前の手下にはならない!お前はただ、僕の持ってる聖碑石が欲しいだけだろ!」
「それだけじゃない。君、私に見覚えない?」
IDが、おもむろにフードを外して、素顔を露わにするとは思いもよらず、ノノバラは大層驚かされて、目を凝らしたのも束の間、その絵に描いたような美貌と、自らとほど近い若々しさに見惚れてしまった。美人と呼んでも余りあるほどの容姿端麗であったが、白粉を塗りたくったように過剰な美白は、マネキンを髣髴とさせるほどに、かえって不自然に思えた。一目見ただけで印象に残りそうな顔であったので、もし見知っているのなら、脳裏に焼き付いて忘れる事はないだろうと思い、ノノバラは、IDに視線を置いたまま、わずかに顔を横に振った。
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