赤獣の女王

しろくじちゅう

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九章 名医か錬金術師

60、始終を聞かされた

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 始終を聞かされたミキキは、甘心かんしんして済ませ、とにかくキミシロミの無事を喜んだ。それから、打って変わって神妙になって、すがるような口調で、
「わたし、キミシロミ様が帰ってくるまでの間、頑張って元帥代理を務めました。でも、もう頑張らなくても大丈夫ですよね。だって、これからはキミシロミ様が元帥に復帰するんです」
キミシロミは、うんと頷いた。「じゃあ、そのままミキキちゃんに譲ろうかねぇ。元帥の座を」
ミキキは、たまらず絶句した。
「このおばばも歳だしねぇ。そろそろ引退しようかと思ってたんだよ。ちょうどいい機会だし、これからはミキキちゃんに任せようかねぇ」
「そんなのいやです…」ミキキは、蚊の鳴くような声で拒絶した。それから声を張り上げて「わたし、元帥なんて辞めたいです!だって、どうしたらいいのか分からなくて…。周囲の人は、難しい事ばっかり言うけど、それさえ理解できなくて…。そんなわたしに赤獣の女王の指揮を執らせるなんて、しないでください!」
 急に気迫を伴って言い返されたものだから、キミシロミは、言葉を失ってしまった。その隙に、ミキキは更に続けて、
「わたし、元帥としての務めを立派に勤め上げようとしました。ノノバラさんを助けようとしました。けど、駄目でした。わたしが何を言っても、何をやろうとしても否定されるばっかりで、わたし、何もできませんでした。だから、もう辞めたいです。辞めさせてください」
 キミシロミは、途端に笑みをたたえてこう諭した。
「ミキキちゃんにも出来る事はたくさんあるって、このおばばは知ってるよ。だから、出来る事だけやればいいんだよ。元帥になったって、ミキキちゃんのやる事は何一つ変わらない。このおばばの真似なんかしなくたって、元帥は立派に務まりますよ。ミキキちゃんが、今したい事はなんだい?」
「わたし、ノノバラさんの力になりたいです。おばあちゃんは、まだ知らないと思うけど、ノノバラさんの腕が大変な事になってて、きっとこれから苦労すると思うんです。だから、少しでも助けになりたいんです。わたしに出来る事はあんまり多くないけど、それでも、ほうってはおけないんです」
「だったら、行っといで。座ってるばかりが元帥じゃないと、このおばばは思うからさ」
 ミキキは、大きく頷いた。それから、キミシロミの手を引いて、大聖堂まで先立って歩き出した。そんな仲睦まじい二人に水を差しはしないと、ノノバラは、遠巻きに眺めるだけにとどめた。
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