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二章 水霊祓い
12、聴衆が知らぬ間に消え失せた
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聴衆が知らぬ間に消え失せた頃になると、縛られていた男がアマクサに向かって「すまないが、この縄を解いてもらってもいいかね?」と申し訳さなさそうに声掛けした。
アマクサは、快く応じて縄を解いてやった。「感謝なら俺ではなく、元帥にしなさい。俺はただ赤獣の女王の意思を代行しているに過ぎないのだからな」
「ならば、そうしよう」男は、ようやく自由になると、すぐに演壇から飛び降りた。そして、ミキキに歩み寄ってわずかに頭を下げた。「助けてもらって礼を言うよ、お嬢さん」
「えっ、わたし、元帥じゃないです…」ミキキは、思いがけず感謝されたので戸惑った。
ノノバラは、薔薇の香りをふと嗅いだ。胸元に着けられた薔薇のブローチから漂っていて、それは何らかの危険を知らせようとする守護霊の意思によるものである。カノンからの警鐘を嗅ぎ取ったノノバラは、時を移さずしてその原因を察すると、男に対して、
「さっきから危険な匂いがするな。きっとお前のせいだ」
その言葉の下から男は、打って変わって不敵な態度となって嘲笑を浮かべ、並みはずれた妖気をも纏い始めたように思えた。「もしそうなら危険の芽は摘んでしまわないとね。君は吾輩を、吾輩は君を」
その言葉には、淀んだ激情を感じさせるような響きがあり、男の態度が単なる脅しではないと確信できた。そこで、ノノバラは尋ねた。
「お前も水精霊だな?」
「その呼び方は好まないが、事実とあっては仕方がないか。吾輩は、ノーノー・デデンス。お見知りおきを」
「ルージュの構成員のくせに、礼儀を知ってるな」
「こうでもしないと、幹部の威厳が保てないからね」
「幹部ほどの奴が、わざわざ捕まったふりをしてまで、何がしたかったんだ」
「IDから預かった言伝を伝えたかった」
「IDだと?」
「少なくとも吾輩は、ボスをそう呼んでいる。そうそう、あの手紙は読んでくれたかね?IDが直々に綴った手紙を」
「元帥を連れ去ったのは、やはりお前らだな。どこへやった?」
そこでミキキは、臆せず口を挟み、ノーノーに訴えかけた。「どうしてキミシロミ様を誘拐したりしたんですか!?今すぐ返してください!」
ノーノーは、ミキキを睨んだ。「あんな老いぼれに用はないよ。IDが欲しがっているのは、聖碑石だけだ」
ノノバラは、いきり立って陽光剣を差し向けると、「聞かれた質問にだけ答えろ!」
「それは無理な相談なんだがね」
ノーノーの全身が徐々に薄らいでいき、見る間に忽然と姿を消し去った。ノノバラとミキキは、我が目を疑い、周囲を見回したけれど、一連の騒ぎによって閑静になった市街ばかりが映った。腑に落ちないでいると、何処からかノーノーの声が響き渡ってきた。
「七つ目の聖碑石は、我らルージュが掴み取る!今になって約束の地に遠征を仕掛けたところで甲斐ない事だよ!ただちに中止して、即刻平服せよ!それがIDからの忠告だ!」
声の出所を探ろうと試みても、漠然とした目星をつける事すらままならなかった。ノーノーを見失い、ノノバラとミキキは、口惜しい心持ちがした。そんな頃になって、二十名ほどの騎士を引き連れたアマクサが、遠方からこちらに走り寄ってきている様を認めた。助けた青年がルージュの幹部と判明するや否や、凄まじい速力をもって大聖堂へ応援を呼びに行っていたのだろうが、それでも遅すぎた。ノノバラの前で足を止めて、奴は何処へ行ったと尋ねてきたが、返す言葉もなかった。
アマクサは、快く応じて縄を解いてやった。「感謝なら俺ではなく、元帥にしなさい。俺はただ赤獣の女王の意思を代行しているに過ぎないのだからな」
「ならば、そうしよう」男は、ようやく自由になると、すぐに演壇から飛び降りた。そして、ミキキに歩み寄ってわずかに頭を下げた。「助けてもらって礼を言うよ、お嬢さん」
「えっ、わたし、元帥じゃないです…」ミキキは、思いがけず感謝されたので戸惑った。
ノノバラは、薔薇の香りをふと嗅いだ。胸元に着けられた薔薇のブローチから漂っていて、それは何らかの危険を知らせようとする守護霊の意思によるものである。カノンからの警鐘を嗅ぎ取ったノノバラは、時を移さずしてその原因を察すると、男に対して、
「さっきから危険な匂いがするな。きっとお前のせいだ」
その言葉の下から男は、打って変わって不敵な態度となって嘲笑を浮かべ、並みはずれた妖気をも纏い始めたように思えた。「もしそうなら危険の芽は摘んでしまわないとね。君は吾輩を、吾輩は君を」
その言葉には、淀んだ激情を感じさせるような響きがあり、男の態度が単なる脅しではないと確信できた。そこで、ノノバラは尋ねた。
「お前も水精霊だな?」
「その呼び方は好まないが、事実とあっては仕方がないか。吾輩は、ノーノー・デデンス。お見知りおきを」
「ルージュの構成員のくせに、礼儀を知ってるな」
「こうでもしないと、幹部の威厳が保てないからね」
「幹部ほどの奴が、わざわざ捕まったふりをしてまで、何がしたかったんだ」
「IDから預かった言伝を伝えたかった」
「IDだと?」
「少なくとも吾輩は、ボスをそう呼んでいる。そうそう、あの手紙は読んでくれたかね?IDが直々に綴った手紙を」
「元帥を連れ去ったのは、やはりお前らだな。どこへやった?」
そこでミキキは、臆せず口を挟み、ノーノーに訴えかけた。「どうしてキミシロミ様を誘拐したりしたんですか!?今すぐ返してください!」
ノーノーは、ミキキを睨んだ。「あんな老いぼれに用はないよ。IDが欲しがっているのは、聖碑石だけだ」
ノノバラは、いきり立って陽光剣を差し向けると、「聞かれた質問にだけ答えろ!」
「それは無理な相談なんだがね」
ノーノーの全身が徐々に薄らいでいき、見る間に忽然と姿を消し去った。ノノバラとミキキは、我が目を疑い、周囲を見回したけれど、一連の騒ぎによって閑静になった市街ばかりが映った。腑に落ちないでいると、何処からかノーノーの声が響き渡ってきた。
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