月から遠いこの地球（ほし）で

エピローグ

　華やかな文明都市の片隅で、不要となった機材や様々な生活廃棄物などが集うダストシティ。各部から集配された不用品たちの大まかな選別は機械が行うが、細々とした部品の分別はやはり人の手が要される。何よりもハイテク機能を持つ機械を用いるよりも、こうしたダストシティに集うストリートチルドレンたちの手を使う方がコスト削減に繋がり彼らの収入源にも繋がるからだ。
　遥かむかしのストリートチルドレンたちと比べ、彼らはある程度の衛生状態が整った環境で暮らしている。とは言えこの仕事をする間に重油などで身体は汚れ、機材に残っていたオイルや薬剤で皮膚はただれる事も多く、貧相な服を数着ほどしか持っておらず決して暮らし向きが豊かではなかった。
　担当エリアの廃棄物の整理をしていた少女の姿も、例に漏れず他のストリートチルドレンたちと同じように髪は伸びきって千切れ手足は茶色くオイルで汚れていた。しかし汚れた顔に収まる二つの瞳には知性の光が宿り、手にした機械を次々と分別していった。
　「……？」
　少女の耳が何かの音を捉えた。使えるものがあればこっそり持ち帰り、日々の生活の役に立てる事は多い。人の話し声のように聞こえるので、通信機の類だろうか。少女はワクワクしながら機材の山を掻き分けて探した。
　『ザー…ザー…こ…こん…こんにちは…ザー』
　廃品の中から取り出したそれは、壊れた特殊ラジオだった。
　本来ならパーソナリティのホログラム映像が投影されるのだが、その部位が壊れているらしく音声しか出てこない。しかしそれでも少女は嬉しくなりラジオから聞こえる穏やかな青年の話し声に耳を傾けた。
　『今日もＧＪ３５６ｄは雨です。そこで懐かしい言葉を思い出しました。旧アメリカエリアで活躍されていた小説家の言葉ですが―――雲の向こうは、いつも青空。そう、今は見えないけれど必ず雨は止み青く晴れた空がぼくらを待っている』
　少女はラジオを胸に抱いたままそっと分厚い雲が覆う空を見上げた。
　雲の切れ間から覗く美しい空の色を見つけ、少女の口元に笑顔が宿る。
　『ぼくはいつも、月から遠いこの惑星で―――きみたちの幸せを願っています』