夢に楽土 求めたり

青海汪

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第七話 “無垢”の代償

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 久しぶりにアタカは夢を見た。
 一人で手紙を片手に町を歩いていたので、しばらくそれが現実なのかどうかもはっきりしなかった。しかし彼が目的とする家の戸を叩きドアを開けたその向こうに、鬱蒼と生い茂る森が待ち構えていた瞬間。頭の一部が覚醒しこれは幻だと判断した。
 夢の中のアタカは、明らかに一軒の家に収まりきる量ではない広大な木々を前にしても怯むこともなく、当然のようにぽっかりと開いた森への入口へ足を踏み入れていった。
 黙々と平坦な道のりを歩いていく。目的なんてない。敢えて挙げるのなら手紙を届けることが目的なのだろう。
 歩いて、歩いて、歩き続けていくうちに疲れた訳でもないがアタカは足を止めた。茂みの向こうから人の気配を感じたのだ。
 はっきりしている意識の一部が(よせばいいのに…)と呟く。けれど体はそんな忠告を無視して茂みの中を覗いた。
 途端に辺りの景色が変わった。色々なものが瞬時に過ぎ去ってゆき瞬きを凌ぐ早さで、視認できるようになった時間がアタカの背後に向って駆けていくような感覚だった。
だけど目を凝らせば、その中から疾走する肉体を伴わない人影たちの姿を捉えることができた。彼らは吹き抜ける風のように頬をかすめ、アタカを置いて走り去っていく。
 そして擦れ違うたびに声が聞こえた。泣き声だったり悲鳴だったり、意味を解さない奇声をあちらこちらから響かせて、鼓膜には声の坩堝と化した雑音の不愉快さが残る。
 その中でアタカの耳は少女の掠れた叫びを聞き分けた。
 「違う! 私は、私は不老不死なんかじゃ―――」
 彼女の悲鳴を掻き消すように大きな爆発音がした。
 衝撃のすごさにアタカの体も吹き飛ばされる。弧を描きながら宙を飛んでいる間、アタカは茫然と無色透明な空を見上げ呟いた。
 (手紙を……届けたかっただけなのに…な…)
 不思議と涙がこぼれる。届けられなかった手紙は爆風に煽られどこかへいってしまった。それが無性に悲しくて、悔しくて、アタカは眠りながら涙を流した。
 
 目覚めるとイチタが顔を覗いていた。
 「どーしたの?」
 「…え?」
 しばらくして、頬が濡れていることに気づき驚いた。起き上がり枕に触れてみると、布は水分をしっかり吸って湿っていた。
 「らしくない。魘されていたから起こしてあげちゃったよ」
眠たげに欠伸をするイチタ。
 あのイチタが起きるくらいだからそうとうひどく魘されていたのだろう。見るとまだ窓の外は暗く夜明けまで時間があった。
 「変な…」
夢の内容を反芻しようとしたがもう頭から失念している。それ程長い話でもなかったと思ったのに、と悩むアタカを見守っていたイチタが小首を傾げ問いかけた。
 「シーウェスって誰?」
 「シーウェス?」
鸚鵡返しに問う。彼自身も誰のことなのかまったくわからなかった。
 するとベッドの上で胡坐をかきながらイチタも頷いた。
 「二、三回シーウェスがどうこうって言ってたから」
 それでも誰を指した言葉なのか皆目見当がつかない。困惑するアタカに追い討ちをかけるように暗闇の下で青い瞳を光らせ
 「もしかしたら、アタカの本当の家族かもね」
と言った。
「ほら、一年経って少しずつ記憶を取り戻し始めたのかもしれないし。だとしたら、そのシーウェスって人は、夢にも出てくるくらいだからアタカにとって大切な人かもしれないもん」
 「そんな…関係ないって!」
 ふと彼から目を逸らし
 「だといいけど」
素っ気なく呟くと布団にもぐりこみアタカに背を向けたまま眠った。
妙につかかってくるイチタの態度を気にかけながら、アタカも再び横になった。けれど一度醒めてしまった頭はなかなか意識の座を手放してくれない。地上近くまで傾いている月を見詰め、心の中で
(シーウェス…?)
と自問自答を繰り返した。
 
 
 眠れない夜を過ごした。
 何度も同じことを考えその度に否定し、一生懸命に自分や相手を弁護しようとしたがその行為を繰り返すうちに擦り切れていった感情には、ただ一つの真実だけが残った。
 「……強く、ならなくちゃ」
 窓に近づき山の裾から登ってくる白光と輝く太陽を見詰めながら、ウリはガラスに映る泣き腫らした顔の自分に向って呟いた。
 例え家族に愛されていなくてもこれまで育ててもらった事実がある。二人が彼をどんな風に思っていようと、ウリの気持ちは変わらない。
 彼がこの国を去ることで、大きな隔たりのできていた夫婦の間にも変化が訪れるかもしれない。母が父を愛していることは本当だし、それを素直に口にできるきっかけとなるだろうか。独りよがりの勝手な願いだったが、今の彼にはそれしか自分を支える術がなかった。 
 (幸せ、になってくれるなら)
 それなら、それでいい…と言葉には出さず祈った。
 窓から注ぐ陽光が次第に強さを増し、暗がりに息をひそめるようにして並んでいた建物の数々もその支配下に治めていく。光に追い出されるようにして夜の気配が消えてゆき、再び日の下に輝く世界が始まる。
 ウリは窓を開け明朝の清涼な空気を吸い込んだ。ツンと冷たく心の奥底から汚れたものを奪い去っていくような清々しさ。赤く腫れていた瞳に生気が蘇る。その表情は幼い彼に似つかわしくない、生まれ持っての気高さを感じさせた。
 陽の光が都中を照らし最後にイディアム城をその手中に収める。聖なる光を反射させる城の姿は、まるで城そのものが自ら発光して逆に太陽にも光を授けているようにも見えた。
 「……」
 城を捉える顔に翳りが宿る。同時に彼の脳裏には今も城内で仕事に追われる父と、孤独な瞳を持ったイザナム王のことが過った。
 これまでも何度も思い出してきた王の顔。燃えるような赤い髪に、静かだが強い意志を秘めた黒い瞳をしていた。ただ一度しか会ったことがないのに、どうしてこうも気になるのだろうか。
 (ぼくの…お兄様かもしれないから?)
 逡巡してからそれだけではない、とかぶりを振った。
 強く心に焼きついた王の瞳には同じ類の悲しみがあった。だからこうも共感してしまうのだ。
(きっとそれは、王様も同じだ…)
 王族の宿命がそう思わせるのかわからない。けれどウリはこの先、どれ程国から離れようとも王との邂逅は免れない運命だと確信していた。
 
 
 朝食は予定の通り各国王が客室でとることになっていた。その為カミヨも自室に給仕を呼んでいたが、まったく食事が喉を通らない。
 今日で宴が終わるということでこれまでの疲れが出てきたのだろうが、それ以上に夜を徹して振る舞われたオクヒマの酒と、ツクヨミ王代理を抜いた密談が祟っているに違いないと思った。
 オクヒマが持参した酒は百七十年も熟成させたという幻の美酒で、彼の長い講釈を我慢して聞くだけの価値がある味だった。しかしかなりアルコール度の強いものだったらしく、チトノアキフトも一口飲むなりすぐに顔を真っ赤にしてしまったぐらいだった。
 しばらくは各国の冗談や笑い話をネタに喋っていたが、夜も更け月がいつの間にか隠れて見えなくなった頃。ついに限界がきたのか足元もややおぼつかないチトノアキフトが先に部屋へ下がった。
 近衛兵に支えられ去っていく彼女の後ろ姿を見送りながら、途端に味気なく感じられた宴の席に視線を戻す。
 チトノアキフトが消えたことで他の二人から、貼りつけたようなそれまでの柔和な態度がなくなった。
 杯の中身を一気に飲み干すと、イズサハルが冷めた眼差しを彼女が座っていたあたりに向けカミヨに話しかけてきた。
 「やはりいつの世も、我ら権力者は人智を超えた絶対的な力に焦がれるものでしょう。例えば、不老不死とか…」
 すぐに彼女のことを暗示しているとわかったが、カミヨはわざと穏やかな笑みを返しかぶりを振った。
 「寿命を延ばすだけの特効薬ならばないとも言えませぬな。ただし、不老不死というものは人間の限界を超えたものです。あり得る訳がないし、あってはならないものだとも思います」
 イズサハルと自らの杯に酒を注ぎオクヒマも口を出した。
 「確かに。世の理を無視した恐ろしい考えだ。しかし、もし仮に誰かがそれを手に入れたとしたら、イザナム王はどうされる?」
 「これも酒の場の戯言。空想話の問いかけならば、誰の目も憚る必要もなし…気楽に答えられるものでしょう」
 にこやかに目を細めカミヨの発言を待つ二人の王。
 視線にまるで首を絞めるようだと思いながら、カミヨはそっと深呼吸をした。
 (仮に姫君の不老不死が確定されたなら生け捕りにしてでも秘密を暴こうとするだろう。彼らに楯突く意思があるか否か…わたしは、試されているのだな)
 杯の中に映る自分の顔が無表情にこちらを見返してくる。
 闇の深淵を切り取ったかのような瞳の黒さからは、一切の感情も読み取ることは不可能だと確かめて再び面を上げる。
 「力の原因を追究し、なんらかの利益を上げたいですね」
 本音でもないが嘘でもない答えだった。
 しかしそれを賛同したとばかりに都合よく内容を捉えたオクヒマが、上機嫌な様子でカミヨに酒を勧めてきた。
 杯を持ち直しながらカミヨもそれに応え笑い合っている間、横顔に貼りついたイズサハルの視線が気になった。
 (西国が不老不死ならば、我が国は予知だな…)
 西国ばかりではなく、我身にも寄せる危険を感じながらカミヨは素知らぬ振りで酒を呷った。今は西国に二国の注意が集中しているだけで、本来ならその標的にカミヨ自身が加わっていたかもしれない。
次々と未来を予知し言い当てていくフサノリの力を手に入れたなら、この世に怖いものなどない。恐れるものはなにもないのだ。だから二国は下手に手出しをできずにいる。彼らがどこまで予言を信じているかはわからないが、真偽を明らかにしたがっているのは感じている。もし西国が二人のうちどちらかの手によって治められたなら、次は北国が狙われるかもしれない。
 (力が必要だ―――)
 己の非力さを恨みながらカミヨはイズサハルに笑いかけた。
 
 無理やり料理を胃に押し込み着替えを済ませると、ちょうどのタイミングでフサノリが入ってきた。
 彼はすぐにカミヨを視界に認めると、いつもの穏やかな表情で歩み寄り恭しく頭を下げた。
 「お身体の具合はいかがですか。明朝まで杯を酌み交わし続けたと聞きましたが」
 「問題ない。それより今日ですべてが終わるが、特に問題はないな?」
 フサノリは鷹揚に頷いた。
 その反応に安堵すると胸を撫で下ろし、裾の皺を伸ばしながら話しかけた。
 「後日アマテル王から使者が送られ交易条約が結ばれることになっている。そうすればお前が以前より危惧していた通り、堂々とわたしの命を狙う輩が入国できるようになるな」
 返事はないが、耳を澄ましてこちらの話を聞く真摯な態度は伝わった。
 一瞬、カミヨはこの話題を出すべきか悩んだ。悩みながら立ち上がり、彼女の未来を聞くことで受ける自分の感情の変化をできるだけ冷静且つ客観的に推測してみた。
 「ツクヨミ王のことだが…」
 言葉を選びながら紡ぐ。
 「もはや手の尽くしようがない程に病状が悪化していると聞いた。姫の即位はもう確実なのだろうな」
 「いかにも…」
妙に重々しい空気を醸しながらフサノリも同調した。
 「チトノアキフトは数日以内に即位されます。ツクヨミ王は、意識のない状態が続き衰弱を極めております」
 この期に及んで知らされた新たな情報に驚きをあらわにする。
 「お前には遠く離れた王の様子まで手に取るようにわかるのか?」
 「西国の最も恐れるべきは民の団結力です」
 彼の質問には答えず、フサノリは更に言及した。
 「以前、城へ忍び込み王の暗殺を企てた者がおりました。王の寝室へ入る手前で護衛に見つかり逃げましたが、その三日後には民によって捕えられ打ち首にされたという事件があります。歴代ツクヨミ王たちがどのようにして民の心を掴み続けているのかはわかりませんが、決して彼らの力を侮ってはなりません」
 またもや断言された言葉を反芻しながら、カミヨは昨日のチトノアキフトとの会話を思い出し納得した。
 「ツクヨミ王の名の下に、民が実際の権力を握っているのだな…」
 だから民は王の為に、王は民の為に命を懸けることができる。
 けれどカミヨは理想的とも言える関係に嫌悪に近い感情を抱いた。お互いがお互いの役割を重視するが故に、ただ一人しかいない国王の責任は、万人といる民に比べてどれだけ重たいことか。
 (それが逆に王を追い詰めているとは露も知らぬだろう…)
 青い瞳をいつも寂しげに輝かせていた彼女に、無意識に己の心境を投影しカミヨはチトノアキフトを哀れんだ。
 純粋であればある程、彼女を縛る鎖は頑丈なものとなる。
 無垢な心はいつも民の悲しみを額面通りに受け取り、それを昇華しようともがき苦しむだろう。
 「………」
何故、出会った時から惹かれたのかわかった。
 彼女もまた、彼と同じように“理想とする王”を模索する、孤独な人間に違いないからだった。
 
 
 各自の朝食が終わった後、王たちは再び客間へ集まった。この後、昨日決定した条約の内容を確認し調印式を行う予定になっている。
 会談の席を王たちが埋めイザナム王カミヨの進行によって話し合いが始まった。
 オボマ国に対し和平を第一条件とした対話による条約を結ぶ為、各国から使者を出す他に、その間の武力行使を認めないという内容。ただし、もし仮にオボマ国から武力による圧力を行った場合、防衛の為に働くことを容認する。
 内容に異論がないことを確かめて場を変えて調印式が行われた。
 長方形の机に三人の王と王代理が並びそれぞれの書面に署名をするのだが、その光景を見守りながらナムはあることを気にかけていた。
 恐らく当の本人も気づいてはいないだろうが、カミヨはふとした瞬間に何度もチトノアキフトを見ているのだ。そして同じく彼女を見詰める近衛兵のオノコも視界に捉えている。目の前で繰り広げられる三角関係に複雑な思いを抱く。
 (フサノリ様って、ちゃんとイザナム王に忠告しなかったのかな~)
 しかしカミヨは目ではチトノアキフトを追いながらも、決してそれを表情には出さなかった。勘のいい彼女でなければ気づかなかったかもしれないが、決して実らせてはならない恋に一抹の不安を隠しきれずにいた。
 例え先の未来が読めたとしても、百パーセントという保証はどこにもない。むしろヤヌギ族たちは、知ってしまうことで変わる未来を恐れていた。本来なら誰も、この力を手に入れた者はいなかったはずなのだから。
 それまで静まり返っていた辺りに活気が生まれる。
 調印を終えた四人が集まり手を握り合っていた。
 (これでまた一つ、神託は無事に遂行された…)
 ナムは胸を撫で下ろし安堵した。
 
 
 別れの時が近づくと、カミヨはおもむろに四つの杯を取り出しそれぞれを王たちに持たせた。
侍女の一人に並々と酒を注がせると、音頭をとるべく杯を高く持ち上げる。
 「四天王の未来に栄光あれ。王道楽土の続く限り、我らの時代は永遠であることを」
 三人もそれに倣い腕を高く上げる。そして声を揃え国家繁栄を祈る言葉を叫ぶと一斉に杯を空にした。
 オクヒマとイズサハルは伝統に則って杯を床に落とすと、無言のまま衣を翻し去っていった。
このまま見送られることもなく行列をなして城から出ていく習わしになっている。これは各国の王が対等な立場であること示し、沈黙を守るというのはこの宴で交わされた秘め事を一切他言しないという意味であった。
 しかしここに一人、古くから受け継がれてきた伝統に背く者の姿があった。
 チトノアキフトは長い黒髪を肩から床へ滑り落とさせながら腰を低くし、頭を垂れるとまず己の非礼を詫びた。
 「私は飽くまでツクヨミ王の代理。けれどこの身に迫る運命を受け入れるべく、玉座に君臨されるイザナム王にお伺いしたきことがあります」
 予定にない彼女の申し出にその場に居合わせた者たちの間に動揺が走る。けれどそんな周囲の意向などまったく意に介した様子もなく、近衛のオノコも主に従い眉ひとつ動かさずにいた。
 「……人払いを」
 ざわめき始める人々の耳にカミヨの言葉は届かなかった。それぞれに不安を口にし、王の前ということも忘れあらぬ噂まで口走り始めた。
 「人払いを!」
 腹に力を込め、強い口調で断言すると辺りは水を打ったように静まり返った。
 カミヨが二の句を告げる前にそれまで沈黙を守り、二人を見守っていたフサノリが進み出る。そして自ら率先して扉を開けると、恭しく頭を垂れてカミヨに挨拶をした。
 「王よ、どうぞ心ゆくまでご対談下さい」
 まるで彼の心の底まで見透かしたかのような口調に卑屈な思いが頭をもたげる。しかしフサノリが行動することで他の者たちもその後に続くようになった。
 改めて人払いが行われた室内に残るのはカミヨと、チトノアキフトの二人だけ。
 足元に散らばる杯から離れ、窓辺の日が当たる場所へ移動すると暗がりに立つチトノアキフトを見詰め彼女から口火を切るのを待った。
 「まずは数多くの失礼を心からお詫び致します」
 裾を払いカミヨを毅然とした態度で見据えながら、チトノアキフトは歩み寄った。
 「礼儀を欠かしてでも…最後にこうして、あなた様とお話がしたいと思いました」
 「それは……」と呟いてから、ふっと笑みを浮かべ「光栄の至り、と言ってよろしいのでしょうか」
 対峙するとやはり身長差が目立った。どうしてもカミヨが見下してしまう形となったが、それを打ち返すかのようにチトノアキフトも強い眼差しで見詰めた。
 「あなたが仰られた言葉の意味を、どうしても確かめたいのです」
 昨日彼女と交わした庭園での会話を思い出し続きを促すように頷いた。
「王とは飾りものであり、民は望むものを手に入れたら王など見向きもしなくなると。私が教え継がれてきたこの思想は、ただの理想でしかないと仰ったその意味を、もう一度お伺いするまでは帰りません」
 静かに言い放つも、表情は強張り頬もわずかに上気していた。
 外見にそぐわない強固な意思に触れ、本来なら知る機会もなかったであろう彼女の心の一部を垣間見た気がした。カミヨは何故かくすぐられるような心地よさを覚えた。
 「我が国と西国ではやはり民の意識も違うでしょう。しかしこれは王が存在する限り、いつの世でも通じること。我らが望む世界と、その庇護下にいる者たちの望むものはいつも違う。決して理解し合うことなどできやしないのですよ」
 「可能性を捨てているからそう思うのでしょう。民の為に国を守る王が、歩み寄る気持ちを忘れてしまえば、民の信頼も、情愛も離れてしまって当然です」
噛みつくように彼女も言い返した。
 「どうして自国の民を愛することができないのです? 彼らはあなたの為に命を投げ出すことだってできる。それは、彼らにそうさせるだけの力を王が持っているから。巨大な力を持つ以上、あなたを慕って集う者たちに報いることはできないのですか」
 必死に反論するチトノアキフトを眺めカミヨは深い溜息を吐いた。
 苛立った表情を見せる彼女を一瞥し、額に手を当てる。長い指の先にカツンっと冠が触れた。
 こうして触れなければ冠を被っていたことさえ忘れてしまう。それがこの王冠の重み。守りぬくだけの価値があるものなのか、カミヨ自身わからなくなってしまう。
 「これ以上討論しても無駄だとわかった。しかしあなたがどうしても民を愛せよと言うのなら、王となり身を呈してわたしに示したらいかがか」
 「!」
 カミヨの提案にチトノアキフトは目を大きく見開けた。
 「あなたが玉座を退くまで、己の信念を貫き続けたなら…わたしはあなたの信じる王道を認めよう」
 そして、とカミヨは心の中で紡いだ。
 (そして、玉座と共に果てていった父の生き様を…わたしに否定させてくれ)
 民と一心同体に生きようとする彼女の姿は、王は玉座と共にあるものと説いた前王を否定するだけの材料になりえるとカミヨは思った。いつの間にか反論しながらも、素直に己の考えを信じることのできる彼女に共感していた。けれどその意志を貫くということはその瞳から、永遠に悲しみの色が抜けないと言うことだともわかっていた。
 彼女が描く理想はいつも自らを束縛するもの。自由のないただ一つの居場所に、死ぬまで腰を据えることが果たしてできるのだろうか。
 「私を…試されるのですね」
 口端を卑屈に歪めながら紡いだ。
 「いわばこれは試金石。あなたに与えられた試練だと思えばいい…」
 強い意思を秘めた瞳が一段と深い青さを輝かせる。
 「……そのお言葉、決して、お忘れのないようにお願い申し上げたい」
 チトノアキフトの挑発的な眼差しを受け止め、カミヨは静かに頷いた。
 
 
外出禁止令を解く村長の言葉を聞いてアタカとイチタは村を出た。出がけに更に一通北の国に住む親せき宛てのものを頼まれたので検問所にも向かうことにした。
 「チノリコにもいかないといけないね」
 手紙の宛名を確認するイチタ。やはりその表情に特に変化はない。
 「あ、俺さウリと約束したんだ。今度ショウキを連れてくるって」
 「それって昨日? 昨日の今日連れてもいいのかな?」
 「さぁ…でも友だちになりたいって言ってたしなぁ」
 「それこそちょっと変。ショウキみたいなタイプをウリが好きになるかな?」
 「別に好き嫌いって感じじゃないけど」
むしろお前こそどうなんだ、と内心毒づきながらアタカは続けた。
「なんってーか…ちょっと真剣で、友だちってより違う目的があるような気がした。……あいつ、なに考えてんだろーな」
 しばらく沈黙が流れた。
 黙り込むということはイチタも同じことを思ったのだろう。彼も、ウリがなにを考えなにをしようとしているのか量り切れずにいる。ただそれだけのことなのに、この沈黙がとても重たく感じられた。
 (なんか一気に悩みが増えた気がするなぁ…)
 アマテル王の姪だと言い張るショウキとこのまま顔を合わせづらい。会えばきっと我慢していた質問が、彼女の話の矛盾を衝こうと出てくるだろう。それにショウキといる時のイチタも嫌いだった。いつも隣にいる彼が、アタカの知らない人になってしまうようで見ていられない。
 このまま歩き進めばそんな見たくもない場面を見てしまう。悶々と悩むも二人は着実にハスキの都とチノリコ村への分岐点へ近づいていった。
 「先にアタカが検問所いってくれない? 後で都の大聖堂前で合流して配ろうよ」
 「え?」
 まるでアタカの胸中を読んだような提案に思わず相好を崩して頷いた。
 「やっぱりショウキのこと嫌ってるんだねー」
 「だって、あいつぶりっ子で鬱陶しいじゃん。あんなタイプはイチタだけで十分だし。上っ面だけいい奴程信用できないって」
 「え、ひどいなぁ。ぼくのどこがぶりってるのさぁ」
 「それ。語尾を微妙に伸ばす辺りが猫被ってんだよ!」
 「猫被ってるんじゃないよ。こうして、甘えることで相手がいい気分になるでしょ? そしたら色々と素晴らしいことが起きるから……単にやっかみからそう見えるだけじゃないの」
 「…絶対に違うし」
 「アータカってば意地っ張りだね。まぁいいや。それでさ、都合が合えばショウキも連れてウリのところにいこう。その場合はぼくが彼女を連れていくから、アタカは仕事をしてくれたら一石二鳥だし、嫌いな子とも顔を合わせずに済むからいいでしょぉ」
 そう言われてしまっては反論もできない。なんとなくウリやイチタと離れることが寂しかったが、アタカは渋々頷いた。
 「じゃ、後で大聖堂前でね」
手を振りながら去っていくイチタを見送り、アタカも都へ続く道へ進んだ。
 
 やはりイチタが言っていた通り、検問所の列は今までにないくらいの大行列となっていた。この中から順取り屋のクロエを見つけ出すのも至難の業だと覚悟しながらも、アタカはできるだけ前の方から人々の顔を確かめていった。
 順番を買い取ろうとするアタカに他の順取り屋たちも声をかけてきた。試しに二、三回相手にして料金を聞いてみるとクロエの倍の値段を言われたので、驚いて素直に彼を探すことに専念した。
 列の半ばぐらいになってようやく、前後を大きな男に挟まれた彼の姿を見つけた。向こうもアタカの姿を捉えると嬉しそうにピョンピョン飛び跳ねてアピールしてきた。
 「久しぶり!」
 懐かしくなり駆け寄るなり、お互いの手を取り捩じ伏せる二人の挨拶を交わす。
 「アタカ一人なの? 珍しいね」
垢で真っ黒になった顔いっぱいに笑顔を浮かべて喜びを表現しながらクロエは問いかけた。
 「チノリコ村にも手紙があったから、イチタはそっちにいってる。北宛に一通送らないといけないんだ」
 「そうなんだ。やっぱり宴の効果かな? すっごい人だよ」
 「だなぁ。俺もびっくりした。でもその分クロエたちは儲かってんだろ?」
 するとニヤニヤ笑いながら顎を引いた。
「珍しいよ。でもこれで、久しぶりちゃんとしたご飯が食べれるかもしれない」
 料金を払いながらふと思いついた疑問を口にしてみた。
 「そういえば…クロエの家ってどうなってるんだ? なんか兄貴とかいそうだよな」
 「うん。八人いたよ。だけどクロが生まれる年に流行病で全員死んじゃったから、クロはお兄ちゃんたちの顔を知らないんだ。だからクロエの『ク』は九って意味なんだ」
 小銭を数えながら表情を変えずに答えた。
 「病気って言っても大したものじゃなかったらしいけどね、お金がなかったからお薬買えなかったって。八人もいたら、それだけ働き手になったから残念だなってよくお父さんたちが言ってるんだよ。働くって大変だね」
 もっと料金に上乗せしてやればよかった、と後悔したが、アタカはそんな自分を咄嗟に戒めた。
 (ただの同情だ…)
 一時の同情や優しさだけなら、誰でも与えられる。けれどそんなものを彼が期待しているとは思えなかった。貧しい環境でも必死に生きているのは彼だけではない。アタカだってマキヒやイチタも共に働いているからなんとか糊口を凌ぐことができている状態だ。
 必要なのは同情ではなく共感だ。同じ立場にあるからこそ、苦悩を理解できる。
 「……大変だよな。でも、頑張ろうぜ」
 飾ることのない言葉にクロエは目を細めて笑った。
 そして会話が終了し再び列に並んで客を待つかと思いきや、その場に停止したままアタカを見詰め呟いた。
 「アタカ、なにか悩んでる」
 意外な相手に図星を指されてしばらく言葉を失うくらい驚いた。
 「元気もないし、変な顔してるよ。どうしたの?」
 そんなことはない。と否定しようと思ったが、ふと思いとどまった。それからおもむろにクロエを見ると
 「友だちになった奴が、すげぇいい奴で。…身分とか顔もいいんだ」
名前は出さずにウリに対する思いを素直に綴った。
「無愛想な奴もそいつの前に立てば喋るし、とにかく誰からも好かれる。俺にないものを全部持ってるのに、俺が大切にしてるものが…なんか全部、あいつの方にいっちゃう気がしてやだ」
 きっとイチタやマキヒにはこんなこと、言えなかっただろう。二人とも心からウリのことを認め好いている。彼に関する知識も先入観も持たないクロエだからこそ、アタカは言葉を選ぶ必要も自分を偽る必要もなかった。
 「それに、そいつにはもしかしたらデカイ悩みがあるかもしれないのに、全然話してくれない。イチタまでそのことで悩んでるのに…なんか、理不尽だ」
 すべて吐き出すと逆に胸の中はすっきりした。けれど同時に、ここまで一方的にウリのことを攻撃している自分にも驚いた。溜めていた間に感情も腐敗してしまうのだろうか。最初に思った時は、こんなに彼のことを責めたつもりはなかったのだが。
 「ん……と、じゃあアタカは、その子に悩み事を話したの?」
 「悩み? うんにゃ。話してないけど?」
 「それじゃあずるいよ! アタカがなんにも話してくれないのに、相手から手の内を見せろって言ってもずるい。お客が商品買うから、先に釣銭くれって言ってるようなものじゃない?」
 わかりやすい例えにアタカは大きく相槌を打った。
 「それとね、クロの予想だとアタカはその子に憧れてるんだよ。イチタとアタカはよく似てるからイチタもその子に惹かれてるんだと思うな」
 「えぇ! あの守銭奴と似てるの? 俺が?」
 「そっくりだよー。それとね、これもクロの勝手な予想だけどイチタは絶対にアタカと会う前よりも、今の方が優しい気がするんだ。それはアタカの才能だと思うんだよ」
両手を後ろで組み背伸びをしながら照れるアタカに笑いかけると
 「イチタ一人で順番を買いにきてたとしても、クロは仲よくなれなかったと思う。アタカが隣にいてちょうどいいんだね。二人のバランスが一番いいんだよ」
 クロエの言葉はアタカの心を解きほぐすのに十分な効果を伴って響いた。
 思い返せば自分自身も、彼になにも語ろうとはしなかったことに気づきその行為を改めた。欠点を知ればそれを改善して強くなれる。アタカは次、ウリに出会う時はもっと心を広く構えることができるだろうと思った。
 「すっきりした! クロエって意外と聞き上手だよな」
 「でしょ。クロってばすごいんだよ」
 エヘヘと笑う彼を愛しく眺めながら、湧き立つ思いを勇気に変えこの後ウリに会ってからなにを話そうかと考えた。
 
 
 近くにあった小川の水を桶で汲み四年前に植えた木々の元へ運ぶ。その行動を何往復と繰り返しながらユサは鼻の上の汗を袖で拭った。
ここら一帯はかつて大きな森だった。ここ数年続く森林伐採で倒され、瞬く間に荒地と化してしまった土地の一つだ。
 木のない土地に誰も見向きもしない。国が有する場所なのに、誰も手入れをしないものだから大地は罅割れ地盤が緩み、毎年大雪が積もった日には雪崩を起こしていた。また閉山した鉱山に勤めていた鉱夫たちの宿舎の裏にあるので、あまり人目にもつかず常に索漠とした雰囲気を漂わせていた。
 そこに目をつけたユサは、誰にも見咎められないことをいいことにせっせと植林をした。最初の頃はせっかく植えた苗木もよく雪崩に巻き込まれ、寒さに負けて枯れてしまうことが多々あったが、今ではようやく彼女の背丈ぐらいまで生長してくれた。
 まるで我が子のように深緑の葉を輝かせる木々を愛でながら、ユサは無意識に口元を綻ばせた。少しずつでいいから、こうして視界に収まる景色に緑が増えていったら嬉しいと、一本一本水をかけてやりながら思った。
 四年前、孤児院を出て初めて都へやってきた彼女は、この荒れ果てた都の土地を見て衝撃を受けた。王の膝元であるハスキの都ならきっと土むくれに至るすべてが美しく輝いているに違いない、と有名なイディアム城の噂を聞くたびに胸を高鳴らせていた幼い彼女の淡い期待を見事に裏切る光景に大きなショックを覚えた。
 それから細々と生計を立てる傍らで植林を行ってきた。少しでもいいから、木を増やして欲しい。あの頃の希望を現実のものにしたなら、もしかしたらむかしに戻れるかもしれないと願をかけて。
 ただもう一度、彼女に笑いかけて欲しくて―――
 十分木々に水を与え終わるとおもむろに空を見上げた。
始めた頃より日が傾いている。
 (……仕事…しなくちゃ)
 ほんのり火照った体に、昨日より気温の下がった風が当たって心地よい。冷えないうちに布で汗を拭うと桶を持って歩きだした。
 宿舎を回り舗装されていない道を辿りながら、まだ赤茶色の地面が斑に目立つ荒野を思いもっと木々を植えようと考えた。けれどなにごとにも先立つものは金であり、これから冬を迎える北の国民にしては死活問題である食糧の貯えもしていないユサにはそんな余裕などなかった。
 (だけど…木が欲しい……)
 唯一の贅沢と言えこのままでは冬を越せない恐れがある。どうしたものか、と悶々と悩むうちに自然と俯いていた。その為こちらへ向かってくる人影が、彼女の視界に入るまでだいぶ時間がかかった。
 「あれ…ユサじゃん?」
 聞き覚えのある声に顔を上げる。ずっと考えごとをしていたのですぐには相手の顔が認識できなかった。
 「…昨日の今日だし、覚えてるよな」
 金色の瞳を憎らしげに細め、妙に挑発的な態度で話しかけてくる。咄嗟に記憶を総動員させて覚えのある少年の顔を記憶から探っていると、やっと名前が出てきた。
 「…ア、タカ」
 するとアタカは大袈裟にホッと肩を落として安堵した。それから彼女の持ち物を素早く観察し、その背後に控える潰れた宿舎と彼女を同時に見た。
 「泥遊びでもしてた?」
 ユサの手足について土に視線を向けニヤニヤしながら話しかけてくる。
 「違う。水やり」
 端的に説明すると今度はユサから彼の持ち物を見た。
 大した荷物はないけれど服のポケットが膨らんでいる。
 「ふぅん。苗木あっちに植えたんだな。なんか実がなるやつ?」
 ポケットに入っているものの正体をあれこれ想像していたユサは、彼の質問に数分遅れてから反応した。
 「ならない」
 「なんだ、食えない種類かよ。そんなんで大丈夫か? どうせ冬ごもりの準備もしてないんだろ」
 彼に会う前まで悩んでいた話題に戻ったので、ユサは再び思案を始めた。
 苗木を買いたいがそれよりも貯蔵用の食料を買うべきだろうか。同じことを堂々巡りに考えながら、ふと視線を感じて顔を上げた。
 「ほんっと、イチタの言った通りだな。お前が一人で曲りなりにも生きていけるってことがすごい奇跡みたい」
 褒められたのだろうかと思い、首を傾げる。
 「言っとくけど、褒めてないからな!」
 素早く彼女の胸中を見抜いたアタカは叫んだ。
 「しゃーない…俺、これから手紙を届けにいかなくちゃいけないんだけどさ。顔見知りで食べ物安く売ってくれる店知ってるから、一緒にいくか?」
 知っているということはどういうことか。質問の意図を量り切れず頭を抱えるユサの態度を見て、アタカは面倒臭そうに
 「もーいいから、こいって」
と言って彼女の手を引いていった。
 
 
 宴が終わった後の城内は、それまでの緊迫した空気を入れ替えるように準備の時よりも騒々しく賑わった。最後の最後に意を衝いてきたチトノアキフトとカミヨの密談も、その後部屋を出てきた二人の表情は硬かったものの、大した混乱も起きずに終えることができた。
片付けや掃除に追われる侍女たちが駆けていく廊下を抜け、城内外の警備を担当した国衛総隊長のクラミチは活き活きとした表情で、通い慣れた通路を歩み彼の友人であるモロトミの部屋の戸を叩いた。
 「…誰だ」
 やはり外交官長としての疲れが溜まっているのだろう。声には張りがなくやつれた印象を受けた。
 こんな時に彼の仕事を邪魔してもいいのかどうか躊躇いながらも、長年の付き合いから遠慮をせずに扉を開ける。予想を裏切らず、モロトミは机を埋め尽くす書類の山に没頭している最中だった。
 「おぅ。お疲れだったな」
 「あぁ、少し待ってくれ。もうすぐで一区切りがつく」
 相槌を打ちソファに腰をかけると、長手足を伸ばして欠伸をした。この二日間ずっと緊張しっぱなしだった。特に彼はカミヨの護衛を担当し、宴に常に同行し息継ぎさえ躊躇わせる空気に常に身を晒されていたので、こうして堂々と振る舞える身分を手放しに喜んだ。
 「それにしても疲れたなぁ」
両腕を回すと付け根がゴキボキっと音を鳴らした。
 フサノリは書類に集中しているらしく、まったく反応を見せない。
 仕方なく一人で時間を潰しながら、クラミチの視線はそれとなく目の前に置かれているテーブルの書類を捉えた。
 「……ロードリゲス大陸…ゾワッカ国?」
 見出しに書かれた文章を朗読する。外交官の彼なら他国との国書など預かっていてもおかしくはない。しかし読み進めると内容が違った。ゾワッカ国にある有名な学校の名が連ねられ、中でも寄宿舎の有無がピックアップされていた。
 嫌な予感がクラミチの脳裏を過る。
 「待たせたな」
 鼻先までズレタ眼鏡を元に戻しながら、目下に隈をこさえたフサノリが彼に向って笑いかけてきた。
 「ウリの、短期留学でも…考えているのか?」
 「いや。違う」
と言ってから水差しの中身をコップに移し、喉を潤すと滑らかな口調で吐き出した。
 「永住させるつもりでいる」
 「……!」
 意外な告白にクラミチの手元から書類が落ちた。
 次の瞬間、持ち前の運動能力のよさから彼は素早くフサノリの元へ駆け寄り彼の両肩を掴んだ。
 「どういうつもりだ! 今更…今更親子ではないとでも、認める気か?」
 「この件に関しては妻も了承している」
 『妻』という言葉を、フサノリはひどく卑屈な表情で呟いた。
 「だけど、ウリの気持ちはどうなるんだ? あいつはなにも知らないんだぞ」
 「知ったところで今の我々には関係ない。むしろ、なにも知らずにこの国から離れさせる方が、思いやりだ」
 「そんな……」
途端に肩を掴む指から力が緩む。
「それでも…お前たちは家族、だろ」
 項垂れるクラミチを慰めるように見上げる。ほんの少しだが身長差のある彼らだったが、かつてはクラミチ、モロトミ、カミヨの中でもクラミチが一番小さかった。
 時は人を変える。残酷に、抗う余裕さえ与えずに。
 「いつかわかる」
 「そんなことはない! 俺は…アタカもイチタも」
 咄嗟に否定しようとするクラミチを滑稽だと言わんばかりに見詰め、それから顔を背けた。
 「………わたしたちは、既に家族にはなれないとわかった上で一緒にいる。期待も希望もお門違いだ。今更そんなものに縋りつくつもりもない。ならば、生き方を変えるしか方法がないんだ」
 切迫した思いを感じ取り、クラミチは口を閉ざして黙り込んだ。
 すべてを知った上で現実を受け入れている。彼ら家族が抱える想いを知るクラミチとしては、もう、これ以上誰も苦しんで欲しくなかった。けれど、それさえも叶わない夢なのだと現実を突きつけられた気分だった。
 
 
 大聖堂の行列はいつもと変わらない程度の長さだった。ただ、検問所に並ぶ人々と違って、その表情は誰もが暗く沈んで声をかけるのさえ憚られるような空気を醸し出している。
 あの日ユサが露店を出していたあたりに立ち、イチタと彼が連れてくるであろうショウキを待つ。そういえばここでウリとぶつかったのだと思い出し、ふと彼が歩いてきた方向の先に大聖堂があることが気にかかった。
 (やっぱり…悩みでもあるんだろうな)
 話して欲しければこちらが話さなければいけない。クロエの言葉をしっかりと胸に刻みアタカはこの意志を貫く決意をした。
 「あのさぁ」
なんとなく大聖堂の壁に凭れかかり腰を下ろすと立ったままのユサを見上げて話しかけた。
 「お前は…ウリがなんか悩んでるのに、教えてくれないんだろって思わないの?」
 しばらく沈黙してから口を開いた。
 「…いつでもいい」
 「まぁ、そうかもしれないけどさぁ」
 「ウリが話したくなるまで、私は待てる」
珍しく毅然とした態度で答えると、体勢を変えてアタカを見た。
 「友だち、なら一生傍にいれるでしょう? どうして…そんなに急ぐ?」
 核心を衝かれアタカは心臓が大きく飛び跳ねるのがわかった。
 (たまに……鋭いよな…こいつって)
 ドキドキと鳴る胸を押さえ、軽くユサを睨みつける。けれど相手は睨まれていることもわからない様子で、唇を一文字に結びじっと彼の返答を待っていた。
 「別に急いでるって訳じゃないけど…」
 ただ、一種の妬みを感じただけだった。
 誰にも懐こうとしなかったユサの心を捉え、損得勘定もなしにイチタを動かしたウリに比較して自分にはなんの力も才能もない。みんなが彼を誉めれば誉める程、自分の価値が見えなくなってきた。
 そんな不安を打開する為にもアタカにとって、ウリの悩みを聞き相談に乗れる友だちという立場が必要不可欠に思えたのだ。
 イチタでさえ感知できなかった不安をユサはいとも簡単に見抜きそして指摘してきた。油断ならない慧眼に恐れを感じながら、無言で追及してくるユサから目を逸らした。
 
 
 一日に進めるだけ解いてみようと決めたウリは、ずっと机の前に座り問題集を解いていた。家庭教師たちが教えてくれた公式から、歴史や異国語の暗記に至るすべてを復習し次の授業に備えて予習をする。限度を決めていない予習は既に数十ページにまで及び、この調子なら最後の項まで終えてしまいそうな勢いだ。
 「………」
 昼を過ぎた頃に壁越しに母が起きる気配が伝わった。昼食は室内でとったので顔は合わせていない。
 (まだ、会えない…)
 腫れの残る瞼を濡らした布で押さえながら問題文を読んだ。こんな顔を彼女に見せたとしても驚きはするだろうが、だからと言って事態が変わることはない。
 ふと、本棚にしまっている辞書を必要とする問いにぶつかったので、ウリは椅子に貼りついていた腰を上げた。
 背筋を伸ばすと緊張していた身体の節々が痛んだ。軽く手足を伸縮させストレッチをすると、鈍い痛みが全身に伝わった。
 「意外となまっているのかなぁ…」
 上体を左右に捻りながら自問する。大して外に出る用事もないので、一日のほとんどをこの部屋で過ごすことが多いから必然的に体を動かす機会も減ってしまう。
 「よっと」
 小さな掛け声をかけながら前屈をすると、なんとか床に指先が届くぐらいだった。
 「………うわぁ」
 いつの間にか硬くなっていた自分の体よりも、床を照らす光の眩しさに驚いていた。
 気づかなかったが窓の外は素晴らしい快晴だった。雲も少なく空気が澄んでいる。気温が低いので窓を開け放つと、ツンとした風が彼の腫れた瞼を冷やしてくれた。
 眠らずに一晩を過ごしたのは今日だったと思い出す。夢中で勉強をし、余計なことを考える余裕もないくらい単語を頭に詰め込んでいるうちに、なにが現実でなにが夢だったのかわからなくなっていた。
 (昨日のできごとはすべて白昼夢に見た幻で、こうしている今が…)
すぐにかぶりを振り、それでも事実を受け止めなければいけないと自分自身を諭した。それでも諦めきれずアタカやイチタ、ユサのことを考え、一緒に過ごした宝石のような楽しい時を脳裏で再現し喜びの余韻に浸った。
 『あまり多くつくると、別れが寂しくなるものよ―――』
 脳裏に母の言葉が蘇りせっかくつくりだしていた三人の幻が消えた。初めてできた友だちなのに、こんなに早く別れがくるとは思いもしなかった。
 悲鳴を上げる心の声を抑えつけ無理やり、また勉強をしようと机へ戻る。
 (ぼくが逆らわなかったら…なにもないまま、これ以上悪くなることは絶対にないんだ)
 それは自分を戒める以上に、抗うことのできない現実を受け入れる為に感情を殺す呪文のような言葉だった。いつもどんな時も彼が逆らわず、大人たちの言う『いい子』を演じ続ければこれ以上悪いことは決して起こらない。と、むかしから自分に言い聞かせてきた。
 呪文の効果は知れないが、ウリがそうして自我を抑えてきたおかげか、ジュアンもモロトミも一度も彼の前で喧嘩や相手の悪態を吐くことはなかった。けれど、二人の心が完全に離れていることは、目で見るよりも心に直接伝わりよくわかった。
 モロトミはウリに対して特に辛く当ることもしなかったが、それ以上に優しくも、厳しくも当たってこなかった。家に於ける共同生活を潤滑に行う上での諸注意や、世間を気にした言葉をかける程度で、感情を露見させて正直なまでに心を開いて接してくれたことがない。
 それは産んでくれた母、ジュアンも同じだった。
 彼女もまた、必要以上ウリを自分の傍に置くようなことはしなかった。父の目を気にしてのことかもしれなかったが、彼女もウリの存在を疎んでいるのだと次第に察した。
 自分がいることでこの家に歪みが生じている。すべての根源が自分にあるのなら、せめて、誰からも羨ましがられるような理想の子どもになることでしかウリは自分の存在を確かめることができなかった。
 「……あ、まただ」
 無意識に掻きむしっていた手首を見詰め、機械的な声調で言葉を開けた問題集の上に落とす。
 何往復もしてできた蚯蚓腫れの中には古傷が開き再び出血するものもあった。 
 血が服につく前に舌で拭うと机の下に隠していた救急箱を取り出し、簡単な消毒と傷口をまたひっかかないよう包帯を巻いた。
 包帯が袖口から覗かないかを念入りに確認してからやっと安堵し、置いていた羽ペンを持ち勉強を再開させようとしたその時。外から彼を呼ぶ声が聞こえた。
 
 
 結局大聖堂前で二人を待っていたがやってきたのはイチタ一人だった。彼の話によるとショウキは用があるからいかないと言って断ったらしい。その用事というのも造花をつくる仕事だそうで、無理に誘う理由もないので素直に帰ってきたらしい。
 造花、と聞いてアタカはユサが言っていた言葉を思い出していた。孤児院を独立しユサは絵を売り、ショウキは造花を売って生計を立てていくつもりだった、と言っていた。そして『私が殺されていればよかった』と呟いたユサ。
 二人の間に確執があることは歴然としている。けれど彼女もまた、その理由と言ったものを話してくれない。単にそれまでは彼女の無口さに起因しているのだろうと納得していたが、クロエの意見を聞いて改めて考え直してみると、やはりアタカ自身にも問題があったのだろう。
 (でもこいつとまともに話って…できんのかな?)
 つい疑問符を浮かべながら、文を届けにいく彼の後をついてくる荷物を持ったユサを見る。
 都宛の文をイチタと分けて配りながら、その途中で顔見知りの店に彼女を連れていってあげた。品選びに時間をかけるかと思いきや意外とてきぱきと商品を見極め、主に日保ちのする干物を中心に安く買い集めた。
 店主の親父の娘がビィシリ村へ嫁いでいるので、娘の手紙を届けるうちに親しくなった。アタカがイチタ以外の人間を連れてきたことにもまず驚いたが、その人間が異性ということにも別の反応を示し彼を冷やかした。
 何度もしつこく彼女ではないのか、と聞いてきた親父の顔を思い出し
 (ろくすっぽ会話もできねーのに彼女も糞もないだろ!)
 改めて思い出しても腹が立つ。なによりも、自分のことを噂されているのに完全に無反応を決め込んだ彼女の反応にも苛立った。
 「くそっ…」
 最後の手紙を届けた住人が貧しい身なりのアタカを見て、露骨に嫌悪をあらわにしながら手紙を嫌々受け取ったので更に腹を立てながらアタカは再びユサを連れてイチタとの待ち合わせ場所へ向かった。
 「………」
 数歩先に進んだところで立ち止まる。
 それでも後ろについていたユサの気配はなかなか追いついてこない。
 再び二、三歩進んでから立ち止まった。
 距離は縮まるどころか逆に大きく開いてしまったようだ。
 「はあぁ」
 これ見よがしに大きな溜息を吐くと、荷物を抱え一生懸命後を追ってくるユサに向って振り返った。
 「なんでそんなに足が遅いの? 亀以下だぜ」
 「…計ったこともないのに、いい加減なことを言う」
 眉間に皺を刻みこちらを睨みながらユサも返した。荷物が重いのか一度持ち替えてから、また歩き出しやっと彼の位置まで辿り着いた。
 「ウリの家の前で待ち合わせにしといてセーカイだったな。別の場所で集合して、またウリのところって言ってたら日が暮れてる」
 「まだ日没まで時間がある」
 淡々と反論する彼女を一瞥し、何故同じ人間なのにこうも歩くスピードに違いがあるのか考えた。
 「ちょっと貸して」
 試しに荷物を持ってみるもアタカにとっては大した重さでもない。片手で持っても村までなら平気で帰れる程度のものだった。
 「ほら、いこうぜ。本当に日が暮れたらイチタに慰謝料とられるから」
 冗談ではなく本気で彼ならせびってくるだろう。何故かいつもより目を大きく開けてアタカを凝視していたユサの手首を掴むと、無理やり引っ張って歩かせた。
 
 思った通り単独で行動していたイチタは先にウリの家についていた。長い間待たせていたらしく、二人の姿を視界に捉えると不気味な笑顔を向け
 「ア~タカ♪」
と語尾の調子を上げて話しかけてきた。
 「二人で楽しくお喋りしている間、ぼくは一人ぼっちでここで待っていたんだよねぇ。いつくるのかわからない二人を待って……ぼくは寂しさと、疑心と闘っていた訳だから、当然。慰謝料として請求してもいいってことだよね」
 ユサの脇を小突き「ほら、見ろ」と毒づいてから弁解した。
 「冗談だろっ。こいつとどうやったら楽しくお喋りなんてできるんだよ! やっと沈黙が減ってきたかなぁってくらいの進化しかないのに」
 「まぁそれは納得できるね。でも、まぁ今回はアタカが率先してユサの荷物を持ってあげているみたいだから許してあげる」
 「え? 持ってなかったら?」
 「もちろん。彼女の分も慰謝料を請求できるよねぇ。女の子に荷物を持たせる野郎を許せる訳ないもん」
 「………」
 理由がなんであれ、彼女の荷物を持っていてよかったと心から思ったアタカだった。
 
 
 荷物を持ったままウリの名前を呼ぶアタカを横目で捉えながら、ユサは不思議と感慨深い思いに浸っていた。
 率先して荷物をもってくれ、大聖堂の前でウリのことを気にかけていたアタカ。記憶にある限り彼に関しては、どうしても苛立つ印象しか覚えていなかったのにそれを覆す発見だった。
 「おーい! ウッリィ」
 声を張り上げ彼の名を呼ぶアタカ。三度目の呼びかけで窓が開き、暗い室内からウリが顔を覗かせた。
 「今暇かぁ? ちょっと遊ぼうぜー」
 ウリに向って両手を振るアタカの姿を捉え、少ししてからウリも手を上げて応えた。
 ちょうど光を正面から受けて下を向いていたので彼の顔に陰が宿り、表情が一切確認できなかった。けれどユサは、漠然とウリの様子が昨日とは違うと感じていた。
 根拠のない不安を、ウリの登場を今か今かと嬉しそうに待つアタカたちに告げることはできない。ただの杞憂に終えることができたらいいけれど、とざわめく胸を押さえ彼が門を開けて出てくるのを待った。
 
 彼が三人の前にくるまで、意外にも時間がかかった。ほんのり赤みを帯びた目を細め当の本人はその理由を笑いながら形容した。
 「実は下に降りて初めてお母様と顔を合わせたから、挨拶とか色々あって…待たせてごめんね」
 「広い家だとそんなこともあるんだねぇ」
 「俺たちの場合、逆に顔を合わせない日でも欲しいよな」
 軽口を叩く二人を微笑みながら眺め、沈黙していたユサにも話しかけてきた。
 「昨日より少し寒くなったね。そろそろ冬ごもりの準備に入らなくちゃいけないけど、ユサはもう始めているの?」
 「…まだ、今日から」
と言いアタカが持つ荷物を指す。
 明るく振る舞っているが昨日との態度にわずかに差異が感じられた。けれどユサ以外にその違いを感じ取った者はいないらしく、アタカもイチタも同じ笑顔を浮かべて会話を交わしている。
 「ふふ。アタカは荷物持ちなんだ」
 「しゃーなしだけど。こいつ、歩くの遅いし」
 照れ臭さからぶっきらぼうに答える。
 「そうだ。せっかくだから市場の方にいってみようよ。この時期は値切り時だからねー」
 可愛らしく肩を上げて笑うイチタの提案に異論は出なかった。ただ、ユサは気遣うようにウリの横顔を一瞥した。
 
 
 都のオオグラ市場は他国から輸入された商品なども並び、規模の大きさでも知られていた。
 店頭を飾る珍しい異国の食品などを眺めながら、アタカはユサとイチタの荷物持ちを強制させられた。見兼ねたウリも手伝ってくれようとしたが、彼に渡される商品はどれも小さくて軽いものばかりで明らかに贔屓をされている。
 「だってぇ、ほら、ぼくってこの可愛い顔と華奢で、今にも折れちゃいそうな雰囲気で値引きしてもらってるんだから。そんな大きな荷物持ってたら設定と矛盾しちゃうでしょ。それに力持ちのアタカが重たいものを持つって当たり前だし」
 相変わらずの弁解に最早反論する気も失せてしまったアタカ。ユサはユサで、できるだけ無駄なものは買わないようにしているものの、苗木など嵩張るものを選ぶのでそれなりに大荷物となっている。
 「イチタって逞しいね」
 横にも縦にも大きな五十代の女性を相手に値切り始めるイチタと、その隣でぼんやり商品を眺めているユサから少し離れたところに並び、ウリは呟いた。
 「……ずっと母一人、子一人だったから」
 ぽつりと、自分の身の上を話し始めるアタカ。幸い辺りは喧騒としていて二人の会話は聞こえない。互いに前を向いたままなので、こちらの表情からなにかを悟られる不安もなかった。
 「俺、竹藪で拾われた孤児だったんだ。親も自分の名前も、それまでどこにいたかも全部忘れてた。マキヒが俺を見つけてくれて、イチタと一緒に暮らすようになったんだ」
 けれど今朝、魘されていたアタカは何度も『シーウェス』という人物の名を呟いていた。まったく記憶にないとは言え、その人物が失ってしまった彼の半生になんらかの関わりがあったことは否めないだろう。
 「アタカは…本当のご家族と、会いたいって思わないの?」
 「………わかんない」
謎の人『シーウェス』について知りたい気もした。けれど、あの時イチタが見せた態度が気になって、素直にそうだとも言えずにいた。
「けど、俺、なんにも覚えてないし、会っても誰だかわかんないだろうな。今の俺にとってはマキヒとイチタが家族だし」
 ふっと言葉を区切り、アタカは人垣の向こうに続く青く澄んだ空を見上げた。
 彼とて、これまで考えたことがない訳ではない。同じこの空の下に彼を産んだ母親と、母親と共に父親がいるのではないかと、知らず知らずのうちに想像することは何度もあった。けれどそのたびに、どうして自分一人が竹藪に置いていかれたのだろうと疑問が衝いて出た。
 「あんまり考えたくないけどさ、たまには思う。なんで俺が捨てられたのかなぁって。俺がなにかしたから捨てられたのか、それともどうしてもそういう状況に追い詰められて仕方なく…だったのか。……マキヒは自分の子どもを好んで捨てる親はいないって言ってたけど、でもそれも矛盾する」
 「矛盾?」
 「だって、本当にそんな親がいないならなんで、ユサとか…孤児院で暮らした奴がいるんだってことになるだろ。だから俺、あんまり深く考えないようにしてるんだ」
湿っぽくなってしまった場を和ませようと、わざとあっけらかんとした口調で言葉を区切った。
 そして改めてウリの反応を見ようと体勢を変えると、彼の方からもアタカを見上げてきた。
 「俺もイチタもユサも、みんな、ウリがなにか悩んでいるって知ってる。けどな、ユサが言ってたけど俺たち、友だちだしずっと一緒にいれるんだから、いつでもいいし…いつかは、話せよ」
 
 
 意表を衝いたアタカの言葉にウリは思わず自分の耳を疑った。
 (悩みを……知っている? まさか、どこからそんなことが伝わったんだろう。誰にも話したこともなかったのに)
 それを隠し通す為に必死に生きてきたのに、どうしてだ。と自問を繰り返すうちに絶望に近い恐怖が大きくなった。
 民に知られてはいけない。王族の血をひくかもしれない子どもが、上級民として暮らしているだなんて。真実を確かめるよりも、不確かなまま闇に葬ることを選んだはずだったのに―――
 冷静さを失ったウリは必死にこの場をごまかすことを考えた。考えうる限りの打開策を提案しどんどん棄却していく。なんとかしなければ、と考えてもその裏で本当のことをすべて話し、共感して欲しいという願いがあった。
初めてできた友だちに隠し事をする後ろめたさが彼を更に責めた。
 (でも、どうしたら―――)
 なにも告げず、この国を離れてしまえばきっと三人とのつながりも消えてしまうだろう。そうすることが一番賢い方法で、最も危険が少ないとわかっているのに、その決断がつかなかった。
「どうして…?」
 乾いた唇を舐め、やっと出てきた科白がそれだった。
 「どうしてって…」
頭を掻きながらアタカも答える。
「理由っている? 悩んでるなら相談に乗るのって当たり前だろ」
 さり気ない口調だったが、ウリはそこから彼の思いやりを感じ取り胸が締め付けられるような気持になった。
 優しさに甘え、素直になればすべて楽になれただろう。
 いつまでも無理やり『いい子』を演じる必要などない。アタカたちは救いの手を差し伸べてくれている。けれど、ウリは硬く唇を噛みしめ首を横に振った。
 「まだ……言えない、から」
 今言えなかったら、一体いつになれば告げることができるのか彼自身もわからなかった。この国を離れてしまえば言えるのか。王との関わりを完全に否定すれば言えるのか。自分には言論の自由があるのか。考えるうちにそれ以上、口を開け続けることもできなくなった。
 「……ごめんなさい」
 絞り出した声は心の悲鳴のように、沈痛な響きを伴って謝罪した。
 
 
 イチタの値切りのおかげで定価の半分で干し野菜を買えたユサは、彼にお礼を述べてから荷物を一つにまとめて立ち上がった。
 「あれぇ、アタカたちはぁ?」
 イチタの問いかけにユサも顔を上げて二人の姿を探す。買い物客たちの邪魔にならないよう、二人は揃って道の向こう側の壁を背に立っていた。
 「あそこに…」
指差すと
「早いとこ、これ持ってもらわなくちゃね」
と言って自分の身の丈ほどもある荷物を背負い立ち上がった。
それを見て一人でも持てるのなら彼の手助けは必要ないのでは、と思ったが口八丁なイチタに反論するのも面倒だと思い黙っておいた。
「いこ」
アタカとは違い力づくで彼女を連れていくようなことはしなかった。手招きをするとユサよりも荷物は多いが、人の流れに逆らわずすいすいと泳ぐように二人の元へ向かった。
彼の背中を追いながら対するユサは何度も人とぶつかった。
「!」「いだっ」「……」
驚いて立ち止まる人もいれば怒る人、無言で去る人もいる。自分からぶつかっておきながら謝ろうとしないユサだったが、実は相手の反応を見てそれぞれの人格について想像を巡らせていた。
(反応が違うってことは、それだけ個性に差があるってことなのかな)
イチタとアタカの対応の違い。一緒に暮らしておきながらその差が生まれるというのは、彼らの性格に起因しているのだろう。
イチタは異性に対し優しそうに見えるが、実際は表面上の対応しかしない、とユサは思った。対してアタカは言葉こそ悪いものの思いやりのある人柄なのではないか。そしてウリは…
「……リ…」
お喋りをしているアタカとイチタの隣で俯いたままのウリ。彼の元へ辿りつくまであと数歩というところだった。ユサは視界の中心に彼を置き据え、進路を定めると直進した。
その時、左右を確認しなかった彼女の死角から、灰色のお団子頭が接近したのを確認した途端、左半分に衝撃を受けてユサは転倒した。
 
 
 俯いていたウリが何故か一番に目の前で起きたことに気づいた。
 「!」
 走ってきた女性と体当たりしよろめき倒れるユサを視界の隅に捉えた瞬間、それまで彼の脳を支配していた感情は一気に消え去りただ彼女の為に飛び出していた。
 「ユサ!」
 彼の呼び声に呼応してアタカたちが駆けてくるのが気配でわかった。
 「大丈夫?」
尻もちをつく彼女の元へ寄り、手を差し伸べる。
 眩暈を起こしたのかぼんやりと焦点の合わない目でしばらく彼を見詰めていたが、すぐに頷くとウリに向って笑いかけた。
 「おばさんもダイジョーブ?」
 傍で倒れていた灰色の髪を頭の頂きでお団子にした、四十代後半と思しき痩せ細った女性にも手を出すアタカ。
 「アタカってば失礼だよぉ」
 イチタの諫言も遅く、おばさん扱いされた頬がこけて緑色の目だけが大きく飛び出した女性は、顔を真っ赤にして怒った。
 「お、おば、オバサンですって?」
 ギョロリとアタカを睨むと飛び起きて見慣れない衣装についた砂を払い落し、外見に似合ったヒステリックな声で叫んだ。
 「私はまだ三十四歳! まだまだまだまだ若いのです!」
そしてウリに助けられ立ち上がるユサを睨み
「まぁーあなたも! 年頃の娘が若い男と手を手を手を、手をつなぐなんえぇ! 不潔です」
 噛みつかん勢いで否定されたのでウリは慌ててユサの手を離した。
 「あー嫌だわ嫌だわ嫌だわ。汚らわしい…汚らわしいったら汚らわしい……」
 ぶつぶつ半ば独り言のように毒づくと、そのまま彼ら四人には見向きもせず歩き去っていった。
 「…なに、あのおばさん」
 偶然ぶつかっただけにしてはインパクトの強い女性に、あっけに取られながらアタカがぼやく。
 「変な……変わった人だったね…」
 素直に彼に同意しながら、ウリはなんとなく同じ言葉を反芻していた彼女をどこかで見かけたように思えて気になった。
 
 
 「……今、笑ったな」
 宴に使われた費用の確認をしていたカミヨは、机の上に広げた書類に目を落としたまま傍らに佇むフサノリに向って話しかけた。
 「失礼を致しました」
 口元に微笑を浮かべたまま、フサノリは首にかけていたルビーの見事な装飾の首飾りを手に取りながら紡いだ。
 「…たった今、アマテル王の密命を受け、ロギヌシ教会指導者カロルが我が西国に侵入致しました」
 「!」
書類を持つ手にわずかに動揺が走った。けれどすぐに感情を殺すとカミヨは素知らぬ顔をして応じた。
 「わたしの暗殺と言っても、単独でどこまで実行できるのやら」
 「確かに…」
机の前に回り腰を屈めると、床に落ちていた紙を持ち上げ彼の前に提示した。
「念の為にカロル指導者の顔を描かせておきました。大して似てはいなくとも特徴のある顔ですので、ご覧下さい」
 抑えていた紙から手をどける。その下から一人の神経質そうな女性の似顔絵が顔を覗かせた。
 インクで描いた簡単な絵だったが、人物の特徴はよく捉えていた。着色もされているのでイメージも湧きやすい。
 「…陰険な顔をしている」
 髪を頭上で丸くまとめただけで大した御洒落もしていない。痩せていて頬がこけたぶん緑色の目玉が飛び出しているように見えた。灰色の髪の印象からか、実際の年齢より老けて見える。細身のこの体で一国の王を暗殺することができるのだろうか。
しかもイズサハルの勅命を受けてやってきた。あまりに馬鹿馬鹿しくて、カミヨはつい顔の前で手を振った。
 「いい、もう覚えた」
 これ以上見たくもないとばかりに紙をフサノリの方へ押しやった。
 「しかし決して油断されぬよう申し上げます。我々の為にも、王であるあなたを危険に晒す訳にはいかないのです」
 紙にかかる二人分の影を見詰め、カミヨは黙って首を振った。
 「わかりきったことを……」
 逃れきれない運命に身を置いた時からその覚悟はできている。残る人生を王として過ごさなければいけない以上、死に方も彼に選択することは叶わない。
 それが―――王なのだから。
 
 
 目の前に散らばった書類を見て、今日で何度目かの溜息を洩らした。
 「……どうなってるんだ…」
 壁に頭を凭れかけさせ目にかかるピンク色の髪を摘まんだ。慣れない色の所為で状況にそぐわず、目の前が明るくなったように見える。
 なにがどうなっているのかまったくわからない。けれど、いくら考えてもこの偶然だけは起こってはいけないと思った。
 これまでの火葬許可書と死亡通知書をすべて確認してみた。ずっとさぼっていた仕事だったので、すべて終えるまで丸二日間もかかってしまった。その結果わかったことを、どうしても認めたくないと思い先ほどから悩んでいる。次グリフがくるのは来週だ。それまでに自分自身の混乱とも区切りをつけておきたかった。
 …で、こんなことが堂々と行われているのに…飽くまでぼくは蚊帳の外って感じだなぁ。
 妙なところに感心しながら、つい苦笑を洩らす。知ってしまったからと言って、ぼくになにができる訳でもないのだから、こうして悩んでいる自分が滑稽に思えてきた。
 腱を伸ばした踵が金髪の少女の写真を踏んだ。
 同じ顔をした年齢の違う死亡通知書はぼくの手元にある。あと二人ほど同じ顔の死者が時期をずらしてこの塔へ訪れていた。
 「……どういうことなんだよ…」
 調べてみてずっと気づかなかったことにも驚いた。これまでぼくが灰に還してきた死者たちの中に、まったく同じ顔をした人間たちが紛れていた。
 おかしなことに彼らの死因も揃って心臓麻痺。どこまで統一すれば気が済むんだと、つい毒づく。
 顔だけで分類すると七組の同じ顔がいた。まさか双子や三つ子の訳がないだろう。生まれも育ちも両親にも、どこにも共通点はない。だけどこんなものを書面上だけで確認して納得する訳にもいかない。況してやこれでも公務員の端くれだ。国家がなにをしようとしているのか、それを知る権利だって十分にある。
 「…知るのと、行動するのは違う」
 例え国が倫理に反することを行っていたとしても、その国の上に存在し根づいているぼくに否定する気持はない。なにが正しくてなにが悪いのか判断基準さえ曖昧だからこそ、こうして生き抜くことができている。
 知りたいというのは別に、正義をかざして悪を撃退しようとか言うつもりなんかじゃない。ただ知的好奇心を満たしたいだけだ。国家に反逆するつもりなんてさらっさらないんだと、まるで言い訳するみたいに呟く。
 けれど何故か不安だった。知識を得ることで変わっていくことへどうしても恐怖を抑えきれずにいた。そしてその思いが、今クッション代わりに腰に当てている、寝室から見つけ出した母の手記を開くことさえも躊躇わせていた。
 突然やってきて、母がなにかを残さなかったかと聞いてきた叔父。塔から駅まで成人男性が走っても十五分はかかる。咄嗟に彼の後を追って出たのに、ものの数分の間に叔父の姿はどこにもなかった。
 実際に母親やぼくの名前を知っているからと言って親戚である証拠はどこにもない。それに傷だらけのあの顔は、いかにも疑って下さいっと言っているようなものだ。
 もし彼がなにか金銭的な利益とは別の目的でぼくに近づいてきたのだとしたら、一体なにを狙うだろう。と考えてから、ふと現在自分が置かれている状況と疑問が一直線に結ばれた。
 母さんの遺産が目当てじゃなくて、ぼくの手元にあるもの。つまり、この大量につくられたまったく同じ顔を持つ死者たちのデーターだ。奴の狙いはそこにある。
 そう考えると次々と空いていた疑惑はパズルを埋めるように、全体の姿を徐々に明らかにしていった。
 元々この仕事だって母さんのコネがあったからだ。明言はしていなかったものの、もしかしたら母さんがここに座り死体を焼いていたかもしれない。それが急逝によりぼくに仕事が回されたと考えれば納得できる。
 だけど待てよ…だとすると、あの叔父を名乗る男は政府に反発する存在ってことになるんじゃないか。同じ顔。つまりこれはクローンだ。国がクローン技術を駆使して生産した子どもたちが揃って同じ死因でここへ送られている。それだけでも十分に倫理や道徳に反しているだろう。非難中傷の的にはもってこいだ。
 つまりぼくの腰と壁の間に挟まっている手記には、国家機密事項が記されている可能性があるんだ。
 途端に腰なんかに挟んでおく訳にもいかず、慌てて取り出し表面の埃を拭った。
 今時アナログにも再生紙の手帳に手記を残すなんて、あまり記憶にはないけど母親は結構ロマンチストだったのかもしれないと思った。この時計だって手巻き式だし、見た目はいいけど螺子を巻き忘れてしまえば面倒だ。
 「……開けてみようか」
 誘惑がぼくを誘う。手帳の大きさは葉書サイズだけど厚さは結構ある。ずっしりとした重量感が、妙に表紙をめくろうとする指にプレッシャーを与えた。
 だけどなんだか怖い。誰が見ている訳でもないのに緊張してしまう。
 心臓が耳元でうるさく鳴り響く。いつの間にか暖房もきいていないのに、手帳を持つ掌が汗ばんでいた。
 待て待て。落ち着け、落ち着かなくちゃ。
 どんどん高まっていく緊張に耐え切れず、肩の力を抜いて大きく深呼吸をした。新しい空気を取り込んだ脳は少し冷静さを戻し、さっきとは違う視点で手帳を見詰めることができた。
 こうして仕事をする前まで、接点が少ないながらも一緒に暮らしていた母のことが思い返された。狭いアパートの一室に暮らしていた。朝どんなに早く起きても、夜遅くまで起きていても母とはあまり顔を合わせる機会がなかった。学校へもいってなかったぼくは結構暇を持て余して暮らしていた。
 母子家庭と言っても金銭的に困っていた訳ではなく、新しいゲームが出たらすぐに買ってきてくれたし週に何回か家政婦みたいな人がきた。
 一日のほとんどを家で過ごし、これと言った命令をされるでもなく完全に放任されて育った。アパートには同じような家庭環境の人が多く暮らしているらしく、片親だったり両親が揃っていたり、また独身や子どものいない人もたくさんいたけれど、互いに外へ出る機会がなかったので隣に誰が住んでいるのかさえ知らなかった。
 会話の少ない親子だったけれど、不思議と母親から嫌われていると思ったこともなかった。いつも忙しそうに動き回って慌ただしく出勤していく母の背中を見ながら、これといった疑問を抱くこともなく毎日が過ぎていく。
 今のぼくは、あの頃のぼくと似ているかもしれない。いや、グリフと友だちになるまでのぼくが、あの頃とまったく同じだったんだ。
 単調な日常はただただ、平和の代名詞であり不満もなにもなかった。突然、例のウィルスによって発症しない限り、こんな生活が続くのだと信じてきっていただけに、本当に不意打ちのようにやってきた母の死には驚いた。
 驚いたけれど、それをどうやってあらわせばいいかわからなくて、葬式の準備をする大人たちの邪魔にならないよう、隅で大人しくしておくぐらいしかできなかった。
 それからの時間の流れ方には目が回るようだった。いきなり住んでいたアパートから追い出され、こんな地上の孤島にある塔へ連れてこられた。死体を焼くのがぼくの仕事だと言い渡された瞬間から、なにも考えずにきたのはこの為だったのだと思った。
 感情があれば辛いとか、悲しいといった遺族に同調してしまう。そうやってボロボロになってこの仕事を辞める奴が多かったけれど、ぼくの場合なら大丈夫だろうと政府の連中は言っていた。
 辛い…悲しい……そんなものがわからない連中が国のトップに立っている。けれどそうでもしなければ生きていけない現実がある。
 守るべきは自分の生活。知識は力になる。クローンを大量につくり国がなにをしようとしているのかわからない。冷静な頭で考えてみれば残酷なことかもしれないけど、でも、国家がそうしているってことは、現実にその必要性が迫られているからだ。
 国に守られて生きている以上はその指針に従わなければいけない。
 憎むべきは悪ではなく、この時代に求められたものを否定する異端者たち。彼らは同じ人間であっても、ぼくらが生きる術を否定しようとしている。
 もう一度表紙に薄らかかった埃を拭う。
覚悟を決めたぼくは、その手で手帳を開いた―――
 
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