夢に楽土 求めたり

青海汪

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第四話 指標と墓標の狭間

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四人が親しくなるまで、それほど時間はかからなかった。元々、マキヒがウリの家に通っていることもあって話題には困らなかったし、身分の違いなどこれっぽちも見せないウリの分別ある態度に、表だって見せないものの生来から警戒心の強いイチタも次第に屈託のない笑顔を浮かべるようになった。
 それだけではない。ウリには人の心を動かす才能がある、とアタカは思った。彼らがいくらユサに話題を振っても芳しい答えは返ってこないのに、ウリが話しかけると同じ無表情ながらも圧倒的に柔和な態度で応じた。
 イチタがマキヒに絵をプレゼントすると話すと、彼女の絵を見て大きく頷き
「これは最高のプレゼントだよ。イチタがここに描かれている風景を伝えるんだ。普段とは逆に、うんと心をこめたらきっと喜ぶよ! ぼくがマキヒだったら絶対に嬉しい!」
 まるで自分がプレゼントをもらうかのように素直に喜びをあらわにするウリに、イチタも気をよくしたらしくフフフッと笑い声を洩らし、紙が折れないように丁寧に巻いた。
 「ユサの絵は今に人気を呼ぶよ」
 「………だと、いいけど…」
 「ぼくが気に入ったくらいだから大丈夫だって。ねっ、アタカ」
 突然話題を振られたので、アタカはキョトンとしたままイチタを見詰め返した。二人が揃ってユサの作品を褒めているのに自分はあまり好みの画風ではないと言って、雰囲気を悪くすることもできずしばらく考え込む。その間にイチタの青い瞳が怪訝そうに歪むのを見て
 「あ、売る奴の愛想がもっとよくなればいいけど」
と繕った。
 「まぁそれは言えてるねぇ」
 素直に同意するイチタ。ウリもその点には賛成らしく、ユサの作品を眺めながら苦笑をしていた。
 「………私が、無愛想?」
 「う…口数が人より少なくて……感情表現がちょっと…独特、なのかな?」
ウリの精一杯のフォローに今度はアタカたちが吹き出した。
 「要はそれを無愛想と言うんだって」
 「自覚できるようになったら、ある程度改善されるよ」
首を傾げるユサを一瞥し
「何年後になるかわからないけどぉ」
 「アタカもイチタもちょっと言い過ぎだよ。まだ初対面なんだから…」
 「初対面って感じじゃない」
 間髪入れず口を挟むユサ。彼女が沈黙もせず言葉を発したことに驚いたアタカたちも、衝撃的な告白をされたウリも彼女を見詰めた。
 「ウリにだけ反応したってことは恋の芽生えってことかな? うわぁ…こういうことがあるから、女の子っていいよね。玉の輿に乗れるし」
 「なんで俺らだけ覚えてないんだよ」
 冷やかすイチタに不貞腐れるアタカ。しかし当の本人はそんなこと構わず、真っ直ぐにウリの瞳を見ていた。
「えっと、あ……ありがとう…」
とりあえず、場の収集をつけられず答える彼の顔はほのかに赤くなっていた。
 「あ、でもこういうことってあるかもしれないよね。お母様が仰っていたけど、マキヒや、そう。お父様と会った時も初めてなのにそんな気がしなかったって」
 「ふぅん。……モロトミ様と奥様って結構、仲睦まじい夫婦なんだねぇ」
 惚気を囃す口調だが、その言葉の奥にわずかな嫉妬を感じ取ったのはアタカだけだった。おそらく夫婦という関係にマキヒとクラミチを重ね、そこに割って入る隙間もないことに苛立ちを覚えたのだろう。
 話題を変えようとしたアタカだったが、彼が発言するよりも先にウリが
 「…そうでも、ないよ」
 と憂鬱そうに呟いた。
 
 
 イチタの言葉に、ウリは思わず積年の思いをぶつけてしまいそうになった。それが決してよき類のものではないことは重々承知している。下手をすれば国民たちの王へ対する信頼さえも失いかねないものだというのも知っていた。
 母のジュアンはカミヨの父、先代の王の側室だった。王の崩御の後に父の元へ嫁ぎ、彼が生まれた。種が先王のものか、現在の父のものか誰もわからない。わからないから建て前としては父のノキの姓を名乗っている。同じ姓を使うと言うことは、家族になるということだと家庭教師たちは力説していたけれど、俗に言う下級平民たちが上級民以上の相手と結婚しても、その子どもたちには苗字が与えられない。どんなに相手や子どもたちを愛していようが、越えられないものを国家が築き上げている。
人が人を差別し分け隔てをつくる理由がウリには理解できなかったし、したくもなかった。父モロトミが自分を疎んでいる理由について考えたくもないのと同じように。
 「そうだ、これからぼくの家へこない? ちょうどマキヒもいることだし、新しい物語ができたって言っていたんだ」
 明るい口調を意識しながら初めてできた友だちに笑いかける。つい口走ってしまった言葉を、三人の意識から払拭しようとする焦りもあった。
 「仕事はどうする?」
 「ん~……とか言いつつ、アタカの顔はすっごくいきたいって言ってるからいこうか」
 本音を突かれたのか恥ずかしそうに後頭部を掻くアタカ。これまでのやりとりから察するに、二人は親友に近い間柄なのだろう。阿吽の呼吸と言う言葉が思い浮かぶ。一を言えば十まで言わずとも理解できるそんな二人の関係に淡い憧れを抱きながら、ウリは彼らが招きに応じてくれたことを素直に喜んだ。
 「ユサは?」
 長い沈黙の後、なかなか売れない服や絵を見回し
「苗木を買いたいからいかない」
とぼやいた。
 「苗木?」
疑問符を浮かべ問い返したが、ユサは口を固く閉ざしたまま答えなかった。
 「役に立たないばっかり買ってるから、家の前で大根腐らせたりするんだよ」
 後ろで茶々を入れるアタカに、さすがのユサも一瞬鋭い眼差しを向けて応えた。
 「役に立たないものじゃない」
 珍しく彼女が語気を荒げたのでウリも驚いた。同時にこうしたやりとりが過去にもあったから、理由を言いたくなかったのかもしれないと瞬時に理解した。
 「自然があったらそれだけ景観がよくなるね」
 憎々しげに睨み合う二人の間に割って入りユサに微笑みかける。イチタも加勢し
「アタカもちょっと言い過ぎ。せっかく上流階級の家にお邪魔するチャンスなのに」
 後半がきっと彼の本音だろうな、と思いながらウリもユサを宥めた。
「せっかく友だちになれたんだから、仲よくしようよ。ね、今度、改めて遊びにきてくれる? 西国から輸入した月桂樹を植えたんだ」
 
 
 月桂樹と言われてもどういうものか知らなかったけど、きっと苗木の種類だろうと思いユサは頷いた。
「よかったぁ」
この四人の中でも一番年下である彼なのに、先ほどからの応対はまるで礼儀を弁えた大人のような態度だと感心する。その癖鼻にかけたところもない。あまり人に懐かない彼女だったが、ウリが醸し出すマイナスイオン効果もあってか思いもよらぬ友人が三人も生まれたことを、無表情ながらも密かに喜んでいた。ただアタカに関しては、嫌味な奴だと言う印象を抱いたままだったが。
 「それじゃあまた」
 嬉しそうに踵を返し、まだ不機嫌そうに眉間に皺を刻むアタカとイチタを連れて去っていくウリを見送る。
三人が風よけになっていた所為かわからないが、急に灯火を失ったような切なさを感じ孤独を覚えた。お互いの住まいさえも知らないのに友だちだと言っていた三人。この先また会うことがあるのだろうか、と考えながら胸の痛みを堪えた。
 しばらくして、ユサの品を見てくれる人が増えてきた。殊に絵に関してはどこを描いたものなのか、と積極的に話しかける者もあらわれた。立ち止まる人を見てまた誰かが立ち止まり、次第に彼女の周りには人だかりができていく。
 これまで見向きもしなかった身なりのよい人々も、わざわざ絵を手にとって称賛してくれた。
 「……これは…想像の、世界で…」
 客の質問に言葉少なく応えながらユサは、先ほどの三人との出会いが、自分を取り巻くなにかを変えたと直感した。
 
 
 初めて足を踏み入れる上級民の屋敷に、アタカもイチタも驚嘆と羨望を隠すことなくあらわにした。
 彼らの家よりも大きく立派な門をくぐり、村長の家よりも広い庭を越えてその先に佇む家と言うよりも屋敷のような建物を見上げ開けた口を塞げずにいた。
 「すっげぇ…俺、こんな綺麗な家初めて見たぁ。イディアム城もすごかったけど、上級民でこんなにすごいとこに住めるんだなぁ」
 「年収はどのくらいなんだろ…維持費とかも考えても、結構するよねぇ」
素早く計算を始めるイチタを尻目に捉え、アタカは素直な感想を述べた。
 「お前ってやっぱり、恵まれてるよ」
 それは嫉妬とかそう言ったもののない、正直な彼の気持ちだった。上級民の両親の間に生まれ、恵まれた容姿と上品な物腰や人を疑わない真っ直ぐな精神も、きっとこのような立派な屋敷に住んでいるから得られるものなのだろうと単純に結論づけていた。
 けれどウリは、しばらくなんとも言えない複雑そうな表情でアタカを見詰めて俯いた。なにか反論したかったのかもしれないが、次に彼の口から出た言葉はまったく別の話題だった。
 「お昼ご飯はもう済んだ? ぼく、まだ食べてないからお腹が減ってるんだ」
 笑顔を浮かべるウリに、イチタは即座に頷いた。
 お腹を鳴らしアタカも相槌を打ったが、先ほどの彼の表情に腑に落ちないものを感じながらウリに続いて屋敷の中へ入っていった。
 
 吹き抜けの玄関も廊下に飾られた装飾品も、どれも高価で趣味のいいものばかりだった。やや花とか妖精といった、女性が好きそうなモチーフのものが多いのが気になったけれどそれでも屋敷に主の趣味のよさは十分窺い知れる。絵画もいくつかあったけれど、それらの中にはウリが買ったユサの絵のような、無機質で冷たい雰囲気を感じさせる類のものは一切なかった。
 と、すぐ近くの部屋から笑い声が上がった。マキヒがいる、と思った二人の胸中を察し素早くウリがその扉をノックする。
 少し間を置いて扉が内側から開き、そこにはウリによく似た金色がかった茶色の髪を長く垂らした、紫色の瞳がとてつもなく妖艶で美しい女の人が立っていた。
 「お帰りなさい、遅かったわね」
「ごめんなさい。大聖堂の方へいって買い物をしてきたので」
 「そう」
ウリが手に持つ紙を一瞥してからゆっくりと視線をアタカたちにも向ける。
 正面から見られるとその美しさがより際立ち、二人は揃って顔を赤らめ立ち竦んだ。
 「マキヒのご子息で、右がイチタ。左がアタカです。ぼくの友だちなんだ」
 嬉しそうに二人を紹介するウリの傍らで、アタカとイチタはアイコンタクトで密かに心情のやりとりをした。
 (俺、なに喋ればいいのかわかんない…)
 ウリにそっくりなものの、相手はやはり年上の貴婦人。まだあどけなさの残るウリと比べ、年を重ねて生まれる内側から匂いたつ色気にはさすがのアタカとイチタもたじろいでしまう。
 「綺麗な人だし拝観料とられたらどうしようか?」
 「…こんな状況でも金のことしか考えられないお前って、根っからの守銭奴だよ」
「あ、でもさ、ぼくもいくらかはとれるかな?」
「……ついてけない。てか、そんなお前を」
尊敬する、とぼやくアタカ。
 「あんたたち、こんなところでなにしてるんだい!」
 部屋の中からマキヒの声が聞こえる。
 「可愛らしい息子じゃない」
ジュアンが笑いかけながら、振り返ったので奥のソファに座るマキヒの姿が見えた。
 「まさか私の後を追ってきたんじゃないよね?」
 「ち、違うよ! 偶然寄ったところで、ウリに会って仲よくなったんだ。そうだよね、アタカ?」
 「うん。マキヒがクラと結婚するから、お祝したくて買い物に寄ったんだ」
 思わず口を滑らしたアタカの言葉に、ジュアンもマキヒも口を開けて驚いた。
 「あら、いつのまにそこまで進展していたの? 私にはなにも教えてくれないなんて、ひどいじゃない」
 「ち、違うのよ! アタカも…! あんた、なに言ってるのよ」
 マキヒの慌て方がイチタとよく似ていると思いながら
「え? でも昨日の祭りでプロポーズされたんだろ?」
と突っ込んだ。
 「まぁ素敵…。クラミチも意外とやるわね」
魅惑の美貌を持ちながらコロコロと人懐っこそうに笑うジュアンを見上げ、その姿もウリによく似ていると思った。
 「じゃあ母さん、断ったの?」
 「断ったもなにも…」
顔を真っ赤に染め上げながらマキヒは、焦点の合わない瞳でこちらを見詰め力強い言葉で続けた。
 「クラミチはね、私たち三人を支えたいって言っているの。家族になりたいとか、結婚したいとかじゃなくね。私は今の生活を大切に思っているし、それも理解してくれてるわ。だから、肩書きとかに囚われない、気持の上であんたたちの『父親』になりたいって言ったのよ」
 熱くなった顔を手で仰ぎながら恥ずかしげに
「もぅ…なにを勘違いしているんだか。あんたらもやっぱり、まだまだ子どもだねぇ」
とぼやいた。
 気持の上で父親になりたい。それは、アタカやイチタという血のつながりのない他人の子どもを、自分の子のように思っていると言うことなのだろうか。
 「じゃあなにも変わらないんだね」
 嬉しそうに叫ぶイチタの横顔を見てアタカは密かに疎外感を覚えた。例えクラミチが父親になったとしても、彼は決してアタカの実の父親ではない。マキヒだって決して彼を生んでくれた母親ではないのだ。
 自分には竹藪で拾われたという確固たる事実が存在する。けれどイチタには証拠がない。あくまで憶測の範疇を越えていないのだ。
 真実が曖昧なままだったら、イチタのようにマキヒとよく似た部分を見つけて自分を納得させることだってできただろう。心のどこかで本当の母親なのだと、一縷でも希望を抱いて生きていくこともできる。
 (俺はやっぱり…捨て子なんだ)
 胸に突き刺さる言葉を呟き、喜び飛び跳ねるイチタの隣で複雑な思いに苛まれる。
 切なさと苦しさで、心がいっぱいになった。
 
 その後アタカたち三人は、夜までウリの屋敷に滞在し夕食を共にした後もしばらく談話を楽しんだ。
 すっかり寛いだ様子のイチタの傍らで、ウリと向き合いながら世間話をしていた。マキヒもジュアンとの会話に華が咲いているらしく、さっきからずっと二人で楽しげに話をしている。
 「まだ腹、パンパンに膨れてるよ」
 夕食に出された豪華な食事の数々を詰め込んだお腹をさすりながら、もう一生あんなに素晴らしい御馳走を食べることはないだろうと痛感した。
 「アタカは食べ過ぎなんだよ。意地汚いなぁ」
 「けれどよかったよ。ぼくとお母様だけだから、いつも残しちゃうから」
 確かにジュアンと、ウリの二人だけでは到底消化しきれる量ではないだろう。愛想のいい顔をした家政婦を思い出し、なにを考えて大量につくるのか考えた。
 「わかった! あの家政婦が残り物を折詰にして持って帰ってるんだ」
 「なるほどぉ。その手があったかぁ」
ポンと手を叩くイチタ。「材料費もタダだし、ちゃっかりしているよね」
 「そんなことはないと思うけど…お父様が、いつ帰るかわからないから」
微妙に否定しきれない口調でやんわりと言葉を挟む。
「それにこれから、アタカたちがまたちょくちょく遊びにきてくれたら無駄にはならないよ」
 「あ、それはいいねぇ。ぼくらも助かるしウリも助かるってことは、まさにお互い様だもん」
 調子よく彼の提案に乗るイチタを睨み
「絶対に家政婦よりお前の方がちゃっかりしているよ」
と毒づいた。
 「ぼくがちゃっかり者なら、アタカはひねくれ者だよ。友だちなんだから、甘えられるところは甘えて、頼るところは頼って。任せられるところは任せなくちゃ」
 「だからイチタの場合は、全部、それを相手にやらせてるってことだろ。自分から甘えさせたり頼らせたりしてないじゃん!」
 「いやーだなぁ。僻んじゃってぇ」
 「ぬかせ! ウリも騙されるなよ。絶対にダダじゃ動かない守銭奴だから」
 「えぇ…! そっかぁ、じゃあイチタにお願いする時はお金をたくさん用意しないといけないね」
どこまでアタカの言葉を本気に捉えているのかわからない返答だったが、イチタもそのまま悪乗りした。
 「友だち割引するよ。ウリなら半額でいいや」
 満面の笑顔を憎々しげに思いながら「俺の場合は労力を使ってだけど」こぼす。
 「だってアタカ、お金ないもん」
 まったく悪びれる様子もないイチタと、そんな彼の対応に歯軋りを鳴らすアタカを見てウリが爆笑をした。
 
 
 お腹を抱えて笑いながら、ウリは目尻から涙がこぼれるのを感じた。こんなに大声で笑ったのは久しぶりだ。いや、生まれて初めてかもしれない。声の出し過ぎで喉とお腹が痛くなるというのも初めての経験だった。
 「あらあら…珍しいわね。あなたがそんなに笑うなんて」
マキヒとの会話に夢中になっていたジュアンが、驚いた眼差しで息子を見詰めた。その声を聞いたマキヒも、クックックッと忍び笑いを洩らす。
 「ごめんなさい…だって、二人のやりとりが、すごく面白くて」
 涙を拭いながら答えると今度はイチタたちに目を向け
「息がぴったりだよ。家族より家族らしいかもしれない」
と絶賛した。
 が、すぐに『家族より家族らしい』という言葉にもう一つの意味を見つけてしまい、母と目が合った瞬間にとても気まずい空気が二人の間に流れた。
 事情を知らないアタカとイチタは、そこまで彼に受けるとは思わなかったらしく心外とばかりに顔をしかめたが、顔を合わせ照れ臭そうに笑っている。マキヒも息子たちの肩を叩き
 「あんまり悪乗りしたらだめよ」
と母親らしく注意をしていた。
 視線を絡めたまま黙り込むジュアンとウリ。
 あのことに関してちゃんと母と話し合ったことはなかったが、母もウリある程度の疑問を抱いていることは承知していた。だから彼の家では『家族』という言葉が禁句になっている。一般的な『家族』に定義されるだけの愛情や、信頼、そして揺るぎない絆と言うものがどれも欠如している彼らにとって、いかに普通の『家族』らしく周囲に認識されているかが大きな課題ともなっていた。
 王位継承者…前王の最後の子ども……イザナム王の弟………。誕生日が近づくたびに囁かれる疑惑を振り払うが如く。父のモロトミは母と協力し、自宅の外では努めて仲睦まじい夫婦を演じていた。お互いに愛し合って生まれたとウリを紹介し、わざと自分には似てなく鼻が高いんだ、とあの父が冗談さえ言ってのけた。
 真実はきっと墓場まで持っていくのだろう。父は、例え本当の息子だったとしても…彼を心から受け入れることもないと、ウリは確信していた。
笑った時の表情が早くも硬直している。耐え切れず母から視線を逸らす代わりに、ウリはもう一度彼女にだけ聞こえる声で
 「…ごめんなさい」
 と呟いた。
 
 
日が暮れる前に都を発ったが、村へ着いた頃には辺りはすっかり暗く闇の中に沈んでいた。夜目に慣れているユサは黙々と家路を辿る。用意した衣服のおよそ大半と絵はすべて売れてしまったので、帰りはやや足取りが軽い。
 売上の三分の二を使って新しい苗木を適当に買ってきた。都から戻る途中で、目についたところに植えてきた為、手足は泥で汚れ彼女の顔も真っ黒になっていたが満足感からそこには笑顔があった。
 浮足立った歩調で灯りの少ない村へ入ると、彼女の家屋から漏れる淡い橙色の明かりが目に入った。戸口に誰かが立っている。
 咄嗟に隣人のショウキが彼女の帰りを待ち構えていたのかと思い、身構えたがよく見るともう一人、誰かが家から出てきて入口あたりで向き合い喋っている。
 「……に………い、から…」
 「うれ……いで………」
 細々と会話が聞こえるけれど、その意味までわからない。声から相手が女性であることと、ショウキがとても嬉しそうに笑っていることだけは判断できた。
 機嫌がいいのなら彼女と顔を合わせても怒り狂ったりしないだろう。それはそれで喜ばしいことだが、こんな風にはしゃぐショウキを見るのは久しぶりでユサは、無表情ながらも心の奥で怖いとも感じていた。
 短い別れの言葉らしきものを交わすと、来客の女性はショウキの元から去った。わざとゆっくり歩いているユサの方へ真っ直ぐ向かってくる。暗がりでよくわからないが、見慣れない衣装を身につけている。髪を耳の下あたりで切り揃えた、一見して我の強そうな女性だ。
 距離がだいぶ縮まったところで女性の方もユサを見た。ふっと、その目が大きく見開かれる。
 どこかで会ったことがあっただろうか。記憶を総動員させ思い出したが、まったく覚えがない。それでも相手は、両手に提げた風呂敷包みを一瞥し優しげに微笑むとユサに道を譲った。
 擦れ違った瞬間。女性から酒の匂いがした。
「…たくさん売れた? ユサちゃん」
「!」
 名乗った覚えもないのに名前を知っている。背筋に冷たいものを感じ、薄気味悪さに思わず両腕をさする。
 絶対に面識がない。それ故に消化しきれない疑問を抱えながら、取りあえず家に辿り着く。その間ずっと女性を見送っていたショウキが、優越感をあらわにした笑みでユサを見返すと
 「せいぜいそうやって、地べたを這いつくばって働きなさいよ」
軽蔑しきった口調の端々に、抑えきれない喜びが溢れている。頭皮にこびりついた土を掻き落とし、もはや慣れきった彼女からの罵詈を聞きながらユサは夕食をどうしようか考えた。
 「ついに私にチャンスがきたのよ。私はただの孤児じゃなかった…! 世界から認められる存在になるんだから!」
両手を広げ星空を抱えるように仰ぐと、恍惚とした表情で彼方を眺める。
 しかし次の瞬間には元の鋭い眼差しでユサを睨みつけた。そこに秘められた憎しみに思わずユサも我に返る。
 「忘れてないから。あの時、あんたが受けるはずだった屈辱を…何倍にもして返してやる…! 絶対に、絶対にあんたなんか、一生幸せになれないようにしてやるから!」
 今度は平手が飛ぶことはこなかった。けれど、言葉が平手以上の痛みを伴って響いた。
 「…ごめ……」
 語句の最後まで告げるよりも先に、鼻先で扉が閉められる。
 あの時―――あんなことが起きなければ、二人はいつまでも変わらず友情を築くことができただろう。今朝知り合ったアタカとイチタのような、お互いを知り尽くした友だちになれたはずなのに。
 「ごめん……ショウキ…」
 涙で顔の泥を拭いながら、ユサは小さく呟いた。
 
 
 結局、空に月が高く昇るまで滞在したアタカたちは、すっかり打ち解けたジュアンとウリに見送られて都を後にすることになった。
 イチタが盲目のマキヒの手を引いて、三人で月明かりに照らされた道を歩く。二人の姿を後ろで眺めながら、アタカは楽しかったひと時を思い出し余韻に浸り溜息を洩らした。
 「溜息すると幸せが逃げるんだよ」
目が見えない分、マキヒは聴覚や嗅覚に優れている。すぐにアタカの方を振り向いた。
 「いーの。俺、さっきまで幸せだったから」
 「よく言うわよ」
ぼやくマキヒ。
 「それにしてもさ、ウリのお父さん…結局帰ってこなかったね。仕事が忙しいのかな」
 「宴がもうすぐだもんなー」
両腕を背中で組み、大きく伸びをするアタカ。今夜はよく晴れていて月も星もとても綺麗だった。
 「…あんたたち、これからもウリ坊ちゃんと仲良くしていくつもりなんだね?」
 唐突な質問にアタカだけではなくイチタも、
 「え?」
と首を傾げた。
 「仲良くなりたいんだろ?」
 真剣な口調にアタカもイチタと顔を見合わせ「うん…」と頷いた。
 「そっかぁ…」
長い溜息と共に吐き出すと、アタカの方に空いている手を差し伸ばしてきた。
「ほら、アタカもおいで」
 右にイチタの手を掴み、左にアタカを寄せて手をつなぐとマキヒは二人の首に腕を回して抱き寄せた。
 「な、なにするんだよぉ! マキヒ!」
 「ひー母さん。いつの間に酔っぱらったの?」
 同時に悲鳴を上げるも二人の叫びを無視して、マキヒはなにも映さない虚無の瞳で空を仰いだ。
 「国の為に身を捨てる人がいるから、私たちはこうして家族の為に生きることができる。覚えておいで。この先、ウリ坊ちゃんの友だちでありたいならね」
 「そんな、それだけじゃ意味不明だよぉ」
マキヒの腕に抱き締められながらイチタが苦しげに言った。
 「要はウリたちに感謝しろってことなのか?」
もがきながらアタカも答える。
「ちょっと飛躍しているけど、アタカは頭がいいね。ものの本質を見抜く才能があるのよ」
と褒めてから、マキヒはアタカの頭をもみくしゃになるまで撫ぜ回した。
「あのご家族はにはね、深い事情があって…みんな、誰かの為に我慢をしているんだよ。この先ウリ坊ちゃんが悩み苦しんでいくだろうけど、あんたたちはね。坊ちゃんと心を共有できるだけの優しさがある。一緒に苦しんであげてちょうだいね」
「でもさぁ、その事情とか知らないのにどうやって一緒に悩むの?」
「マキヒが知ってるなら俺たち、出番ないんじゃない?」
 「とんでもない!」
二人の質問に大げさに首を振って見せる。その弾みでアタカたちもやっと腕から逃げ出すことができた。
 「私もなにも知らないわよ。知らないけど…感じるものがあるから、そうだろうなぁって思っているの」
 「それが有名な女の勘ってやつ?」
今度は少し距離を置いてマキヒの手を取り、イチタは夜道を歩きだした。
 「そう…かもしれないね。だけど私の勘は当たるのよ」
 「じゃー俺も明日の晩飯当てようっと。昨日貰ったカブが残ってるから、カブと鶏肉の串焼きだな」
 「デザートに蜜湯が出るでしょう」
 「きなこも混ぜて、な」
 楽しげに喋る二人の息子の手を握り、マキヒは
 「はいはい。その分、手伝ってもらうからね」
 と笑いかけた。
 
 
 三人が帰った後、屋敷は元の静けさを取り戻した。テーブルに並ぶ五人分のカップと茶菓子を片づけ、少し散らかった室内を清掃するといつもの風景を取り戻す。
 テーブルに置いていた花瓶を窓際に移し、ふっと窓の外を一瞥する母。彼女の挙動をそれとなく眺めながら、ウリは月がもう傾き始めているのに父が帰らないことを密かに危惧した。
 (宴の準備で…忙しいと言う建前があるから)
 その建前を大いに活用し、モロトミはここ最近ほとんど家へ帰ろうとしなかった。三日に一度、ジュアンが使いの者に衣服などの必要物を城へ届けさせているが以前音沙汰はない。昨日帰ったことも家に必要な書類を置いてきたから、と完全に目的があってのことだった。
 むしろ父も母も清々しているのではないか、とウリは勘繰ることもあった。傍から見ても心の離れた二人だが、それでもウリの為に。いや、ウリがいる所為で離縁することも叶わずにいる。顔を見合わせても会話さえ生まれない仲ならば、いっそのこと、一生このまま父が帰ってこない方がみんな、幸せになれるかもしれないとさえ思える。
 けれど暗がりに沈む門のあたりを一心に見詰める母の横顔は、決してモロトミを愛していないとは言えないだろう。
 (……すべて、ぼくの所為だから…)
 鉄釘で心を掻かれるような痛みがする。何度も打ち消してきた考えだったが、そう意識すればするほど、まさにそれが答えのように感じられてきた。
 (心が痛い。悲鳴が聞こえそうだよ…)
 歯を食いしばり痛みを堪える。けれど痛みは涙腺を刺激し、うっすらと視界が涙でぼやけた。
 「初めて尽くしだったわね」
 唐突に母が話しかけてきた。分厚いカーテンを閉めて振り返ると、美しい口元に薄ら笑みを浮かべウリを見据えていた。
 「あなたがこうして友だちを連れてきてくれるなんて、初めてだったわ」
 その発言にウリはわずかに俯いて肯定した。
 「アタカって子は少し目がきつくて素敵ね。しっかりした性格みたいだけど、打ち解け易いわ。なによりあなたにないものを持っているもの」
 確かにそうだった。最初の曲がり角での出会いでも、彼はものすごい大声でウリを怒鳴ったと思った次の瞬間には、もう笑顔を見せてウリを『面白い』と評価してくれた。
 「でもイチタちゃんも可愛い顔してなかなかやるわね。彼みたいな子は出世するわ」
 これも否定する要素はなにひとつない。彼が物欲しげに見ていた家具は、どれも一級品ばかりで国内でもなかなか手に入らない代物ばかりだった。目利きに関しては天性の才能でもあるのかもしれない。
 「個性的な友だちよね」
 もう一度微笑み返されてから、はっとユサのことを思い出した。
 「あ、でもお母様。本当はもう一人、友だちができたんだ。ユサって言う女の子で…大聖堂の前で」
 「ユサ?」
 以外にも彼女の名前に反応し、反芻する母を不思議な思いで見上げる。
 しばらくジュアンは考え込むように口を閉ざし、視線を宙に漂わせていたが「まさか…」と呟き話題を変えるように
 「さぁ、もう寝ないといけないわよ」とウリの背中を押しやった。
 ユサのことを説明するついでに、彼女から買った絵を見せようと思っていたウリはわずかばかり残念そうに眉を寄せたがこれ以上、父が帰ってこないのに母を起こしておくのも可哀想だと思い頷いた。
 「はい。おやすみなさい、お母様」
 扉を開けて廊下へ出て振り向くとこちらを見詰める母の姿があった。
 憂いに満ちた紫の瞳を捉えた瞬間、ほとんど意識しないうちに
 「どうしてクラミチ様は、マキヒと結婚なされないの?」
 と聞いていた。
 ジュアンはしばし沈黙して答えを考えた。その間の静寂の長さが、ウリを激しく後悔させた。
 「ごめんなさい。ぼく、寝ます…」
慌てて前後撤回し扉を閉めようとしたその時
 「―――クラミチは、マキヒとその家族を愛しているからよ」
 驚くほど凛と澄みきった声で、ジュアンは答えた。
 「結婚だけが愛情を量る方法じゃないわ。法的に認められなくても……家族になれる人も、いるのよ」
 そうは、なれない人もいるのだと…暗に示している口調でもあった。
 ノブを握る手に汗が滲む。心臓が早鐘を打ち、さっきまで静まっていた痛みは再び激しさを増した。
 「…おやすみなさい」
 ジュアンの顔も見ずにそう呟くと、ウリはすかさず扉を閉めて二階へ駆け上がった。
 
 
 城内にもうけられている専用の自室で山のように積み上げられた書類に顔を埋めながら、外交官長のモロトミは深い溜息を吐いた。この調子では宴が終わるまで家に帰ることもできないだろう。
 もっとも、家に帰ったとしても寝食を済ますだけで特にその必要性も感じていない。ただ顔を合わせるという、煩わしさがあるだけ。
 目の疲れを感じ眼鏡を外す。目頭を押さえ大きく伸びをすると、焦点の合わない視界に窓いっぱいの夜の闇を感じた。
 (この宴だけはなにがなんでも…成功させなければいけない)
 軽く肩を回して再び机上の書類と格闘しようとしたその時、深夜にも関わらず部屋の扉がノックされた。
 「……誰だ」
 聞かずとも大方相手は決まっている。恐らく同じように缶詰になっているクラミチだろう。
 「また遅くまで御苦労だな」
 にやにや笑いながら童顔に似合わないワインと二人分のグラスを持って、顔を覗かせる。
 「つまみはないのか?」
ふっと肩の力を抜く。自然と強張っていた表情が安らぐのがわかった。
 「チーズでいいだろ。あとは肉の燻製も持ってきた」
 「小休憩だな。お前もまだ押してるだろ?」
 テーブルに椅子を寄せながらクラミチを招き入れる。
 「まぁ…あとは、なんとかなるさ。それより今回は外交問題なだけに、お前の方が大変だろ? 俺の方でもなにか手伝えるか?」
 「ここを使う仕事だ」
と、頭を指さす。
「体力仕事ではない限りお前の力は不要だな」
 「まっ、それが俺の天職だけどな」
ワインの封を切りグラスに注ぐ。モロトミが好きな野苺のワインだった。
 「…お互い様だ」
 ふっと笑いかけ、軽くグラスを鳴らすと一口飲み込んだ。
 それからしばらく二人は各国の王たちの噂話に華を咲かせた。互いにストレスが溜まっていただけに、アルコールの力を借りてやや饒舌になっていた。
 「だいたいアマテル王なんて代々、胸糞の悪い輩だと相場が決まっているんだ。オクヒマなんてさっさと王位から引きずり落としてやればいい」
 「三国の王たちはどれもいい噂は聞かないが、今警戒するべきはオボマ国だ。これまで四人の王が各国を支配し、なんとか均衡を保っていたのに…ツクヨミ王は病床に臥せ、その娘が王位を継ぐなど……」
 「そうだ! その通りだ! 第一そのチトノアキフトノミコトって長い名前の姫君も…」
早くも顔を真っ赤にしたクラミチが腕を挙げて抗議した。
 「ミコトと言うのは名前ではなく西の国で使われている尊称だ」
鼻先までずれていた眼鏡を直し訂正する。
 彼の説明も完全に聞き流し
「長い姫君も!」
と叫んでから、ワインで喉を潤し続けた。
鼻の下あたりをこすりながら
「あ~……なんだ? おかしな噂を聞くぞ」
 「噂?」
 「そうだ。父ツクヨミ王が、姫君の為に方々から薬を取り寄せているとか。なんでもその中に、不老不死の秘薬が混じっているとかなんとかかんたら…たらっからっか……」
 呂律が回らなくなってきた友を冷ややかに眺め、チーズをつまむ。独特の味が甘いワインの後味を掻き消していく。
 「それが本当なら、今回の宴は―――」
 「ぐっふぁ~ん」
 先に酔いつぶれたクラミチはテーブルの上に突っ伏して、大きな鼾をかいて眠りこけた。上下する肩に毛布をかけてやり、立ち上がるとまだ机の上に山積みになっている書類を一瞥し
 「…宴が…我らの未来を決めるな……」
 モロトミは誰にでもなく呟いた。
 
 
 長い夜が明け、東の空の裾がほのかに明るくなっていく。
 何度も繰り返されてきた自然の営み。今日が終わればまた明日、同じことが起こる。そうして長い歳月を経て未来は、現在へ変わっていくのだろう。
 厚手のガウンを肩にかけたカミヨは眠らずに、朝を迎えた。ずっと窓辺に立ち空の色が変わるのを眺めていたが、気を緩めた瞬間に眠気に負けて思わず瞼を閉ざした。
 ―――食事に毒が…
 ふいに脳裏に昨日の夕餉の会話が蘇えり、その時の感触を思い出し異物が込み上げてきそうになる。
 「うっ…」
慌てて口元を覆う。酸っぱい胃液が口の中に広がった。
 よろめき壁に手をつきながら嘔吐を抑える。胃の痛みに伴って、脳裏にフサノリの顔が鮮明に浮かんだ。
 召使たちの恐れ慄く声がテーブルを囲う四方から聞こえる。知らせを聞いた大臣たちが次から次へと食堂へ駆け込んできた。
彼らの注目は一斉に一匹の犬に集まる。
「イザナム王、カミヨ様」
カミヨの前に配膳されたスープを毒見した犬が、目の前で口元に泡をたくわえ痙攣するさまを平然と眺めながら、彼はいつもの抑揚のない口調で告げた。
「恐れるに足りませぬ。ロギヌシ教会の手法は既に予想がついています。わたくしめの言う通りになさいましたなら、決してあなたは死にませぬ」
 淡々とした言葉。語句を羅列しただけの科白。彼の黄金色の瞳に映る犬も、磨き抜かれた床の上でのた打ち回り苦しみながら掠れた声で悲鳴を上げていても、ただ、あらかじめ決められていた『未来』が現実に変わっただけのことに過ぎないのだろう。
「……キュー…ン」
最後に短い鳴き声を響かせ、カミヨの足元で犬は息絶えた。黒い毛並みの美しかったその犬は、全身を真っ白に変えて最後にカミヨを見たような気がした。
 「イザナム王。今は姿なき暗殺が続きましょうが、やがてカロル指導者があらわれ表だってあなたの命を狙います。心しておかれよ」
 
 「いつも、断言する…のだな」
 口の端からこぼれ落ちた言葉に、数秒遅れてから自嘲する。
 大臣たちの謀反や暗殺などこれまでも彼は見事に言い当ててきた。彼らヤヌギ族の力がある限りこの世に敵などいない。なにも恐れることはないのだと、自らに言い聞かせるように呟いた。
 彼らはどこからきて、一体なにを目的としているのだろうか。王であるカミヨでさえ、彼らの真の目的を知らない。ただ漠然と、例えそれを知ったとしても自分にはどうすることもできないような気がして、それ故に口に出すことさえも憚られてきた疑問だった。
 「わたしは……」
窓に額をつけ夜気にさらされた冷たい感触を確かめる。城の一角にある部屋に灯りがついている。
 モロトミ、クラミチ。彼らもまたここずっと、夜通しして仕事に徹している。
二人ともカミヨの大切な友人だった。王位に就く前よりずっと、幼少の頃より三人で遊び学び、そしていたずらをして育ってきた仲間だった。出世頭のモロトミは明晰な頭脳を駆使して念願の外交官となり、クラミチはやんちゃな性格が高じて軍をまとめる国衛総隊隊長となった。
 そして王となったカミヨ。三人は力を合わせ北の国を守ると約束した。
 一人は各国と渡り合い平和な外交を目指し。
 一人は自国を守るだけの強い力を手に入れようとして。
 そして、王は―――
 「!」
 背筋に寒気を感じ痙攣が起こる。思わず両腕をさすったがこびりついた嫌な感覚は拭いきれない。
 座ったまま天に召された父王。彼もまた、王としての職務をまっとうしたその果てに自らの玉座の上で生涯を遂げたのだ。あれこそ王としての姿なのだろうか。あぁならねば、王と言えないのだろうか。
 大聖堂に安置されている父王の亡骸に自分を思い重ね、また吐き気に襲われる。
 「わたしは…王だ……王なのだ…」
 胃の痙攣に乗って虚勢を吐きながらも、独りよがりの言葉が虚しく足元へ落ちていく。それらは音もなく闇に吸い込まれるようにして消えていった。
 
 
 そうして夜が終わり、何度目かの朝が始まった。一日の営みが始まるたびに、人々は日に一刻と近づいてくる四天王たちの宴を否応なく実感させられた。
 夜明け星を数えていた村長は不安げに息を洩らす。それを聞いていたアタカは、寝そべっていた芝生から上体を起こし、物見櫓から身を乗り出す村長に話しかけた。
 「溜息すると幸せが逃げるんだぞー」
 何日か前にマキヒから言われた言葉をそのまま返す。
 「大丈夫、もうあの年だから大して幸せも残ってないって」
隣で村長に命じられ星の位置を記録していたイチタが言った。
 「イチタよ。あまり口が悪いと駄賃を減らすぞ」
 櫓から降りてきながら村長がぴしゃりと返す。それからイチタの記録用紙を確かめ頷くと、懐から十八ワルペを取り出し渡した。
 「……」
硬貨を握りしめ、じっとその手を見詰める。
「この不況で国際通貨のカイロも、一カイロで十五ワルペもするんだよねぇ…」
と悲しげにぼやいた。
 「カイロって言っても、俺たちそんなに」
 アタカの足を踏みつけ口止めする。大きな青い瞳に薄らと涙を蓄え、どこか哀愁に帯びた眼差しで村長を上目遣いに見ると
「母さんが…いつか、いつか死ぬまでに……南国産の絹を使ってみたいって言っていたんだ。貯金しているけど…こう物価が上がっていたら…うっ…うう」
 イチタの嘘泣きに騙され村長は更に二十ワルペを上乗せしてくれた。
 満足げに笑うイチタを見て、彼の心中が手に取るようにわかるアタカはひそかに溜息をついた。早朝から仕事に駆り出されたからには、たかが十八ワルペ如きで済まされてなるものか、と言う彼の貪欲さに呆れる。
 付き添いのアタカに分け前として十五ワルペを与え、残りを青い財布にしまうと二人は家路を戻ることにした。まだ夜明け前なので仕事に出るには早過ぎる。とは言え二度寝してしまうには中途半端なので、マキヒに代わって朝ご飯を用意するつもりでいた。
 「宴っていつ始まるんだ?」
 「下等平民には知らされないからね。都宛の手紙が増えたのも、なんらかの形で情報を得ようとしているからじゃないのかなぁ」
 商売繁盛だ、と喜ぶイチタ。しかし比例して国外から届く手紙が激減しているので、アタカとしては順取り屋のクロエに会えないのでいささか寂しい気持ちもあった。それに都へいく用事が増えたからと言って、毎回ウリに会える訳でもない。大抵が勉強中と家政婦に断られた。
 「せっかく友だちになったのに…遊べないんじゃ意味ねーし」
 「そうだねぇ。まぁ、ウリの方は門前払いだけどきているってことはアピールできてるから、問題はユサだよ。あれからまったく連絡もとってないから、せっかく顔を覚えて顧客にしようと思っても……無駄足になっちゃう」
 「………」
 今更、だよな。と彼の性格にケチをつけるのをやめ、代わりにユサの名前を聞いて思い出したことを聞いてみた。
 「そう言えばさ、なんでマキヒにあの絵をやらないんだよ? もしかしてイチタが自分のものにするの?」
 「う…ん、それがね、ちょっと悩んでてさ」
 後ろで両手を組み俯き加減に歩くイチタの姿は、ほんのりと明るくなってきた空を背景に完全に女にしか見えなかった。四六時中、行動を共にしているアタカでさえ一瞬目を疑ってしまいそうになる。
 「アタカは、母さんとクラミチがいつか結婚すると思ってる?」
 長い目で見ればその可能性は捨てきれないだろう。けれどイチタが悩んでいるのはそういった未来のことではない。恐らく見通しを立てるだけ近くに迫っている現実の問題だ。
 「そらぁ…いつかは、思ってるんじゃない? マキヒも若いしって言っても、クラより四つ上だけどさ」
と発言してから、ふいに思い当たることがありイチタの顔を覗き込んだ。
 「俺たちが成人するまであと三年。十八になったら、マキヒたちも本当に結婚するって思ってるんだろ」
 もはや疑問ではなく確信に近い質問だった。
 「…ぼくも、母さんの子どもじゃないかもしれないもん。無関係なガキが二人もいたらクラミチも遠慮してプロポーズしてくれないかもしれないでしょ」
 「まーそうだよなぁ」
頭を掻きながら同意をするも、ひそかに『無関係な』というところに隔たりを感じていた。
「でもさ、俺たちが早く自立して家を出てけばいいじゃん。多分クラは、俺たちを疎ましがったりしないと思うよ」
 「それはわかってるんだけど……」
下唇を突き出し膨れる。しばらく黙りこんでいたが、家が見える丘が近づくと再び顔を上げ
 「プレゼントをあげたら、もう全部、確定しちゃうみたいで…まだ、心の準備もできてないんだもん」
 「結婚には、反対?」
 「……わかんない。賛成すれば、母さんはきっと人生の目標を新たに持つことができる」
「イチタが反対すれば、下手すれば別れるかもしれないよな」
 「あ、でもさーむかしマメリが言ってたけど結婚は人生の墓場だって。最初はやっぱり嬉しくってさぁこれからだぁって、盛り上がるけど次第に先が見えてきちゃうと結局は墓に入るまで、我慢するしかないのかって思っちゃうもんらしいよ」
 「げ…すっげぇ夢のない意見だな」
特にマメリの意見とだけあって、妙に説得力がある。今ではペジュの浮気が原因で喧嘩ばかりしている二人だけど、若い頃はなかなかの大恋愛をして結婚したらしい。周囲もペジュの浮気癖を不安に思いまたマメリの凶暴性を恐れてもいたのだが、それでも反対を押し切って結婚した割には…よくやるよ。と毎度浮気相手への後朝の文を届けるアタカは吐息した。
 「アタカは結婚願望あるんだ?」
 「いんにゃ、別にないけど…」
むしろ、結婚以前に女に興味がないような…とぼやいてから、ふと思いついて再び紡いだ。
 「でもそれって、今回の宴に似てるよな。未来を切り開く指標が生まれるか、それともこのまま争いになって四国の王たちの墓標が立つかってさ」
 「ぷっ、なにそれー!」
吹き出しながらイチタは目の前にまで迫っていた丘を一気に走り出した。
 彼の後を追ってアタカも丘を駆け上がっていく。
 イチタの巻き毛がくるくると風に乗ってなびいた。青い瞳にいつものいたずら好きな輝きを宿し、自分を追うアタカを見詰め
「アタカの発想って変だよね」
と笑いかけた。
 「金のことしか考えられないお前に言われたくないって!」
調子戻した相方に相好を崩し返す。
丘の上ではもう起きたマキヒが顔を洗っている。
 二人の息子の声を聞き、水瓶から立ち上がると大きな声で
 「こらぁ! 出かけるならちゃんと言ってからいきなさーい!」
 と、母親の言葉で怒鳴った。
 
 
 洗面で前髪のクリームを流して顔を上げる。鏡を見るよりも先にグリフが顔を覗き込み、嬉しそうに
 「すっげぇ似合ってるッス」
と叫ぶ彼の感想を聞いただけで、いささか不満が残った。別に染めたいとは一言も口にしていないはずだったのに…。
 こちらの胸中なんてお構いなしに、ぼくを洗面台から離すと窓辺に立たせて櫛を使い髪型を整えた。
 「いやぁ、俺って天才ッスねぇ。白髪にピンク。それに金色の目って、組み合わせが最高に綺麗ッスよぉ」
 うっとりとした眼差しを向けられ、余計に自分の目で確かめたくなった。だが、鏡を見ようとするぼくの動きをすかさず止め、いつの間に出したのか片手に錆びついた鋏を取り出すと笑顔で
 「ちょっと長いし切っちゃいまッスね。いやぁ、俺って意外と凝り性ッス」
 返答など聞きもせずジャキジャキと刃が髪を切っていく。
 「……」
 特に伸ばしていた訳でもないのだが、あまりにも突然のことだったのでショックからしばし言葉を失ってしまった。
 「完成ッス~」
目をキラキラ輝かせて、やっとぼくを洗面台の鏡の前まで連れていった。
 全体的に短くされている。と言っても元が肩にかかるくらい長かったので、短すぎるということはない。前髪だけピンクに染まった自分の見慣れた顔が、つくりもののような無表情な目をしていた。
 「どうッスか?」
 肩に手をかけて横から満面の笑顔が鏡に加わる。金色の髪に縁取られたその表情は、無機質なぼくと違って生気に満ちていた。
 「……久しぶり…鏡を見た」
 ぽつりとこぼれた告白に、グリフは驚くこともなく笑った。
 「そんな気がしてましたッス。せっかく俺みたいな若いナイスガイがきてるんッスから、これは友だちにならないといけないッスよ」
 どういう思考回路でそんな結果に至ったのかわからないけど、グリフがぼくと友だちになりたがっているってことは理解できた。
 友だちって言う単語の意味は知っているけど、今までそんな関係の他人を持ったことがない。母方の親族に年の近い従兄がいたが、何故か相手にひどく毛嫌いされていたので親しくなることもなく別れた。
 そうか…ぼくと友だちになりたいって言ってくる奴も、今までいなかったんだ。
 「どうしてぼくと、友だちに? 楽しい話もしてないのに」
 むしろ一方的に喋り続ける彼を疎ましく思っていた。なにが彼の関心を寄せたのだろうか。死体を焼いているから? この年にして、総白髪だから? 
 「え、シルパさんって楽しくないんッスか? 俺、十分楽しめましたッスけどぉ」
 …ほら、まただ。ぼくより年上のくせして、変な発音のくせして、いつもちゃんと敬語を使ってくれる。
 変な奴。いきなり人の頭を染めて切っちゃうくらい、変な奴。そのくせ、まるで飼い主から餌を出されるのを待っている忠犬みたいに、期待した面持ちで律義にもぼくの返事を待っている。
……グリフのフルネームはなんて言ったかな。
 ちらりと過った疑問を無視し、腕時計を確認する。毎朝欠かさず螺子を巻いているので、手巻き時計は正しい時刻を示していた。
 「あと二十分で定期便の地下鉄がくるよ」
 「えぇ! もうそんな時間ッスかぁ」
慌てて荷物を取りに部屋を飛び出そうとするグリフに向って
 「週に一回は地下鉄がくるから…また、きたらいいよ」
 ぼくの精一杯の返事にグリフは顔中を皺くちゃにして
 「アザーッス!」
と新手の語彙で感謝を述べた。
 
 塔の出入り口までグリフを見送りがてら連れ添う。駅までは走っても十五分くらいかかるので時間もない。別れの言葉もそこそこに、また来週くるつもりのグリフは嬉しそうに肩を上下させぼくの手を握った。
 「来週の休みにはエロ本持ってくるッス!」
 「……本気で、いらないから」
 「いーんにゃ! 俺、友だちになったからにはシルパを真っ当な健全な、一般的な男にするってゆー目標ができたんッスから!」
 傍迷惑な目標だ。けれど、いつの間にか『さん』づけから呼び捨てに昇格した関係に一種の心地よさを覚える。
 「ほら、時間が押してる」
 再び時計を一瞥し促すとぼくの手元を覗き込み
 「その時計。レトロでいいッスねぇ。女ものッスか? ハッ! もしかして彼女から…!」
 「母さんの形見」
 一言で会話に終止符をつけると、愚図る彼の背中を押して送り出した。
 何度も振り返り手を振る姿が消えるまで、塔の入口に立ち続けた。空はあいかわらずの曇天だけど、何故か心は晴れ渡っている。
 不思議な気持ちだった。
 温かくて…とろけた感覚。これを幸せと言うのだと思い出すまで、ぼくは余韻に浸り佇んだ。
 そうして気持ちを切り替えて、焼却炉の掃除に再び取りかかろうとしたその時。霞みがかる荒野の果てから歩いてくる人影に気がついた。
 誰だろう。普通ならここは死体焼却炉なのだから、死体を背負った遺族と考えるのが妥当だったけどその人影は一人分しかなくて、どこにも死体らしきものの影は見えなかった。
 不吉な塔に住んでいるくせに、何故かとてつもなく嫌な予感がした。今すぐ扉を閉めて布団に閉じこもってしまいたい気分だったけれど、手はぼくの意思とは真逆に木製の扉を大きく開け放つと、来訪者がこの死者の塔へ訪れるのを待った。
 
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