片手の花と道化師

青海汪

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第三幕 孤島に住む幸せな人々

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第三幕 孤島に住む幸せな人々
 
 学校からいくらか歩いた所にある小さな郵便局の裏側に、古い佇まいの如月時計店はあった。ガラス張りの大きなショーウインドウは曇っていてひどく汚らしい。リクの家と同じように店舗兼住居のようだけど、店先と同様建物も全然手入れがなされていなかった。
 「のっぺら、おるかのー?」
 シン同様にあまり乗り気ではないけれどついてきたリクが呟いた。まるで不在を願うかのような口調だ。図書室で調べたけど「のっぺらぼう」は日本の妖怪の一人で、顔がつるりとして目も鼻もないそうだ。そんな渾名の爺さんってどんな奴だろう。好奇心とほんの少しの恐怖でぼくは今朝からずっとドキドキしていた。
 「おるさー」
 と応えるシンも内心ではリクと同じように思っているようだった。その証拠にガラスの引き戸を開けようとする手がずっと止まっている。
 「そんなに怖いの…?」
 二人のやりとりに耐え切れずついそう尋ねたぼくの身体を、背後から現れた影が覆い被さってきた。
 「怖い訳ないさー」
 初めて聞くしわがれた猫撫で声。振り向くとぼくたちをニコニコと見下ろす白髪の老人が立っていた。
 「元は客商売しちょったんさ? 怖がられる謂れもないさーね」
 ニコニコ、ニコニコ。笑顔の見本と言えるその表情は一分ともぶれない。なのにどういう訳か見る者に底知れない不安を与える迫力を伴っていた。
 「おみゃーら、ワシさー何の用さ?」
 不自然なくらい自然に細められた目と、ものすごい表情筋を鍛えて作られた口角の上りよう。正直言って不気味なその笑顔が、ぐいっとぼくらに近づく。歳は父さんよりも少し上くらいかな。よく焼けた顔にくっきりと笑い皺が刻まれていた。
 「…あ…あのっ」
それにしても距離感がおかしい。相手の開き切った毛穴の黒ずみまでよく見えるくらいに迫る不気味過ぎる笑顔。会って数秒なのに怖いと素直に認めてしまった。
同時にぼくは理解した。この人は表情がない。だからのっぺらぼうって渾名なんだ。
 「お、お忙しいと思うので…っ単刀直入にお願いしますっ」
 「はっはっは! こがぁ潰れかけの店さー忙しい訳なかろーさ」
 自虐的な発言はぼくらの笑いを誘うどころか、却って本音の見えないのっぺらぼうへの恐怖心を煽った。
 「………っ」
 咄嗟にぼくは目配せでシンに続きを言うよう頼んだ。
 「!」
 だけどすぐさまシンは目で「無理さ!」と叫び、そのままリクへバトンを回した。
 「…っ!」
 シンの懇願にリクは蒼褪めた顔で激しく首を振り、再びバトンをぼくへ渡してきた。
 いやいやいやいや! きみらが時計台の修理をお願いしてたんだろっ! って怒鳴りつけてやりたい所だったけど、妖怪を前にそんな隙を見せる方がよっぽど恐ろしい。
 仕方なくぼくは近過ぎる妖怪との距離を若干後ずさる事で調整すると、胸いっぱいに息を吸い込んだ。
 「とっ、時計台の修理をして下さい!」
 「無理さ」
 その返答までに要した時間はほぼゼロ秒。つまり即答で拒否されてしまった。
 「で、でも! 元々は貴方が時計台の管理や修理を任されていたって聞いてます。せめて予算だけでも見積もりを立ててくれたら」
 「はっはっは。ガキは可愛いさー。目を開けたまま寝言さ言うちょるさなー」
 「ぼくらは本気ですっ」
 「そーかそーか。帰りはちゃんと起きちょれよー。よそ見しちょると、そのガキらの親みたく海に飲まれるさー」
 「!」
 半月型に細められた目元から射抜くような眼差しがシンたちに向けられた。シンは一瞬、ぐっと込み上げる感情を堪えるように身体を強張らせた。そして突然駆け出した。
 「シン!」
 ぼくとリクが同時にシンの名前を叫ぶ。反射的に追いかけようとするぼくらを、のっぺらぼうは敢えて呼び止めた。
 「待ちょれ。今朝さ潰しよった山羊の肉さー持っていくさね」
 「いりませんよ! そんなものっ」
 走り出そうとするぼくの腕を掴み、のっぺらぼうは有無を言わせない笑顔で応えた。
 「ガキは大人しぃ聞いちょれ」
 「……っ」
 まるでそれが正論かのように。反論の余地を一切与えずにのっぺらは、店舗へと羊の肉を取りに消えた。
 「…なんなんだよ、この展開…」
 思いのほか強く握られていたみたいで、ぼくの腕は赤くなっていた。その様子を見ていたリクは今にも泣き出しそうな顔をしていた。
 「リクじゃなくてよかった。きみって肌、弱そうだし」
 何気なく呟いたその言葉にリクは固まっていた表情を緩めた。本当にこういう緊迫した状況下で見る笑顔って、普段の時と比較し安心感が全然違う。だから多分リクが笑った途端に落ち着かなくなったのは、そういう吊り橋効果みたいなものだと思って納得した。
 「それよか、うちはシンの方が心配さ…」
 「ぼくだって。…でも、今でも逃げ出す勇気なんてないでしょ?」
 一見して人の良さそうな笑顔だけど、実のところ悪意しか感じられないのっぺらぼうに睨まれたら怖くてぴくりとも動けやしない。実は山羊の鮮肉の代わりに、血塗れの包丁でも持ってくるんじゃないかと想像して背中には冷や汗が流れているのだ。
 「…息子の職場がすぐ近くなんだね」
 黙っていたら余計な事ばかり考えそうで、ぼくは店舗の裏に建つ郵便局を見た。
 「如月の兄ちゃんと、のっぺらさー別居しちょるさ。じゃけぇ、お互い顔も合わせんよーさしちょるさ」
 「え。そうなの?」
 他人のゴシップが大好きだと公言していたポストマン。何よりも自分自身が意外と叩けば埃が出てきそうじゃないか。
 「コソコソ何の話さー」
 一切の物音を立てずのっぺらが現れた。タイミングのいい登場の仕方に、ぼくらは全身を震わせ完全停止した。ただ一つ安心したのは、その手元にあるのは包丁ではなく新聞紙の包みだという点だった。
 「手土産のお返しさー。とっととこさ持ってガキの子守さーしちょれ」
 笑顔でさらりと悪態を吐くのっぺら。気構え過ぎて早くも疲れを感じてしまっていたぼくだったけど、山羊の肉を受け取ってから違和感に気づいて尋ねた。
 「手土産って…何の事ですか?」
 ぼくの質問を聞いてからリクが横で「あっ」と思い出したかのように声を漏らした。
 「ほがぁ、うちの店さ持ってきちょった紙袋さ。アレを母ちゃんが渡しちょったさー」
 島民への挨拶代わりにとシンのお母さんが用意してくれたお菓子の事だ。ぼくらのやりとりを聞いていたのっぺらは、それまでの不気味な笑顔を不意に曇らせた。
 「…山羊肉さ栄養満点さ。あの外人さんに食わせてやっちょれ」
 「…え?」
 何故父さんに? という疑問がすぐに湧いた。けれど次の瞬間にはもう、のっぺらはあの不気味な笑顔を貼り付けていた。仕方なくぼくも舌先まで出かかっていたその問いかけを飲み込んだ。それにシンの事も気にかかる。
 山羊肉を受け取るとぼくらは挨拶もそこそこに、のっぺらの前から走って逃げた。
 
 
 何も考えずに走った結果。のっぺらぼうの言葉によってシンの頭に上った血は、全身に循環し幾分冷静さを取り戻せた気がした。テトラポットが囲う防波堤の上をトボトボ歩きながら、シンは澄み切ったエメラルドグリーンの海を染める夕陽を見詰めた。
 ―――五年前もここで、父ちゃの船探しちょったさ…
 島の漁師たちを乗せた第三大漁丸は、夜明け前の海へ船を出した。グダの大群が今日を逃せば間に合わないと知っていた彼らは、台風接近の危険を顧みずに漁へ出たのだ。
 船員の家族たちは誰もが引き留めようとした。しかし船長と副船長を務めたシンとリクの父親たちが、必ず戻ってくると約束をした。それぞれの家庭に事情があり、すぐにでもまとまったお金が必要だった事もあって結果的には家族も船を見送ったのだ。
 船が戻らず、船員たちの行方もわからなくなった当時。誰ひとりとして最高責任者であった船長たちを責める者はいなかった。狭い島での暮らし。隣の食卓に並ぶ食材まで知り尽くしているようなこの地で、余計な悔恨を残さないようにと。大人たちは互いに気遣い、そして子どもたちもそれに倣った。
 しかしシンにとってそんな優しさは、真綿でゆっくりと首を絞められるような苦痛でしかなかった。自分の周りから徐々に酸素だけが、抜き取られていくような感覚。呼吸の仕方がわからなくなり、目の前の景色が日毎に色彩を失っていった。
 そんなシンにとって、のっぺらぼうの飾らない言葉はある種の救いでもあった。それらは間違いなくシンの心を傷つけるものだった。赤く流れる血を見て、自分は痛みを感じられるのだと安堵した。人として失われてはならない感情があるのだと確かめさせてくれる。
 けれどこのままずっと父親が見つからなかったら。痛みに慣れてしまう日がくるのだろうか。血を見ても、自分が傷ついているのだと気付けなくなってしまうのではないか。
 主の帰りを待って灯され続ける国崎家の小さな明り。それが消えてしまう日が、刻一刻と近づいている。
 「…父ちゃ…はよ帰ってこいさー…」
 両脇に垂らした拳を小さく震わせながら、シンは絞り出すようにして海に向かい呟いた。
 そうしてしばらく夕陽を眺めていたシンの元に、誰かの叫び声が聞こえ振り返った。
 「シーンー!」
 必死に手を振りながらこちらに向かってくるキアとリクだ。二人はシンが立つ防波堤に辿り着くと、しばらく声も出せないくらい荒くなった呼吸を整えた。二人で必死に色々な所を回って探してくれたのだろう。そう思わずにいられなかった。
 「…わりぃ…」
 二人と会話ができる状態まで回復するのを待ち、シンはまず侘びの言葉を伝えた。
 「い…いよ。だって…ぼくも正直手強いって思った」
 「うちらだけじゃ無理さ。じゃけぇ精霊に相談するさー」
 それぞれの優しい気遣いに、シンは傷ついた心にそっと薬を塗って貰ったような気持ちになった。
 「ありがとーさー」
 父親たちを探す為にあらゆる方面から、多くの人たちが力を貸してくれた。それでも何一つ手がかりもなく今日に至る。もはやでき得るすべての策を尽くしたと言っても過言ではなかった。だから今の自分たちには、天命に従うしかない。せめてもの悪足掻きとして、船が消えた嵐の日に同時に壊れて動かなくなってしまったあの時計台を直せたなら。そんな奇跡に期待してしまいたいと思う。
 「取りあえず、帰って作戦を練ろうよ」
 キアの前向きな提案に、シンは笑顔で頷いた。そして走っている間からずっと握ったままの二人の手元をじっと見詰めた。恐らく体力のないリクの手を引いているのだろう。だがあまりに自然だったので、お互いにそれを忘れきっているようだ。
 「おみゃーら、いつまで手さ繋いどるんさ」
 つい悪戯心が湧いてしまいシンはニヤニヤとからかった。彼の指摘でようやく思い出したのか、二人は同時に手を離し頬を染めて反論してきた。
 「こ、これは違うからっ!」
 「そじゃ! うちがこけそうになったけ」
 「ヒュー♪ 恋人第一号さー。室伏先生が悔しがるさ」
 囃し立てるシンを二人は追い駆け回しながら、いつの間にか笑い声が生まれた。
 
 
 リクの家に彼女を送り届けてからぼくとシンは、海沿いの道を並んで歩いていた。もう陽は沈んでいるけどまだ辺りは明るい。他愛のない会話をしていると道の先に見慣れた後ろ姿を見つけぼくらは同時に叫んだ。
 「母ちゃ!」
 「父さん!」
 二人は同時に振り向いた。逆光でどんな表情をしているのかぼくにはわからなかったけど、父さんが咄嗟に手をポケットに入れたのを見逃さなかった。
 「キアじゃないか! 偶然だなぁ!」
 ぼくらが駆け寄ると、シンの母さんは未だランドセルを背負ったままという所に目敏く気づき眉を寄せた。
 「宿題もしよらんと遊んでばっかーさ! 夕食までに終わらんと、ご飯さ抜きにするさ」
 「えー! そらーひどいさ。山羊肉貰ってきよったのにさー」
 「誰にさ?」
 「のっぺらのジジィさ。母ちゃが挨拶にって渡したお礼さ」
 「ほぉ! いい食材じゃないですか。はっはー楽しみだなぁ! キア」
 何となく会話の流れから、父さんにさっきの不審な動きについて尋ねにくい。そもそもシンの母さんがわざとぼくに、そこを追及させまいとしているような気までしてしまうのは考え過ぎだろうか。だって普段のシンの母さんなら陽が沈むまで外で遊んでいようが、無事に帰ったら何も言わない結構大らかで適当な人柄だからだ。
 「ねぇ、父さんたちはどこか出かけていたの?」
 できるだけ笑顔を意識して尋ねてみた。すると父さんではなく、シンの母さんが口を挟んできた。
 「服部さんにさ、私が働いちょる病院を見学さしてもらったんさ。補助さんのお仕事ならできるさねーって話ちょったんさ」
 父さんが就活をしていたって事? 隣の島にある総合病院で働いているとは聞いていたけど、そんな立派な職場に父さんのような不法滞在者が働ける訳がないのに。お金がないぼくらを見かねて口利きしようとしてくれているのかな。それとも、やっぱり家計の負担にしかならないし迷惑に思われ始めたのか。居候と言う善意を食い物にした立場から、つい不安に駆られ考え込むぼくにシンの母さんは優しく声をかけてくれた。
 「服部さんさ、臨時でちょっと働いてみたいゆうちょるし誘ってみただけさー。子どもはいらん気を遣わんちょってな。うちはいつまでもいちょってくれていいんさ」
 「…ありがとうございます」
 嘘偽りの感じられない言葉に、ぼくは素直に頭を下げた。けれどポストマンから聞いた二人の目撃情報を思い出す。何となくすっきりしない気分だったけれど、ぼくはそれ以上考えるのをやめた。
 そしてシンの母さんが特製山羊汁を晩御飯に振る舞ってくれて、シンの爺さんが本日の釣果を自慢した。楽しい夕食が終わった後に父さんが少し咳をした。何となくわざとらしさまで感じてしまうようなそれだったけど、看護師と言う仕事柄か敏感に反応したシンの母さんがわざわざ薬を出してきた。
 「前私が飲んどった薬さ。余っちょてもったいないさ飲んでーさー」
 てっきり市販の風邪薬かと思いきや、シンの母さんは大量の処方薬を広げた。たかが咳くらいでこんなに飲む必要があるのかとも思ったけど、専門職の大人に口出しする勇気もない。普段なら薬なんて大嫌いな父さんだけど、珍しく大人しく錠剤や粉薬を飲んだ。
 「Oh…これがすべてチョコレートだったら最高だったのに」
 甘ったれた発言にみんなが笑ったものだから、ぼくも釣られてしまった。
 明日の時間割を見て教科書を準備すると、まだ寝るには時間が余ったのでぼくは借りていた本を取り出した。シンも布団の上で寝転がって、図書室から持ってきたボロボロの漫画雑誌を読んでいる。
 「ねぇ、この島ではインターネットって使えないの?」 
 学校は勿論、シンの家にもパソコンやケータイといったネットと繋がる電気媒体はなかった。島民はほとんどが高齢なので、そうした電気器具はあまり普及していないのかもしれない。
 「あるにはあるさー。ナル兄ちゃのとこくらいさな」
 漫画から目を離さずにシンは答えた。
 ポリスマンの家にならパソコンがあるのか。時計台修理について調べてみたいけれど、法を犯して滞在している身としてはあまり関わりたいとは思えない人物でもある。
 「…どうしようかなぁ…」
 思わず言葉に出して呟きながら、ぼくは本をパラパラとめくった。けれどアペリティフの半券を栞代わりにしていたのに、いくら探しても見つからない。
 「…おかしいな」
 この本は一日家に置いていた。今日はシンの母さんも仕事に出ていたし、部屋を掃除してつい失くしていうのは考えにくい。誰かが故意に盗ったとすれば、シンの爺さんか父さんの二択。でもあの爺さんがそんな事をする理由がない。とすれば必然的に怪しいのは父さんになってしまう。
 初めて見た思い出のサーカスだから? だとすれば勝手に持って行かないで、一言ぼくに声をかければいいのに。相変わらず子どもじみた真似をする父さんの動向に呆れつつも、ぼくは読みかけだったページを見つけ読書に没頭した。
 翌朝、起きると朝食が並ぶテーブルに父さん用の風邪薬が大量に用意されていた。目玉焼きをお皿に移しながらシンの母さんが「風邪はひき始めが肝心さ」と言うのだからそうなのだろう。ついでに新聞を取ってくるよう言い遣ったので、ぼくは顔を洗うとそのまま玄関からポストに向かって走った。
 「あ、おっはー」
 「!」
 ポストマンが家の郵便ポストの前に立っている事は特に不思議でもない。けれど何故彼が、今まさに取りに行こうとしていた朝刊を読んでいるのだろう。しかも悪びれた様子もなく、呑気に挨拶までして。
 「時計台の修理断られてたね」
 のっぺらとは仲が悪いと聞いていたけど、どこからそれを聞きつけたのだろう。彼の手元から新聞を奪い取ると、ぼくは不快な思いを隠さずに尋ねた。
 「誰かさんの父親が断ったからでしょ」
 「壊れたものに無駄に金をかける必要もないジャン」
 「でも、元は灯台としての役割も果たしていたものでしょう? 放置しておく方がもったいないと思いますけど」
 「大方国崎のガキらが、願掛けみたく直そうって言ってるんジャン? うっける」
 心無い物言いにぼくはさすがにかちんときた。親子揃って人を不愉快にさせるのが得意らしい。
 「何でもかんでも否定するばかりですね。人が一生懸命になっているんですから、もっと気の利いた…建設的な事の一つでも言えって思いますけどね」
 「……」
 口走ってから呆然とするポストマンのリアクションに気づき、猛省した。せっかくうまく猫被りをしてきたのにさっきの発言は完全にアウトだ。
 「いや、あの…」
 慌てて修正に入ろうとしたぼくの言葉なんて無視して、ポストマンは鞄から(何故か今頃になって)国崎家宛ての郵便物を取り出しがら呟いた。
 「ぼくにはわかんないけど。きみみたいな島と無関係な子が、どうして一生懸命なるのかな」
 封筒を受け取りながらぼくも内心同意した。確かに自分でも最初に思っていた以上にこの件に深く関わるつもりになっている。
 「あ、それか島の人間さなるつもりだったり? はっはは…こんな不便な島に居つくなんて、ふふ、本当にきみ。馬鹿じゃない?」
 笑顔で本当にさらりと言ったけれど、ポストマンはその言葉にありったけの悪意を詰め込んだに違いなかった。
 「またねー」
 颯爽と自転車に跨って配達に向かう後ろ姿を見送りながら、ぼくは冷や汗をかいてしっとり濡れてしまった服に触った。心臓がものすごい勢いで脈打っている。
 何も知らないぼくだけど、漠然とあのポストマンは心の底から島を憎んでいるのではないかと思った。
 
 
 キアが新聞を取りに出ている頃、ようやくシンも寝床から這い出してきた。正確には母に布団を引き剥がされ、そのまま拳骨が飛んできそうだったので台所へ避難してきたのだ。
 「やぁ、シン。おはよう」
 朝食をテーブルに並べていたキアの父がシンに笑顔で挨拶をしてきた。それに応えながらシンは、一家で最も朝の早い猪五郎の姿を探した。
 「猪五郎さんなら今トイレだよ」
 「そぉけぇ」
 欠伸交じりに頷くとシンは何気なくキアの父の席に置かれた大量の薬に気づいた。
 「えれぇ数さー…」
 自分が風邪をひいた時でもこれだけの量は飲まなかったと思いながら、シンは何気なく薬のヒートを眺めた。
 「まったくだよ。せっかくだから、こっそりゆかりさんの料理に混ぜてやろうか」
 彫りの深い顔をくしゃくしゃにしてとんでもない企みを打ち出すキアの父。実際に彼の両親よりも年上だろう。しかしこうした親しみやすい態度のお蔭もあって、同年齢の友人を相手にしている気安さがあった。
 「何変な事言ってるんだよ」
 ちょうどキアが朝刊と郵便物を持って台所にやってきた。
 「あぁ、手紙もきちょったんね」
 「いーやぁ、今朝から快便さねー」
 母と猪五郎も揃ってしまい、キアの父はシンに向かって肩を竦めて見せた。彼の企みが実施される前に無事に国崎家の朝食が始まる。
 「いっただきまーす」
 大きな声でそう叫ぶと、シンはキアと一緒に炊きたてのご飯を頬張った。そして同じように朝食をとるキアの父親の穏やかな顔を見ながら―――数年前に亡くなった祖母に処方されていたものと同じ薬を、何故彼が飲んでいるのか。単に見間違いだったのだろうか、と思いながら目の前の食事に集中した。
 それから学校までの登校の途中。シンたちは自転車に乗った成宮巡査に声をかけられた。
 「よー。坊ら元気にやっちょるさー?」
 「おはよーさん。ナル兄ちゃこそ、賭け事は程々にしんさー」
 「え? 賭け事っ?」
 シンの発言にキアはギョッとして成宮巡査を見やった。だがその一瞬、キアの眼に宿った怪しい光をシンだけは見逃さなかった。
 「高潔なる公僕、国家の法の番犬とも評される警察官が賭け事なんてしていいんですね」
 一見して純粋にこの国の事情などわからない子どもが驚いて尋ねている風を装っているが、この濃厚な付き合いの中でそれらが完全に計算の下で行われていると知ったシンはどう対応していいのかわからず傍観者を決め込んだ。
 「あー…うーん…そうさなぁ。坊、何が欲しいか言ってみーさー?」
 返答に窮した成宮巡査が出した答えは、恐らくキアの予想通りのものだったのだろう。彼は瞳を輝かせて巡査に詰め寄った。
 「えーそんな、申し訳ないです。だけど折角だからお言葉に甘えて…パソコンを貸して下さい」
 そして今日の放課後、駐在所にパソコンを借りに行くと約束を取りつけるとキアは大喜びで巡査と別れた。
 「これで色々と調べられるね」
 その発言でシンは、キアが時計台修理について情報を集めようとしてくれている事に気づいた。ここまで懸命に尽力してくれる姿にさすがに彼も胸が熱くなった。
 「キア」
 「何?」
 立ち止まり振り向くキアに向かって、シンは深々と頭を下げた。
 「ありがとーな。俺らじゃ地道に金を貯めるしかできんかったさー」
 「な…何言ってるんだよ。まだ何もできてないんだから、そういうのは実現してからにしてくれない?」
 慌ててシンに頭を上げさせると、キアはいつも以上に早口で捲し立てた。
 「ほら、チャイム鳴るから行くよっ」
 そしてシンの腕を掴むと彼を引っ張りながら先導して学校まで走った。
 
 
 授業が終わって休み時間。シンはトイレに行っていないし、リクは授業中に書き切れなかった黒板の内容を必死にノートに写し取っている。栞代わりの半券がなくなって、何となく家に置いておく気にならず持ってきた本を広げる。目は活字を追っているけれど、ぼくの脳内は全然違う事を考えていた。
 腹の足しにもならないと思っていた時計台復活計画。最初は初めての友だちを支えてやりたいと思ったから乗っかったけれど、本当に自分でも意外な程熱心に取り組んでいる。本来なら次の漂流生活に備えて必要な食糧とかを調達し、可能な限りお金だって集めなくちゃいけないのに。いつまでこの島にいれるのかもわからない。こうして普通の小学生に混じって過ごすうちに忘れそうになっていたけど、ぼくの人生はずっと根無し草のようなものなんだ。
 そう自分自身に諭すように心の中で呟くと、途端に賑やかな教室にいるのに途方もない孤独を感じてしまった。
 「……っ」
 不意に本の文字が滲んで見えなくなりそうになった。誰かにそんな所を見られたら、弁解が面倒だ。慌てて目にゴミが入った風を装いながら涙を拭くと、頭上から優しい声が聞こえてきた。
 「中原中也の詩集やねぇ」
 柔らかい口調は室伏先生の人柄をそのまま表している。見上げると教材を抱えた先生が眼鏡の奥の瞳を細め、ふんわりと微笑みかけていた。
 「図書室のん借りはったん? うちも好きやねん」
 「あ…はい。有名な人なんですか?」
 「昭和期に活躍しはった人やけど、若い子はあまり知らはらへんと思うわぁ」
 くすくすと肩を竦めて笑うと、室伏先生はふと瞳に光を宿した。
 「中原中也は元は山口県の人やねんけど、色々あって京都の中学校へ通ってん。うちはその中学校と縁のある大学を出てるんやけどって言うんが、ささやかな自慢なんよ」
 『大学』というぼくの人生には決して縁のない存在に、急に現実を突き付けられた気分になりつい視線を手元に落とした。
 「…さすが…先生ってすごいですね」
 きっとこの小学校に通うほとんどの生徒たちが、当たり前のように高校・大学へと進学してどこかに就職して所帯を持つのだろう。
 「…蔵屋敷くん…」
 どんなに猫を被った所で、絶対に今のぼくを占めるこの醜い感情を隠しきる自信なんてなかった。先生はそれを気配で悟ったのか
 「…何でも相談してくれはったらええんよ」
 とだけ呟き、予鈴を聞いて慌てて職員室に次の授業で使う教材を取りに向かった。
 トイレから戻ったシンが色々と話しかけてくる。それに適当に応えながらぼくは、どうして必死に時計台を直そうとしているのか。その問いかけに対する最低な答えを見つけた。
 ―――どれだけ一生懸命やったとしても、子どものぼくらには限界がある。どこまで一緒にできるのかわからない。もしかしたら明日にでもこの島を去るかもしれないぼくを、少しでも憶えていてくれたなら。
 父親たちを探す為に、という彼らの願いとは対極的な不純な願い。必死になるのはそれだけ頑張れば、シンたちの記憶にぼくを残せるかもしれないという打算があっての事。わかっている。こうして紛れ込んでみた所で、ぼくは、決してシンたちみたいにはなれない。彼らが思い描く未来像にぼくの姿は欠片だって入っていないんだ。
 
 「キアはパソコンが使えるんさーな!」
 学校の帰り道。リクも連れて三人で約束の駐在所へ向かった。島ではほとんど触れ合う機会のない精密機械を相手取り、難なくインターネットで検索をかけるぼくにリクは掛け値なしに賞賛してくれた。何となくそれを面映ゆい想いで受け止めながら、ぼくは一本指でポチポチとキーボードをゆっくり叩き答えた。
 「って言っても、ぼくも全然触らないからブラインドタッチとかできないよ」
 「ブライ? んん?」
 シンとリクが疑問符を浮かべ首を傾げる。そんな二人に意味を説明しながら、ネットの検索履歴が綺麗に消されている点に密かに苦笑した。
 「言っちょくがー不健全な検索しちょったら即取り上げるさ」
 椅子の上で胡坐をかき、書類を作成していたポリスマンが口を酸っぱくさせ繰り返した。
 「わかってまーす」
 身に覚えがある人程口うるさくなる、と聞こえないよう小さくぼやき、ぼくは『時計台』『修理』を検索ワードに入力した。
 そうしてワードを時々変更してブラインドを睨みつけた結果。
 「なーんも…じゃなー…」
 役立ちそうな情報は一切手に入らず。どうでもいい関連記事ばかり出て、それを一々確認していたら結構な時間をロスしていた。
 一応時計台修復は秘密なので、ぼくらは頭を寄せ合い相談した。
 「こうして調べるのは並行しつつ行うとして。取りあえず、先立つものを用意するのを最優先にしていこうよ」
 「そじゃなー。うちも精霊に供物を捧げて宝くじが当たるようお願いしてみるさー」
 現実的なのか非現実的なのかもうよくわからないリクの発想に、シンと同様に突っ込む気にもなれず。ただ本人は本気なので、そこだけは何か可愛いとは思うし癒される気がした。
「一応目標金額を決めて、それが貯まったらもう一度のっぺらにお願いしに行こうよ。その方がお金欲しさに食いつくかもしれない」
 「…そうじゃなー」
 のっぺらの元に再び頭を下げに行かないといけない未来があると知ってか、シンは肩を落として頷いた。こういう時。友だちならなんて言ってあげたらいいんだろう。色々な言葉が浮かんできたけれど、大体が過去父さんにぶつけてきた厳しい否定的な意見だった。
 「…えっと…」
 ふと父さんの格言シリーズでいい単語が浮かんだ。
 「『Growth is often a painful process.』だよ」
 「んん?」
 思わず英文のまま口走ってしまい、シンもリクも目を丸くして聞き返してきた。脳内で慌てて日本語に訳していると
 「成長は往々にして苦痛を伴う過程である、さー。アメリカの思想家エルバートの言葉さ」
 意外にもポリスマンが口を挟んできた。
 「坊が知っちょるたー意外さね」
 相手も同じような感想を抱いている所にちょっと微妙な気分になった。
 「…父さんから聞いたんです」
 「ほぉ。服部さんさー博識さー。さっすが大学のお偉いさんさ」
 そう指摘されて改めて思った。どうして父さんはこんな底辺の生活をしている癖に知識だけは無駄に豊富なんだろう。過去に父さんを高級ディナーに誘って馬鹿にしてやろうとした連中相手に、完璧なマナーを見せつけてやった経験がある。本当はそれなりに教育を受けて育ったんじゃないかと疑問が湧いた。
 「こう見えてナル兄ちゃは神童言われちょったくらい頭がよかったんさー」
 「へぇ…」
 意図的に美化された情報でなければ絶対に信じられない話だ。シンに説明にポリスマンは、やめろよと形だけ謙遜して見せたが露骨に鼻を天井に向けて威張り腐った態度をしていた。見てくれがそこそこいいだけに、何となく腹が立ってしまう。
 「ふふ、うちもよく巡査に勉強さ教えてもらっちょったんよー」
 リクがほんのりと頬を染めて合いの手を挟んだ。途端にポリスマンの株は急降下した。何でかわからないけど取りあえずムカつく相手だ。
 「まー言うちょっても」
 と、備え付けの冷蔵庫から冷たいサイダーの瓶をぼくらに出してくれながらポリスマンが語り出した。
 「十で神童十五で才子、二十歳過ぎれば只の人の典型例さね。俺なんらこがぁ小さい島で没っするんが性に合うちょるさ」
 「俺もそーなるさ。高校さ出よったら漁師になるんさ」
 「うちもお母ちゃんの店継ぐさ。してゆくゆくは二号店さ出すんさ」
 「シン坊はともかく、リクが経営者たー想像もつかんさ」
 パイナップル味のサイダーはものすごく甘ったるくて、冷たくて、炭酸が喉を焦がすような感覚が気持ちよかった。豪快にゲップを出すポリスマンたちを眺めながら、想像もできない近い将来について語る彼らとの間にある明確な溝を思った。楽しげな三人の会話に入れなくて視線を下に落とす。足元には地面がある筈なのに、まるでブランコに乗ったまま揺られている気分だ。止まってしまえば宙に浮かぶ恐怖に負けて、眼下の闇に飛び込んでしまいそうになる。
 ゆあーん ゆよーん ゆあーん ゆよーん
 ブランコが揺れる度にロープが軋み、頼りなくてどこか不気味とも言える音を奏でる。
 ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん…
 「……ア、キア?」
 シンに肩を揺さぶられるまでぼくは完全に放心していた。
 「!」
 咄嗟に我に返り慌てて辺りを見回す。ポリスマンがパソコンの前に座り何やら動画を流してくれていた。確かシンが毎週欠かさずに見ているアニメだ。先週は電波が悪くて受信できなかった。
 「大丈夫さー?」
 「…うん。ちょっと考え事してただけだよ」
 気遣う様子のシンに声をかけると、安心したのか彼もパソコンから流れるアニメに没頭した。有名な漫画が原作らしいけど普段からアニメを見ないぼくは途端に手持無沙汰になってしまった。
 「坊は興味ないんさ?」
 サイダーを飲みながらポリスマンがぼくの隣に椅子を持ってきてポツリと尋ねた。
 「…その…中途半端に見てしまえば最後まで関わりたくなるじゃないですか」
 生まれたその時から漂流生活を送るぼくらには許されない贅沢品のように感じられて。それを欲する事さえも何故か罪悪感を覚えてしまう。でもそんな事情を知らない彼に、うまくそれを説明できなくて言葉に詰まった。
 「何さ、坊の家にもパソコンさないんさ?」
 「そういう事です」
 パソコンどころか家もないけど、と内心付け足して答えた。
「だーけどよ、時々この島でも電波が届かなんくてさー映らん時もあるんさ」
 チビチビとまるでアルコールでも飲むかのようにソーダを飲みながら、ポリスマンは椅子の上で胡坐をかき、アニメに夢中になる二人の背中を見詰めた。
 「不便さ。島さ出ればネットも光速で繋がりよるし、欲しいもんは全部手に入るさ」
 「…島を出られた事があるんですか?」
 聞いていいのかわからなかったけど、少しばかり踏み込んでみた。ポリスマンの日焼けした横顔から推定するに三十代くらいだろう。きっとポストマンと同じ年頃だと思うと、あの変な喋り方を思い出し尋ねた。
 「ポストマンと幼馴染みだったりします?」
 何故か短い間を置いて、ポリスマンは細長い息を吐き出した。
 「篤志とは幼馴染みさー。俺は島を出損なったけど、アイツは高校出た後に島さー出ちょるんさ。こっちの言葉さ喋らんよーしちょるけど、島の人間さ」
 「え? 何でですか?」
 思わず食いついてしまった。今までのぼくなら面倒そうな事情を察して絶対にスルーしているのに、きっとこの短い期間で色々周りの影響を受けてしまったんだ。
 「…まぁ…みんな知っちょるしの」
 まるで自分自身に言い訳するようにぼやくとポリスマンは語り出した。
 「アイツの母親さ本州の人やったんさ。結婚しよって島で暮らしちょったけど、こっちに馴染めんと離婚しよったんさ」
 実家に帰った母について行こうとした幼いポストマンを、周囲が必死に引き留めたそうだ。ちょうど彼が出て行ってしまえば島の小学校が廃校になる所だったらしい。そして高校まで嫌々ながらも島で過ごした彼は、迷わず本州へ大学進学しそのまま就職した。このまま帰ってこないと思われたが、奇しくも田舎暮らしに強い憧れを持つ女性と結婚し安師岐島へ戻った。
 「島さ出よる奴ばっかりさ、戻ってくる若モンなんさおらんけぇの。本当に凄まじい歓迎ぶりだったさ」
 母親の離婚以来軋轢の合った如月親子の関係も、その数年は穏やかなものだったらしい。しかしポストマンの妻が妊娠した後に悲劇が起きた。それは順調な妊娠経過を辿り安定期に入って間もなくだった。
 「大型台風が接近しよって船もヘリも出せん夜に、篤志の嫁が急に…な。下からの血が止まらんのさ。島じゃ何も手当もできんと…赤ん坊も嫁の命も一緒に流れてしまったんさ」
 言葉を濁しながらそう語るポリスマンは、肩を落とすと眉を寄せた。気がつけばシンたちが夢中で見ていたアニメも終わり、パソコンに向かったまま動けずにいる二人の背中が痛々しい。どうしようもなく重い空気が室内を支配した。
 「……そんなに辛い思い出があるなら、ぼくなら島を出て行くのに」
 もしかして妻子を失ったトラウマから、郵便物を盗み見てそれを噂に流すという悪癖に繋がっているのだろうか。周囲も同情から何も言えないでいるのかな。どちらにしても、きっとこの島には奥さんとの思い出があり過ぎて辛いに違いない。忘れられないのなら、逃げるしかない。何でも都合よく記憶から消す父さんみたいな人はそういないんだから。
 「…うちは違う思うさ」
 それまで気まずげに沈黙を守っていたリクがふいに会話に入ってきた。
 「逃げちょっても解決せん。島さ逃げても変わらんさー」
 「でもわざわざ辛い想いをしてまで島にいる意味はないでしょ」
 珍しく精霊だとか何だとか言わずに、リクは真っ直ぐぼくの目を見て反論してきた。
 「不幸な人はどこさ行っちょっても不幸さー。何もせんと変われる筈ないさ。じゃけぇうちは信じちょる。諦めんうちはお父ちゃんさ帰ってぐるって」
 「…え…」
 不幸な奴はどこに行っても不幸。そんな彼女の言葉は真っ当過ぎて、ぼくに大いに打撃を与えた。重ねて何故このタイミングで父親の件が話題に上がるんだと突っ込みたかったけど、今までこんな風に心に響く諫言を聞いた事がなくて。何て言えばいいのかわからない。反論の余地もなくて少しばかり気まずくなった。いつも自分には望めないからと不幸に酔っていた所を、まるで見破られこの機会に追及された気分だ。
 「…篤志の嫁さん亡くなった日さ、坊らの父ちゃんらが帰らんくなった日やったさな」
 思い出した風にそう呟くポリスマン。
 五年前、台風がこの島を襲ったその日。ポストマンの妻子が亡くなり漁に出た男たちが帰らなくなった。これを不幸以外のなんと呼べばいいのか。
 ―――ぼくだったら…逃げている。
 そうだ。それが一番簡単で、後腐れを感じる必要もない道だから。
 「まぁ、父ちゃらもそのうち帰ってくるさー。のぅ、リク」
 さも当然とばかりに頷くリク。けれどすぐにその笑顔を曇らせると頭を抱えて呻いた。
 「お父ちゃんが帰ってくる前にさ、うちの成績を何とかせんといかんさ。精霊の神託がまったく当たらんにー困っちょるんさ」
ポリスマンまでもが吹き出して場違いにも爆笑の渦が沸き起こる。そうして始まった小さな不幸自慢を聞きながら、ぼくは父さんの格言シリーズの一つを思い出していた。
 Man only likes to count his troubles, he doesn`t calculate his happiness.―――人間と言うものは不幸の方だけを並べ立てて幸福の方は数えようとしない。
 まったくその通りだよ、ドストエフスキー。残っていたパイナップルサイダーを飲み干すと、ぼくも小さな不幸自慢に加わりそれを笑いへ変えていった。そんなささやかな行為を繰り返す事で、ぼくは長年自分の中に澱のように溜まっていた自己憐憫や歪んだ自傷願望を少しずつ。ゆっくりと時間をかけてほぐしていける気がした。
 
 それからぼくらは、地道な資金活動としてリクのお店の手伝いを始める事にした。と言っても学校から帰ってバーが開くまでの時間に、店内を掃除したりコップや灰皿を洗って準備したりと小学生でもできる範囲だけど。
 普段から手伝いをしているリクがぼくらのリーダー的役割を担った。これは本当に意外だったけど、彼女は仕事となると人格が変わるらしい。店内の掃除は勿論、コップに曇りが少しでも残っていたらあの大きな目を吊り上げて怒るのだ。そのギャップときたら、まさに天と地の如しだ。リクがゴミ出しに行ってシンと二人きりになった時に思い切ってそれを口にしてみたら、彼は笑いながら教えてくれた。
 「前言うちょったさ? リクは店さー大きくするつもりさね。じゃけぇ仕事に関してはちぃと口うるさーなるんさー」
 「あれでちょっとって…180度くらい変わっていると思うけど」
 彼女の豹変ぶりにはただただ驚くばかりだ。だけどリクは真剣に将来を見据え、その下準備を地道に行っている。占いやらオカルトに傾倒したおかしな女の子だとばかり思っていたけれど、実際には誰よりも目標の為になら努力を惜しまない芯の強さを持つ人なのかもしれない。
 ―――よく知っているつもりだった彼女の意外な一面を見たから。だから多分この胸の高鳴りも、特別意味のあるものではない。きっと。
 そして時計台修理のヒントになりそうなものを探す作業も並行して取り組んでいた。みんなが休み時間、小さなグランドでボールを追いかけている中。ぼくら三人は図書室に缶詰だ。然程親しいクラスメイトがいる訳でもないぼくと比べ、シンやリクにはそれぞれの交友関係があるだろうからと危惧していたけれど。やはりはっきりと見えていないだけで、彼らの父親が指揮を執った船に乗った自分たちの父が戻らなくなったという事実は、それなりに子どもたちの心に傷を与えお互いの関係にも影響を及ぼしていた。
表面上は仲良く、だけどよく見ればシンもリクも特別親しいクラスメイトがいない。さすがに室伏先生も察してはいるようだったけれど、悪意を持ったいじめの類でもないからか手出しし辛く様子を見ている感じだった。
 物語の中ではいつも何だかんだで問題が起きても最後には解決する。だから現実世界でも努力し続ければ、きっといつかは…って勘違いしてしまうんだ。多分シンたちとクラスメイトたちのこの微妙な距離感はそれこそ、父親たちが戻ってきてでもくれない限り変わらないだろう。
 「はぁ…」
 そして今日も特に収穫も得られず、ぼくは分厚い児童文庫を閉じて溜息を洩らした。目の前には日誌の空白をいかにして埋めるか悩むシンとリクがいる。二人はぼくの読書が終わったので顔を上げた。
 「地道な作業さねー」
 今日は白いカチューシャをつけてきたリクが肩を竦めて笑った。日焼けしたシンの隣にいるから余計に彼女の肌の白さが目立つ。リクが笑うと時々、太陽の光を正面から受けたような眩しさを感じて慌てて視線を逸らす癖がついてしまった。
 「そう思うなら、リクの精霊の神託とかで何かいいアドバイスでも貰ってよね」
 「無理さー。精霊は気まぐれなんさ。うちのお母ちゃんも若い頃の苦労は買ってしーさって言うちょるんさもん」
 何となく噛み合ってない会話のやりとりが最近ではちょっと楽しい。でも隣でシンが妙にニヤニヤするから、ぼくは会話を切り上げざるを得なくなってしまう。
 「それよりそっちもさっさと終わらせてよ。今日は先生、早めに帰りたいって言ってたし」
 「いいさーのぉー…」
 何故かリクが憧れを込めた眼差しで遠くを見詰めた。まるっきり少女漫画に出てくるご都合主義でまとめられた妄想に夢見る乙女そのものだ。
 「先生、今日はデートさー」
 事情がわからずにいたぼくに、シンがそっと教えてくれた。
 「え、意外。ポリスマンに片想いじゃなかったの?」
 「違うさー。ナル兄ちゃ、アレでも根は真面目さね。まだ付き合うちょらんさ」
 「あぁ…恋人未満のデートね」
 完全に周囲に筒抜けの担任の恋愛事情に花が咲きそうになったその時、図書室の扉が開きつるっとした頭を輝かせた校長が現れた。
 「やぁ、楽しそうに勉強ですか?」
 ぼくらに穏やかな笑みを向け接近してきた。
 「日誌さー書いちょったんです」
 「校長先生。室伏先生、まだ職員室さおるかいのぉ?」
 「あぁ、化粧室にこもってましたよ。アイラインがうまく引けないとか叫んでいたけど、声をかけたらいいでしょう。成宮巡査は清楚な装いが好きだから」
 校長にまで知れ渡っているって事を知らないのは、きっと室伏先生だけだろうな。年齢層の高い島民たちは、この若い二人が無事に結ばれる日を心待ちにしているようだ。
日誌を持って先生の元へと向かうシンたち。二人が座っていたぼくの目の前の席に校長は腰を下ろした。
 「島の生活には慣れましたか?」
 「はい。と言うか…やっと揺れない地面に慣れたって感じですけど」
 ぼくのジョークに校長は肩を揺すって笑った。机の上に両腕を置き、しばらく組んだ指を眺めていたが突然話題を切り出してきた。
 「もしも望んでくれるならきみは、このまま安師岐小学校にいてくれていいんですよ」
 「…………え?」
 あまりに予想外の提案にぼくは数秒程思考停止状態に陥った。
 「きみのお父上からも相談を受けていましてね。現時点で断言できないのが心苦しいけれど、何にしても当人の希望が一番重要です」
 鷹揚とした態度で語るその言葉は、ぼくにもわかる日本語の筈なのに。まったく言っている意味が理解できない。―――コイツ、何言ッテルンダ? って感じで、校長が何か勘違いしているのか。それとも父さんが適当な事を言ってとんでもない展開になっているのか。しかし校長が決して安易な発想から提案している訳ではないと、彼の真摯な態度を見ればわかる。だからこそぼくは余計に混乱していた。
 「返事を考えていて下さいね」
 気がつけば色々と具体的な案も出された気がするけど、今のぼくには処理が追いつかずほとんどスルーしてしまった。取りあえずさっさと帰って、この事実を父さんに突きつけて問い詰めなければ。ただこの一点については重きを置いて考えた。
 それから話を終えた校長は席を立とうとしてふと、ぼくの手元に積み上げていた本を見た。その量に驚いた様子で目を丸くしたけれど、柔らかい微笑みを浮かべ小さく頷いた。
 「ぼくの人生で、本を読む時間というのは最高の贅沢だと思っていましたよ。今でこそそれを味わえるようになったけれど…きみは、もうその楽しみを知っているのですね」
 「……あ、ありがとうございます」
 日本人にしては少々大袈裟な気もする褒め言葉に柄にもなく照れてしまう。相手は禿げの薄汚い恰好のおっさんだと言うのに。
 「『何かを学ぶ為には、自分で体験する以上にいい方法はない』と言いますからね」
 「…アインシュタインですか」
 指摘すると校長はニカッとはにかんだ。
 「きみのお父上から教えてもらいました」
 そして再び一人になった図書室で、ぼくは父さんの意図を必死に考えた。
 
 
 日誌を持って職員室へ向かうと、手鏡の角度を変え何度も化粧の具合を確かめる室伏先生の姿が目についた。
 「話しかけていいんやろさーな」
 その姿に何か鬼気迫るものを感じてか、リクが恐々とぼやく。シンも躊躇いを覚えて入口から動けずにいると、それまで廊下の隅でひそひそ話をしていた二人の女子生徒が彼らに声をかけてきた。
 「だーしたんさ?」
 何気ない風を装ってはいるが、明らかに何かを目的とした接触にシンだけではなくリクまでもが身構えた。
一学年下のナナとマコは互いの身体を寄せ合い、組んだ腕を突きながら本題を持ち出そうとして笑っている。女子の中でも特に噂好きの組み合わせに、シンは内心面倒な相手に捕まったと嘆いた。
 「蔵屋敷くんのお父ちゃんさーどがぁ人さ?」
 「えぇ人さ。色々手伝っちょくれとる」
 力強く断言しながらも、シンは何故キアの父親を気にかけているのか疑問を抱いた。
 「ほがぁ程度で国崎くんの母ちゃんさー手紙さ書く訳なかろーさ」
 「そじゃそじゃ」
 ナナの主張にマコはくすくす笑いながら相槌を打った。
 「手紙?」
 言われてすぐに何の事かわからなかったが、リクがポンッと手を叩き思い出した。
 「シンのお母ちゃんさ持たせちょった菓子袋に入っちょったさー。うちのお母ちゃんも読んどったけど…アレは大人しか読めん言うちょったが?」
 後半は何故子どもであるナナたちがその手紙の内容を知っているのか、責めるようにリクは眉間に深く皺を寄せて尋ねた。
 普段のリクからは想像もできないような恐ろしい表情に、シンまでもが凍りついた。この時ばかりは彼女に精霊ならぬ鬼神が憑りついたと言っても信じただろう。
 「あらあら…みんなどうしはったん~?」
 そこに意中の人とのデートを控え、ルンルン気分で現れた室伏先生。気合の入った装いに、ナナたちはすぐさま反応し甲高い声を上げた。
 「先生だーしたんさ! 今日はエラァ可愛いさー!」
 「アイメイクばっちりさね! あ、これがつけ睫毛言うやつさー?」
 もはや先程の会話などすっかり頭から抜けた様子にシンとリクは顔を見合わせた。そして日誌だけ渡すと、化粧について楽しげに語る三人を残して再び図書室へと向かった。
 「さっきの手紙の話さー…リクは読んどらんさ?」
 「お母ちゃんは子どもは読むな言うちょったさ。じゃし…読む程のもんでもない思うちょったんさもん」
 歩きながらリクは不安げに胸に手を当てた。
 「なんよのー…嫌な予感さする。なんしてうちらには教えてもらえんのさー?」
 「……俺もわからんさ」
 でも、とシンは言葉を続けた。
 「キアにとってたった一人の家族さ。…白黒つけとらんと、アイツはまた一人でウジウジ悩むさー」
 リクは早足で歩くシンの横顔を見詰めた。そこに滲む熱い想いを汲み取ると、リクもまた図書室へ向かう足を速めた。
 「本当さ。キアは独りで抱え込み過ぎさね」
 小さくぼやくと、二人は同時に図書室の扉を開けて中に飛び込んだ。
 「キア!」
 満面の笑顔を浮かべ賑やかな声で親友の名を叫ぶも、そこには誰もおらず机の上には読みかけの本が広げられたまま置いてあった。
 
 
 一応シンたちには置手紙を残してきたけど、後で会ったらちゃんと謝ろうとは思う。きっと二人ならわかってくれるだろう。ぼくにとって父さんは生きる上で欠かせない水よりも酸素よりも大切な存在なんだ。だから、なんでぼくをこの島に残そうとしているのか確かめなくちゃいけない。悠長に待っている余裕なんて一切なくて、こうして息を切らせながら必死に走っていた。
 「よー!」
 後ろから声をかけられたけど、無視していたら自転車のベルを鳴らしながらポストマンが追いかけてきた。
 「急いでるジャン。もしかして下痢?」
 「違いますからっ」
 走りながら叫ぶのは結構しんどい。とすると、何故か突然身体がふわりと浮かんで気がつくとぼくはポストマンの自転車の荷台に乗せられていた。
 「膀胱が決壊寸前なら遠慮せずに言いなよ」
 「だから排泄物系の事情じゃないですっ!」
 文句を言いながらも、ぼくはポストマンの好意に甘えた。
 「全速力でシンの家に向かって下さい」
 「ほー…これは、面白い予感しかないね」
 野次馬根性を隠そうともせずに。ポストマンは楽しげにそう言い放つと郵便ポストを無視して走り出した。
 舗装されていない砂利道を自転車が物凄い勢いで過ぎ去っていく。何度もお尻が浮かび上がり、右へ左へと転びかけたけど下り坂のお蔭もあってあっという間に国崎家へ到着した。自転車から降りようとしてぼくは、縁側に座ってシンの母さんたちと話をしている父さんの姿に気づいた。
 少し屈めば垣根に隠れてぼくの姿は見えない。音を立てないように気をつけて、ぼくは何故か真剣な顔をして話し合う三人の会話に耳を澄ませた。
 「うちはいつまでも居てくれていいんさよ」
 シンの母さんが押し殺した声で呟いた。
 「だな。島には若モンがおらんさに、ガキが増えるんには困らんさ。ワシも孫が増えよった思うちょるさ。おみゃーもいい加減落ち着いたらどうさ」
 続けて猪五郎爺さんが父さんに向かって話しかけた。
 「この島で過ごす環境がキアに必要だと思っています。ぼくは一人で島を出て行こう決めているので」
 「―――!」
 声にならない悲鳴が口を突いて出そうになった瞬間、この時まで隣にポストマンがいる事にも気づかなかった。が、彼が咄嗟にぼくの口を塞いで叫び声を押し留めてくれた。
 それでも衝撃の発言にぼくは、父さんが何かの冗談であんな笑えない話をしているのだと思い込もうとした。だってぼくを父さんから引き離したら、あの人はきっとすぐにくたばって死んでしまう。
 別れる時がくるだなんて、思った事もなかった。ぼくと父さんはある意味家族を超えた運命共同体で。父さんが老いて足腰が立たなくなったら、そんな父さんを抱えて宛てもない旅を続けていくと思っていた。だから今まで当たり前のように振り払えていたあの手が、突然。父さんの方から引き離しにくるだなんて…だから、誰か嘘だと…っ!
 「―--あ…あぁ…っ!」
 必死に歯を食いしばって泣き声を飲み込む。父さんに捨てられるだなんて信じられなくて、声を押し殺すうちに酸欠になって頭がクラクラとしてきた。
 しゃがみ込んだぼくの身体をポストマンがふわりと抱き上げて、そのまま自転車の荷台に座らせてくれた。どこに連れて行かれるのかわからないけど、でも今は存分に泣けるならどんな所でもよかった。
 ガタガタと左右に揺れる自転車の後ろに乗りながら、ぼくはポストマンのくたびれた制服に顔を押しつけて涙やら鼻水を垂れ流しにして泣き続けた。
 
 
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