死に戻ったけど、やり直したい事は特にありません

我利我利亡者

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50.ヨシュアの選択

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 ここまで長々と語ったが、それ等を一文に要約してしまえばつまりは『これ以上しんどい思いをする前に死にたい』と言ったところか。結局、俺の思考が最後に至る着地点はいつもだ。俺の堕落した精神は、どうやっても死という楽な頭皮の道への渇望を諦められないのだ。

 俺の行き着く先にはどこまでも死が付き纏ってくる。我ながら相変わらずどこまで行っても辛気臭い人間だとは思いつつ、こればっかりは長年積み重なってきた生き方の集大成なのでどうにもならない。明るい希望なんて信じていたら、目の前の絶望的現状に打ちのめされて、それこそ自死しかねない環境で俺は生きてきた。そんな環境で身につく考え方と言えば、薄ら暗いものなのは至極当然だろうようなそんな事を考えつつ、俺は1人で身支度を終えて寝室の外に出た。

 主室に行くと、いつもと変わらぬ様子の侍従が今日はお早いですね、と出迎えてくれる。言われて気がついたが、現時刻はいつも俺が寝起きしている時間よりもやや早いくらいの刻限らしい。

 昨日の事件について小耳に挟みましたが、大丈夫でしたか? ダンコーナ公爵家が勇者に危害を加えた一件という事もあって大騒ぎになっていますから、暫くは外出を控えましょう。そんな心配を向けてくる侍従達に感謝して薄らとした笑顔で答えながらも、用事があるからと手早く切り上げヨシュアがどこにいるか知らないか? と尋ねた。

 あんな事があった昨日の今日で流石の彼も気まずいのか今は姿が見えないが、所詮それだけでこれからもきっといつも通り俺の行動を束縛してくるに決まってる。彼は俺の戦線復帰など、絶対に認めないだろう。だからこそ俺はそれに先んじて国王に直談判してでも自らの復帰を認めさせるつもりだった。ヨシュアの居場所を把握しようとしたのは、その邪魔をされない為の布石。いつもより早く目が覚めたのなら好都合。ヨシュアが行動に出る前に先手を打ってやろう。そう、思っていたのだが……。

「勇者様、ベンデマン公爵令息様からの伝言です。勇者様の今後については全てベンデマン公爵令息様が全て手配しておいたので、勇者様は何の心配もする必要はございません。これから勇者様はある程度の周囲からの指示に従ってさえいれば、あとは何をするのも自由だそうです」
「は……? なんだそれ? 聞いてないぞ!」
「ええ、ですから今こうして伝言をお伝えさせていただきました」
「ヨシュアめ……ヨシュアはどこだ!? 抗議してやる!」
「勇者様、お聞きではないのですか? ベンデマン公爵令息様は、今朝早くに魔物の討伐の為辺境へと出立されています」
「何だって!?」

 怒涛の展開と驚きの答えに目を見開く。用意周到なヨシュアの事だから、先手を打って俺が身動きを取れなくなるようにされるのまでは、ある程度予想が着いていた。しかし、討伐の為出立した、だと? それも、十中八九俺と顔を合わせない為だよな? 自分の意見を押し切る為とは言え、そこまでやるか!?

 そもそも彼は、つい昨日かなりの無茶をしてまで予定を切り詰めてまで討伐から帰還したばかりだ。それだと言うのにこの手回しの速さ。きっと昨夜俺に手を出してから超特急で国王に話を通して、その他全ての手配を終え、その足で出立して……。手当したとはいえ、かなり酷い怪我してたんだぞ? なんて無茶をしやがる!

 いくら普段から俺の表情が薄くとも、内心の驚きと苛立ちが如実に顔に現れていたらしい。俺の様子を伺っていた侍従が、心配そうな態度を見せてこちらを伺う。余程尋常ならぬ様子だとでも思われたのだろうか? 気遣わしげな侍従が困った表情をして、更なる情報を与えてくれる。

「何でも昨晩の内に申請や手配等の準備をして、夜明け前にはもう旅立たれたようです。昨日まで行ってらっしゃったのとはまた別の場所だとか……。いくらベンデマン公爵令息様が不要なものは却下しているとは言え、魔物の討伐の申請はいくらでも湧いてきています。それ等を王都に帰還せず梯子してこなすので、暫くここには来られない……という言伝もありました」
「……そうなのか……」

 ヨシュアから話を何も聞いていない事を、俺の態度から察したのだろう。侍従は困惑気味だ。同時に心配している様子も見受けられる。当然だろう。ヨシュアは甘やかしている俺に隠し立てする事なんか何もない、と情報はなんでも共有してくる人だった。そうでなくともこんな重要な事、絶対に相談の上で決めるべき事柄だろうしな。

 それに加えなるだけ俺とは離れたくないといつも討伐に行き渋り、あれこれ心配の言葉を残して用事を済ませたら飛ぶように帰ってくるヨシュアが、暫く顔を見せられないように自分から采配したと来たもんだ。つい昨日までは仲良くやっていて怪我の手当までしてたのに、それが一晩明けてみればこれだ。俺に仕えて長くそんな事情を把握している侍従が何事かと心配するのも、まあ無理ないだろう。これは完全にヨシュアに先手を打たれた形だ。それも、かなり完璧に。

 昨日の事を俺は一切気にしていないので、あなたも気にするな。仮にもし少しでも悪いと思っていても、忘れてくれていい。付け入る隙を見せない為、面と向かってそう言ってやるつもりだったのに。どうせヨシュアの事だから、そういう訳にはいかないと申し訳なさそうな顔で言ってくるに決まってる。そうしたら俺はすかさずだったら俺の戦線復帰を邪魔するな。それで全部チャラだ。とでも言って、後はもう全部シャットアウトしてしまえばこちらの思うがままだと思っていたのだけれど……。それなのに、ヨシュアはそんな俺の卑怯な考えを全て見通していたかの様に、一切話し合う事なく先んじて討伐に出てしまった。これでは俺にはどうしようもないじゃないか。

 現在、俺の身柄はヨシュアに一任されている。王家が管理していたのを、魔物の王討伐後のどさくさと祝勝ムードにゴリ押してヨシュアが手を回し、ぶんどったのである。それはつまり、俺の一切の処遇はヨシュアの許可が下りないとどうにもならないという事で……。

 勝手に討伐に出る事ができない訳ではないが、そうした場合俺の身辺をヨシュアの代わりに管理している人間達が不始末を叱られあおりを食らってしまう。彼等だってヨシュアと同じように少なからず俺に良くしてくれた。それは俺の望むところではない。だからこそ、仮にでもヨシュアと話をして一応でも許可を取った形にして強引に押し通そうとしたのに……。どうやらそんな俺の小狡い考えなど、ヨシュアは全部お見通しだったらしい。

 いくら俺が謀略に長けた人間でないとはいえ、つくづく頭がいい人間とは相手し辛いものだ。俺程度ではヨシュアの計画に太刀打ちできず、手も足も出せなくて腹が立つ。結局この状況下で俺にできる事と言えば、無視されたりしない事を祈りつつヨシュアに話がしたいと伝えてくれと、彼の配下に伝令を頼む事だけだった。

 まあ、それも結局のらりくらりといなされて、確かな返答は全く返ってきはしないのだが。だからと言って、やられっぱなしで手をこまねいている程俺は大人しい性格をしていない訳で……。ヨシュアを出し抜く事を諦められない俺は、行動を起こす事にした。
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