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32.2通目の招待状
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やっぱり、この中途半端な俺の甘えた考えをどこかで改めなくちゃな。嫌われたいなら嫌われたいなりに、思い切って行動を起こさないと。いつまでもあれが嫌だ、これだから駄目だ、なんて言い訳してばかりでは何も進みっこない。
悶々とそんな事を考えている間にあっという間に帰りの道筋を歩き切って、自分が居としている部屋に面する廊下に着いてしまう。休暇中とはいえ休むのに忙しくて俺もなかなか忙しいので、ボーッと好きな事を考えられる時間は移動中くらいしかない。考え事もここまでか。サッサと部屋に入って中に控えていた侍従に今外から戻ったと伝え、今日の予定はなんだと聞いたのだが。返ってきたのは、予想もしない答えだった。
「勇者様。あなた様宛に招待状が届いています」
「は? 招待状?」
返された侍従の言葉を軽い驚きと共に聞き返す。意図せず瞬間的に脳裏に過ったのは、以前送り付けられてきた例の招待状と、その招待状によって招かれた王太子主催のとんでもなく居心地の悪い茶会だ。
俺を貶め笑いものにしようと画策した王太子が開き、悪企み虚しく物の見事にヨシュアによって返り討ちにあって、王太子の望みとは真逆の結果に終わったあれ。まさかとは思うが、王太子がまた茶会を開いてあの日のリベンジを企んでいるんじゃないだろうな? いくら大失敗に終わったとは言え、あれだけヨシュアにコテンパンのケチョンケチョンにされておきながら、リベンジだなんて。例え王太子がとてつもなく執念深いとしても、そんなの有り得るのか?
しかし、そんな疑いは侍従が差し出した件の招待状が入っているらしき封筒を見て霧散する。封筒に施されているのは男女どちらの招待客にも問題なく送れるようにか、普遍的でありそれでいてユニセックスな洒落た意匠だ。悪趣味の権化である、王太子の趣味では決して選べるようなものではない。
王太子は王家の権威を示す為だとか何とか言って、もっと雄々しくてギンギラギンで派手なのを好む。残念ながら呪いにかかって閉じ篭っている期間が長かった為、世間に揉まれてそういったセンスを磨く機会に乏しかったからだろう。こういう送られる側に対する細やかな配慮はとうていできつこない。
それなら、この招待状の送り主は誰なのか? 魔物の王を倒して時の人となり、同時に国王に対して褒美に愛人所望騒動を起こし、その後も様々な事件の中心に輝き続けた俺は、今や社交界中から注目の的だ。それ故数えるのも嫌に成程大勢の人間達が、俺と接触し関わりを作ってどうにかこうにか面白可笑しい話の種を仕入れようと躍起になっている。
そのせいで野次馬根性丸出しで話を聞こうと茶会に誘う招待は引きも切らなかったが、ヨシュアの庇護下では彼の実家の公爵家より権威に劣る人間からの招待は権力によって揉み消しの憂き目に会い、シャットアウトされて俺の元には1つも届かなかった。それならば、必然的にその検閲を逃れ俺の元まで届いたこの招待状は、ヨシュアのベンデマン公爵家よりも立場が上か少なくとも同格の誰かが送って寄越したという事になる。その誰かは当然王太子ではなく、王家の人間が反目しかけている俺にこのタイミングで招待状を送る筈もなく、それでいてベンデマン公爵家に匹敵するか凌ぐ程の権威を持つ相手。そうなると相手は必然的に絞られてくる訳で……。
受け取った招待状の表面を上から下、右から左にシゲシゲと眺める。そうして観察してみると、招待状の送り主は直ぐに察しがついた。封筒に記されているのは戦場暮らしが長く世古に長けていない俺でも知っている、この国では有名なある一族の紋章それは……。
「……この封蝋の紋章、ダンコーナ公爵家か。という事は、送り主については考えるまでもない。きっと、ユディト・ダンコーナ公爵令嬢だな」
ユディト・ダンコーナ。この国でも指折りの名家、ダンコーナ公爵家の姫である。何を隠そう、彼女こそが一応俺の婚約者である王太子ジェレマイアの浮気相手……というか、本命の相手なのである。
悶々とそんな事を考えている間にあっという間に帰りの道筋を歩き切って、自分が居としている部屋に面する廊下に着いてしまう。休暇中とはいえ休むのに忙しくて俺もなかなか忙しいので、ボーッと好きな事を考えられる時間は移動中くらいしかない。考え事もここまでか。サッサと部屋に入って中に控えていた侍従に今外から戻ったと伝え、今日の予定はなんだと聞いたのだが。返ってきたのは、予想もしない答えだった。
「勇者様。あなた様宛に招待状が届いています」
「は? 招待状?」
返された侍従の言葉を軽い驚きと共に聞き返す。意図せず瞬間的に脳裏に過ったのは、以前送り付けられてきた例の招待状と、その招待状によって招かれた王太子主催のとんでもなく居心地の悪い茶会だ。
俺を貶め笑いものにしようと画策した王太子が開き、悪企み虚しく物の見事にヨシュアによって返り討ちにあって、王太子の望みとは真逆の結果に終わったあれ。まさかとは思うが、王太子がまた茶会を開いてあの日のリベンジを企んでいるんじゃないだろうな? いくら大失敗に終わったとは言え、あれだけヨシュアにコテンパンのケチョンケチョンにされておきながら、リベンジだなんて。例え王太子がとてつもなく執念深いとしても、そんなの有り得るのか?
しかし、そんな疑いは侍従が差し出した件の招待状が入っているらしき封筒を見て霧散する。封筒に施されているのは男女どちらの招待客にも問題なく送れるようにか、普遍的でありそれでいてユニセックスな洒落た意匠だ。悪趣味の権化である、王太子の趣味では決して選べるようなものではない。
王太子は王家の権威を示す為だとか何とか言って、もっと雄々しくてギンギラギンで派手なのを好む。残念ながら呪いにかかって閉じ篭っている期間が長かった為、世間に揉まれてそういったセンスを磨く機会に乏しかったからだろう。こういう送られる側に対する細やかな配慮はとうていできつこない。
それなら、この招待状の送り主は誰なのか? 魔物の王を倒して時の人となり、同時に国王に対して褒美に愛人所望騒動を起こし、その後も様々な事件の中心に輝き続けた俺は、今や社交界中から注目の的だ。それ故数えるのも嫌に成程大勢の人間達が、俺と接触し関わりを作ってどうにかこうにか面白可笑しい話の種を仕入れようと躍起になっている。
そのせいで野次馬根性丸出しで話を聞こうと茶会に誘う招待は引きも切らなかったが、ヨシュアの庇護下では彼の実家の公爵家より権威に劣る人間からの招待は権力によって揉み消しの憂き目に会い、シャットアウトされて俺の元には1つも届かなかった。それならば、必然的にその検閲を逃れ俺の元まで届いたこの招待状は、ヨシュアのベンデマン公爵家よりも立場が上か少なくとも同格の誰かが送って寄越したという事になる。その誰かは当然王太子ではなく、王家の人間が反目しかけている俺にこのタイミングで招待状を送る筈もなく、それでいてベンデマン公爵家に匹敵するか凌ぐ程の権威を持つ相手。そうなると相手は必然的に絞られてくる訳で……。
受け取った招待状の表面を上から下、右から左にシゲシゲと眺める。そうして観察してみると、招待状の送り主は直ぐに察しがついた。封筒に記されているのは戦場暮らしが長く世古に長けていない俺でも知っている、この国では有名なある一族の紋章それは……。
「……この封蝋の紋章、ダンコーナ公爵家か。という事は、送り主については考えるまでもない。きっと、ユディト・ダンコーナ公爵令嬢だな」
ユディト・ダンコーナ。この国でも指折りの名家、ダンコーナ公爵家の姫である。何を隠そう、彼女こそが一応俺の婚約者である王太子ジェレマイアの浮気相手……というか、本命の相手なのである。
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