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23.形勢逆転
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「お……おいおい、ヨシュア。言いがかりよしてくれ。私はイーライの体質について、本当に何も知らなかったさ。まさか仮にも婚約者を相手に、進んでそんな危機的状況に追いやる訳ないだろう! そう、相手がどんなに無礼な婚約者であろうともね。それに、私は幸か不幸か医術は受ける専門で、施す側にはとんと縁がなく素養がないんだ。だから私は生憎と君と違って医術に明るい訳じゃないんでね、イーライの体質なんて分かる訳ないのさ。もっと言えば、ここの所どこかの誰かさんにシャットアウトされててイーライとは顔を合わせる事もままならなかったんだから、体質は愚か今朝何を食べたかすら知る事はできない有様だ。だからこそ、お陰で最近の彼の体調もサッパリさ」
王太子の卑怯な魂胆を察したらしいヨシュアが厳しい目付きを僅かに眇め、ニヤニヤ笑いの張り付いた王太子の顔面に侮蔑を隠さない視線を向ける。常ならばそんな目付きで誰かに見られたら、未来の王たる自分を馬鹿にしているのかと瞬発的に憤るに違いない王太子だったが、今は己の優位を確信し疑っていないが故に上機嫌らしく歯牙にもかけない。もっと言えばヨシュアが自分と婚約者との間に横槍を入れてきているじゃないかと当て擦りまで入れる始末。いつもなら考えられない余裕っぷりである。
今はただ、反抗的なヨシュアの目付きすら楽しんで見下すかのように忍び笑いを零している。その余裕の態度は、己の優位性が絶対に揺らがない自信、何があろうとも抱いた悪意やおぞましい企みが暴かれっこないという自惚れが、全身から余す事なく迸り簡単に読み取れた。まったく、どこまでも悪辣な奴だ。
しかし……。その余裕も、呆れた様子でヨシュアが次に口にした台詞を前に、呆気なく脆く崩れ去る。
「殿下がイーライの今の体調や体質の事をご存知ない? おかしいですね、私は祝勝パーティーの翌日に、彼の診察をした医師の診断書を陛下に謁見した際上申した筈ですが……。そこにはハッキリ、イーライの体質、健康状態が明記されていました。王太子殿下は国王陛下の一人息子で、唯一の王位後継者で、尚且つイーライの婚約者なのに、そんな大事な事も陛下から伝えられていないのですか?」
「なっ!? そっ、それは……!」
おっと……これは流れが変わったぞ。余裕を含んでニヤついていた表情から一転。明らかに驚きと焦りを含んだ顔をして、王太子は目を見開きワタワタと慌て始めた。周囲の招待客達もヨシュアよ言葉を聞いて、おや? それなら事情が変わってくるぞとザワついてくる。
然もありなん。ここでそんなの聞いていない! さっきも言った通り知らなかったんだ! と言い切ってしまえば、一応悪意の元俺に危害を加えようとした疑惑は晴れる。しかし、それは同時に次期国王の座を確約されている身の上なのにそんな重要事項も知らせて貰えない程、父親である現国王に信頼されていないという事にもなってしまう。さっき自ら主張した通り、それが俺の婚約者として王太子が当然知っているべき情報でもあるなら、尚更だ。
さりとて今更実は俺の体調や体質について、やっぱり知ってました! ……なんて言える筈もない。それこそ態と害を加えようとしていた事の表明になってしまうし、なんならやってる事が悪質な上にさっき知らないと主張して白を切ってしまっているので余計に周囲からの心象が悪いだろう。
場の流れは変わった。王太子を見る周囲の視線がいつの間にか冷たくなっている。まだ何も証明されてはいないが彼等の心象的には、呪いに人生を翻弄されてきた哀れな王太子から、底意地の悪い性根の腐った眉を顰めたくなるような卑怯者へと大転落である。先程までのどこか余裕の滲む嘘の嘆き方と違い、今度は顔色が悪く冷や汗も止まらない本当の焦り方を見せる王太子に、俺は怒りが引いて一気になんとも言えない哀れみを感じた。きっと今、王太子はその出来の悪い頭で必死になって、上手い言い訳を思いつこうと一生懸命考えているのだろうな。
それでも、1度逆向きに変わった流れはもう元には戻らない。形勢逆転。今、王太子に対する追求が始まる。
王太子の卑怯な魂胆を察したらしいヨシュアが厳しい目付きを僅かに眇め、ニヤニヤ笑いの張り付いた王太子の顔面に侮蔑を隠さない視線を向ける。常ならばそんな目付きで誰かに見られたら、未来の王たる自分を馬鹿にしているのかと瞬発的に憤るに違いない王太子だったが、今は己の優位を確信し疑っていないが故に上機嫌らしく歯牙にもかけない。もっと言えばヨシュアが自分と婚約者との間に横槍を入れてきているじゃないかと当て擦りまで入れる始末。いつもなら考えられない余裕っぷりである。
今はただ、反抗的なヨシュアの目付きすら楽しんで見下すかのように忍び笑いを零している。その余裕の態度は、己の優位性が絶対に揺らがない自信、何があろうとも抱いた悪意やおぞましい企みが暴かれっこないという自惚れが、全身から余す事なく迸り簡単に読み取れた。まったく、どこまでも悪辣な奴だ。
しかし……。その余裕も、呆れた様子でヨシュアが次に口にした台詞を前に、呆気なく脆く崩れ去る。
「殿下がイーライの今の体調や体質の事をご存知ない? おかしいですね、私は祝勝パーティーの翌日に、彼の診察をした医師の診断書を陛下に謁見した際上申した筈ですが……。そこにはハッキリ、イーライの体質、健康状態が明記されていました。王太子殿下は国王陛下の一人息子で、唯一の王位後継者で、尚且つイーライの婚約者なのに、そんな大事な事も陛下から伝えられていないのですか?」
「なっ!? そっ、それは……!」
おっと……これは流れが変わったぞ。余裕を含んでニヤついていた表情から一転。明らかに驚きと焦りを含んだ顔をして、王太子は目を見開きワタワタと慌て始めた。周囲の招待客達もヨシュアよ言葉を聞いて、おや? それなら事情が変わってくるぞとザワついてくる。
然もありなん。ここでそんなの聞いていない! さっきも言った通り知らなかったんだ! と言い切ってしまえば、一応悪意の元俺に危害を加えようとした疑惑は晴れる。しかし、それは同時に次期国王の座を確約されている身の上なのにそんな重要事項も知らせて貰えない程、父親である現国王に信頼されていないという事にもなってしまう。さっき自ら主張した通り、それが俺の婚約者として王太子が当然知っているべき情報でもあるなら、尚更だ。
さりとて今更実は俺の体調や体質について、やっぱり知ってました! ……なんて言える筈もない。それこそ態と害を加えようとしていた事の表明になってしまうし、なんならやってる事が悪質な上にさっき知らないと主張して白を切ってしまっているので余計に周囲からの心象が悪いだろう。
場の流れは変わった。王太子を見る周囲の視線がいつの間にか冷たくなっている。まだ何も証明されてはいないが彼等の心象的には、呪いに人生を翻弄されてきた哀れな王太子から、底意地の悪い性根の腐った眉を顰めたくなるような卑怯者へと大転落である。先程までのどこか余裕の滲む嘘の嘆き方と違い、今度は顔色が悪く冷や汗も止まらない本当の焦り方を見せる王太子に、俺は怒りが引いて一気になんとも言えない哀れみを感じた。きっと今、王太子はその出来の悪い頭で必死になって、上手い言い訳を思いつこうと一生懸命考えているのだろうな。
それでも、1度逆向きに変わった流れはもう元には戻らない。形勢逆転。今、王太子に対する追求が始まる。
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