悪役令息の結婚相手として、断罪も兼ねて野獣侯爵と悪名高い俺が選ばれましたが、絶対幸せにします!

我利我利亡者

文字の大きさ
上 下
19 / 26

おまけ4 2 子世代視点

しおりを挟む
 結局その日、俺はサムエルに学校の運動場に連れていかれ、奴の運動に付き合わされた。曰く『この世に体を鍛える以上に刺激的で有意義な行為はない!』だそうだ。いや、巫山戯んなや! 運動のどこが刺激的だってんだよ!? 刺激されるのは筋肉だけだわ! そう叫んで主張したかったが、あれよあれよという間に運動をさせられてしまってそれどころではない。
 見た目に違わずサムエルは体力お化けだ。奴は鍛え上げられた体が生み出す溢れ出るようなパワーを持って、元気いっぱい運動をしていた。それに付き合わされる俺はたまったもんじゃない。家族に見捨てられた幼少期に、俺は鍛錬を始めとした運動をキッパリ止めていたからな。ヒョロッヒョロで筋肉のついていない俺が、ムキムキしているサムエルに敵うわけないのだ。
 時々休憩を挟みつつ、サムエルには生温過ぎてお話にならないだろうスローペースで運動をしたのだが、それでも俺は午前中のうちにバテてしまった。当然だ。認めたくないが俺はヒョロガリのモヤシである。運動しないことに加え祖国でろくなものを食べさせて貰えず、栄養不良で小さく育った体では、どんな運動負荷も耐えられないのだ。
 俺が運動ができない事、それは未だいいさ。最初から分かりきっていた事だからな。へばっちまったのも想定の範囲内だ。だが、荒い息をしながらヘナヘナとしゃがみこんで動けなくなった俺に、サムエルがかけたあの言葉。あれだけは許せない。あいつ、俺に向かって『君は可愛らしい体力をしているんだなぁ』って言いやがったんだ! なんてことを言いやがるんだ、あいつ!
 元々俺は負けん気が強い。サムエルに対して、甘やかされたお坊ちゃんの癖に……という対抗心もあった。更には他意はないのだろうけれど、可愛いだなんて言われてしまうなんて! 俺はカッコイイスマートな遊び人なんだぞ! 可愛いなんて言われて喜ぶのは、甘やかされたい大ボケだけだ! サムエルの奴、俺を小馬鹿にしやがって! 勝手に噴き上がった俺は、サムエルに負けたくないという気持ちだけで再び立ち上がり、汗を拭って運動を再開した。最早根性だけで体を動かしている感じである。
 結局その日1日、俺はサムエルと運動をして過ごした。運動がキツ過ぎて楽しいとか楽しくないとか、それどころじゃない。ただひたすらにサムエルにつれ歩かれるまま運動場の外縁を走ったり、木に登ったり、キャッチボールという名の取ってこいをしたり……。サムエルを見返そうと運動をするのに必死で、ギャフンと言わせる暇なんてこれっぽっちもなかった。俺が本来の『言う事なんて聞かず無茶苦茶やってサムエルの心をポッキリ折ってやる』という目的を思い出した時には、もう夕方でそろそろ帰ろうかという話が出た時だったという有様だ。
 慣れない運動のし過ぎでガタガタになっている俺を、サムエルはまた小脇に抱えて今度は食堂へ連れて行った。そこで、今日はよく動いたし昼は簡単に済ませてしまったから、腹が減っているだろうと、山盛りの食事を渡される。こんな量を出すなんて、俺の胃をパンクさせて殺す気かと一瞬思った程の量だった。無理をしない程度に食べて。残したぶんは俺が貰うから。と、サムエルは言っていたから、大量に残して奴に食べさせあべこべにパンクさせてやろうと思ったのだが……。この食事がなかなかに美味い。
 不規則な生活をして一日一食食べればいい方、その一食も外で酒で流し込むようにして適当に済ませていた俺だったので今まで知らなかったのだが、この学園の飯はかなり美味しい。いや、貴族の子女を満足させるならこれくらい普通なのかもしれないが、俺は今まで祖国でろくなもん食わせてもらってこなかったからな。食事のあまりの美味さにほっぺたが落ちるかもしれないと思ったのは、その時が生まれて初めてだ。結局俺は渡された食事を全部ペロリと平らげ、追加でデザートまで食べたのだった。
 一日運動して、腹いっぱい食事を食べて、そうしたら人間どうなると思う? 当然、眠くなってくる。体が疲弊している所に満腹感を与えれば当たり前だ。コクリコクリと舟を漕ぎ始めた俺を、サムエルは抱き上げてくれた。今度は小脇には抱えない。食べた直後という事を考慮してか、姫抱きだった。そして奴は何をするのかと思ったら、そのまま俺を風呂場へと運び、なんと風呂へ入れてくれたではないか!
 仮にも他人に世話をされる側のお貴族様が、他人の世話を焼く? 有り得ない! ……と、言いたいとこだが残念ながらこれは事実だ。サムエルは俺が夢現でろくに抵抗しないのをいい事に、頭のてっぺんから爪先まで、丁寧にツルピカにしたのだ。他人に体を触られるなんて警戒心の高いいつもの俺であれば有り得ない事なのだが、俺の体を洗うサムエルの手付きというのが、なんというか、とても気持ちが良くて身を委ねてしまったのである。俺がムニャムニャ微睡んでいる間に、サムエルは俺の事をスッカリ綺麗にしてしまった。
 風呂から上がった後の記憶は更に曖昧だ。髪を乾かしてもらっている間に睡魔に負け、殆ど覚えていない。ただ、俺を優しく抱き上げる腕の力強さと、ベッドに寝かされお休みと柔らかく言われたような事は薄らとだが覚えている。結局、翌朝まで俺はグッスリ夢も見ない程熟睡したのだった。
 俺がサムエルと運動しまくった翌日は、普通に学校のある日だ。前までの俺ならサボッていただろう。酷く疲れていたし、これまでまともな教育を受けてないからどうせ出ても何も分からない。授業なんて出席するだけ無駄だ。そう思っていた。今までは。
 しかし、その日は違った。別に、俺の意識が変わったわけではない。そんな一日他人と運動したくらいで性格や考え方が根っこから変わってしまうのなら、そこまで苦労しないさ。なんならサボる気満々で眠りこけてたし。しかし、いつもと違う要素が1つ。そう、サムエルだ。
「ビクトール、ビクトール、ビクトール! 朝だぞ! 起きろ! 早くしないと食堂の人気メニューがなくなる!」
 控えめながらも無視できない大きさで響くノック音。昨日運動中に鼓舞されたせいで散々聞いた溌剌とした声。俺はそれらによって眠りの世界から引き摺り出され、ハッと瞼を開けた。
「ビクトール! おーい! 大丈夫か? まさか倒れているのか? 扉をこじ開けようか?」
「こじ開けるのは止めろぉ……」
 筋肉痛で悲鳴を上げている体を引き摺って、何とか扉を開ける。不安そうな顔をしていたサムエルは、俺が出てきたのを見てパアッと表情を華やかせた。……だから、美形にそれやられると目がシパシパするんだってば。なんか癪だから、絶対に本人には言ってやらないけど。
「なんだよ、サムエル。何の用だよ……」
「何って、決まってる。ビクトールの姿が見えないから、迎えに来たんだ! ほら、早く着替えてご飯を食べに行こう!」
「えぇ……。要らんわ。疲れたから未だ寝てたい」
「でも、ちゃんと朝ごはん食べないと授業中もたないぞ?」
「別に授業受けんから構わんわ」
「へ?」
 俺の返答に、サムエルはキョトンとした顔をする。見るからに優等生なサムエルの事だ。きっとこいつの中には『学校をサボる』という選択肢がなくて、俺の決断に驚いているのだろう。おっと、これは予想外にサムエルにダメージを与えられたのではないか? ここでサムエルが俺の事を勉強をろくすぽしない不良だと思い知ってくれれば、呆れてもう二度と俺に近づかないに違いない。ラッキーパンチだが、してやったり。そう思ってサムエルの顔を見たのだが……。
「それはいけないぞ、ビクトール! 勉学をサボると将来の選択肢が狭まる! 今からでも遅くないから、授業に出よう!」
「はぁ? なんだよ、それ」
「実際に俺の父さんの元婚約者は、勉学をサボり過ぎて大ポカをやらかしてな。詳しくは省くが馬鹿過ぎて父さんに愛想をつかされ、それを逆恨みして浮気し、挙句父さんに沢山嫌がらせをして、それが王妃殿下にバレてそっからは転落人生だ。俺が産まれる前から今に至るまで、浮気相手共々実家に幽閉状態らしいぞ! 2人共表舞台には一切立ててない。これは極端な例だが、賢くあらねば生きていく上で苦労が多いのは事実だ。さあ、学を得る為に学校に行こう!」
 幽閉なんて、それはちょっと……嫌だな。別に自己顕示欲はないので表舞台に立てないのはどうでもいいが、10年以上閉じ込められるなんて、ゾッとする。ていうか、浮気して元婚約者に嫌がらせって、絶対頭だけじゃなくて性格も悪いだろ、そいつ。頭が悪いとそんな馬鹿な事をやらかしてしまうのか。自分はそこら辺の分別だけはあると思っているのだが、こういうのは得てして自覚症状がないものだからな。自分で気がついてないだけで俺も馬鹿な事をしていたらどうしよう。
 ……て、いやいや、どうでもいいんだよ、そんな事は。選択肢が狭まろうが、苦労が多かろうが、知った事か。俺はそんな事気にする必要がない。だって、俺には。
「……別に、将来が狭まったって構わない。俺に未来なんてないからな」
「そんな事」
「あるんだよ、お前みたいに望まれ生まれてきたような人間と違ってな。……俺は祖国きっての嫌われ者で、出来損ないの王子なんだ。留学って建前で、国を追い出され家族にも縁を切られた。そんな人間に、今更気にすべき将来なんてあるわけないだろう」
 捨て鉢な俺の台詞を、直ぐさま真っ向から否定しようとしたサムエルの純真さに、改めて奴と自分との間にある大きな隔たりを実感する。愛する事や愛される事が当たり前のサムエルと違って、俺が今まで生きてきた世界は憎しみと嘲りに満ちていた。その差が物事の考え方、捉え方に現れている。俺はどんなに頑張っても、こいつのように前向きには思えない。
「ほら、もう行けよ。そんで俺には二度と構うな。俺とお前じゃ住む世界が違う」
「……いや、俺は君を1人にはしない」
「なんだと?」
「ビクトールが誰かに嫌われているのなら、その分俺が君を好きになる。誰かが君の事を出来損ないだと言うのなら、そんな奴見返せるようになるまで勉強だろうが鍛錬だろうが教えるし、できるようになるまで付き合う。家族に縁を切られたって言うのなら、寂しくないよう俺が傍に居る。住む世界が違うなんて寂しい事言うなよ。君は未だ子供なんだから、もっと周りを頼っていいんだ」
 俺の目を真っ直ぐに見て言い切ったサムエルに、グッと怯んでしまう。なんだよ、それ。子供だからどうとか知るもんか。この歳になるまで頼りたくても誰も頼れなかったのに、今になってそんなこと言われても困る。俺は甘え方1つ、心の許し方1つ知らない。知らないままここまで来てしまった。自分の心の1部を他人に預けるなんて、恐ろしくってできっこない。
「……お前はどうして、俺にそこまでしてくれるんだ。所詮は他人だろうに」
「どうしてって……出会ってからの時間は短くとも、俺達は友達じゃないか。友達が困っていたら、助けるのは当然の事だろ。それに、俺は君が夜遊びをしなくてもよくなるように刺激的な体験をプレゼントすると約束した。まさかそれが1日こっきりで終わるわけないだろう?」
 そんな巫山戯た事を言われて、俺は唐突にある事に気がついてしまった。そうか、サムエルにとっては本当に、これがなんだ。他人に優しくするのも、親切を振りまくのも、全部当たり前。他人の悪意に塗れ、悪意に晒されるのがだった俺とは、根本的に違う。今まで見た事も聞いた事もない、生まれて初めて接する暴力的なまでの善性に、俺は正しく打ちのめされた。
「ほら、ビクトール。ここの食堂はクロワッサンが絶品なんだ。それこそ、美味し過ぎて食べたら暫く口が聞けなくなるくらいには。人気だから早く行かなきゃなくなっちゃう。パッパと着替えて食べに行こう。それから授業に出て、勉強をするんだ。教室に入りにくいのなら俺の妹に話を通しておくよ。妹のジネーヴラはビクトールと同学年だから、色々と親切にしてくれる筈だ。それで放課後は、俺が勉強を見てあげよう。どうせだから鍛錬も一緒にしようか。俺はよく弟妹の面倒見てるから、教えるの上手いぜ?」
「……ん、分かった。やってやる」
「本当? 一緒に色々やってくれる?」
「だから、やるって言ってんじゃん。執拗い」
「アハハ、ごめんごめん。嬉しくってつい、さ」
 教えを乞う立場なのに偉そうな俺の態度もサムエルは気にもとめない。ただ、笑って受け入れてくれる。別に、サムエルを心から信頼したわけではない。そうするには俺は、あまりにも他人の悪意に慣れ過ぎていた。でも、ほんの少しだけ思ったのだ。別に、もう一度くらい、ちょっとだけ頑張ってみてもいいんじゃないか、と。かつてした努力は1つも実を結ばなかったけれど、それでもまた挑戦してみてもいいと、サムエルの顔を見ていたら思えたのである。
「ほら、部屋に戻って顔を洗って着替えておいで。そろそろ急がないと本当に人気メニューがなくなっちゃう」
「はいはい、分かりましたよ。口喧しい奴」
 若干憎まれ口を叩きながらも、サムエルに言われた通りにしようと大人しく部屋に引っ込む。魔法で洗顔用の水を出しながら、俺はなんだか、久しぶりにスッキリとしたような気分になったのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

【完結】僕はキミ専属の魔力付与能力者

みやこ嬢
BL
【2025/01/24 完結、ファンタジーBL】 リアンはウラガヌス伯爵家の養い子。魔力がないという理由で貴族教育を受けさせてもらえないまま18の成人を迎えた。伯爵家の兄妹に良いように使われてきたリアンにとって唯一安らげる場所は月に数度訪れる孤児院だけ。その孤児院でたまに会う友人『サイ』と一緒に子どもたちと遊んでいる間は嫌なことを全て忘れられた。 ある日、リアンに魔力付与能力があることが判明する。能力を見抜いた魔法省職員ドロテアがウラガヌス伯爵家にリアンの今後について話に行くが、何故か軟禁されてしまう。ウラガヌス伯爵はリアンの能力を利用して高位貴族に娘を嫁がせようと画策していた。 そして見合いの日、リアンは初めて孤児院以外の場所で友人『サイ』に出会う。彼はレイディエーレ侯爵家の跡取り息子サイラスだったのだ。明らかな身分の違いや彼を騙す片棒を担いだ負い目からサイラスを拒絶してしまうリアン。 「君とは対等な友人だと思っていた」 素直になれない魔力付与能力者リアンと、無自覚なままリアンをそばに置こうとするサイラス。両片想い状態の二人が様々な障害を乗り越えて幸せを掴むまでの物語です。 【独占欲強め侯爵家跡取り×ワケあり魔力付与能力者】 * * * 2024/11/15 一瞬ホトラン入ってました。感謝!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか

Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。 無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して―― 最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。 死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。 生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。 ※軽い性的表現あり 短編から長編に変更しています

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

処理中です...