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おまけ2 前編

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 窓の外で、小鳥が鳴いている。寝起きに窓を開けた時、気持ちのいい風と共に、緑の爽やかな香りが運ばれてきていた。俺たちの住む屋敷のある鬱蒼とした森の奥にも、気持ちのいい日差しが燦々と差し込むその日。朝から俺は、あることの準備に追われておおわらわだった。
「えーっと、小さい子供たち用にハーブで飾って砂糖をたっぷり使った干菓子を10セット。大きい女の子にはポプリを種類ごとにそれぞれいくつか纏めて。男の子たちにはロランが木を削って作ってくれた、小さな玩具でいいかな? 奥様方には薬草のハンドクリームと、花の香水。男性陣には香草で作ったリキュールを持っていけるだけ、沢山。全部多めに用意したけど、足りるだろうか? 用意した贈り物に不備は? ラッピングの加減は? もう一度確認しよう」
 食堂にある広い食卓の上に広げた大荷物を前に、俺はまた一から確認作業を繰り返し始める。1、2、3、と干菓子やポプリの数を数え、香水瓶に磨きをかけ、リキュールが傷んでいないか色味をチェックした。
 もう何度目かわからないチェック作業を繰り返していると、食堂の扉がコンコンとノックされ、開かれる。入室してきたのは恋人であり、今日の朝食当番のロランだ。
「マルセル、朝食ができたんだが、そろそろ作業は終わって……。なんだ、まだやってるのか。またそんなに店を広げて、もういい加減切り上げたらどうだ」
 呆れて、というよりは根を詰める俺に対して心配するような声音でロランは言葉を発する。そうか、もうそんな時間なのか。起き抜けにちょっとの時間やるだけのつもりだったのに、やってしまった。本当は早めに切り上げて朝食作りの手伝いもしようと思っていたのに。
「これは、片付けていたら食事が冷めてしまうな。仕方がない、調理場にもテーブルがあるから、そこで食べよう。ほら、マルセル。夢中になるのはわかるけど、1度切り上げて。あとは食べてからでも遅くない」
 朝の忙しい時間に手伝いもしてもらえず、食卓を占拠されても一切怒らないなんて、ロランは優しい人だ。その事が更に俺の罪悪感を煽り立てる。
「ロラン、ごめん、俺。ここのところ他の事は一切できなくなるくらい夢中になっちゃって……」
「いいさ、別に。私の家族への土産をどうしようか悩んでるんだろう? それだけお前が私の家族のことを真剣に考えてくれているということだ。恋人が自分の家族と仲良くなろうと一生懸命努力してくれるなんて、こんなに嬉しいことはないよ」
 そうなのだ。俺が悩んでいるのはまたもやロランの家族関連。毎年恒例、一年に一度スーラ一族が一同に介するという家族旅行に『折角ロランとの交流が復活したことだし、ロランの好い人のマルセルさんももう私たちの家族同然なんだから、今年は2人も一緒に旅行に行きましょう』と誘ってもらい、俺はお誘いいただいたお礼の手土産に関するあれこれを、もうかれこれ準備期間も含めた数ヶ月前から悩んでいるのだ。
 屋敷を発ち、集合場所のスーラ家本邸に向けて出発する日取りはもう明日にまで迫っていたが、何度確認しても全く安心ができない。むしろ、確認すればする程、日にちが迫ってくる程、不安が募ってくる。
「どうしよう、ロラン。俺、なんかへまやらかさないかな? お土産が気に入って貰えなかったら? センスがないと思われたら? どうしよう、不安でたまらない」
「大丈夫、マルセルはよくやってくれてるよ。これ以上ないくらいにな。ただ、食事はしっかり摂ろうか。明日には出立なのに、準備で無理をしすぎて倒れたら元も子もないぞ」
 さあ、とロランに促されるままに席を立ち、手を引かれながらヨロヨロと調理場へと向かう。不安と心配で頭がいっぱいなのと、考え事を繰り返しているせいで、俺1人だと立ち止まったり物にぶつかったりするから、ここ最近は何をするにもずっとこのスタイルだ。
 やがて調理場につきロランの作ってくれた朝食を摂る間にも考え事に夢中になって他が疎かになり、ロランとの会話を途切れさせたり食事の手を止めてしまったりする俺を、ロランは優しく見守ってその度に俺が我を取り戻すまで待ってくれたり、声をかけて先を促したりしてくれる。はー、本当にこのシングルタスクの悪癖、治さないとな。あまりにもロランに申し訳なさすぎる。
 ただ、治そうと思って簡単に治せるようなら癖とは言わない。これもロランの薬で治せたらよかったのだけれど。まあ、この癖のおかげで山道に迷い、ロランと巡り会えたようなものだから、もう少しこのままでもいいか。いつかきっとそのうち治すから、今はまだ許して欲しい。
 そんなことを考えていたらそのうちに朝食を食べ終わり、2人で並んで食器を洗う。今度こそ考え事に没入せず手を動かし、ロランの足を引っ張らないようにした。
「はあー、こんなんでロランの御家族にお会いしても大丈夫かなあ、俺。なにかに夢中になり過ぎて、取り返しのつかないことしそう。ロランにもいつも迷惑かけてごめんよ」
「何が起きても私がフォローするから心配いらない。それに、迷惑とも思ってもいない。そのままのお前でいいんだ。実を言うと、私はなにかに一心不乱になるマルセルを見るのは結構好きなんだ。私の手を借りないと食事もままならなくなるところや、必死に考え事をする横顔、深く思考に沈む時の唇を指でなぞる癖も、それら全部がなんだか可愛らしくてさ」
 なんだその告白。うっかり少しときめいてしまったじゃないか。思わず最後の皿を濯ぐ手を止めてロランの方を見やると、彼の方はとっくに皿を洗い終わっていて、シンクに手を付きジッと俺の方を見ていた。その視線は柔らかく、温もりに充ちている。
「ロラ、んむ」
 最後まで名前を呼びきる前に、唇を塞がれた。唇はすぐに離れていったが、こちらを覗き込む瞳にはなぜか先程まではなかった確かな熱が灯っている。えっ、なんで!? 今そんな流れだった!?
「ああ、その顔。その顔だ。さっきも言った通り私は物思いに耽けるお前が好きだけれど、中でも一番好きなのは、マルセルが私のことで頭がいっぱいになって他のことなんか一切考えられなくなっている顔。そう、今、している顔だ。ここのところずっと見ていなかったから、なおのこと見れて嬉しく感じる。それと……私の家族と仲良くしてくれようと一生懸命になってくれるのも嬉しいけれど、正直私以外のことにお前が夢中になるのは少し妬けるな」
「ロラン、俺はあなたのことをいつも1番に」
「大丈夫、分かっているさ。けど、それでもお前が私以外のことを考えているのは、妬けるんだ」
 ロランがこちらに伸ばした手で、ソッと優しく抱きしめられる。皿洗いで濡れた手で彼の体に触れて汚さないよう、俺が気を取られた一瞬の隙に、ペロリと耳を舐められた。
「ひゃっ! ロ、ロラン? どうしたの?」
 答えはない。かわりに柔らかい毛皮に覆われた頭が俺の頬に擦り寄せられる。戸惑う俺に構いもせず、ロランはさらに体を寄せてきて、その距離に心臓の鼓動が速くなった。屈んだロランの肩越しに彼の尻尾がユルユルと左右に振られるのが見え、俺はそっと唾を飲み込む。どうしたものかと思っていると、ロランの手が不審な動きをし始めて……。
「ロラン、ロラン? ちょっと、まさかここで何かしらする気じゃあ」
「そのまさかだ」
「えっ、なんで!? ていうか、何する気!?」
「言わずともわかるだろう」
 ロランの不埒な手が俺の服の中に滑り込む。水仕事のせいで冷えたそれに身を竦ませれば、反対に熱い舌が首筋を這った。堪らず吐息を吐いて厚い胸板に体を寄せれば、ロランの鼓動までこちらに聞こえてきそうだ。腰の奥で、ジュクリと熱が蠢いた。
「ん、ロラン。待って。まだお皿拭いてない」
「1枚くらい、また後で私が洗いなおす」
「畑のお世話が」
「留守の間に畑の世話を任せるゴーレム達をさっき試運転のために動かしたんだ。1日ばかり早く稼働させても、なんの問題もない」
「他の細々とした家事だってあるし」
「忘れたのか? 明日出立だからと粗方昨日までに暫く何もしなくてもいいよう、片付けてしまったじゃないか」
 口にした言葉は次から次へとロランに反論されて、どれも封殺されてしまう。そうこうしている合間にも、ロランの右手は俺のシャツをたくし上げ、左手はもどかしそうにベルトを引っ掻き尻を撫で回す。ついつい呼び起こされる官能にその手から腰を逃れさせれば、必然的にロランの股間に自分のモノを擦り付ける形になる。耳元で聞こえる息遣いは荒く、舌舐めずりをする音までした。
「さあ、逃げないで。大人しく私に体を委ねるといい。お前のことを堪能させてくれ。ここのところお前は心ここに在らずなことが多くて、少し寂しかったんだ」
「ご、ごめんなさ」
「謝らなくていい。私のことを大切に思ってくれているから、私の家族と仲良くしようと土産の準備に夢中になっていたのだろう。私はそんなことで機嫌を損ねるほど小さな男じゃないさ。それでもまだ申し訳なく思うなら、今から今までの分を取り戻せるだけ私のことを考えてくれ」
「あっ、そんなところ……」
 堪えきれずに声が出る。ロランが話しながらその濡れた鼻先を俺の肌の上で滑らせ、鎖骨に押し付け、最後に乳首を舐め上げてきたからだ。そのまま器用にシャツの上から乳首を吸われ続ける。
 この1ヶ月間俺のために我慢に我慢を重ね、お預けを食らい続けたロランは、とうとう辛抱たまらなくなったのだろう。早く早くとでも言うかのように、腰を使いグイグイと固くなった股間を押し付けてきた。
 それにまた俺も煽られて、はやる気持ちに流されるまま自分のベルトに手を伸ばす。ベルトのバックルのたてる忙しないガチャガチャと言う音が今の俺たちの気持ちを表すようだ。
 俺は自分のベルトのバックルが外れるとすぐさまズボンのループからベルトを引き抜き、ロランのベルトにも手を伸ばしたが、そのバックルに手がかかるより先に彼の手でグルンと後ろを向かされた。勢いでよろけた拍子に目の前にあったテーブルに手をつくと、間髪入れずにズボンを下げられる。剥き出しのうなじに牙を当てられ、心地よいゾクリとした感覚が背筋を駆け巡った。
「ロラン……」
「そう物欲し気な声を出すなよ。矢も盾も堪らなくなる」
「んぅ」
 いつの間にか調理場に常備してある手荒れ防止用の軟膏を手に取ったのだろう。ヌルリとして少し冷たい感触と共に、ロランの太い指が俺のアナルに当てがわれ、中へと侵入してきた。そのまま指は俺の体内を動き回る。
 ロランと出会ってからだいたい1年、こういう関係になってから半年になった。そういう雰囲気になれば必ずと言っていいほどロランは俺のアナルを弄ってくれていたので、最初は指1本入れるのがやっとだった俺のアナルも、今では見事にロランの太い指を3本飲み込むまでになっている。
 ただ、それでも俺たちはまだ繋がれてはいない。『万が一にでもマルセルを傷つけたくはないから』と、ロランが気を使ってくれているのだ。人体の構造に精通しているロランにそう言われてしまっては、いくら自分の体のことでも俺には反論ができない。俺が入れて欲しいのと同じくらい、ロランだって俺に入れたいはずだ。俺ばかりがもどかしい思いを抱えているのではない。我慢だ我慢、と自分に言い聞かせているうちに気がつけばここまで来てしまった。
「ああ、最近忙しくてしっかりとしていなかったから、少しキツくなってるな。本当に少しだけだから、拡張はそんなにしなくても良さそうだが」
「くぅ、ん。ロラ、ン、待って」
「どうした? やはりどこか痛むのか?」
 俺の言葉に心配してロランの指が止まるが、そうじゃないんだ。言葉にするより行動に移す方が早い。
 何も言わず上半身だけを捻って後ろを向き、ロランの腰に片掌を添わせて、上から下になぞっていく。ロランの下腹部を1度大きく円を書くようにして撫で、掠めるように指先で鼠径部を擽ったあと、手を伸ばしてズボン越しに彼のに触れた。
 ああ、なんて硬いんだろう。ズボンの厚い布越しにも伝わるこの熱。ズシリとした重さ。まだ完全状態ではないのだろうが、それでもこれなのである。いつか完全な状態になったロランを俺が受け入れる日が来るのだ。今からそれが待ち遠しくて堪らない。
「ロラン。俺ばっかりは駄目だよ。ねえ、一緒に気持ちよくなりたい」
 言葉と共にロランのペニスを撫で上げれば、そこの硬さが増したのを確かに感じた。待ちきれない。今日こそは入れてくれないだろうか?
「マルセル……一応言っておくが、今日は入れないからな。お前の身の安全のためにもまだ少し拡張したいし、明日には出立だ。山道を歩くのに、今、お前の腰をガタガタにするわけにはいかないんだよ」
「そんなあ。ロラン、お願い。俺もうアナルが切なくて切なくて、堪らないんだ」
「駄目だ。……そうやっておねだりされると心が揺らぐから、勘弁してくれ。マルセル、どうか私の気持ちを分かってくれないか? 私はこんな余裕のない状況でお前を抱きたくない。いつかたっぷり時間をとって、ドロドロになるまで愛し合いたいんだ。マルセルも、その方がいいだろう?」
 甘い菓子や新しい玩具が欲しくてぐずる子供に言い聞かせるように、ロランが優しい声で俺に囁く。それは、そうだけど。
 でも、ロランの優しさを嬉しいと思うのと同じくらい、入れて欲しいとも思ってしまう。なんだかいつも以上にロランのことが欲しいのだ。どうやら俺はロランだけでなく、知らず知らずのうちに自分自身にもお預けを食らわせていたらしい。当然だ。1人では食事すらもままならない状態だった人間が、そこまで気が回らずに色々と疎かになるのは自然の流れだろう。
 絆されてくれやしないかとアナルでロランの指を締め付けてみたが、逆にいいところを指でからかわれてこちらの方が声も無く腰砕けになり、崩れ落ちないよう目の前のテーブルに縋り付くことになった。ロランの手によっていいようにされ続けた俺の体は、最初の頃よりももっと敏感になり、ほんのちょっとのことで過敏に反応するようになってしまっている。ロランはもう、指の動き1つで俺のことをどうとでもできるのだ。そのまま指が動かされ続け、高められてしまう。
「やだ、やだ、ロラン。ひ、1人では、嫌。一緒が、いい、よぅ……」
 性感で目に涙が溜まる。半開きの口からは涎がボタボタと零れて手をついたテーブルを汚したが、それに構う余裕がない。アナルが勝手に物欲しげにキュウキュウとロランの指に吸い付くので、彼の太く節くれだった指の形が腹の中にくっきりと浮かび上がる。それがまた俺の熱を煽るのだ。
「ふぅ、マルセル。だいぶ蕩けてきたみたいだな。たかだか指だけでこんなになって、可愛いな」
「あ、あなたの、指、だから。んんっ、だから、こんな、風に、はぁ。なって、いるんじゃ、ないか、ぁ」
 喘ぎ声混じりに答えれば、耳元で聞こえるロランの息遣いがまた少し荒くなった。腰を掴んでいた片手にも僅かに力が入る。性感に耐えるために目をキツく閉じ、ガックリと首をうなだれさせていたせいで顕になっていた項に、怪我をさせないようそっとではあるが、またもや鋭い歯を押し当てられた。なんでもこれは非常に興奮した時に何かを求める際の、狼獣人の本能的な行為だそうだ。相手を食い殺したい程求めているという、印。危うい欲求を滲ませるその行為に、俺は煽りに煽られてますますロランのものが欲しくなってしまう。
 人間と獣人では種族間の力の差でどうせ返り討ちにされてしまうから、こちらから襲うこともできないし、どうしてくれようか。もう俺の下半身はグズグズのドロドロなのに。まあ、ロランだって同じような気持ちだろうに、俺の体のためを思って我慢しまくるなんて嬉しいっちゃ嬉しいんだが。
 でも、今はそれ以上にロランが欲しい。後先なんて考えられない。今はただ、ロランと耽けるこの行為だけが俺の全てなのだ。
「ロラン、ロラン。欲し、い。あなた、が、欲しぃ、よぅ」
「駄目だ、マルセル。今はまだ」
「うぅ、どうして、だよ! ロランの、ばかァ!」
 もたらされる性感のためなのか、感情の昂りのせいなのか、あるいはそのどちらもなのか、自分でもよくわからないまま目からポロポロと涙を零す。入れて欲しい、入れて欲しい、入れて欲しい。それでどうなろうが知ったことか。今、俺は、ロランが欲しくて堪らないのだ!
「ああ、済まないマルセル。オネダリするお前が可愛くて、少し意地悪しすぎてしまったな。今からお前が1番にして欲しかったことではないけれど、いいことをしてあげるから機嫌を治してくれ」
「欲しい、こと?」
 半分ほどやわになってしまった俺の頭は、もうロランの言葉の自分に都合のいいところだけしか拾えない。なんでもいいから早くしてくれと尻をロランに押し付ける。
「ふふっ、そんなことをして。堪え性のない子だな、マルセルは。ひとつのことに夢中になってしまうお前の性分は、こういう時に相手のことだけで頭が一杯になって、他のことが考られなくなるようになれるから、やっぱり治すべきではないと私は思うよ。ほら、足を少し開いて。机に手をついてしっかり立っているんだ」
 言われる言葉の半分も理解できないまま、ロランの手に導かれて足を開き、テーブルに手をつくと、腰をぐいっと引き寄せられ、尻を彼の方に突き出すような体勢をとらされた。そこで俺のアナルに挿入されていたロランの指が引き抜かれ、俺はその喪失感に少し身震いする。どうしてここで抜いたりなんかするんだ! と、抗議の意味を込めてキッと肩越しに後ろを振り向けば、ジリジリとした熱に犯された琥珀と目が合った。
「そう怒った顔をするなよ。大丈夫、これからたっぷり可愛がってやるから」
 美しい琥珀が嬉しそうに細められる。何を言って、と口を開きかけたが、言葉にならなかった。突然、足の付け根、腿の内側に、ロランの大きな手が触れたのだ。
 その手は肌の感触を楽しむように少し上下に動かされたあと、奥の、俺のペニスがある方へと進められる。驚いて足を閉じかけるが、間に差し込まれたロランの手がそれを許さない。むしろ、より大きくこじ開けられてさらなる侵入を許してしまう。会陰の当たりを指先で優しく揉まれれば、驚くことに腰の奥から染み入るような性感が湧き上がってきた。
「やっ、なに、これ?」
「マルセルの体にはいつも『中』で気持ちよくなれている部分があるだろう? それを『外』から刺激しているんだ」
 会話の最中もロランの指の動きが止まることはない。なんて気持ちがいいんだ。ペニスの先が、ジュワリと滲む。
 だが、ロランから与えられるその快感に身を任せようとした時に、あっさりと指は会陰から離れていってしまった。
「なんで……あぁっ!」
 疑問の声を口にするも、間髪入れずに会陰から陰嚢、ペニスの根元までを熱く硬いに刺激されて最後まで言えず、背筋が跳ねる。この感触、質感、まさか。
 恐る恐る後ろを振り向けば、正しく、ロランのあの太く大きなペニスが俺の股の間に差し込まれていた。これ、素股ってやつじゃ……。
「お前の体の負担を考えると、今ここで入れることはできないけれど、こうしたら2人一緒に気持ちよくなれるし、本当にシているみたいな気分になるだろう?」
 ロランが腰を引き、強く押し込む。すると、ロランの太いペニスで気持ちのいいところがくまなく刺激され、俺は性感の波に一気に押し出された。
「うあぁっ!」
「はぁ、ふっ。どうだ、マルセル? 気持ちがいいか? 素股で会陰を刺激されると、具合いがいいだろう? これは今回が初めてだったけど、お前は最初から感度がよかったから、こっちも感じるだろうと思っていたんだ」
 ロランがなにか嬉しそうに話しているが、右から左へと抜けていく。会陰と裏筋への刺激は途方もなく気持ちいい。もう駄目だ。何も考えられない。
 逞しい手で腰を掴まれ、ズチュズチュと音を立てながら性器で性器を嬲られる。カクカクと勝手に動く腰のせいで机に縋っていても立っていることすらままならず、倒れまいと足に力を込めればロランのペニスをより強く挟み込んでしまい、ますます性感が昂った。
「ひぃ、ん」
「可愛い声。もっと聞かせておくれ」
「やっ、やぁ……」
 羞恥から閉じかけた口に指を突っ込まれる。愛しい人の指に噛み付いて傷をつけたいわけもなく、こうなるともう自分で喘ぎ声を抑える手段は存在しない。口から零れた唾液が顎を伝い、首筋の窪みをなぞっていく。
「あっ、やら、やらぁ、こえ、出ちゃうぅ。きもひっ、んんっ、はぅ」
「はぁ、はぁ、マルセル、私もそろそろ限界だ。一緒にいこう」
「んあああぁぁっ!」
 ひときわ大きな腰の一振りで、性器を強く刺激された。会陰が、陰嚢が、ペニスが、ロランのペニスで1度に蹂躙される。たったそれだけの事でどうしようもなく気持ちよくなった俺は、気がつけば大量の精液をペニスから吐き出して、果てていた。同じタイミングでロランのペニスも膨れ上がったかと思うとビクビクと震えながら吐精し、2人分の精液が机の下に飛び散り混ざりあう。
「はあ、はあ、はあ……。なにこれ、凄い」
「気に入ってもらえたようで何よりだ。明日から暫く用事が詰まっていて本番には挑めそうにもないが、これなら満足だろう」
「満足は満足なんだけど、1つ問題が」
「どうした? まさか、良くなかったか」
「いや、良くはあったんだけど……。なんというか、良すぎて腰が抜けてしまいまして。今あなたに手を離されたら、完全に床に崩れ落ちます」
「え」
 後ろを振り返れば、予想外の事態に軽く固まってしまったロランの姿がある。直ぐに我を取り戻してどうしようかと必死に考え始めたが、さっきの余裕はどこへやら。すっかり慌ててしまっていて、それが少し可笑しい。そんな彼に苦笑を返しつつ、なんだかんだ、幸せだなと感じる俺だった。
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