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目覚め
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第一章
|夕暮れの日が目を刺激する、どうやら眠ってしまっていたらしい。バッテリーの減り具合から見るに、六時間程度寝ていたようだ。昼寝にしては寝すぎてしまったな、寝室まで運んでくれた同僚たちには感謝しよう。今日の終わりまであと五時間程度、途中だったタスクは誰かが済ませてくれている様子だが、午後のタスクが残っている。まずはそこから済ませようと、部屋を出てコロニーに向かった。
タスクは大きく4つに分かれて呼ばれており、その呼び分けは難易度によるもの。低い難易度から順に、キニス、スキン、フラム、エールの4つ。先程僕が放棄し、同僚が済ませてくれたタスクはキニスのタスクだ。雑巾がけ中に寝たらしい、……。
コロニーに付くと、皆はいつも通りに午後後半のタスクをこなして居たり、娯楽の時間として将棋やチェスに興じているものが居た。大抵この時間までタスクをしているのは、不器用なものか先延ばしにしたもの、それと昼寝してたもの。クソっ、二度とこんな醜態は晒すまいと思えば思う程、脱力した情けのない溜め息が出て、思わずその場にしゃがみこんだ。
「あは、セルが溜め息なんて珍しい、大丈夫ですか?」リトが僕に声を掛けた。リトは不器用な奴だが人よりも努力家で良いやつだ。今日もまだこの時間にタスクをしている所が、彼の不器用さを物語っている。時折、あやつが一人で不甲斐ないと涙を流している所を見れば、誰も彼を憎めないだろう。まあ元より、出来損ないだからと恨む様な輩は居ないが。
「セ、セル……!記録に昼寝あったけどよ……珍しいじゃねえか、その……どうしたんだ、何かあったのか?」と誰より早く僕の存在に気が付いたのに、最初に声を掛けられないタイプの女のレンが言う。「特に変わった出来事はない と思うぞ、覚えている範囲ではだが。」|安堵したレンが眉を寄せた。「本当に不甲斐ない、タスクの放棄だけで無く心配を掛けた。……はあ」「うわ……あ、あたしは全然、平気だよ」リトとリンがあからさまに焦って僕を慰めたが、どうも腹の奥がやるせなくて気味悪い。時針の音ばかりが耳に入って、溜息もやたらと止まらず、気持ちの切り替えも出来ずにいた。
「君がそのように泣きべそをかいていると、周りの空気も淀むと言うものよ。どうしたんだね、セル。」ファブレが不器用に僕を気に掛ける。
「ふむファブレか、君にまで心配を掛けるとは熟呆れる。どうやら僕は先のタスクを放棄し昼寝をしていたらしいのだ。笑止千万、速やかに取り組む予定だ。」「心配等と口にした覚えは無いがね。……へぇ、君が昼寝をば。些か信じ難いが、この地球という広大な場所に置いて、この程も小さな事象に過ぎない、気にする程でもあるまい。」彼の地球を見る目は壮大すぎると思いつつも、相槌を打ち、彼の気遣いを無下にはするまいと伸びをしマーテルの書斎に足を箱んだ。
慣れ親しんだ場所にタスク。面倒とも億劫とも思うことは無くなってきたと思っていたのだが……こればかりはどうも気が沈む、エールのタスクだ。
エールは人によってタスクが変わっている難易度で、頻度は月に1回。内容をマシーン同士で教えあうことは規則で禁止されていて、内容を一寸も透かさぬよう作られた規則が、タスクへの文句、小言を禁ずるというもの。そして愚痴すら許容されないと言うのは苦だと考えたマシーン達によって考えられた”嫌なタスク”の形容詞が、カシマール、これから行くタスクはまさにそれだ。
「お疲れ様です、今日のエールのタスクはセルでしたか、頑張りましょうね。」優しく微笑むマーテルに、嗚呼と空返事をして部屋を見渡す。何時にも増して気味の悪い部屋に反吐が出る。金属同士のぶつかり合う耳を劈く鋭い音が、湿度の高い部屋に響き渡って、香りのない苦みが思考することを遮り、意識が遠のいて――――――。
|夕暮れの日が目を刺激する、どうやら眠ってしまっていたらしい。バッテリーの減り具合から見るに、六時間程度寝ていたようだ。昼寝にしては寝すぎてしまったな、寝室まで運んでくれた同僚たちには感謝しよう。今日の終わりまであと五時間程度、途中だったタスクは誰かが済ませてくれている様子だが、午後のタスクが残っている。まずはそこから済ませようと、部屋を出てコロニーに向かった。
タスクは大きく4つに分かれて呼ばれており、その呼び分けは難易度によるもの。低い難易度から順に、キニス、スキン、フラム、エールの4つ。先程僕が放棄し、同僚が済ませてくれたタスクはキニスのタスクだ。雑巾がけ中に寝たらしい、……。
コロニーに付くと、皆はいつも通りに午後後半のタスクをこなして居たり、娯楽の時間として将棋やチェスに興じているものが居た。大抵この時間までタスクをしているのは、不器用なものか先延ばしにしたもの、それと昼寝してたもの。クソっ、二度とこんな醜態は晒すまいと思えば思う程、脱力した情けのない溜め息が出て、思わずその場にしゃがみこんだ。
「あは、セルが溜め息なんて珍しい、大丈夫ですか?」リトが僕に声を掛けた。リトは不器用な奴だが人よりも努力家で良いやつだ。今日もまだこの時間にタスクをしている所が、彼の不器用さを物語っている。時折、あやつが一人で不甲斐ないと涙を流している所を見れば、誰も彼を憎めないだろう。まあ元より、出来損ないだからと恨む様な輩は居ないが。
「セ、セル……!記録に昼寝あったけどよ……珍しいじゃねえか、その……どうしたんだ、何かあったのか?」と誰より早く僕の存在に気が付いたのに、最初に声を掛けられないタイプの女のレンが言う。「特に変わった出来事はない と思うぞ、覚えている範囲ではだが。」|安堵したレンが眉を寄せた。「本当に不甲斐ない、タスクの放棄だけで無く心配を掛けた。……はあ」「うわ……あ、あたしは全然、平気だよ」リトとリンがあからさまに焦って僕を慰めたが、どうも腹の奥がやるせなくて気味悪い。時針の音ばかりが耳に入って、溜息もやたらと止まらず、気持ちの切り替えも出来ずにいた。
「君がそのように泣きべそをかいていると、周りの空気も淀むと言うものよ。どうしたんだね、セル。」ファブレが不器用に僕を気に掛ける。
「ふむファブレか、君にまで心配を掛けるとは熟呆れる。どうやら僕は先のタスクを放棄し昼寝をしていたらしいのだ。笑止千万、速やかに取り組む予定だ。」「心配等と口にした覚えは無いがね。……へぇ、君が昼寝をば。些か信じ難いが、この地球という広大な場所に置いて、この程も小さな事象に過ぎない、気にする程でもあるまい。」彼の地球を見る目は壮大すぎると思いつつも、相槌を打ち、彼の気遣いを無下にはするまいと伸びをしマーテルの書斎に足を箱んだ。
慣れ親しんだ場所にタスク。面倒とも億劫とも思うことは無くなってきたと思っていたのだが……こればかりはどうも気が沈む、エールのタスクだ。
エールは人によってタスクが変わっている難易度で、頻度は月に1回。内容をマシーン同士で教えあうことは規則で禁止されていて、内容を一寸も透かさぬよう作られた規則が、タスクへの文句、小言を禁ずるというもの。そして愚痴すら許容されないと言うのは苦だと考えたマシーン達によって考えられた”嫌なタスク”の形容詞が、カシマール、これから行くタスクはまさにそれだ。
「お疲れ様です、今日のエールのタスクはセルでしたか、頑張りましょうね。」優しく微笑むマーテルに、嗚呼と空返事をして部屋を見渡す。何時にも増して気味の悪い部屋に反吐が出る。金属同士のぶつかり合う耳を劈く鋭い音が、湿度の高い部屋に響き渡って、香りのない苦みが思考することを遮り、意識が遠のいて――――――。
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