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目覚め
しおりを挟むオレの名前は『岸 まさし』
生前は小さい頃から憧れてい警察官の職に就き、悪さをする者を捕らえていた。
オレがこの世界と別れるきっかけになったのは、一本の市民からの通報。
商店街に強盗犯が居ると聞き、オレは即座に現場へ駆け付ける。凶悪犯ともなれば、数人単位で行動するのが正解だったのだろうが、この時は現場にいち早く向かえるのがオレ一人だった。
そして駆け付けた際に、丁度居合わせた強盗犯と揉み合いになる。犯人は手に包丁を持っていた為に、オレはそれで右腹部を刺されてしまう。
だけど、そのあとすぐに警官の仲間も数人現場に駆け付けて来たから、犯人の手には手錠が掛けられ無事に捕まったのを確認する。
腹部を襲う激痛に苦しみながら、その光景を見届けたのまでは覚えていた。
けれどその後、薄れていく意識が瞼に重くのし掛かり閉じてしまう。
ここでオレ『岸 まさし』はもう二度と目覚める事はなかった。
岸 まさしは死んだ。
警察官である事を誇りに思い。
民間人を護れた事を誇りに思い。
25年の生涯に幕を閉じた。
──と、思われたのに、まさかまさかのオレはまだ生きていた。
眠りから目を覚ますと、目の前には知らない男がこちらを見ている。
どうやらオレの顔を覗いていたようで、こちらが目覚めた事に対して相当驚いている様子。
頭がぼーっとしてよく聞こえないが、目の前に居た男が何やら知らない言葉で叫んでいる。日本語でない事だけはわかる。
最初は相手が何を言っているのか、全く理解が出来ない。
当たり前だ、日本語でないのだから。オレは英語ですらあやふやなんだ、それ以外の言語は無理だ。
それなのに何故か不思議と、聞いている内に耳から入ってくる言葉が勝手に翻訳されて聞こえてくるじゃないか。
この感じだとイタリア……語? だろうか。
「ドン! ああ、良かった……ご無事で。目を覚ましてくれて、安心致しましたよ」
ドン? なんだそれは?
それにこの男は誰なんだ?
見たところ日本人ではないし、言葉からしてイタリア人だろうか。
わからない事が多すぎて、声を出そうと口を開いた時だった。
「ぬぁ……っ!? な、なんだよこれ……くそ痛ぇ!」
腹部を尋常じゃない激痛が走った。
オレは背を丸めて腹部を抱える体勢になる。
「大変だ……今医者を連れてきます! 動かず待っててください」
言われなくても痛みが酷すぎて、下手に動こうなど思えない。
傍に居た知らない男は、慌てた様子で部屋を飛び出して行った。
何がどうなってる。
痛みに耐えつつ身体に視線を向けと、オレは薄いグリーンの簡易な寝間着を着用し、腕には点滴の針が刺さっているじゃないか。
激痛で身体は無理に動かせないが、目だけは動かし部屋を見回してみる。
天井は高く、西洋によくありそうな複雑な模様が描かれている。
そして部屋には、オレが悶え苦しむのを支えてくれるベッドのみが置かれている。
この部屋は無駄に広い。
扉は大きく窓は一切無いようだし、どう見ても病院といった雰囲気では無さそうだ。
そうなると、ここは一体何処なんだ?
「夢でも見てるのか? でもっ……それにしては、痛み、が……っ」
歯を食い縛り顔を歪めて痛みに耐えてると、手には生暖かい感触が伝わる。
視線は腹部を押さえていた手元に向けた。
そこに見えたのは、赤黒い液体で染まる手。
「……血?」
簡易の寝間着も、腹部の辺りが赤黒く染まって重くなる。
寝間着を捲ってみれば、身体には包帯が何重にも巻かれていた。
当たり前だが巻かれたその包帯も、血でべっとりと血で染まっている状態。
しかしこの時、違和感に気付く。
「これ、傷が……左?」
オレは確か強盗犯に刃物で刺されたのは、右腹部だった筈。
なのに今、血で酷く滲んでる箇所は左側のように思える。
再び意識がぼんやりとしてくる中、改めて身体を見て確かめる。
手や脚の大きさや形を確認し、顔や髪も触ってやはりとおかしいと感じ頬が引きつっていく。
「これは、岸 まさしの身体じゃない!?」
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