『公安暗殺特殊部隊』 ~異能の力が無くとも、自力で異能力者連中を叩きのめす~

海藻

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黒い殺気と苦味を越え

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 アディルはドリップポットに水を注ぎ入れ、コンロに置くとカチッと音が鳴り火をつける。
 流れるように慣れた手付きでドリッパーにペーパーフィルターをセットし、水が沸騰するまでの間、ジオの首に埋め込まれた爆弾についてアディルが口を開く。


「そなたに入れた爆弾は、はっきり言っていつ爆破してもおかしくない」


 アディルの視線は火元に落ちているが、声から察するに真剣さが伝わり──椅子の背に凭れ掛かって腕を組み、ジオは口を挟むこと無く己の身の現状を知るために耳を向けた。

 ジオが小型の起爆装置を破壊した際、爆発こそ奇跡的に起きなかったものの、危険性の高い爆破物はいまだ首に埋まった状態。
 首に強い衝撃が加われば、それは当然破裂する。


「これは公安暗殺の隊員皆にしておる事だが、一度埋めた爆弾は取り出す。ただし、別の爆弾を体内に取り込んでもらう必要はある」


 首に埋め込んだ爆弾は一時的な保険のようで、アディルの下で働くと決まればその爆弾は取り出し、別の物を体内へ取り込む事が決まっている。

 保険とは、面会時に暴れ抵抗された際に相手の動きを止めるための威嚇や、最悪手に終えないようなら処刑してしまうため。
 ジオの場合は威嚇もなにも、起爆装置を壊されてしまったが。


 アディルが責任者を務める公安暗殺特殊部隊の隊員は、ジオを除き現在は5人が所属。
 その5人全員がジオと同じく人を殺した重罪人であり、一度は牢獄へ収容された者達ばかり。
 その者達も異能無しだが身体能力、並びに動体視力が高く、驚異的な力を認めたアディルによってスカウトされ構成された隊員達。

 経緯としては、これまたジオの体験した事と同様に、首に爆弾を埋め込まれた状態でアディルと面会──異能力者の死刑執行人としての仕事をしないかと誘われ、現在の職に就いているそうだ。


 ドリップポットの中の水が沸々としてきた頃、アディルはスカートのポケットから真空された小さなパッケージ取り出す。
 コンロの前から移動しテーブルに向かうと、真空パッケージの中身を取ってジオの目前に置く。

 置かれた物体の見た目は、2センチ程あるカプセル。

 体勢を変えず、表情も変わる事無くジオは問う。


「それが次の爆弾か?」

「そうじゃよ。これを飲んでもらう」


 暫しカプセルを見つめたジオは、とある疑問が浮かび首を傾げた。


「これだけ小さければ、消化はしなくとも排出されないのか?」

「それには問題ない。我も仕組みを詳しくは知らぬのじゃが、それを造った奴が言うには胃に貼り付くらしい」


 毒物でも無く消化もされないため、身体に影響はない、と付け加えるアディルの話を適当に聞き流したジオは、体勢を前に起こして無造作にカプセルを手に取る。


「飲めば良いんだな」

「間違って噛むでないぞ?   今度こそ頭が吹き飛ぶからの……。待て、今水をやる」

「要らん」


 数回手の中でカプセルを転がすと、ジオは躊躇無しに口に放り込み、あっさりと爆破物を飲み込んでしまった。
 ゴクリと喉が動き、カプセルは食道を取って胃に落ちる。


「特に味は無いんだな」

「……」


 あまりもあっさりと飲み込むために、アディルの頬は若干引きつった。
 これまでもアディルは他の隊員にカプセルを飲ませはしたが、爆弾を体内に取り込むと知って躊躇しない者は居なかった。

 それなのにこの男は、サプリでも飲むかのように躊躇わず口に入れ、その後も平然としている。
 自身の身に現在は爆弾が2つも入ったと言うのに、何も恐れた様子が窺えたい。
 実際、ジオはこの事に恐れすら抱いていないのだろう。

 それどころか、味の感想を言う程には余裕である。

 アディルは呆れ気味に問う。


「そなたは、危機感とかないのか?」

「前にも言ったが、生きるのにスリルは大事だ」

「それはスリルと言う問題では……」

「沸騰してるぞ」

「あっ」


 ジオに指摘されて振り振り返れば、ドリップポットの細口から膨大に噴出される湯気と、グツグツと音が鳴る事から沸騰を知らせる。
 アディルは慌てて火を消し、ペーパーフィルターに珈琲の粉を入れてゆっくりと湯を注ぐ。すると部屋に広がる珈琲の香りが、アディルを静かに落ち着かせる。

 出来上がった珈琲を2つのカップに注ぎ淹れ、テーブルに運ぶ。目前に置かれたそれをジオは視線を落として見つめ、アディルはジオの前の席へ腰掛ける。


「良い豆を使用しておる。味は保証する、美味いぞ」


 アディルの言葉を無視して、いまだカップの中身をじっと覗くジオ。
 そんなジオの様子をアディルも無視をして、忠告するよう口を開く。


「本当は先に言おうと思ったんじゃが……そなたの飲んだ爆弾は首に埋めたのと同じく、GPS機能も付いておる。そして国によって居場所を管理されておる故、逃げれるとは思うでないぞ」


 この言葉を聞き、そこで漸くジオの視線がアディルに向かう。
 長い前髪によって目元は隠れて表情までは知れないも、口は楽し気に歪み始める。

 己の位置を誰にどのように知られていようが関係無く、罪人として何処かへ逃げようなどど初めから考えてすらいない。
 それでいて、いつ誰に爆破されるかわからない状況でも、ジオにとってこれは面白いひとつのゲームのようであり──だが正直に言えば、どうでもよかった。


 アディルはカップを手に取り熱い液体に数回息を吹き掛けた後、そっと一口啜り続きの言葉を告げる。


「意味をわかっておるのか?   常に位置を把握され……規則違反及び裏切り行為があれば、即そなたは処刑出来るようになっておるのじゃぞ」

「……規則と裏切り?」


 再び椅子の背に凭れ掛かり、興味を示した声音で──恐れからの興味でなく、何をすれば己を殺しに掛かれる要因・・が必要になるのかを知りたく──問いながらジオの視線は真っ直ぐに目前のアディルに向かう。


「簡単な事じゃよ。仕事以外での暴力や殺しと、罪人の異能力者を庇う行為は裏切りとなる」


 罪人である異能力者の死刑執行人であり、戦闘員ともなる隊員達は、一般人に傷を付ける事は固く禁じられている。
 正当防衛であれば多少許される範囲もあるが、余程の事がない限り──或いは上司の許可が降りない限りは、相手に手を出す事はあってはならない。

 それは例え相手が異能力者であったとしても、その者が罪人でなければ同じこと。これは一般人と同じ扱いになる。

 この決まりがあるのは、殺しと言う名の暴力を仕事とするが故の事。


「そなたのような異常者、驚異的な力を持つ者は、社会としては不純物でありゴミ・・だ──だが一方では、異常性と驚異性の力は必要であり貴重な存在でもある」


 ここで一度言葉を区切ったアディルは、また一口珈琲を啜ってから続きを口にする。


「先程も言ったが、我は殺されようが代わりなどいくらでもおる。けれど、そなたのような者は代わりはそう居ない……居てほしくもないがの……」

「ゴミから貴重な存在ねぇ……俺は随分と格上に昇格出来たんだな」


 クツクツと可笑しく笑うジオに、目を細め僅かに怒気を含んだ声で静かにアディルは告げる。その表情は冷たく、虫螻むしけらを見るように。


「勘違いするでないぞ重罪人。そなたはただの人殺し犯罪者だ。罪無き人の命を奪った重みを忘れるでない……。なんの為に体内に爆弾を入れたと思っておる……用が済めば、捨てられるだけの道具と同じ。それに本来なら、既にそなたは死刑済みの存在なのじゃぞ」

「死刑済みか。俺はいつ、殺される予定だったんだ?」

「…………そなたと初めて話した日、返答次第では死刑日だった」


 ジオからの問いに対して、一呼吸置いてから告げた。
 それから時間にして約10秒程、間を開けてからジオの口角が上がる。
 ゆっくりと身体を前にずらし、そのまま腰も浮かせてテーブルに両手を付いたジオは、目前の女──アディル・ハンズにぐいっと顔を近付けた。

 そして笑う。楽し気に、愉快に、快然たる態度で──だが嘲笑気味に。


「なるほど。俺はある意味、アディルによって命拾いした訳か。ならば感謝を示さなくてはな!   そうだな……アディルの命令であれば何でも聞いてやる。どうだ?」

「……」

「そう睨むな。殺したくなる」


 アディルの双眼が鋭く、目前に迫る前髪から微かに見える眼球を睨み付けた。
 しかしそんな睨みひとつで臆する筈もないジオは、またクツクツと笑って犬歯を覗かせながら告げる。


「知っての通り俺は殺しが好きだ。規則とやらに触れないよう気を付けるが……衝動を抑え、それを全て殺意と共に犯罪異能力者にぶつけ──高成績でも上げてやる。……だが、そっちこそ勘違いするなよ」

「……ッ」


 笑っていた筈が突如スゥ……と表情が消え、瞳も声も感情を消す。
 ジオの手が伸ばされ、アディルの顎に指が添えられる。しかしアディルは、その手を直ぐに払い退けようとした──が、それをする事が出来なかった。
 正確に言うならば、この時、アディルは指ひとつ動かす事が出来なくなっていた。

 互いに交差する、もはや逸らす事すら許されなくなった視線の中から、強い殺気が流れ込み──その脅威からアディルの全身は金縛り合ったかのように硬直。
 声すら発せられない恐怖が襲い、アディルの手に汗が滲む。

 一切の感情無き表情と声音で、ジオは淡々と言葉を紡ぎ出す。


「安全地帯から俺を木っ端微塵に出来ると思っているのなら、殺す。俺を殺せると思う奴が居れば、それが誰だろうが何処に居ようが見つけ出して殺す。俺の死因をお前達の爆破で終わらせはしない」


 そう告げると、顎から指を離して体勢を元の位置に戻す。
 再び椅子に腰掛けたジオの口元は緩んでおり、硬直する程の強い殺気もいつの間にか消えていた。


「……なんてな、冗談だ。流石に俺も、誰かも知らない相手に遠く離れた場所から起爆スイッチ押されたら、どうしようもない」


 まるで降参とばかりに、ジオは両手を肩の高さまで上げて見せ、ケラケラと可笑しそうに笑う。
 次いで「命拾いした分、きちんと仕事はする」と告げたジオは、傍に置かれていたカップを手に取り、まだ口を付けていなかった、それでいて完全に冷めてしまった珈琲を啜る。

 そして一口飲んだと共に、ジオは膨大に咳き込み出す。


「ぐ……っ、なっ何だこれ、苦いぞ……毒か!?」

「…………は?」


 恐怖による金縛りから解かれたアディル。息を大きく吸い込み、精神を落ち着かせていたところ、ジオの思わぬ発言に目を丸くする。


「そなた珈琲を飲んだ事はないのか?」

「存在は知っていたが、無い。こんな黒く得体の知れない飲み物を、アディルは平気で口を付けるからどんな物かと思ったら……こんな苦い物を飲むとは正気か?」

「……爆弾を平気で飲むそなたに言われてもの……苦いのが嫌なら、甘くしてやるぞ」


 苦笑し、席を立ったアディルは砂糖とミルクを取りに向かう。

 なんとか平然を装ってはいるが、その身──手にはいまだ汗が滲んでいた。
 ジオは冗談と後から告げたが、感じ取った殺気は紛れもなく本物。

 もしも何かがずれていれば、確実に己は殺されていたかもしれないと、アディルは思考し──そして改めて思う──この男は凶悪な殺人鬼であり、脅しなど一切通じないのだと。



 余談ではあるも、この後ジオは角砂糖5つとミルクをたっぷり入れた激甘珈琲を美味しそうに飲んだそうだ。


 そして後日、凶悪な殺人鬼は、己と同じ驚異者と会う。

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感想 1

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みんなの感想(1件)

キノ
2020.05.18 キノ

やばい...
主人公好きすぎる...

解除

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