同居人(ルームメイト)

国光

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第5話「親子喧嘩」

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 一仕事終えた俺はそのまま夏希の家でくつろいでいた。
「秋人君。ケーキがあるわよ」
「いただきます」
 おばさんは俺が夏希にケーキを食べられた話を憶えていてくれたのかわざわざケーキを用意してくれた。
 ケーキを食べていると隣の部屋から怒鳴り声が聞こえてきた。
 夏希とおじさん。二人の怒鳴り声の応酬が聞こえる。
 怒鳴り声以外も物音が聞こえてくる。
「大丈夫なんですか?」
 流石に少し心配になってくる。
「いつものことよ」
 おばさんは平然としている。
 どうやら大丈夫なようだ。
 安心してケーキの続きを食べようとしたが何かが割れるような大きな音が聞こえた。
「今のは?」
 これもいつものことなのだろうか。
「これは……いつもと違うわね」
 おばさんも少々驚いた表情だ。
 俺は慌てて動き出した。
「夏希!」
 ドアを開ける。
 中に入るとおじさんの額が割れて血が出ているのが見えた。
 そしてその対面で、夏希が泣いている。
「夏希?」
 泣いている夏希なんて何年ぶりに見たか。
 窓ガラスが盛大に割れておじさんが血を流していたけれど、そんなことよりも夏希から目を放せなかった。
 ゆっくりとおじさんが動き出した。
「なんでわからねえんだ」
 おじさんの拳が振り上がる。
 やばい。
 俺は夏希の前に立った。
 おじさんは気にせず拳を振り下ろしおじさんの拳が俺の顔面を捉えた。
「ぐっ」
「秋人君」
 おばさんの声が聞こえる。
 倒れそうになったが俺は耐えた。
 県内一のセンターとゴール下の激戦を日々繰り広げる俺だ。
 なんとか踏みとどまった。
「おじさん。グーはないでしょう」
 殴られた左の頬が大分痛む。
 まあ、これで怒りも収まるだろう。
「うるさい。邪魔をするな」
 おじさんは再び拳を振り上げる。
 まずい。全然収まって無かった。
「あなた!」
 おばさんが止めに入る。
 それでもおじさんは殴りかかろうとしてくる。俺に向かって。
「まずい。逃げるぞ」
 俺は夏希を連れて外に出た。
「とりあえず俺の家に避難だ」
 すぐさま隣の家に逃げ込もうとする。
「あっ」
 扉の前に来て初めて、実家の鍵持っていないことに気付いた。
 そして両親は旅行中。
 結論。実家に入れない。
「どうしよう」
 隣を見ると、夏希は俯いたまま喋ろうとしない。
 こんな状態の夏希をあんな状態のおじさんの元に帰すわけにはいかない。
 俺は少し悩んだ末、タクシーに乗って家に帰った。
 タクシーの料金という思わぬ出費に一瞬くらっときたが、あとでおじさんに請求することにしようと。
 家に帰ると、夏希は泣きつかれたのか眠ってしまったようだ。
 夏希が眠るまで一言も会話は無かった。
「腹が減ったな」
 何気なく冷蔵庫を開けると昨日の残りのカレーが入っていた。
 二人分しっかりと残っていた。今日の夜のために用意してくれたんだろう。
 それを暖めて食べる。
「美味い」
 やっぱり夏希は料理だけは美味い。
 一日を振りかえる。
 長い一日だった。途中まではのんびりできたなんて思っていたが最後で疲れきってしまった。
 夏希と一緒に出掛けて油断させて夏希を家に送り届ける作戦。
 送り届けるまでは成功だった。
 まさか送り届けた後であんなことになるなんて。
「悪かったな」
 寝ている夏希に声をかける。
 返事は無い。
 明日こそ理由を聞くことにしよう。
「痛ててて」
 頬が痛む。
 これはきっと罰だろう。ちょっと理不尽な気もするが。
「お休み」
 そして俺も眠りに着いた。
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