一日一回シないと死んじゃう妖精の私が、人質になってしまいました。～救命はエッチ？ いじわるな准将様に見張られて～

ペーター編

７４話 きらい

　

「ペーターがきらいだから！」

ガラスがわれる音が散ちった。私はビクッと身をすくめたあと、頭を起こして下をのぞいた。床で試験管がわれ、水溜まりになっている。ラッキーっていっていいのか、とにかく助かった……これで注射なんてできなくなった。
私はホッと体の力を抜き、ペーターを見あげた。

彼はマドラーを落としたままの手のかたちをして、凍りついていた。

「……ソンナノ、……シィッテタシ……」
「え？？」
「……ﾌﾞﾂ……ﾌﾞﾂ……」
「ど、どったのペーターゃ」
おばあちゃんみたいなイントネーションになってしまった。

どうしたんだろ。急にｷﾁｷﾁ鳴るＴ字ホウキ出してきて掃き掃除しだした。教室の用具入れに入ってたやつ自分で買ったんだ。

「あの、治なおそうとしてくれる気持ちは嬉しいけどもうやめてね」
「……」
「聞いてる？　発症なんて絶対やめてね？」
「だって治療法見つけても試してくれないんでしょ！　ボクがきらいだから！」

あー、何暗くなってるのかと思ったら、きらいって言われたのが気に入らなかったんだ。私にきらわれたって気にしないと思ったのに、思いのほか効いてたみたい。マジックテープぐるぐる巻きの私を放置して、出て行ってしまいそうになる。

「ちょっと待ってってばっ、ペーターだって私の事きらいでしょっ」
「……」

ふり返ったペーターが冷ややかな目で私を見下す。ととのった目鼻立ちしちゃってさ。人の容姿を貶けなせるだけあるわよ？　だから今まで何も言い返さないできたけど、だんだん腹立ってきた。

「前から言おうと思ってたけど、人の容姿どうこう言うのよくないと思う。自分はハンサムな末っ子王子で、お兄様たちに可愛がられてるからって」
「それって見た目の美醜の話？　くだらない」

ペーターはしれっとモデル立ちして答えた。

「地位も容姿も関係ないね、人は言動が全てでしょ」

つっこみどころがありすぎて耳も目も疑った。

「だったらペーター最低最悪じゃない！？」
「今知ったことじゃないだろ。だからキミはボクとの許嫁を解消したんじゃないの」

したと言われ、それが十歳の時の話なのか十二歳の時のなのか混乱した。

「あの時は……とにかくちゃんと話したいから、いい加減これ外してよ！　頭がおかしくなりそうなの！」
「だってそうしなきゃアイツの所へ行こうとするじゃないか」
「どうして行っちゃいけないの？　ゼイツ准将じゅんしょうの何がいけないの？　あんな優しい人……っ」

ペーターが目をつりあげた。
ツカツカとこっちへ来られ、怖くなって私は声をはりあげた。

「雷土らいど戦争のことまで侮辱して、ゼイツ准将がどれだけ我慢してくれてるか、ペーター全然わかってない！」
「その名前呼んだらシール貼るって忠告したはずだ」
「ほんとはゼイツ准将のことが羨うらやましいんでしょ！　子供の頃ドライヴランド族の真似してたもんね！」
「もういい、貼るわ」

ポケットをまさぐる彼に私は舌をだした。

「あっかんべ～！　こうひておけば唇ふさげらいれしょ」
「フェル、言動すべてが情けない」
「情けなくてかまいません～だ。ゼイツ准将の為なら何だってするもん！」