一日一回シないと死んじゃう妖精の私が、人質になってしまいました。～救命はエッチ？ いじわるな准将様に見張られて～

ペーター編

５９話 走馬灯

　

私がお庭にわへ走ってくると、そこで庭師のアーノルドさんがランチをとっていた。

――これはフェルリナ様

とベンチから立ち上がろうとするので、私は彼に駆け寄った。
雪色の髪をしたお爺さん。アーノルドさんは昔ウィングイーターに襲われたことで、片足と片翅はねを失っている。

――姫様も、たまにはフライドチキンなぞいかがでしょう

――一つもらっていい？

――ええどうぞ。どうかなさいましたか

――ジョニーがいないの。ここを通らなかった？

――はて……

――ありがと！　これもらっていくね！

駆かけだした私をアーノルドさんは呼び止めた。

――お待ちくだされ。リュパウルフがうろついているんだそうです、お行きにならないほうが

――リュパウルフって……リュパアイランドの？　どうしてフェアリーアイランドにいるの？

――リュパ島はデッカイーナに占拠されてより、野山は焼き払われ、動物たちは住む所を失っております。信じられないような話ですが、泳いで流れ着いたとしか考えられないと第二王子が仰おっしゃっていました

――え、すごい

私は瞳を輝かせた。
遠く離れたリュパ島からオオカミが海を泳いでくるなんて。動物ってなんて凄いんだろう。
そう思ったのだ。

――ジョニー坊ちゃんならわたしが探しに行きますから、姫様はお城にいてくだされ

――ううん、大丈夫。行ってくる！



――……ジョニー！　ジョニー？

年老いたジョニーが急に姿を消して私は焦っていた。

――ジョニー！　チキンよー！

足どりは自然といつもの森道をたどり、山へ向かう。

山で怖いのはコンドルだ。
奇襲されても若い時なら走って逃げられたけど、今のふらつくジョニーでは捕まえられてしまうかもしれない…………私は再び駆けだした。

森を抜けた先で後ろ姿を見つけた。私の足音が聴こえているはずなのに、彼は淡々と歩いていた。

――待って行かないで！

そう言ったことでやっとふりかえってくれた。近づくと耳がぺしゃんこになって、しっぽがはたはたと振れた。
――なによ、無視して。チキン食べる？

彼はふいと顔をそむけた。

――山へ行きたいの？

そう聞くと、尾をひるがえして歩きだした。したいようにさせてあげようと、私は彼のあとをついていった。

――リュパウルフが海を渡ってきたらしいの。ちょっと見てみたいね？

つづら折りの山道を曲がった先で、ジョニーが歩くのをやめた。
尾根ばかり見あげていた私は前を向き、ぎくりと凍りついた。

正面に青灰色の痩せこけた狼が立っていた。