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ペーター編
60話 キミを守りたかったんだ
しおりを挟むもう二頭、横の尾根からも下りてきた。
ドルドルという振動が伝わってくる。腹をすかせた狼たちの唸りだった。
私はとっさにチキンを投げた。
――ジョニー走って!
リュパウルフたちがそれに食いついた隙に逃げようと思ったのだ。だがうまくいかなかった。
一頭が襲いかかり、ジョニーが反撃した。
私は真っ青になって、震えた手でペンダントを取り出すのに馬鹿みたいにもたついた。
首から下げていたそれは小さなクラッカーの形をしていた。ペーターからの贈り物で貰ったのは七年前、嘘か真かわからないけれど救難信号が出るはずだった。
指先でクラッカーをつまみ、古くなった紐を引っ張る。何の音もせず、何も起こらず、私は泣き出しそうになって空を見上げた。
そこには音もなく花火があがっていた。
――ギャギャンッ!
ジョニーが暴れ狂っている。
私は石を両手で持ちあげて、一頭のリュパウルフの骨ばった背中めがけて振り落とした。ウルフは身をよじり飛びかかってきた。私はひっくり返った。恐怖で痛みなんて感じなかった。
――ヴァワワンッ!!!
ジョニーが矢のように突っこんできて、私に噛みついたウルフに噛みついた。
――逃げてジョニー!!
私を助けないで!!
このままじゃジョニーがやられちゃう!!
狼二頭を相手にするジョニーの必死な姿を見た瞬間、指先から二の腕へ骨ごと捩じり絞られた。
あっという間に首元まで締めつけられ、私は動けなくなった。息ができなくなった。
私、白化してる。
そう気づけたのは、前も同じ経験をしたからだった。
あの時、白くなっていく視界の中でペーターが真っ赤な顔で叫んでいた。
『呪文を唱えるんだフェル!』
……呪文……。
『早く呪文を唱えてよフェル!! 唱えてくれよぉ!!』
そうだ、呪文。呪文を唱えれば白化は止まるんだ。
『メルケナ=アルケリーナ!』
――メルケナ……アル……ケリーナ……
『白化よ止まれ!』
――白化よ……止まれ……
すると、リュパウルフが倒れた。
一体、また一体と、雷撃に打たれた。
――やっほーフェルちゃーん! 呼んだ? あら、あららら
――第二王子こちらでございます!
――フェルリナ姫はご無事か!
花火を見たピクシーアイランド王国の第三王子、そして第二王子とアーノルドさんが助けに来たのだ。
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