一日一回シないと死んじゃう妖精の私が、人質になってしまいました。~救命はエッチ? いじわるな准将様に見張られて~

夢沢とな

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ペーター編

58話 死ぬ前に言いたい事

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ピシャーン!! バキバキッ!!  ピシャーン!!

くちびるが曲がったってもういい。お家がパン屋さんのティンキーボーイ、クロワッサンとかクロックムッシュとか未だにうまく言えてないけど私もそうなっていい。
だってゼイツ准将じゅんしょうに伝えたい。ペーターはジョニーじゃないんだってこと、戦う理由なんてないんだってことを!

雨に濡れた唇の端に手をやる。シールが浮き上がり、めくれてきていた。
どっくんどっくんと心臓が胸打つ。私はぎゅっと目をつむり思いきり剥ぎとった。

「ぷはっ。。ゼッ、ゼイツ……」


「おい! お前らこれやべーぞ!」

ゼイツ准将が叫んでくる。 すぐそばの幹が破裂し、飛んできた枝をかがんで避けていた。

「とんだ地雷踏んじまったなあ! はは!」

「笑ってる場合かアホ! フェルリナちゃん早く塔の中へ! オイラはマグマ溜まりへ逃げられるけどフェルリナちゃんを連れてはいけないから!」

マグ太様に腕を引っ張られ、私は足を踏ん張った。

「待って私っ……」

「いいんだよ、フェルリナは俺といる」

ゼイツ准将が言った。

「岩コロはさっさと避難してくれ」

「岩コロ言うな! もう知らないぞ!」
マグ太様が地面に浸かりこみ沈んでいった。


広場の中央にいるゼイツ准将と、塔の近くにいる私。
雨粒と雷光に目をしばたかせながら見つめ合った。


「ゼイツ准将も逃げてください! 全部勘違いなんです!」

「なあフェルリナ! 何か食いたいものあるか!」

私のいう事聞いてない。

「何でもいいから言ってみろ!」

何でこんな時に?? それより私の話を聞いてよ。言わなきゃならない事が喉元まで出かかってるのに。

「はやく言わねえと奢ってやらねーぞ」
「くっ、くっ、クロワッサン!」
あれ?ちゃんと発音できた。

准将が目を細めた。

「んじゃあ、今日みてーな日じゃなくてよ、晴れた日に何もない草原に行って一緒に食おうぜ」

彼がそう言って、私の方へ踏み出した瞬間、天雷が突撃してきた。

「ぐあああッ!!」

け反った彼の体がブルブルとなぶられ、白目をむくのが見えた。

「きゃああっ!!」

ゼイツ准将が死んじゃう!!

すると彼は身をひるがえし、地面に手をついた。煤けた顔は獣のように汚れ尖っていた。

「ハァ、ハァ、心配すんな。……四発目、どうやら決めたことはきっちりやるってタイプだな……ヘヘッ」

「ゼイツ准将!」

私は一歩前へ踏み出した。

「ジョニーは男の人じゃありません! 恋人じゃありません! 私が飼ってたキツネです!」

言った。
言えた。
顔をあげたゼイツ准将は、ただならぬ私の様子に息を飲んだ。

「私を守って死んじゃったんです! 私のせいで殺されちゃったんです! 狼に囲まれて、私の前に立ちはだかって、どんなに噛みつかれても倒れようとしなかった……!」

ゼイツ准将が眉をひそめて私を見ている。
でももう抑えることができない。
心の奥にしまっておいた箱の中身をぶちまけてしまったら。

「私が! 私が珍しい狼を見てみたいなんて思ったから! あの時用心して帰ればよかった! どうして帰らなかったの私! ねえなんで!!」

心も体もバラバラになりそうだった。

「フェルリナ」

「私もジョニーの所に行きたい!!」

「今そっちへ行く」

「来ないで!!」

このまま死んでしまいたい。
私はずっと死にたかった。
一日一回シないとびょうなんかになってもまだ、醜く生き永らえてる自分が大嫌いだった。

私は上空へと叫んだ。

「早く私を殺してよペーター!!」

天から光がめがけてくる。
私はみるみる土に覆われて、冷たい暗闇に取り込まれていった。

 
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