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ペーター編
49話 ③フェルリナ、決死のジェスチャー
しおりを挟む「んんん~っ」
私は口チャックシールをむしり取りたくなって、昔このシールを貼られたティンキーボーイという子が実際にそれをして、上下のずれた唇になってしまったことを思い出し踏みとどまった。
このシール、貼られると透明になり、他人からは分からなくなってしまうのだ。
私が唇をゆびさして、はがして~ とうったえる様はまるでキスをおねだりしているようで、
醜くてゾクゾクする……という理由でペーターが作り出した。
事あるごとに私の醜い姿を見たがるペーター。
私は傷つくのを通り越して恐怖だった。絶対にペーターにはおねがいせず、姉にはがしてもらっていた。
私が思い通りにならないせいでペーターは癇癪を起こし、このシールをティンキーボーイに貼りつけて、何も知らない彼がいたずらに犠牲になってしまったというわけだ。
ちなみにその後、このシールを貼ってキスをせがむ告白がみんなの間で流行ったのだけど、ティンキーと私はちっとも楽しめなかった。
「んんっ」
そうだ。この口チャックシール、友達になら綺麗にはがしてもらえるんだった。
ゼイツ准将に頼めばいい!
ペーターはインセクトの中で積み荷をひっくり返している。
これ以上争うと私が白化して困ると思ったのか、アイテムを使ったいやがらせにシフトチェンジしようとしているみたいだ。
チャンスだ。
私は准将の元へ向かおうとして、思いきり転んだ。
「大丈夫か」
ゼイツ准将が声をかけてくれる。
私、なんで同じ岩に何回も躓いちゃうんだろう……頭に血が昇りすぎちゃってるんだ。
「なあ、あんなところに岩なんてあったか? ん? 何だ」
「んーっ んー んー」
唇の前でチャックを開けるようなそぶりを何度もしてみせる。はがして ください! と切実な眉で訴えた。
「……」
准将が、私を鋭く一瞥した。
なんだかすごく悲しそうな目つきが刺さり、私は動きをとめた。
「……黙ってろってんだろ?」
彼はそう言って、唇を尖らせた。
「こういうのは隠さない方がいいと思うけどな」
パチパチと私は瞬きをした。…………あっ!? ち、ちがう!
今私がしたジェスチャー、「救命のこと言わないで! 口チャックでお願いしますっ」って頼んだように見えちゃったんだ。
「喋れないのか?」
ゼイツ准将は私の喋れない状況を受け止めてそのまま流した。
「それは俺にはどうすることもできない」
「む、んうーっ」
できますってばっ、そんなたいそうな魔法じゃない、シールはがすだけなのっ。
「安心しろ。俺の本気が伝われば、ジョニーだって奪われまいと必死になる。俺たちの間にあったことも水に流して、お前に優しくするはずだ。いいから、危ないから塔に入ってろ」
ゼイツ准将が本気で私を奪おうとすれば、私が救命という名の浮気をしていたことをジョニーは許すだろう。
そういう意味らしかった。
准将が塔へと歩いていく。
なんで……どうしてそこまでしてくれるの……?
ただの勘違いなのにここまで大事になるなんて。
とにかくジョニーはキツネだって、それさえ伝われば……こうなったら!
「ほら」
塔のアーチドアの鍵を開けてふりむいた彼に、
私は両手で耳を作ってぴこぴこさせ、体をねじってしっぽのお尻をむけてみせた。
\キツネだよっ! ジョニーはキツネっ!/
私もいっぱいいっぱいなの。
肩越しに彼をふりむいてぴょんぴょん飛んでみせていると、ゼイツ准将の顔がどんどん赤黒く染まっていった。
「何やってんだよ」
キツネのまねですってば! 私は思い出せる限りのジョニーの仕草をまねてみせた。
しっぽをたてにはたはたするところ、見つめすぎてより目になっちゃうところ、
嬉しいと耳をぺっちゃんこにしてウロウロしまくるところ、、
「やぁめねーか気が散る!!///」
☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆…
ファンタジー大賞おつかれさまでした!
投票してくれた方もしいらっしゃいましたら、ありがとうございました♡
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