47 / 68
ペーター編
45話 迎えに来たジョニー
しおりを挟む「塔にインセクトがついてるんですが、どうしやしょう。運送屋ですかね? 妖精のだんなが箱持って立ってやす」
それを聞き、私は小さく歓声をあげた。
「うそっ、来てくれたんだ……!」
今朝アバウト先生に連絡したのだ。
『先生お願いっ、今日中に薬品持ってきてくれませんかっ?』
(じゃないと一人Hを公開するはめになっちゃう)
『えぇ~めんどくしゃい~』
『ひどい! 私死んじゃうんですよ?』
『だぁいじょぶだぁいじょぶ~~』
『テキトーに言わないでくださいよっっ』
こんな感じだったのに、腐ってもお医者さんだったんだ!
これで薬が作れる、心配かけなくてすむ。私はゼイツ准将に笑いかけた。准将も微笑んで、うなずいてくれた。
「行けよ。良かったな」
そう言って、動こうとしない。いつも先に降りて手を貸してくれるものだから、私は少し戸惑った。
「下りないんですか?」
と言ってしまってからハッとする。
しまった、こういうところをお高くとまってるって思われたのかも。
「ごめんなさい自分でおります」
手すりを掴んで外へ出ようとした私に、ゼイツ准将が言った。
「フェルリナ、そのまま故郷に帰っていいぞ」
……?
私は中腰でふりむいた。
「フェアリーアイランドへですか?」
「……」
「ご懐妊がわかるまでじゃなかったんですか……?」
キェーマ后に赤ちゃんができたか分かるまで待って、それがだめだったら来月も私が必要だって言われていたから、帰国はまだ先だと思っていた。
ゼイツ准将がふっと笑った。
「仕事をやり遂げようとするのは感心だけどな。ここにいたら、キェーマはまた何か仕掛けてくるぜ」
それを聞いて私は密かに唇を噛んだ。
実はもう、仕掛けて来たんです。あなたが眠らされている間に。
私を怪我させたのは自分の責任だって頭を下げたゼイツ准将が痛々しくて、言えないでいた。
「いいから早く行け。久しぶりに会うんだろ」
これ以上話させてくれない雰囲気に、追い出されるように馬車から降りる。
辺りは薄暗くなりはじめていた。
私は呆然と小道から広場へ入り、芝生を踏んだ。
あんなにあっさり「帰っていいぞ」と言われてしまった……。
夕間暮れのブーゲンビリアの庭に、つなぎ姿の背高ピクシーが一人、荷物を抱えて立っている。
老齢で小柄なアバウト先生の姿があるとばかり思っていたけれど、御者さんが「妖精のだんな」と言ったのはこの若い配達員のことだったようだ。
塔の上には巨大なクワガタが宿っていて、その機体にPPPコーポレーションとしるされている。
大箱を抱えたまま待たせているので、小走りに駆けていくと、こう呼ばれた。
「そこのブッサイクなフェアリーさん~? お届け物です~」
「はいっ」
反射的に返事をして、直立不動になった。私は目を丸くしていたと思う。
「腑抜けたキツネみたいな顔しないでくれる~? ボク、キツネ大嫌いなのよ」
配達員さんの鮮やかな髪、人を小ばかにしたような目元、口元に見覚えがあった。
「…………。」
この男の子、私知ってる……。
「……っ! ペーター!?」
逞しいピクシーへと成長したかつての幼馴染に、私は息を飲んだ。
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
【完結】大学で人気の爽やかイケメンはヤンデレ気味のストーカーでした
あさリ23
恋愛
大学で人気の爽やかイケメンはなぜか私によく話しかけてくる。
しまいにはバイト先の常連になってるし、専属になって欲しいとお金をチラつかせて誘ってきた。
お金が欲しくて考えなしに了承したのが、最後。
私は用意されていた蜘蛛の糸にまんまと引っかかった。
【この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません】
ーーーーー
小説家になろうで投稿している短編です。あちらでブックマークが多かった作品をこちらで投稿しました。
内容は題名通りなのですが、作者的にもヒーローがやっちゃいけない一線を超えてんなぁと思っています。
ヤンデレ?サイコ?イケメンでも怖いよ。が
作者の感想です|ω・`)
また場面で名前が変わるので気を付けてください
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。
airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。
どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。
2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。
ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。
あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて…
あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる