一日一回シないと死んじゃう妖精の私が、人質になってしまいました。~救命はエッチ? いじわるな准将様に見張られて~

夢沢とな

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ドライヴランド編

38話 ② 

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「(本心か?)」

アイハーツが胸を叩いて訴えてきた。

体を起こしたゼイツは、家の明かりを背に受けて立っている父を見あげた。昔もこんな風に怒られたことが蘇った。

「わかったよ」

ゼイツは自嘲して謝った。

「口が過ぎた。一国の王女を〝出された飯〟扱いは無礼だったかもな」

それを聞いてもアイハーツは眼差まなざしを変えなかった。

テーブルの男たちはじっとこちらをふりむいていたけれど、ゼイツが何やら説教されているとわかると自分たちの会話をぽつぽつと始めた。

アイハーツが前に来て、片ひざをついてしゃがんだ。

「いいかいゼイツ、おまえは小さい頃から嫉妬というものをしたことがない子供だった」

嗄れた声はところどころ消え入る。けれど、息子のゼイツの耳にはちゃんと届いていた。

「賢いし、力もあるから、欲しいものは何でも自分で手に入れてたね」

「どうだろうな」

それなりに欲しい物はあった。インセクト(昆虫型のガンシップ)のクワガタモデルとか。

「可愛い顔してるから女の子も寄ってくるしね」

「昔語りは酒が飲みたくなるから、次回にしてくれねーか」

ヘヘッとゼイツが照れ笑いすると、アイハーツも微笑んでこちらを見つめた。

「でもそれは、本当に欲しい物がこの世になかったからなんだろ?」


ゼイツの母親は、彼を産むと同時に他界していた。
ピュアブラッドといって、強すぎる個体の誕生である。
戦闘民族にとっては非常に喜ばしい、幸運の子である。


「欲しがっていいんだよゼイツ」

「話が見えねえな」

「お姫様が好きなんだろ?」

アイハーツがフェルリナが寝ている家の方を指さした。

「彼女が欲しいのに、恋人がいるのが苦しいんだ」

父親が何を言おうとしているのかやっとわかったゼイツは、赤ら顔をこすってごまかした。

「そんなんじゃねえよ。疲れてるだけだ」

「その恋人より、自分を選んでもらえるように頑張ってみたら?」

「もう幸せなもんをわざわざ壊す事ねーだろ」

そう言いながら、〝幸せ〟という単語はそぐわない気がした。ジョニーの事を思い出すフェルリナは、いつも泣いていた。
だから腹が立つのだ。

「あの子が幸せそうに見える?」

「俺もずっとそれを言ってんだよ。ジョニーはいつ迎えに来るんだよって」

「ジョニー=恋人?」

「ああ」

「どんな人?」

「だから俺もずっとそれを聞いてんだよ。この話はもういいだろ」

立ち上がろうとするとアイハーツが【アンダーグラウンド】で有無を言わさぬ重力をかけ、座らせた。

ゼイツは観念したように口を割った。

「大したことは知らねえ。独占欲が強くて、堅い絆で結ばれてるんだそうだ」

「ピクシー?」

「そこまでは聞いてない。たぶんそうだろ。目が金色だからってあのドラゴンを……」

「ペットじゃないの? それ」

アイハーツが言った。

「ペット?」

「提督って覚えてる?」

眉毛を強調するジェスチャーをしてみせる。

「ジョンが飼ってたミミズクで、目が金色の。〝提督〟って呼んで可愛がってたの覚えてない?」

「……死んだよな」

「そう。思い出すたびに寂しそうにしてる」

初めてジョニーの名を聞いたのは、飛空艇の牢だった。
フェルリナが泣きながら「ジョニー会いたいよ、迎えに来て」と。

……。

アイハーツが目を細め、ゼイツの肩をぽんとして、立ち上がる。
父子の対話が終わったようだと、男たちがこちらを見ながらビール瓶に口をつける。

「なぁアイハーツ、明日の修理どうする?」
「(オシャレなバルコニーつけたいんだ)」
「はははっ」
「どうせまた壊されるんだからやめとけ」

暖炉の火のように、彼らの会話が灯ると、

その明かりから離れた暗い大地に、ゼイツは座っていた。そこは居心地の悪い場所ではなくなっていた。

もし、もし本当にフェルリナに恋人がいないとしたら。

「ペット…………だったらどーすんだ……俺」

後ろへ寝転び、呆然と瞬きを繰り返す。

満天の空に大小の星の粒が白くきらめいている。宝石箱をひっくり返したような夜だった。

 
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